Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
「停止っ!」
だだっ広い草原で向かい合っているのは、テトラーク軽戦車とⅣ号中戦車。
テトラークは綺麗に整備されているが、Ⅳ号に関しては未だに放置された名残である錆が、見えにくい場所に所々残っていてお世辞にも綺麗とは言えない。
「そんなことは関係ない……必ず……私が西住流をっ!」
冷静沈着が取り柄でもある車長が、怒りの感情を露わにしていることに不安を覚えつつも、三上と由多は静かにその時を待った。
両者共に動く気配はない。
この距離ならば、初弾を外したほうが負けることは確実だった。
ゆえにお互いに慎重になっているのだろう。
しかし……
「合図したら行きます」
「本当かよ。どうやってあの戦車の裏側を取るんでぃ! 真正面は抜けないぞ」
「大丈夫です。機動力を活かした攻撃にします。こちらとあちらのスピード差は20km/h以上。さらに、私達の方が砲弾も軽く、装填も早い。より多くの砲弾を撃ち込みます」
「具体的には?」
「まずは、相手の機動力を奪うため履帯を徹底的に攻撃します。リトルジョン・アダプターのついたこちらの砲ならば、通常のものより威力がありますし、由多さんの技術なら可能でしょう」
「当たり前だ。私を誰だと思っている? 私は…」
「三上さんは……」
由多のくだらないお遊びはには付き合えない、と言わんばかりに無視を決めこむ絵音。
やることは至極単純。
向き合っている今だからこそ、初弾をかわし相手の側面へ行き、履帯に攻撃を集中させ、完全に身動きが取れなくなったのを確認した後撃破するというもの。
時間はかかるが、これは単に何もできないまま
これで私は……この学校から西住流を排除する。
何か言いたげな目で三上と由多がこちらを見ていたが、あえて何も反応をしない。
どうせ冷静じゃないとか言い出すのだろう。そんなことはない、私はかつてないほど冷静なはずだ。
「前進!」
気を読み、絵音は鋭く指示を飛ばす。
両手には既に、次に装填するべくする弾が握られていた。
突然のテトラークの行動に慌てたように、Ⅳ号が発砲するも砲弾は明後日の方角へ飛んでいき、小高い丘へと着弾した。
勝った!
Ⅳ号の砲塔旋回能力から見ても、一度懐へ潜り込みさえしてしまえば、二度と私達に照準を合わすことなど出来まい。
「ははは……」
笑いが漏れた。
何が楽しむだ。
これは戦車道であって、戦争なのだ。
どちらかが勝ち、どちらかが負ける。
一歩間違えれば、命の危険すらある。そんなものを楽しむなど戦車に対する侮辱でしかない。
「はは、はははは!」
笑いが止まらない。
これでっ!
「終わ……!」
そう叫ぼうとした絵音に衝撃が走る。
天地がひっくり返るような感覚に襲われた後、ぼんやりとした頭を何とか覚醒させようとする。
「なに!? 何が起きたのですか!」
その言葉への答えのような放送が、フィールドに響き渡った。
「テトラーク走行不能! よって、Ⅳ号の勝利!」
○●○●○
「くっそー! あと少しで勝てると思ったのに!」
「またしても……私の実力を発揮する機会が……くっ、次こそは必ず」
「と、いうことで。正式に私達は戦車道を受講することになったから。すぐにでも大会の抽選会があるらしいし、早く他の面子とも顔合わせしなきゃねー」
「わかってるでぃ!」
「私の霊圧によって押し潰されなければ良いのだが」
「どうして……」
試合後にいつも訪れるファミレスに四人は集まっていた。
なぜか、普段はドリンクバーだけしか注文しない三上と由多が親の仇のように大量注文していたことに気が付いたのは、熊野だけだった。
ただ一人、絵音だけはどうしてと何かに憑り付かれたかのように呟き続けていた。
「でもまさか、車両をぶつけてくるなんてね」
「Ⅳ号とテトラークは10t以上差があるからね。トップスピードのこっちが壁に突っ込んだみたいなものでしょう?」
「もしかして、マーさんから見ると、Ⅳ号はわざと初弾を外したとか?」
「そうじゃない? もともと当てるつもりなんかなかったんでしょう? どうせなら、体ごとみたいな?」
「大胆っていうか何て言うか……」
「ところで絵音ー!」
「ひゃいっ!」
間抜けな声を出す絵音に熊野が軽くデコピンをする。
「いつまで呆けてるの?」
「呆けてない!」
「もう、嘘はつかないの。あんたに色々あるのは知ってるけども、結果を潔く受け入れることも大切だと思うぞ」
「わかって……ますよ……」
「ほれほれー」
「ほいほい」
「ちょっと、やめてくだ……あははは」
身をよじりながら、くすぐりを続ける三上と由多から逃れようとする絵音。
だが、次の瞬間。急に真顔になった由多と三上がニヤリと笑う。
冷たいものが背筋を走る感覚がする。
「ところでー、今回負けたのは誰のせいでぃ?」
「ふっ、そんなの決まっているだろ?」
「今回は、私も異論はないよ」
「ひ、ひぃ……」
この後、絵音が優しい先輩によって、財布が空っぽにさせられたのは言うまでもないのであった。