転生したけど、手に入れたスキルが自由すぎて困ってます 作:低蓮
途中から三人称視点になって読みづらいかも知れませんが、ご了承下さい。
大上段から打ち下ろされる剣を
近くではシフとカイが同じように襲ってくるオークを噛み殺したりはね飛ばしたりしている。
こんな時でもはしゃいでカイに窘められているシフに和みつつ、新たに襲ってくるオークにアスカロンを構え直す。
視界がオークで埋まるっていう全く嬉しくない光景に辟易しつつ、私はまた一体オークの首を斬り飛ばしため息を吐いた。
もう、斬っても斬っても全く減らないし、そもそも何故かは知らないけど死体を私そっちのけで喰い漁り始めるし、豚顔だし、嫌になってくる。
《最後のは完全に偏見じゃない?》
だって事実だもん。何が悲しくて豚に囲まれて
一分一秒でも此処にいたくないし、さっさと囲いを突破して此処から逃げ出したいのは山々だけど、それも出来ない事情がある。
チラリと視線を後ろへ送ると、銀色の髪をした子供が顔を青くして震えている。
人間の子という訳じゃなくて、「
偶々──本当に偶々通りがかったこのジュラの森で、オークに追いかけられている子供が見えたから思わず助けちゃったんだけど……うーん、どうしようこれ。
「
《ズバーっとって……幾ら何でも抽象的過ぎだよね?》
えー……それじゃ、格好良く雷とか落として殲滅するみたいな。
『エクストラスキル「黒雲招来」を獲得しました』
「
「黒雲招来」ね……なんだか威力出なさそうだけど、とりあえず試してみよう。それで「
《おおざっぱに場所を指定すれば、後はこっちで味方に被害が出ないように調整するよ》
おお、何という便利さ。それじゃ、大体あの辺りにしてみよう。
私が適当に選んだのは、シフ達が戦っている方向とは反対の位置。
調整するといっても、わざわざ味方の近くに指定するのは危ないし意味ないからね。
で、肝心の威力の方は……
《あ、見てない方が良いよ》
え?
一瞬。それは本当に一瞬の出来事だった。
「
もうね、痛いとかそういうレベルじゃない。ヤバい、この一言につきる。
後取り敢えず「
《えー、一応注意喚起はしたよね?》
した直後にこうなったんだけど? もう視覚も聴覚も使い物にならないんだけど?
『「状態異常耐性」を獲得しました』
なった後に獲得しても遅いんだけど?!
は、いけないいけない。「
まぁ、結構凄そうだったし威力も期待──
耐性を得たおかげで回復が速まったのか視界が急速にクリアになっていき、黒雲招来のもたらした破壊の跡が私の目に飛び込んでくる。
「──へ?」
目の前の光景は一面の更地。先程まで犇めいていたオークはおろか、
……威力、高すぎない?
《でもほら、ズバーっと格好良く殲滅できたよ》
それはそうだけど……うん、このスキルはなるべく使わないようにしよう。
そんなことよりも。
「カイ! その子背負うなり咥えるなりして付いてきて! シフ! いつまでも遊んでるとおいてくよ!」
後ろのカイとシフにそう指示をとばすと、更地になった方へと駆け出す。
後ろからは「ひゃあ?!」という小さな悲鳴と二種の足音が響いてきているので、二人ともちゃんと付いてきてくれている。
私たちはそのまま、追ってくるオーク達が完全に見えなくなるまで全力で走り続けた。
……あれ? 私もカイに乗せて貰った方が早かったんじゃ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これは、一体……ッ!」
少女の悲痛な叫びは、絶え間なく響く剣撃にかき消される。
目の前で繰り広げられるのは、戦いなどという生やさしいものではない。
虐殺──そう、これは一方的な虐殺だ。
いや、見渡す限り敵の姿が飛び込んでくる状況だ。戦況も一方的にもなるだろう。
……その相手が、オークでさえなければ、だが。
オークとオーガの間に存在する絶対的な壁。それはランクの優劣だ。
オークは精々がDランク。対するオーガはBランク以上の個体も存在する。
この世界において、戦争は数ではなく質。たった300程度の集団であろうと、オークなどが幾ら集まっても負ける筈もないのだ──本来なら。
だから、今少女の目の前の全てが異常。
族長は黒い鎧を纏ったオークに一撃で屠られ、主たる戦士達も悉くがなぶり殺された。
幾ら戦闘集団といえど、全員が優秀な戦士というわけではない。
歳をとって動きが鈍くなった者もいれば、今なお修業中のものもいる。
そんな者達が、倒しても倒しても押し寄せてくる敵を前に、いつまでも持つはずがなかった。
一人、また一人とオーク共の波に飲み込まれていく。
ふと気が付くと、少女の周りには少年が一人居るのみ。
その少年も少女に気が付いたのか、少し安堵したように近寄り背中合わせになる。
「あー、しんどい。何時になったらこの波切れんのかね」
