転生したけど、手に入れたスキルが自由すぎて困ってます 作:低蓮
土を蹴立て、木々を躱しながら私達はかなりのスピードでリザードマンの集落を目指していた。
私達、と言っても実際に走ってるのはカイだけなんだけどね。
「ミク様、お急ぎならば私の背へ。一人二人乗せたところで、私の足が鈍ることは有りません」
私がオークロードを倒すと決めた直後、カイが影からひょっこり顔を出してそんなことを言ってきた。
そんなに足速いの? とカイに訪ねてみたら、「この程度の距離なら、二日もかかりません」と自信満々に答えてくれた。
その視線が私のやや後方を向いていて、その方向から悔しげな歯軋りが聞こえたのは気のせいだと思う。
私が小さいからか、カイの背中の上には私が乗ってもまだ人が乗れるスペースが空いていて、シロガネともう一人が乗っても問題なくスピードが出せるみたいだ。
高速で後ろに流れていく木々を横目で見つつ、私はカイに便乗しているもう一人の人物へと話しかけた。
「で、君は付いてきて良かったの? 多分、さっきよりも激しい戦闘になると思うけど」
「さ、さっきは突然のことでびっくりしただけです! スーパーコボルドになった私に、最早恐怖の二文字はなしです!」
「その割にはぷるぷる震えてるけど……」
「武者震いです!」
そっか、武者震いか。なら何も問題はないね。
最初付いてこようとしたときには無理矢理にでも置いていこうとしたんだけど、本人が折れないのとシロガネまでもが連れて行ったらどうだと提案してきたから仕方なく連れてきたんだ。
怖いんだったらやっぱり置いてきた方が良かったかなと思ったけど、本人が武者震いって言うなら武者震いなんだろう。
「そういえば、なんで付いてこようと思ったの? 別に心配しなくても、オークロードはちゃんと倒してあげるよ?」
「そ、そうじゃないです……ええと……」
答えにくい事だったのか、もごもごと口籠もってしまうコボルド。
それにしても、なんで私をちらちら見てるんだろう。別に言いたいことがあるなら聞くのに……
しばらくその状態が続いたんだけど、やがてガバッと顔を上げると私の目を真っ直ぐ見ながら思い切ったように言葉を漏らした。
「私は……私はもう只のコボルドじゃないです。スーパーコボルドになった今、いつまでも弱いままじゃ居られないです! だから、お姉さん達の戦いを今度はしっかり見て、少しでも何か分かったらって……そう思ったです」
この子はこの子なりに、いろいろ考えて起こした行動だったみたい。
そっか……スーパーコボルドになったからいつまでも弱いままじゃ居られない、か──
「──って言ってもコボルドなんだから、あんまり無理はしないようにね?」
「だからッ! 私はコボルドじゃなくて! スーパーコボルドですッ!」
突然なにかに激高したように叫ぶと、バッと立ち上がるコボルドちゃん。
でもね、今立ったら……
「おぉう、です?!」
風の抵抗をもろに受けて後ろに吹き飛びそうになるのを、後ろのシロガネが難なくキャッチしてくれた。
……キャッチしてくれたのは良いんだけど、そろそろカイの背中に戻してあげても良いんじゃないかな? 風圧で顔が凄いことになってるし。
カイもカイで、なんでこのタイミングでスピードあげるかな。なに、二人とも怒ってらっしゃる?
「えっと、ナイスキャッチシロガネ。そのまま下ろしてあげてくれない?」
「地面にですか?」
「違うよ?! 今地面に降ろしたら大惨事だからね?! そうじゃなくて、カイの背中に……」
「う、腕がー?! 腕がちぎれるです?! ちょ、そんなに強く握ったら……ひぎぃ、ですぅ?!」
「すみません主様、雑音が酷くて聞き取れませんでした。このまま地面に降ろせば良いんですね?」
「シロガネは何に怒ってるの?! 地面じゃなくてカイの背中だってば!」
分かりました、と呟いて仕方なしと言った体でコボルドをカイの背中に下ろすシロガネ。
わからない。何が気に障ったのか全然分からないよシロガネ……
シロガネ本人に理由を聞くのは何か怖かったから、私はただよしよしとコボルドの背中をなでてあげることしか出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最初は、何の音なのか分からなかった。
謎の一団の襲撃によって押していたはずのリザードマン達に押し返されそうになってから、おかしな音が連続していた為に感覚が麻痺していたのだ。
近付くだけで切り払われるうえに、そもそも近付きさえしなくとも死をもたらしてくる奴まで居る。
統率は崩れ、念話が混線し、今置かれている状況が分からない。
そんな中で、一匹のオークが不思議な光景を見た。
一際大きな牙狼族と、それに跨がる人間の子供とコボルド。
なぜこんな所に? そんな思いは浮かばず、ただ餌が来たと歓喜するオーク。
思考を捨て、恐怖を捨て、只欲望のままに餌へと突き進もうとしたときに聞こえた音。
最初は、何の音なのか分からなかった。
しかし、その音を聞くとやけに胸がざわつく。
捨てたはずの恐怖が、悲鳴を上げて暴れている。
ふと、上を見上げたオークはその音の正体を悟った。
頭上に広がるは、厚き暗雲。
その中に瞬くは、「神成る力」のその一端。
「…………ァ」
そして降り注ぐは、度を超えた
己の過ちを悟る時間すら与えられず、オークの視界は真っ白に染め上げられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
音が静まるのを待ってから、私はそっと閉じていた目を開けた。
目の前に広がるのは先程みたオークの群れではなく、所々黒く焦げた真っさらな地面。
よし、無事オークの邪魔を排除できたようだ。
「ぬおぉぉおおーーー! め、めがぁッです!!」
……約一名無事じゃないけど、まぁ私が無事だからよしとしよう!
