最低不審者ドゥルーク   作:RYUZEN

5 / 14
第5話 作戦は最低最悪なの!

 ユーノと出会って一週間。最初は初めて触れる『魔法』という地球外技術に困惑のあったなのはだが、そこは持ち前の才能で修正することができた。

 魔法に慣れればそれに比例して作業効率も上がり、気付けば集まったジュエルシードは五つ。このままのペースでいけば後三週間で全てのジュエルシードを回収することが出来るだろう。

 そして今日は日曜日。学校もない日なので一日中ジュエルシード捜索をするべきかとも思ったのだが、

 

『今日は約束があるんでしょう。もう五つも集めたんだし、休憩しなきゃ駄目だよ』

 

 というユーノの提案もあって、今日は素直に休む事にした。

 本音を吐露すればここ一週間は学校・塾・ジュエルシード捜索の過密スケジュールだったので、休みというのは有難かった。なによりアリサとすずかとした約束を反故にせずに済む。

 ここで自分の休息よりも、友達との約束を破る事を上位にするあたりに高町なのはが九歳にして『主人公』たる所以があるわけだが、そのことに気付いているのは恐らく『最初の友達』を除けば誰もいないだろう。

 尚なのはの半分もジュエルシード捜索に参加しておらず、最近は仕事も碌にしていないドゥルークは、なのはを気遣って捜索を代わりにやっている――――なんてことはなく『ちょっくら現実(リアル)の映画館行ってデッドプール見てくる』とか言って行方を晦ませていた。

 デッドプールはマーベルコミックのヒーローの一人だが、二年前に第二作が公開されたスパイダーマンと違って、映画化などしていなかった筈である。ドゥルークが一体どこの映画館に行ったのかは謎だった。

 ドゥルークの事は気にしても仕方ない。それよりも今日の予定だ。

 なのはがアリサとすずかとやって来たのは近所のグラウンド。父の士郎がコーチ兼オーナーをしているチーム翠屋JFCの試合があって、その応援に来たのだ。

 

「頑張れ頑張れー! みんなー! がんばってー!」

 

 こういう時、ノリが良いアリサは率先して応援の声をあげる。

 主観的にも客観的にも所謂〝美少女〟であるアリサの応援に、翠屋JFCのメンバーの殆どは顔を赤くして奮起し、対戦チームは嫉妬の炎で燃え上がった。翠屋JFCのキーパーのように大きなリアクションをしていない極一部は、恐らく既に彼女持ちのリア充だろう。

 

『これって、こっちの世界のスポーツなんだよね?』

 

 ユーノが直接言葉を脳内へ届ける魔法、念話を使って話しかけてきた。

 

『ん?うん、そうだよ。サッカーっていうの。ボールを脚で蹴って、相手のゴールに入れたら1点。手を使っていいのは、ゴールの前にいる一人だけで』

 

『へー、面白そうだね』

 

 なのはからすれば一般的スポーツであるサッカーだが、ユーノからすれば異世界のスポーツである。未知の競技に興味津々の様子だった。

 

『ユーノ君の世界には、こういうスポーツとかあるの?』

 

『あるよ』

 

『やっぱり空を飛び廻ったり、魔法で物を動かしたり?』

 

『物にもよるかなぁ。中にはこの『サッカー』みたいに魔法を一切使わないものもあるよ。異世界人だからって誰もがリンカーコアを持っている訳じゃないしね。

 管理局……次元世界の警察みたいな組織なんだけど。そこのトップの一人もリンカーコアを持っていない人だし』

 

『へぇ、そうなんだ』

 

 異世界人は全員魔法使いだと思っていたので、地味に目から鱗な新事実だった。

 よくよく考えれば魔法使いのいない地球で自分のように魔法の才能を持つ人間がいるのである。その逆があるのも当たり前かもしれない。

 

『まぁ僕は研究と発掘ばっかりで、あんまりやってなかったんだけど』

 

『にゃはは、私と一緒だ。スポーツはちょっと苦手。ドゥルークは野球が好きみたいだけどね』

 

『へ、へぇ。そうなんだ……』

 

『うん。西鉄時代からのライオンズファンとか言ってた』

 

 サッカーを知らないユーノが野球を知っている筈もなく、頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。

 なのはとユーノが念話で会話している間も試合は続く。翠屋JFCのキーパーがファインプレーをして盛り上がったりなんやかんやして、試合終了のホイッスルが鳴った。

 結果は2:0で翠屋JFCの勝利。勝敗を分けたのはやはりキーパーの差だろう。

 それから祝勝会という事になり、流れでなのは達も翠屋までついてきたのだが、

 

「あれって……?」

 

 ほんの一瞬のことだった。

 祝勝会が終わって解散する翠屋JFCのメンバーたちの一人、あのキーパーの少年が自分の鞄にジュエルシードらしき青い石を入れるところを目撃したのである。

 きっと気のせいだろう。青いビー玉か何かを見間違ったのだ。そう思う一方で『もしかしたら』という疑念が消えない。

 

「さて、じゃあ私たちも解散?」

 

「ふぇ?」

 

 悩んでいるところにアリサの声が聞こえてきて、なのはは素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「どうしたのよ、なのは。まさかまた私達と話してる時に変な妄想でもしていたんじゃないでしょうね」

 

「ち、違うよ! えーと、今日は二人とも午後は予定あるんだよね」

 