「あんたがこれ全部殺しきれば、波も切れるんじゃない?」
「いやいや、それは幾ら何でも無茶じゃ……っと!」
軽口を叩きながらまた一体を切り捨てるも、その穴はすぐに別のオークによって塞がれる。その事に苦笑いを浮かべた少年は、困ったように背中合わせの少女に問うた。
「どうするよこれ」
「どうも出来ないから困ってるんでしょ」
「それもそうか」
元々解など期待していなかったのか、少年はあっさりと言葉を受け流すと目の前の仇を切り捨てた。
「ならさ、俺の案に乗らない?」
「……一応聞くけど?」
「俺が全力でお前をぶん投げれば」
「それ、あんたはどうやって脱出するわけ?」
「じ、自分をぶん投げれば……」
「要は考えてなかったわけね」
少年の案とも呼べない提案に、少女は呆れつつも此奴らしいと顔を綻ばせた。
それをみた少年は、ニヤリと笑いつつ大げさにおどけてみせる。
「作戦なんてその時になってから考えればいいんだよ。行き当たりばったりが一番性に合ってるからな!」
「はいはい。前見ないと斬られるわよ」
「え? ……うおぉぉぉ?! あぶねぇぇぇ?!」
この少年騒がしいのが玉に瑕だが、剣の腕は少女など遙かに凌ぐものを持っている。騒がしいのが玉に瑕だが。
それは裏を返せば、それほどの腕を持っていてもこのオーク共の包囲を脱せ無いのだ。
「しっかし本当にどうしようこれ。いっそ本当にぶん投げようか?」
「却下に決まってるでしょ。他に良い案はないの?」
「うーん──あ、ある……にはある、けど……」
「……? どんな?」
「俺がお前を抱えて、オーク共の頭を踏み台に脱出……うんやっぱりなんでもな──」
「……ううん、案外いけるかも知れない」
「──おう? 提案した俺がいうのもあれだけど、正気?」
「他に良い案もないでしょ。投げるのは却下で」
少女は大雑把に周囲を見渡すと、一番囲みの薄い地点を見つけ出し少年へと振り返った。
「それじゃ、よろしくね?」
「おう、マジかよ……失敗しても恨むなよ?」
「はいはい。成功するよう祈っておくから」
少年は少女を抱え上げると、大地を力強く蹴りつけ大きく飛び上がる。そのまま着地地点となるオークの頭を踏み抜きつつ、囲いを破るべくオークのいない方へと突き進んでいく。
少女は少年の腕の中で身をよじると、眼下へと視線を向けた。
未だにそこかしこで剣撃が鳴り響いているが、それも今にも消えてしまいそうなほど弱々しい。
見渡す限り、オークで埋め尽くされている視界。
そう、奴らに。あの黒い鎧に、族長も皆も殺されて──
ふと、少女の思考はそこで止まる。
そうだ、あの黒い鎧。黒い鎧を纏ったオークは、今どこに……?
「ぐ……あぁぁぁぁ?!」
少女がその発想に至るとほぼ同時、彼女を抱える少年の口から苦悶の声が漏れる。
何事かと視線を戻そうとしたとき、バランスを崩したのか少年が倒れ込み、少女は地面へと投げ出された。
幸いにも包囲は突破していたようで、地面に倒れた少女に襲ってくる影はない。
慌てて飛び起き少年の方へと視線を向けると、右肩を押さえた少年が肩で大きく息をしていた。
その眼前には、あの黒鎧の姿があった。
「……ッ! 逃げて! そいつは──」
「──逃げる? はは、馬鹿言うなよ」
「え……?」
「むしろ逃げるのはお前だ。何のためにお前を包囲の外に出したと思ってる?」
「なに、を……」
少女は一つの思い違いをしていた。
少年にすら、この包囲を破るのは容易では無いのだと。
しかし、実際にはそれは誤りだった。
少年は、逃げようと思えばいくらでも逃げ切れたのだ。
ただ、
「ほら、早くいけよ。敵さんは待っちゃくれない、ぜ!」
少年はいつの間にか近寄って来ていた黒鎧に猛然と打ち掛かった。
その周りには無数のオークが少年を襲わんと犇めき合っている。
「……! 私も残って……」
「おいおい、俺に無駄死にさせる気か? ……頼むぜ。生き残ってさ、みんなの仇とってくれよ」
剣戟の間を縫うように一瞬だけ少年は少女へと顔を向ける。
その顔は少女に対する信頼であふれており──その口元には、微笑さえ浮かんでいた。
仇をとる、そのためには生きて帰らなければならない。たとえ、
だが、確かに託された。少年は少女に〝一緒に死ぬこと〟ではなく〝生きて仇をとること〟を望んだ。だったら、少女に出来ることは一つだけだ。
「……ッ 取るから……絶対に、仇はとるから!」
少女は少年に背を向け、振り返らずに走り出した。その少女に向けて、オークの群れが逃がすまいと押し寄せる。
その光景を横目でみつつ、少年は黒鎧に向かって不敵に笑った。
「仇を頼むとは言ったが、死んでやる気はさらさらないぜ?」
「……」
「……黙りかよ、つれねぇな。暫くは付き合ってもらうんだ、仲良くしようぜ」
時さえ稼げればそれで良い。少女ならきっと……
そんな思いを胸に、少年は絶望的な戦闘を始めた。
