Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
「うーん……」
「どうしましたか?」
「ううん、何か嫌な予感がするような……」
「嫌な予感でありますか? それは例えばどのような……」
「……! 麻子さん、止まってください!」
「わかった」
Ⅳ号が緊急停車をした、そのわずか数秒後。
目の前を砲弾が飛び去って行った。
砲弾はⅣ号に掠ることもなく目の前を通過していくと、壁を破壊する。
「あそこから来たんじゃない!?」
「あれは……!」
一台のトラックが徐々に動き始めると、急発進をする。
よく見るとタイヤの数が普通のトラックよりも多い。
「偽装……! 追ってください麻子さん!」
「了解」
麻子がⅣ号を発進させる。
本来ならば、20km/h以上のスピード差があるため見失う可能性が高いが、偽装してあるテトラークではトップスピードを出せないのではないかというみほの考えから、追跡を始めていた。
その判断は正しく、つかず離れずの距離を維持したままⅣ号はテトラークの後ろにピッタリと張り付いた。
後ろを取っているみほたちが有利であることは明々白々であり、それをわかっているからこそ、テトラークは急な方向転換をするなどして、どうにか追跡を振り切ろうとしている。
しかし、天性の才能とも言える麻子のドライビングテクニックによりその目論見が達成されることはなかった。
トラックの荷台にあたる場所から、誰かがこちらを睨み付けてきた。
黒髪をなびかせ苦々しい表情をしている彼女は、試合前までの余裕の笑みを完全に無くしていた。
やがて二台の戦車は森を抜け、草原へと飛び出し停車した。
○●○●○
「ほら、絵音中に入って。危ないよ」
「私は……私は……西住流如きに負けるわけにはいかない!」
「それはわかったから、ほら早く!」
由多に手を引っ張られ、絵音は車内へと戻っていく。
目が合った。西住みほと目が合った。どうして、どうしてそんなに満足そうな顔をして戦えるの? これは試合。それも、戦力を獲得できるかという大事な試合なんじゃないの? なのに……
「どうして……」
「絵音! この先は草原だ、どうする! タイマン張ってやりあっても、そうそう簡単には装甲を抜けないぞ!」
「私は……そんな顔をして試合なんかしたことない……これは試合……ある意味戦争よ。それを……」
「絵音!」
「へっ……」
三上に怒鳴られ絵音は正気を取り戻す。
怒りからか、悲しみからなのか、それとも何かに対して怯えているのか、絵音の手は小刻みに震えていた。
その手を由多が握る。
「こんな時に気の利いたことを言えるわけじゃないが、私たちは一人じゃない。そうだろ?」
「一人じゃない……」
「さぁ、どうするんでぃ! 敵は目前まで迫っている。ここから私たちはどう動けばいい」
絵音は彼女たちと出会った日を思い出す。
それぞれが何かしらの事情を抱え傷つき、その果てにたどり着いたあの場所でそれぞれが支えあえば生きていけることを学んだ。
強い絆で結ばれるために戦車道を始めた。
前までの私はここにはいない。
私はもう一人じゃないのだから。
「こうなったら正面から撃ち合います。私も装填は急ぎますので、皆さんもそのつもりでお願いします。個々の能力はこちらが高いはず。必ず撃破できます」
「了解!」