最低不審者ドゥルーク   作:RYUZEN

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第7話 キング・クリムゾンは最低なの!

『奥さまの名前はなのは。そして旦那様の名前はフェイト。ごく普通の二人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。でもただ一つ違っていたのは、奥さまは魔法少女だったのです。なのフェイ展開――――キマシタワー!』

 

 開始早々ドゥルークは一話前、作中時系列的にはほんの数秒前までのシリアスな雰囲気を完全にぶち壊していった。

 敵ではなく味方であるはずの友達に出鼻を挫かれる形になったなのはは、若干の怒りを放ちながら口を開く。

 

「いきなり何を言ってるの?」

 

「なにって、オープニングナレーションだよ。ワンピースでいうと『富、名声、力』で始まるアレだよ。折角ライバル登場したんだからちゃんと原作リスペクトして魔法少女っぽいナレーション挟んだんだ。気に入ったかい?」

 

「気に入る要素がまったくないの! あとなんで私がいきなりあの子と結婚してることになってるの! 女の子同士で結婚なんてできるはずないよ!」

 

「それは早計だぜ? オランダじゃ2001年の段階で同性結婚法が施行されている。同性だから結婚できないなんてのは国際的には古い時代が訪れているのさ」

 

「うっ……」

 

 極真っ当なツッコミをしたら、ドゥルークらしからぬ極真っ当な返しがきた。

 確かにドゥルークの言う通りである。同性愛についての理解が進んだ現代社会において、同性同士の結婚はタブーではなくなってきている。寧ろ場所によってはタブーと思うことが逆に非難されることもあるだろう。だが、

 

「け、けど! 私、9歳なんだからまだお嫁さんにはなれないよ? それにまだ好きな人だっていないのに……」

 

「オーライ。分かった、じゃあさっきのナレーションなし。リトライといこう」

 

 ドゥルークはパンッと手を叩くと、何処からともなくマイクを取り出す。

 

『人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。

 お金を借りるには同等以上の利子が必要になる。

 それが、闇金における不等価交換の原則だ。

 その頃僕らは、それが金融の真実だと信じていた。――――魔法闇金ウシジマくん、始まります』

 

「魔法闇金ってなんなの!? ウシジマくんってなに!?」

 

「闇金ウシジマくんとリリカルなのはのクロスssだよ。ウシジマくんの二次創作なんて全然ないから、実際投稿すればたぶんそこそこの人気は獲得できるよ。クロスにしたのは読者が食いつきやすいようにさ。これならウシジマくん知らない読者でも、リリカルなのはは知ってるからって見るかもだろ?、

 まぁこういうキワモノssは一時的に物珍しさで人気出ても、大抵は風呂敷畳むまで考えてない見切り発車だから、十五話あたりで更新間隔が空いていってエターになるんだけどね。書き始める前には必ずプロットは用意しましょうってな」

 

 地の文として言わせて貰えば……序盤から無茶苦茶な行動とりまくって、こちらがせっせと作ったプロットを壊しまくってるお前が言うな、そもそもこのssこそがキワモノの権化だ。ずれにずれまくった流れを修正するのに一体こっちがどれだけ苦労していると思っている。

 具体的には今現在だ。下らない雑談なんかやってないで目の前の敵に集中しろ。折角のフェイトとのファーストコンタクトなのに、メインのフェイトが木の上に立ったまま呆然としているじゃないか。

 

「だってさ、なのは」

 

「へ?」

 

「いいのかい、僕と喋ってばっかで。自分放置して意味わからないこと喋りまくってるから、折角のヒロインが戸惑ってるぜ」

 

「――――あ」

 

 フェイト・テスタロッサの困惑の視線が痛いほどなのはに突き刺さる。

 

「同系の魔導師……ロストロギアの探索者、それにバルディッシュと同じインテリジェントデバイス…………けど、変な子」

 

「初対面の子に変な子呼ばわりされた!?」

 

 最後にボソッと付け加えられた『変な子』という発言に、なのはは嘗てない精神的ダメージを負う。しかも味方であるはずのユーノにまで『まぁ否定できないかなぁ』などと言っていたことが更に追加ダメージ。

 この追加精神攻撃にバーサーカーソウル喰らったインセクター羽蛾のように崩れ落ちそうになるが、そこは不屈の心で堪える。

 

『Scythe form Setup.』

 

 フェイトの持っていたデバイス――――バルディッシュの核である黄色い宝石部分が光り、女性的なレイジングハートとは違う男性的な機械音を発した。

 機械黒杖が変形し、鎌のように黄色い魔力刃が生えてくる。黒いバリアジャケットに身を包み、黄金色(こがねいろ)の鎌を構える姿はさながら死神のようであった。

 

