Girls und Panzer  Re.大洗の奇跡   作:ROGOSS

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新作です。
もし、こんな大洗女子学園があったら……と願い書いています。


黒い捕食者です!

「さすがは強襲戦車競技(タンカスロン)。もう、残ってる車輌も少ないですね」

 

「へっ! 今回のルールはサバイバル、さっさと潰し合ってもらったほうがうち等としても楽勝なんだけどね、なんて言ったのはどこのどいつでぃ」

 

「痛いところを突きますね、三上さん」

 

「てやんでぃ!」

 

 その時、エンジン音が近づいていて来ているのを彼女は聞き逃さなかった。

 巨大な岩にスッポリと車体を隠しているため、近づいて来る車輌からは彼女達の乗る「MK.Ⅶ軽戦車テトラーク」の姿は見えていないはずだった。

 

「由多さん、砲撃用意」

 

「ふっ、ついに私の出番ね。異次元からの狙撃……インビジブルショットに怯えるがいい! 任せるのだ、絵音」

 

「は、ははは」

 

 車長兼装填手という変わった役職を持つ服部絵音(はっとりえね)は、苦笑いを浮かべると戦闘用意と告げた。

 彼女達は戦車道とは違う、より実戦的な競技である強襲戦車競技(タンカスロン)に参加していた。彼女達は、3年ほど前に彗星の如く現れたダークホースであり、相当の実績を持っていた。実際、黒のテトラークを撃破した者には賞金が出る、とまで言われているほどだった。

 強襲戦車競技(タンカスロン)とは、戦車乗り達が独自に繰り広げる野良試合であり、参加規程(レギュレーション)は10t以下の車輌であれば何人からのエントリーも可能であり、ほかに目立ったルールは無しという、礼を重んじる本家戦車道からは考えられないような競技であった。観客は自己責任で観戦し、騙し討ち、闇討ち何でもありの強襲戦車競技(タンカスロン)は、まだマイナーな競技であるものの、近年徐々にその人気を伸ばしてきていた。

 現在、彼女達が参加している強襲戦車競技(タンカスロン)は珍しく主催者がいる口のものだった。ルールはサバイバル。最後の一輌が決まった時点で試合が終了というものだった。

 既に試合開始から数時間が経過しており、残りの車輌は3輌のみと先程正式に報告があったばかりだった。

 絵音は猛スピードで坂を駆け下りてくるCV33を見た。未だに彼女達は気付かれていない。

 

「あれはアンツィオですね。と、言うことは……安斎さんでしたっけ?」

 

「何でも良いんでぃ。それよりどうするんでぃ」

 

「決まってるじゃないですか……勝つのは私達です」

 

 車内の全員が不敵な笑みを浮かべる。

 知らぬ者が見たならば、間違いなく彼女達を悪魔と指差し恐れただろう。

 そう、強襲戦車競技(タンカスロン)に参加している彼女達は悪魔同然だった。ありとあらゆる手段を使い勝利をもぎ取る怪物。その勝利に貪欲な姿と黒い車体から、人は彼女達を「黒い捕食者(ブラック・イーター)」と呼んでいた。

 捕食者は今、何も知らない豆タンクに牙を剥こうとしていた。

 

「少しコヅけば十分です」

 

「了解」

 

「私の出番ではないと言うことか、まぁ良い。能ある爪は隠すだ」

 

 絵音が耳を澄ませる。

 タイミングは一瞬、僅かなズレも許されない。

 

「今」

 

「行くでぃ!」

 

 CV33は最後まで彼女達に気付くことなく巨大な岩の前を通過しようとしていた。

 しかし、突如現れたテトラークに進行方向を塞がれ、テトラークの側面にトップスピードを維持したまま激突したCV33は元来た道へと吹っ飛ばされた。何回かきりもみ回転をしながら止まると、車体の前方部分がひしゃげたCV33は白旗を上げた。

 

「さて、残るは……いましたね」

 

「腕がなるっていうものさ。今日こそ、貴様らの首をとってやろう」

 

 由多が目の前にいる青いBT-7に照準を合わせる。

 数週間前から現れた青いカラーリングのBT-7は、圧倒的な操縦技術と砲撃術、そして戦術を見せつけ観客を魅了していた。

 本来10t以上であるBT-7は強襲戦車競技(タンカスロン)は参加できないはずであった。だが、あのBT-7は魔改造でもされているのだろう、何とか10t以下になっているらしい。

 絵音達もあのBT-7からは白旗を奪ったことは一度もなかった。故に、何としてもあの白旗をもぎ取ろうと躍起になっているのだった。

 

「前進!」

 

「任せとけいっ!」

 

 テトラークとBT-7が距離を詰める。

 

「行進間射撃いけますね?」

 

「当たり前だ。私は狙撃手(スナイパー)だ!」

 

 相変わらずの厨二病……まぁ、良いんですけどね。

 絵音は再度苦笑いを浮かべるも、全てを由多に任せた。

 高校二年生だと言うのに、厨二病が抜けない彼女であるが狙撃術は確かなものがあった。さすがは、自称他惑星からの狙撃手だけはある。

 操縦している三上もまた、卓越した技術を持っていた。問題点を挙げるとするならば、スピード狂であるところくらいだ。

 テトラークの砲塔が火を噴く。予測射撃された52口径の砲弾は確実にBT-7の側面を貫くと思われた。しかし……

 

「なっ!」

 

 突然急停止したBT-7は、そのまま弾丸をやり過ごすとお返しとばかりに撃ち始めた。

 

 

「くっそ! かわしてやるでぃ!」

 

「だめ! 止まって!」

 

 三上が大きくハンドルを左に切る。

 ガクンという衝撃と共に、テトラークはひっくり返り白旗を上げた。

 ハンドル操作と履帯ごと動くシステムによりテトラークは従来の戦車よりも機動力を重視した車輌となっていた。

 だが、それは同時に履帯の強度不安という大きな問題も作っていた。致命的なのは、大きな障害物に当たると乗り上げることができず横転してしまうということだった。

 あの時、テトラークの速度は50kmを超えておりスピード狂の三上には絵音の指示は耳に入らなかった。

 

 

「くそぉ! またやられたでぃ!」

 

「無念、しかし次会った時こそ……私の悪魔の弾丸で!」

 

「はぁ……スピード狂いに厨二病。最悪ですよ、先輩達」

 

 絵音の一言で車内が凍り付いたことに本人は気付かないままだった。

 

●○●○●

 

「どう西住ちゃん? 戦力になりそう?」

 

「はい。皆さんとてもお上手です! ぜひ私達と一緒に!」

 

「オッケー! じゃぁ、マネージャーと話して来るよ」

 

「マネージャーですか?」

 

「そう。本当は話したくないんだけどね。私、あの人は苦手なんだよ」

 

 会長に苦手な人っているんですね……。

 遠ざかっていく大洗女子学園生徒会長の姿を見ながら、西住みほはあの軽戦車にはどのような人が乗っているのだろう? と考え始めた。




シリアスは無い!


会長、もう嘘はついていない?

……多分。

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