最低不審者ドゥルーク   作:RYUZEN

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第2話 不法侵入は最低なの!

 高町なのはは夢を見ていた。

 自分と同い年くらいの少年が、得体の知れない怪物と戦って、そして力及ばず倒れる夢を。

 倒れた少年は返り血に濡れた手を伸ばす。まるで見えない誰かが差し伸べた手を掴もうとするかのように。

 

『誰か、僕の声を聞いて。力を貸して。魔法の……力を』

 

 少年の助けを求める声。それを最後に夢は終わる。次になのはが聞いたのは携帯電話のアラーム音に設定した着メロだった。

 

「ふあ~。何か、変な夢見ちゃった」

 

 欠伸をしながら高町なのはは目覚める。

 閉ざされたカーテンの隙間から覗く直射日光を手で遮りながら、なのははパジャマから制服に着替えるためベッドから立ち上がろうとした。

 

「奇遇だね。僕も変な夢見ちゃった」

 

「!」

 

 頭上から降ってきた声に驚いて、なのはは視線を天井へ向ける。結果としてなのはは変な夢を見て目覚めて直ぐ、忍者のように天井に張り付いた変な男を目の当たりにするという災難に見舞われる羽目になった。

 もしもこれが他の人ならば自分の部屋の天井に張り付く不審者(ストーカーもどき)を見たら悲鳴をあげて助けを呼ぶだろう。だが天井に張り付いている男は不審者は不審者でも、高町なのはにとって家族の次に、或はそれ以上に馴染み深い男だった。

 

「典型的魔法少女のお供キャラだけどフェレットかぁ。ボカァやっぱり狐だねフォックス! リリカルおもちゃ箱とか他の二次創作ssみたく久遠ちゃんお供にしないかい?

 戦いの中で友情を育み、ゆくゆくは僕のセックスフレンド兼ガールフレンドになってくれると最高! おい作者、久遠……出せよな?」

 

 天井からシュタッと物音をたてずに着地しながら、画面に向かって自分の願望をぶちまけるドゥルーク。

 それとドゥルークなんて核弾頭がいるのに、更にキャラを加えると確実にプロットが崩壊するので、久遠を出す気はない。

 

「さ、最低なの! それとドゥルーク! 私の部屋に入ってくるのはいいけど、ちゃんと玄関からって前にもしたお願いしたよね?」

 

「……辛いこと聞くなよ。見た目平均二十代後半のオッサンが朝っぱらから正攻法で九歳児の部屋に入れるわけないだろう。親御さんってゴールキーパー突破する苦労、なのはには分からないだろうな」

 

「それはそうだけど」

 

 一般常識からすれば当たり前のことだが、このドゥルークがなのはの友人でいることを両親の士郎と桃子は快く思っていない。ドゥルークが玄関から入ろうとしても、両親は丁重にお断りして断固として中に入れようとしないだろう。

 二人とも基本的には子供の自主性を重んじる教育方針なので強硬手段こそとっていないが、本心ではドゥルークと付き合って欲しくないと思っているのは明白だった。

 自分にとって最初の友達をそんな風に思われるのは正直良い気はしない。だが一方でなのはも子供ながらにドゥルークが社会不適合者であることは分かっていたので納得もしていた。

 

「それより頼むぜぃなのは。僕が態々両親&兄姉ブロックを掻い潜って、ルパン三世の如く華麗に潜入したのはなのはの寝顔っていうお宝獲得以外にもう一つあるんだ」

 

 小学三年生らしからぬニート息子を養う母親のような溜息を吐いたなのはは、自分の机の中に隠してあったトレイを取り出してドゥルークの前に置く。

 

「はい。昨日の夕ご飯の残り」

 

「おおっ! 心の友よ~!」

 

 大袈裟に感涙しながらドゥルークは残飯を胃の中に流し込んでいく。

 見ていて気持ち良くなるほど豪快な食べっぷりは、ドゥルークがどれだけ腹を空かせていたかを如実に表していた。

 

「やっぱり桃子さんの夕食は最高だ。おっぱいもデカいし美人だし、今の旦那と別れて僕のガールフレンドになってくれないかな。紐にして欲しいね!」

 

「それを娘の私の前で言うの?」

 

「遠回しにママのこと褒めてるつもりなんだけど伝わらない?」

 

 ジト目で咎めるようにドゥルークは見据えるが、剽軽な態度はまったく崩れることはなかった。

 

「だけどご飯が美味しいのは偽りなしだぜぃ。うぅ~ん、デ~リシャス。ここ最近……モグモグ……ゲップ……ここ一週間ほど塩パスタと公園の水ばっか食べていた胃に……染みる……染みるぅ……。ボカァこの味のために一週間頑張ったんだなぁ」

 

「……ドゥルークってフリーターさんなんだよね。フリーターさんってそんなにお金がないの?」

 

「いや? ボカァこう見えてやり手だからね。月に50万は稼ぐよ」

 