「申し訳ないけど頂いていきます」

 

「あっ!」

 

 魔力による高速移動で接近してきたフェイトが振り下ろす鎌を、なのはは咄嗟の判断で飛行魔法を発動させ躱した。

 

『Arc Saber.』

 

 無論同じ魔導師相手に空へ飛んだくらいで逃げられる筈がない。フェイトは魔力刃をブーベランのように放ち追撃してきた。

 なのはは障壁を張って防御するも、相手はそうすることも織り込み済みである。防御して動きを止めている間に、フェイトもまた飛行魔法を使い距離を詰めてきた。

 

「おっと。僕を忘れてもらっちゃ困るぜ」

 

 ジェットパックを背負ったドゥルークがなのはの隣まで上昇してきて、ガトリングガンをぶっ放した。

 フェイトはまるで動じず素早い動きで弾を回避していくが、取り敢えずなのはからは離すことには成功した。

 

「ふーっ。どうよ、このナイスアシスト。読者もなのはも見ててくれたかい? あ、読者は読んでくれてたかいの方が正解だったね」

 

「あ、ありがとうなの」

 

「……さっきから何もない場所に向かって……誰と喋っているの……念話?」

 

「良い質問だ。僕は三歳の頃、強盗に頭を殴られたショックで見えちゃいけないものが認識できるようになったんだ」

 

「なんだか前と言ってること違うような」

 

「設定変わったんだよ。言わせんな恥ずかしい」

 

「……ともかくジュエルシードは頂いていきます」

 

 ガトリングガンによる攻撃がフェイトの危険認識を一段階上へと引き上げたのか、かなりの魔力を注ぎ込むと二十の魔力刃を形成する。

 不味い、と思った時には遅い。フェイトがバルディッシュを振り下ろすと魔力刃は猟犬のように襲い掛かってくる。

 なのははレイジングハートのサポートもあって、どうにか地上に逃れることが出来たが、ドゥルークの方はそうはいかなかった。魔力刃がドゥルークを貫通する。

 

「アウチッ!」

 

 間抜けな悲鳴をあげたドゥルークは『あ~れ~』と言いながら地上へ落ちていった。

 ぐしゃ、と骨がひしゃげる嫌な音が響く。

 

「ドゥルーク死すとも作品は終わらず……がくっ」

 

「どぅ、ドゥルーーーーーク!!」

 

 急いでなのはは倒れたドゥルークに駆け寄る。

 普通の人間なら死んでもおかしくない高度から落下したのだが、そこは存在が非常識のドゥルークだ。最期の台詞みたいなものを残してはいたが別に死んではいなかった。

 

「いてて。不味いなぁ、首の骨折れちゃってるよこれぇ。首が折れ曲がり過ぎて一周回って元通りだ」

 

「だ、大丈夫なの!?」

 

「治るのにあんまり長くかかると原作終わっちゃうから、全治十日くらいにしておこう。作者のやつ、これでテンプレなイベントをスキップする気だな。姑息な手を……」

 

「と、十日でなんで治るの?」

 

 程度にもよるがドゥルークほどの骨折だと、十日で完治させるのはどうやったって無理だ。ブラックジャックがいたって駄目だろう。

 そもそも首の骨が360度回転してるのに、平然と生きているのが生物的におかしかった。

 フェイトはこちらを暫く見ていたが、やがてジュエルシードを回収するべく猫が倒れている方へ飛んでいく。

 

「待って!」

 

『Divine buster Stand by.』

 

 デバイスの杖先へ向けると、フェイトも振り返りバルディッシュをなのはに照準した。

 

「どうして……どうしてこんなことをするの?」

 

「答えてもたぶん……意味がない」

 

『Photon lancer Get set.』

 

 互いのデバイスが発動させようとしているのは共に砲撃魔法。なのはの強い視線と、フェイトの儚い視線が交錯する。二人の少女は杖を向けあったまま膠着状態になった。

 膠着を破ったのは、猫の鳴き声。

 電撃で気絶していた猫が目を覚ましたのだろう。起き上がった猫は『にゃ~ご』と鳴きながら走り去っていった。そこで猫に気をとられて視線を逸らしてしまったことが、なのはにとって致命的な隙となる。

 

「……ごめんね

 

 呟かれる言葉。放たれる砲撃魔法。

 気絶する直前、なのはが最後に見たのはジュエルシードを封印して飛び去る少女の背だった。

 


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