 それからアリサは父と買い物へ、すずかは姉と出かけるため帰宅していった。

 特に予定はないなのはとしては、これから今日はゆっくりしたいところなのだが、やはり脳裏を過ぎるのはキーパーの少年のこと。

 

「やぁ。今日は失礼したOLみたいな顔かい?」

 

 ポンと置かれた手に振り返る。

 

「ドゥルーク? 映画は終わったの?」

 

「……――――嗚呼、最高の出来栄えだった。劇場から出る時は、この映画を見る為に生まれてきたんだと思ったねボカァ! お前等読者も二次創作読破してる暇あるんなら見ろよ、映画デッドプール。あ、これはお土産だ」

 

「なにこれ?」

 

「ガム」

 

「………………あ、ありがとう」

 

 コンビニで売ってる普通のガムはお土産とは言わない、というツッコミが喉元まで出かかったが、ぎりぎりのところで呑み込む。

 なにはともあれ自分の為に買ってきてくれたのだ。文句など筋違いだろう。

 

「で、そんな顔してたってことは何かあったんだろう?」

 

 ドゥルークは服が汚れることも気にせず道端に座り込みながら缶ビールを開ける。人間として駄目過ぎる姿に、ご近所の奥様方がヒソヒソとこちらから目を背ける様に話していた。

 なのはとしても翠屋の前でやられると迷惑なので、強引に場所を移してから説明する。ちなみに貰ったガムはコーラ味だった。

 

「ふーん。そのモブキャラ以上サブキャラ未満のキーパーの餓鬼がジュエルシードを持ってるかもしれないって」

 

「うん。……だけど人をモブなんて酷い呼び方しないで。失礼なの」

 

 ドゥルークが電波発言するのは毎度の事なので気にしないが、人を侮辱するような発言は見過ごせない。普段とは違う強い口調でなのはは言った。

 

「モブはモブさ。死んだところで拍手喝采されることも全米がなくわけでもない。読者にとっても世界にとっても死んだところで大した影響のない人間だ。

 ……ああ、ジョークジョーク。ボカァ愛と平和をこよなく愛するナイスガイ。人間の命は地球より重いんです、ってね。全人類と全読者からアンチされようと気にしないけど、友達のなのはに嫌われるのは勘弁だ。だからそんな怒った顔やめて、ね?」

 

「本気で反省してる?」

 

「もち」

 

 白い歯を輝かせながらグッと親指をたてるドゥルーク。人を疑う事が得意ではないなのはにも嘘と分かる白々しさだった。

 だが反省しているという友達をこれ以上疑う事も出来ず、なのはは貰ったガムを噛みながら。

 

「それでどうしたらいいのか迷ってます」

 

『…………そんなことがあったのか。ならこんな風にじゃなくて、普通に僕に相談してくれれば良かったのに』

 

「ごめんね。なのはの気のせいかもしれなかったから、ユーノ君には言い難くて。それでドゥルークは……」

 

「僕に任せろ」

 

 いきなり立ち上がったドゥルークはなのはに背を向けると何処かへ歩いていった。

 慌ててなのははドゥルークを追う。ユーノもなのはが追うとそれに続いた。

 

「ちょっとドゥルーク!?」

 

『い、いきなりどうしたんだ?』

 

「僕にいい考えがあるッ!」

 

 ユーノの問いにキリッという効果音が聞こえそうなキメ顔でドゥルークは言った。

 止める間もありはしない。ドゥルークはぐんぐんと進んでいき、あのキーパーの少年を見つけてしまう。そしてドゥルークが取り出したのは、背負えるほど細長いハンマーだった。

 

「じゃあ行ってくる」

 

「ちょ、ちょっと待って! なにをする気なの?」

 

「大丈夫だ。僕は穴が三つある相手にしか興味はない。あ、これは性的な意味でね」

 

「そんな心配はしてないの!」

 

「左よーし、右よーし。通行人なーし、巡回中のサツなーし」

 

 なのはの制止も聞かずドゥルークは、通り魔そのものの動きでサッカー少年の背後まで忍び寄る。しかも素人のような挙動不審さで、玄人のように物音をたてないという地味に高度な技を使いながら。

 少年の背後に立ったドゥルークはハンマーをバトンのように器用に回しながら、思いっきり脳天を殴りつけた。

 

『ちょっと、なにをやってるんだい!? 非殺傷設定とはいえ!』

 

「察せよユーノ。読者は求めてるんだよ、金髪ロリっ娘を。一日一更新でもないのにあんまり序盤をぐだぐだ長くやってると、下手したら読者が飽きて離れてくからね。こういう消化イベントはさっさと終わらせないと。

 

 また意味不明な説明をしながら、ごそごそと鞄を物色するドゥルーク。傍から見ればその姿は完全に暴行障害及び強盗の現行犯だった。

 

「あったぞ」

 

 やがて目当てのものを見つけたドゥルークは、ジュエルシードを無造作に掲げた。

 だからといって手段が正当化されるわけではないが、取り敢えず無意味な暴行にならなかったのは不幸中の幸いである。

 いつもなら早速封印魔法――――と、いきたいところではあるが、なのはにはやる事があった。

 

「ユーノ君。回復魔法、教えて」

 

 この日。なのはの魔法のレパートリーが一つ増えた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。