いやあ、やっと公開です、お待たせしてすみません......
5話までは隔日更新になります。
「私は…………私はこんな忠義を貫く為に生きて来たのではない!」
忠義の騎士は慟哭する。
――こんな筈じゃなかった
――私が望んだものは決してこんなものではなかったっ!!
忠義の騎士は自問自答する。
――何処から間違えた
――何処で選択を違えてしまったのだ
――いや、それでいったら私自身という存在が間違いなのだ
既に賽は投げられたのだ。もう後戻りなど出来ない。後少しで忠義の騎士は『座』へと行く事になってしまう。
願いを叶えたり、力を与える代わりに死後の全てを差し出す事になる世界との契約。
それ故に忠義の騎士に次など無い。輪廻の環には二度と戻れないのだ。永遠とも思える時間…………もしくは永遠そのものの時を世界の守護者として過ごさなくてはならない。
「私は…………私はただ主と定めた御方に忠義を尽くせればそれで良かったのに。…………許されない事だとわかってる。でも、もしも次があるのなら、今度こそは主に忠義を尽くすと誓う…………『ディルムッド・オディナ』の名と誇りにかけて」
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――聖杯戦争。
万物の願いを叶えるという魔術礼装〈聖杯〉を巡り、奪い合う命を掛けた大儀式。
通常、聖杯と冠される魔術礼装、及び宝具の類いなどは、それが発見された際に勃発する魔術協会や聖堂教会の競争行為総てを指して〈聖杯戦争〉と呼ばれる。
しかし今回言及する聖杯戦争は、極東の地にて数十年に一度行なわれる魔術儀式を指して先述の名が冠されている。
「ふんっ」
500年以上続く、由緒正しい魔術師の名門・アーチボルト家の九代目頭首であり、「降霊学科」の一級講師でもあるケイネス・エルメロイ・アーチボルトは苛立たしげに吐息を漏らした。
というのも、ケイネスは件の聖杯戦争に参加する為の資格である令呪が右手に浮かび上がった時から、魔術師の名門・アーチボルト家という立場や権力、財力などに物を言わせて入手したサーヴァントを召喚するたまの触媒、彼の有名な『征服王イスカンダル』が生前愛用していたというマントの切れ端。どれ程の財を注ごうがもう二度と手に入らぬであろう貴重な触媒が、あろうことか才能を丸で感じられない上に家柄すら非常に低い立場の子供に盗まれるという悲劇に見舞われたのだった。
勿論名門・アーチボルトの当主足るケイネスは予備の触媒の用意も抜かりがない。その為触媒自体はあるのだが、その触媒によって呼び出されるであろう英霊がまたよくなかった。
――ディルムッド・オディナ
ケルト神話のフィン物語群で語られるフィアナ騎士団の一員。若さの神、妖精王オェングスが育ての親である。主君フィンの花嫁候補として迎えられたグラーニャという姫から一目惚れされ、彼女に「自分を連れて逃げること」をゲッシュとして課された結果、駆け落ちしてアイルランド中を逃亡する羽目になる。結局、フィンと和解した後には、晴れてグラーニャと結ばれたものの、その幸福も長くは続かった。異父弟の生まれ変わりである猪によって致命傷を負わされたディルムッドは、癒しの魔力を持つフィンに助けを求めるが、グラーニャの件を根に持っていたフィンに彼は見殺しされてしまう。
普通の魔術師であれば、正しく忠義の騎士であるディルムッドは扱いやすく、特にデメリットは無いように思われる。しかし、ケイネスの場合は非常に不味かった。
理由の1つは、両者の相性が非常に良くないこと、そしてそれよりも重大なもう1つの理由は…………
(英霊ディルムッドが『輝く貌』、『魔貌』と呼ばれる様になった原因。育ての親から与えられたと言われている異性を
そう、英霊ディルムッドの妖精から与えられた黒子は異性を
そう聞くと英霊ディルムッドを呼び出すのは少なくともケイネスにとってはリスクばかりが高くメリットととてもでは無いが釣り合わない様にも思える。
サーヴァントの召喚自体は実のところ触媒が無くとも、詠唱されすれば可能なので最悪の場合、触媒なしで召喚をすればいいのでは無いかと思う者もいるだろう。しかし、そう簡単に触媒なしの召喚を実行することは出来ないのだ。
「本当に大丈夫なのケイネス?」
「分からん。だが、触媒なしでの召喚はリスクが高すぎる。例え相性が良い英霊を召喚出来たとしても、実力が低すぎたりマイナーで知名度が低くて実力が発揮できないと言った事が起こるやも知れん」
そう、触媒なしでサーヴァントを召喚した場合、召喚者との相性。つまりは、召喚者と
その為、ケイネスは婚約者であるソラウが