「50万!?」

 

 予想を遥かに超えすぎな額になのはは目玉が飛び出るほどの衝撃を受ける。

 月に50万なんて相当の高収入だ。これだけ稼いでいれば現代社会では十分に勝ち組という評価を受けるだろう。それをこのチャランポランな不審者が稼いでいるという事実がとてもではないが信じられなかった。

 だがそうなると疑問が出てくる。そんなに稼いでいるのにどうしてドゥルークはこんなにも困窮しているのかという疑問が。

 

(もしかして嘘を――――)

 

「吐くわけないよん。ボカァ嘘吐きだけどなのはに対しては正直者なんだぜ。知ってるでしょ?」

 

「うん、そうだよね」

 

 心の中をこうして見透かされるのも五年間付き合ってきてもう慣れっこになっていた。今更驚きはない。

 

「じゃあどうしていつもお金がなくて困ってるの?」

 

「…………………高級ソープって高いんだよ。僕は面食いだから五回も行けば月収は消し飛ぶ」

 

「最低なの!」

 

「僕も頭では分かってるんだよ。風俗嬢に貢ぐより僕のルックス餌にして素人ひっかけたほうが安上がりだって。けど上半身の脳味噌は納得しても下半身の脳味噌が納得してくれないんだ。お蔭でウシジマくんに二百億の借金して二百回臓器売る羽目になったよ。

 なのは。人生の先輩からの教訓だ。風俗嬢に貢ぐ男は破滅する。ただし僕以外に限るってね。勉強になったかい?」

 

「なるわけないの」

 

 そもそも小学三年生の前で堂々と『風俗』だの『ソープ』だのと言うドゥルークは傍から見れば単なる不審者の変態である。

 町の安全を守るお巡りさんがドゥルークを見れば、自身の警察官魂にかけて逮捕することを誓うだろう。

 

「なのはーっ! なにをしてるの? もうご飯できているわよー!」

 

「あ、はーい!」

 

 母親からの声になのはは慌てて飛び上がる。携帯電話を見ればもうとっくに朝ご飯を食べている時間だった。

 

「食器は帰って来てから洗うからラップしておいてね」

 

「あいよ~」

 

 ドゥルークが目を瞑っている間に素早く着替えると、なのはは部屋から飛び出していく。

 この日、結局なのはは朝食を碌に食べることが出来なかった。

 

 

 

 ドゥルークのマシンガンの如き電波発言に一時的に忘れていたが、家から出て学校へ行けば脳裏を過ぎるのは今朝見た夢のことばかりだった。

 民族衣装のようなものを身に纏った少年が怪物に襲い掛かられて、血を流し倒れる。夢で見た同じ光景が、まるでリピート再生に設定されたDVDのようになのはの脳内で何度も何度も繰り返される。

 こんな調子で学校の授業に集中できる筈もなく、授業中ずっと上の空だった。

 

「なのは。聞いてるの、なのは!」

 

「ふぇ! アリサちゃん?」

 

「アリサちゃん、じゃないわよ。まったくもう」

 

「あ、アリサちゃん。落ち着いて。なのはちゃんも悪気があったわけじゃないんだろうし」

 

 可愛く腕を組み、拗ねたようにそっぽを向くのはアリサ・バニングス。そんなアリサを宥めているのは月村すずか。二人とも小学校に入学して出会った高町なのはにとって大切な〝友達〟だ。

 状況を判断するについ考えるのに夢中で、アリサの事を無視する形になっていたらしい。なのはは慌てて謝る。

 

「ご、ごめんね。ちょっと考え事してて。何の話だったっけ?」

 

「将来の話よ! 将来なにになりたいかって話! 今日もホームルームで話してたじゃない!」

 

「そ、そうだったっけ?」

 

 記憶の糸を探ろうとあたふたするなのはを見て、アリサは不機嫌さ全開で溜息をつく。

 

「アンタね……まさかまたドゥルークのこと考えてたんじゃないわよね?」

 

「ち、違うよ!」

 

「ふーん、どうだか。べ、別に私はなのはがドゥルークなんてのに夢中になろうと気にしないけど、ちゃんと私達の事も見なさいよね。友達なんだから」

 

「ちょっと言い過ぎだよアリサちゃん。……けどなのはちゃん。授業中に別のことを考えるのは良くないと思うよ?」

 

「うぅ、反省してるの」

 

 いざとなれば不屈の心で困難に立ち向かうなのはも、今回は自分が完全に悪いだけに全面降伏だった。

 それにしてもドゥルークのこの全方面における人望のなさはある意味凄まじいものがあった。アリサは言うまでもないにしても、基本的に誰に対しても優しいすずかまでドゥルークの事を快く思っていないのだから。

 少なくともなのはの知る限りにおいて、自分の友人知人の中でドゥルークに好意を持つ者は皆無だった。なのは自身を除けば、だが。

 

 

 