というか、ちゃんと撃つ前に目と耳は塞ぐように言ったんだけどな……
ゴロゴロとコボルドが地面を転がっていると、シロガネがひょいと持ち上げた。
そしてそのまま肩に引っ掛けると、くるりと振り向いて私に声を掛けてくる。
「邪魔も居なくなりましたし、参りましょう主様」
「う、うん……」
完全に荷物扱いされているのを、この子は気がつく余裕もないんだろうなぁ……
まぁ、あんなの諸に見たらしばらく再起不能になるのも分かるけど。
「まぁ良いや。それじゃ、シフは遊んできて良いよ。カイはその補佐をお願い。万が一ってこともあるかもしれないし」
「はーい! やった、ミク様の許可も貰ったからいっぱい楽しんできます!」
「……分かりました。ミク様のおそばを離れるのは心苦しいですが、確かに心配ではありますし」
「主様のことは、このシロガネにお任せください。必ず、あなた以上にお役目を果たしてご覧に入れます」
「……やはり、私もミク様のお側に」
「何張り合ってるのか知らないけど、駄目だからね? あと、シロガネも私とは別行動だから」
「えっ」
何処か勝ち誇ったような顔から一転、信じられないことを聞いたかのような顔をするシロガネ。
いや、「えっ」って言われてもね……
「な、何故ですか! 私の役目は主様を守ることで……」
「そう言ってくれると嬉しいんだけど、敵討ちをするところに私が居ても邪魔なだけでしょ?」
「邪魔などと言うことはありません! 寧ろ居てくださった方が!」
「兎に角! 私とシロガネは別行動! シフもいつの間にか行っちゃってるし、さっさとオークロード倒して戻ろ?」
「……分かりました。オークロードには、この世に生を受けたことを思う存分後悔してから消えて貰うとしましょう」
シロガネが静かな怒りとともに新たなオークの群れに突っ込んでいったのを確認して、私は周囲の状況を観察する。
オークロードを倒せば良いと思ってたんだけど、どうやら予想以上に取り巻きのオークが多い。
それに、遠くから時折物凄い音が響いてくるから、リザードマンか若しくは私達みたいな第三勢力がオークロードと争っているのかもしれない。
状況はイマイチ分からないけど、分からないなら確認すれば良いよね。
取り敢えず、音のする方に行ってみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦場を小さな影が走り抜ける。
剣戟の間を、隊列の隙間を、オーク兵の股下を、それこそ縦横無尽に。
それを煩わしく思ったか、オーク兵が影に持っていた剣を振り下ろす。
「──ガ……?」
だが、影はそれをするりと躱し、挑発するようにオーク兵の肩を踏み台にして後方へと飛ぶと、また戦場の中へと溶け込んでいく。
馬鹿にされたと思ったオーク兵は憤慨し、その影の後を追い始める。
その数は一体増え、二体増え、やがて百を超える数にまで膨れ上がる。
その数は傍からしてみれば脅威的であり、また格好の的でもあった。
群衆の頭上で光が瞬いた瞬間、幾筋にも分かれた黒い稲妻が彼らの頭へと降り注いでいく。
宛らの絨毯爆撃のように地表にあるものをことごとく蹂躙して降り注いだ稲妻は、オーク兵達の姿が完全に消えてもしばらくの間止まらなかった。
収まった後には、文字通り草木すら残らず所々焼け焦げた地表が顔をのぞかせていた。
その光景を、カイは最後まで見ることなくシフへと視線を移す。
ならば、虫けら共がどう死んでいこうが関心のないことだった。
戦場を攪乱し、またも大量のオーク兵に追い掛けられているシフを見て内心ため息を吐きつつ、カイは支援に徹すべくゆっくりと影に潜っていった。
カイが行った攻撃は、ごく単純もの。
『黒き稲妻』に加えて、先ほど手に入れたばかりの『粉塵操作』によって稲妻の通り道を作っただけのこと。
先ほど、シロガネに煽り紛いのことを言われたカイは静かに闘争心を燃やしていた。
ミクから言い付けられた事を完璧に成し遂げ、シロガネを見返すために。
そして、その闘争心がカイに新たな力をもたらしたのだ。
『粉塵操作』は、空気中に飛散している細かな物質を自在に操ることの出来るスキル。
使い道は限られども、カイにとっては相性の良いスキルと言えた。