「それでは召喚を始める。ソラウ、下がっていてくれ」
「分かったわ」
そういってソラウは部屋の隅に移動し、ケイネスは部屋の中央に陣取った。
そして、召喚が始まった。
「 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
―――――
――――――告げる
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
ケイネスが詠唱を終えた瞬間、ケイネスの前に出来た魔方陣が輝きだした。やがて、その中から人の形が浮き出てきた。
そして、現れたサーヴァント。
「召喚に応じて参上しました。ランサーです」
腰にかかる程に長くのびた艶のある黒髪。体にフィットした深緑色の装い。そして、激しく自己主張する豊かな胸。
「…………」
「…………」
「…………え? あ、あの…………マスター? 私の顔に何か?」
何時までも口を開けてポカーンとしているケイネスを見てそれはそうだと思い、ソラウは部屋の隅からランサーの近くに歩いていき、
「えーと、あなたはこのケイネスに呼び出されたサーヴァント、ランサーよね」
「はい、そうです。間違いありません」
「そう…………なら聞きたいのだけど、あなたの真名は『ディルムッド・オディナ』で合ってるのかしら?」
ランサーは真名を教えてもいいのか問うために、マスターであるケイネスを見るが、未だにケイネスは放心状態であり、ランサーは己の判断で真名を明かす事にした。
「はいそうです。確かに私の真名はディルムッド・オディナ。フィアナ騎士団の騎士である英霊です」
「本当にあの英霊ディルムッドなのね…………確かに、考えもしないわよね。まさか英霊ディルムッドが女性だったなんて」
そう、ケイネスの召喚に応じて現れた英霊ディルムッドは伝説とは違い、何処からどう見ても
「そうですか…………やっぱり私は男性と言うことになっていたのですか…………」
「何か事情あるようね。取り合えずは居間にでも行って落ち着いて話を聞きましょう…………ケイネス? いつまで固まってるんですか?」
ソラウはランサーの事情を聞くべきだと考え、落ち着いた環境に移動しようとするが、未だに放心状態のケイネスが中々動かないので、少し心配になってきたので、そろそろ正気に戻すことにした。
「ケイネス! ケイネス! いい加減に戻ってきなさい! 確かにディルムッドが女なのは驚いたけど、何時までもそうして固まっていてはダメよ」
ソラウがそう言って語りかけると、ケイネスはようやく反応を示した。
「…………しい」
「ケイネス?」
「美しい!」
「「はっ?」」
このケイネスからの突然のセリフにはソラウだけでなく、ディルムッドまでも口を開けて驚いていた。
しかし、そんなのどうでもいいとばかりにケイネスはディルムッドに語りかける。
「あぁ、何と美しい姫君なのでしょうか! このケイネス思わず見とれてしまいました! 貴女様のその女神すら遠く及ばぬその御姿! 貴女様が私の様な者の召喚のに応じてくださるなど、このケイネス感動で涙が止まりません!」
「「…………」」
このケイネスの様子を目にして、ソラウはひたすら困惑しており、反面ディルムッドは物凄く冷めた目をしていて、例えるなら『うわぁ、またか』とでも言いたげな表情だ。
「…………そういえば英霊ディルムッドの黒子には異性を
そう問われるとディルムッドは苦虫を噛んだ様な顔をして、
「はい、実は私の聖杯に掛ける願い――まあ、聖杯に叶えてもらう訳ではないので正確には願いでは無いのですが――もそれに関係してまして…………」
ディルムッドはそこまで言うと、何か恥ずかしがる様な素振りを見せ、言葉を続けずに、言い淀んでしまった。
「へぇ? 聞かせて貰っていいかしら?」
このまま待っていても自分から自発的にはなし始める事は無いだろうと思い、ソラウが思いきって尋ねてみた。
なお、この間ケイネスはディルムッドいまだに賛美し続けていたが、完全にいないものとして扱われている。そして、ディルムッドに至っては完全にケイネスの存在を意識の外へと追い出していた。
「はい。私の願いは…………誰かに騎士として仕える事です」
「それは生前では出来なかったの? 貴女はフィアナ騎士団の騎士だったのでしょう? なら騎士として誰か主に仕えた事があるのではないの?」
「それが、無いのです。理由は単純です。私が仕えた主は私の顔を見た瞬間から私に熱をあげるように…………端的に言えば主従関係が逆転して私に自身がもつありとあらゆる財を貢ぎ始めます」