 アリサとすずかの二人の説教を受け、取り敢えず最低限の集中力は取り戻したものの、それでも今朝の悪夢が目蓋の裏から消えることはなかった。

 黒板に意識を集中していてもふとした拍子に悪夢の事を思い出してしまう。そして学校が終わり、アリサとすずかの二人と塾への近道を行く途中。

 

「カットカットカットぉ~!」

 

 塾に行く途中、今朝聞こえた声がなのはの脳内に直接響いて、

 

「だからカットだって! ほら地の文ストップ! なのはサイドの話は終了。こっから視点は僕、ドゥルークに向けて」

 

 地の文に一方的にカットを命じて、強制的に視点を自分側へ持ってくるという暴挙を行ったドゥルークは、フリーターの分際でマフィアの親分のようにふんぞり返りながらビールを煽っていた。

 派手な服装も相まって座っているのが黒いソファであれば様になっていたのだろうが、腰を下ろしているのが公園のベンチという事実が全てを台無しにしている。

 

「おやおや~。本来中立であるべき地の文からそこはかとなく僕に対する悪意みたいなものを感じるね」

 

 当たり前だ。これから折角なのはとユーノのファーストコンタクトを描こうと気合いを入れていたのに、いきなりドゥルークみたいな不審者に邪魔をされれば不愉快にもなる。

 どんな血生臭いバイオレンスなシーンだろうと、砂糖のように甘いリア充のイチャコラシーンだろうと、地の文である以上は決して目を背けず事実を書き連ねなければならない。だが幾ら地の文だって我慢の限界というものがあるのだ。

 この核弾頭級の地雷主人公ドゥルークはプロローグ除けばたった1話目にして、地の文を激怒させるという暴挙を行った。これはもう許されざることだろう。よって今後ドゥルークの描写については事実をまともに書くことはやめ、出鱈目ばっか書き連ねたいと思う。

 

「HAHAHAHAHAHA! ジョークがきついね。ボカァこれでもこの二次創作の主人公なんだぜ。もっと大事に扱ってくれよ」

 

 他人から大事に扱われたいのなら、他人を大事にすることを覚えたほうがいいだろう。

 

「わーお。正論がクリーンヒット、こうかーばつぐんだ! けどさ。どうせこっからなのはがユーノ発見からの動物病院連れてくってアニメ焼き増しの展開でしょ。

 正直さ。ボカァもういいと思うんだよね。読者もぶっちゃけ飽きてるでしょ。だって他のリリカルなのはのssで飽きるほど見てるし、この流れ。

 リリカルなのはのssが世の中にどんだけあると思ってるのさ。画面の向こうの読者も『またこの展開かよ……』とか『この流れ知ってるから、さっさと先に進めろ』とか思ってるよ? 絶賛うんざり中だからね」

 

 だがもしかしたら原作未視聴で、このssが初リリカルという読者もいるかもしれない。

 そういうもしかしたらの為にも、幾ら原作通りの展開でもちゃんと書くべきだろう。

 

「アホか。原作がエロゲだとか同人ゲーとかで買うのが難しいってなら分かるぜ。でもリリカルなのはちゃんとアニメ化してんだろうが。DVD化されてんだろうが。全国のレンタルビデオ屋で絶賛貸し出し中だろうが。

 おうコラ。このss見てる読者、お前等の中に原作未視聴者がいるんならさっさとブラウザバックだ。今直ぐTSUTAYAなりゲオなりに行ってレンタルしてこいや。だけど違法動画視聴はやめろよな! みんなの友達! ドゥルークとの約束だ!」

 

 一介のオリキャラ風情が読者様に命令するとは何事だ。この地雷極まる主人公のせいで不快な思いをされた読者様がおられたのならば、この場を借りて謝罪致します。まことに申し訳ありません。

 というか本当にいい加減にしろドゥルーク。画面の向こうの読者様はオリキャラと地の文の地雷臭丸出しの漫才なんてものに興味なんてないのだ。

 ユーノとのファーストコンタクトの下りはもうグダグダなのでカットするにしても、そろそろ次の展開に進まないと読者が飽きてブラウザバックしかねない。そうすれば人気にも関わる。

 

「人気……それは不味い。日刊ランキングにのれなくなる! 仕方ない、ここは百歩譲ってなのはサイドに話を戻すとするぜぃ。さーて! ボカァなのはがファーストバトルでピンチになった時、華麗に登場しないといけないから入念にアップしないとね。ガトリングガンとかクールかな? というわけで読者の皆。人気アップのため見た後でサクッと10評価をしちゃってくれよ。お気に入り登録もばんばん頼む。じゃあね!」

 

 虚空に向かって自分の要望を一方的に告げるドゥルーク。だがその問いに答える者はいなかった。というより答える気力がもはやなかった。

 




5日に一回更新はやっぱりしっくりこないので、三日に一更新にします。
早まった二日分は気合と根性でカバーします。なに寝る時間が二時間減っても死にゃしません。

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