稲妻は、空気中に飛散している物質に導かれるようにして軌道を変える。
それを利用し、カイは『黒き稲妻』を点の攻撃ではなく面の攻撃に作り替えたのだった。
『黒雷之豪雨』は、範囲は狭いながらも連続で使用することが可能であり、無差別に降り注ぐ稲妻を回避するのは不可能。
一旦範囲内に入れば、逃げることは叶わない攻撃だった。
その頃シフは、更なる遊び相手を求めて戦場を彷徨っていた。
先程から飽きるほど居るオーク兵は、一度は興味を示してちょっかいを掛けてみたものの、すぐに興味を失った。
脆すぎる。それがシフの抱いたオーク兵への感想だ。
少しじゃれつけばすぐに崩れ、囲まれ攻撃されようともそれぞれの攻撃のスピードはあくびが出るほど遅い。
後ろにたまった敵はカイが排除してくれることを理解したシフは、既にオーク兵などには目もくれずそこそこ楽しめそうな遊び相手を探しているのだ。
「ん……」
ふと、オーク兵達のにおいに混じって別のにおいがシフの鼻に届いた。
そのにおいは、どうやら脆いオーク兵達とは違うらしく、周辺では多くのオーク兵が命を落としていると悟ったシフ。
楽しめるかもしれない遊び相手が居る、それはシフが動くには十分すぎる理由で、敵か味方かなどと言う考え方はなかった。
すぐさまにおいのした方角へとシフは走り出し、すぐににおいの元にたどり着いた。
そこには、間の抜けたような顔をしたゴブリンと、中々腕の良さそうなリザードマンの姿があった。
二人とも、オーク兵の処理に追われシフには気がついていない。
けれども、二人はまるで気の合う戦友のようにお互いの死角をカバーし合い、着々と周りのオーク兵を排除し続けていた。
それを見たシフは確信する。
──この二人は、自分を楽しませてくれるだろう、と。
嬉しくなったシフは、こちらに完全に背中を向けているリザードマンの背へと飛びかかっていった。
「ブギィ、たった一人で俺達に勝とうなんて──」
全く迫力もない脅し文句を喚き散らすオークに、シロガネは内心辟易しつつ刀を振るった。
まるで力の籠もっていないその一振りは、しかし触れたオークを豆腐のように滑らかに切断した。
被害はそれだけにとどまらず、シロガネの正面に居たオーク十数体が刀が届いていないにもかかわらず同じ末路をたどっていた。
それには目もくれず、シロガネは再度戦場を歩き出す。
彼女がやるべき事は、仇のオークロードを手早く殲滅しさっさと終わらせて帰ること。
そのためにオークロードを探し回っているのだが、出会うのは雑魚というのすら憚られるほどの只の肉の塊のみ。
ここに来る前にも出くわした
「はぁ……探せど見つかるのは豚ばかり……いつになったらオークロードが見つかるのやら」
まぁ、オークロードも所詮豚でしょうけど。と呟きつつ、またも一振りでオーク兵達をなぎ払うシロガネの耳に、ふと聞こえてきた声。
何処かで聞いたことのあるような……否、確実に聞いたことのある、懐かしささえ覚えるその声の主は、探すまでもなくシロガネの前に姿を現す。
「生きていたのか? ……まぁ、意外って事もないか。無事に逃げられたんだな」
死んだと思っていた友の姿が、そこにはあった。
あとがきに転生する?
〉Yes
No
ミク・ヒグラシ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『神話召異』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『
スキル──『武器習熟』
耐性──『精神攻撃無効』『状態異常耐性』
──────────
カイ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『黒き稲妻』『黒雷之豪雨』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『影移動』『思念伝達』『魔力感知』『粉塵操作』
耐性──『物理攻撃耐性』『精神攻撃耐性』『状態異常耐性』『自然影響耐性』
──────────
シフ
種族──牙狼族(???)
加護──???
称号──
ユニークスキル──『
─────────
シロガネ
種族──オーガ(???)
加護──???
称号──