ソラウは今なお歯が浮くようなセリフを並べたててディルムッドを讃え続けるケイネスを横目で見て「あっ(察し)」とでも言うような視線をディルムッドに向けた。
「と言うわけで1つ願いがあるのですが、私のマスターになっていただけないでしょうか? どうにしろこの人が私のマスターを続けると長く無いですよ。色んな意味で」
「…………そうね。取り合えずケイネスには工房で大人しくしていて貰いましょう」
マスターをあっさり鞍替えするような事を言うディルムッドもディルムッドであるが、それを了承するソラウもソラウであった。
その後、ディルムッドの魅了の効果でケイネスに言うことを聞かせてソラウに令呪を移し、ディルムッドのマスターはソラウになったのだった。
「こんなんで大丈夫なのかしら」
「私が何とかして見せますよ! フィアナ騎士団が一番槍であるこのディルムッドが!」
「願いが叶って貴女生き生きしてるわね」
「きっと貴女様の前では神話に名を連ねる女神すら霞む…………いや! あまりの美貌に平伏するでしょう! 其ほどまでに貴女様は…………あれ? ソラウ? ディルムッド様? 何故私の両腕を両サイドから捕まえるのですか? 何故そのまま引っ張って行くのですか? え? ここ地下室じゃないですか。え!? なんで扉を閉めるんですか!? ちょっと! ここから出してくださいよ! おーぃ…………ぉーぃ」
続く
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『お願い! アインツベルン相談室(次回予告篇)!』
アイリ「遂に始まってしまった聖杯戦争! そして第一の戦い、セイバーvsランサーの決闘! 忠義を貫き通す事を願いとするディルムッドは意気揚々として戦いに臨むが、セイバーからのまさかの言葉が!」
セイバー『ランサーよ! 私は必ずやあなたを我が妻にしてみせる!』
ランサー『えっ』
アイリ「そこにあらわれるライダー! 出てきてそうそうに飛び出す爆弾発言!」
ライダー『余はこの度ライダーのクラスを得た者、真名はイスカンダル! 征服王イスカンダルである! ランサーよ余はお主の事が気に入った! 必ずや征服して妻にして見せよう!』
ランサー『ちょっ、まっ』
アイリ「その発言を聞き颯爽と登場する金ぴか…………アーチャー!」
アーチャー『ふん、勝手な事を申すな、有象無象の雑種どもが! この世の財は全て我の物! つまりこのランサーも我の物だ! 喜べランサーよ、貴様を我が妻にしてやろう』
ランサー『だから私の意思は!?』
アイリ「そして遠目からランサーを見てしまい、魅力が作用してしまう切継!」
切継『僕が愛してるのはアイリとイリヤだけなんだー!』ガンッガンッ(木に頭を打ち付けている)
アイリ「聖杯そっちのけで始まってしまう一人の女を取り合う戦争! さあ、ランサーの願いはどうなってしまうのか! キャー! ゼっちゃん! 一人のヒロインを巡っての壮絶な戦いって憧れない!?」
ゼっちゃん「師匠、なんかイキイキとしてますね…………」
終われ
クラス名:ランサー
真名:ディルムッド・オディナ
マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト→ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ
筋力C+
耐久B+
敏捷A++
魔力C
幸運C
宝具B
対魔力(B)三節以下の詠唱による魔術を無効化。大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術を持ってしても傷付けるのは難しい。
心眼(真)(B)修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において、その場に残された活路を導き出す戦闘論理。
愛の黒子(EX)魔力を帯びた黒子による異性への誘惑。対魔力スキルで回避可能。というのがランクCであり、ランクEXは正確には魅了ではなく、本人の魅力を極限までブーストするものである。つまりはランクCの効果である魅了が相
手を状態異常にするのに対し、ランクEXのブーストは本人の能力、つまりはディルムッド自体が魅力的になる効果なので、これを抵抗するには、対魔力だけでなく、強い意志が必要。(切継が完全にディルムッドに惚れていなかったのはこの為)
騎士の武略(B)詳細不明
あとがきは基本作者のどうでもいい話が書かれているだけなので、読まなくても問題ありません。
挨拶が「他愛なし!」の理由
学校で友人に「お前の『他愛なし!』再現度高けぇなおい」と言われたから。