木々の間を抜け、一目散に逃げる。後ろを振り返らずとも、奴らがしつこく追ってきているのは解っていた。
先程まで全力で戦闘をしていた上に、今度は全力で疾走している少女の体力は、とうに限界を迎えていた。
既に足の感覚は半ば失われ、気力のみで走っているに過ぎない。
そんな少女が周囲に良く警戒を出来るわけもなく、地面から突き出していた木の根に足を取られたのは、ある意味必然だったのだろう。
「……ぅあッ」
バランスを崩して勢いそのままに地面へと投げ出された少女は、立ち上がって再度走り出そうともがく。
しかし、極限まで酷使された四肢は一度迎えた休息を手放そうとせず、少女の必死の努力は僅かに体勢を変えたにとどまった。
そんな少女の目には、動きを止めた獲物に猛然と向かってくるオーク達の姿が映った。
少女の顔に、恐怖はない。有るのは、諦観の念と己への苛立ち。
少年に託された思いすら果たせず、この状況を半ば以上仕方のないことだと受け入れてしまっている己に。
全く及ばない、己の力に。
「もっと、力があれば……」
少女は迫り来るオークの群れを、ただ為す術なく見つめることしか出来なかった。
そして、オーク達の伸ばした腕の一本が少女を捕らえようとしたその刹那。
「──え?」
少女の視界の端に、金色の光が掠める。それと同時に、近くまで迫っていたオーク達の体が両断された。
「カイ、シフ! そいつら蹴散らしておいて!」
そんな声とともに、大小二つの影がオークに飛びかかる。見た目は牙狼族に見えたが、内包している力はそれとは比較にもならなかった。
特に小さい影の方は、垂れ流しているであろう力の底がとんでもなく深く、少女の知っている限り一番強い族長と比べても全く勝負にならないほどだった。
「大丈夫? えーっと……ふーん、オーガの子かぁ」
驚いている少女に、声をかけてきた存在がいた。
金色に淡く光る髪を持つ、十にも満たなそうな容姿を持った女の子。
少女を心配するような表情の女の子と眼があった少女は、しかし恐怖に身をすくませた。
その双眸は少女の全てを見抜いているかのように鋭く、あの小さな方の牙狼族よりも底知れない力をあふれされる女の子に、絶望的な状況になってさえ恐怖を感じなかった少女が身をすくませたのだ。
──次元が、違う……
強い弱いではなく、最早別の次元の存在。それが少女の女の子に対する率直な感想であった。
少女が嘗て無い恐怖に身をすくませていると、女の子は何を納得したのか一つ頷くと少女に向かって笑いかけた。
「大丈夫、こんな奴らすぐに蹴散らして……え? 囲まれた? ……ちょ、敵多すぎない?!」
素っ頓狂な声をあげる女の子に、少女は結局オークから逃げ切るまで震えを抑えることが出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あの後、あのオーク達から逃げ切るのにものすごい苦労した。
なんかどんなに威嚇しても怯まないで襲ってくるものだから、もう一発「黒雲招来」をお見舞いした後にカイに乗せてもらってその場から全速力で逃げ出した。
それで、ようやく落ち着いた私達はオークに追いかけられていた子から事情を聞こうと思って休憩中なんだけど……
「……」
「……」
何故かすっごい怯えられてます。
おかしい、私はこの子に感謝されることはあっても、怯えられるようなことなんて……
あ! もしかして「黒雲招来」に怯えちゃったとか? それは悪いことをしてしまった……
正直、あんなもの見せられたら誰だって怖がる。私だって怖がる。
《あぁ、その可能性はないよ。あの光と音は「
うん、待とうか。色々突っ込みたいけど、一つずつ消化していこう。
まず、「
《「
オーケーオーケー、それじゃ次にいこう。
……なんでその「情報拡散」で私のこと守らなかったの?!
《ほ、ほら。二回目は守ったし。一回目は「状態異常耐性」を得るために……ね?》
ね? じゃないよ! あれ本当に辛かったんだかね?! っていうか、だからそういうことは先に言ってってば!
念話で「
「……(ふい)」
……め、逸らされた。なんかこう、凄い心にグサグサくるよ……
でも、助けた手前怖がってるからここでバイバイ、というわけにもいかないよね。うーん、どうしよう……
「……あ、あの……ッ」
「うん?」
なんて思案していたら、向こうの方から声をかけてきてくれた。
これはチャンス! 聞きたいことがあるなら何でも聞きなさい!
……だから、目が合ったらビクってなるの、やめて?
「あなたは……どうやって、その力を身につけたんですか……?」
「え? あー、うーんと……」
「わたッ……私に、力を与えてくれませんか?!」
「えーっと……」
どうしよう。転生した時にこの力貰いました(笑)、とかいえるわけ無い。それに、力を与えてといわれても、私自身そんなに強い訳じゃないし……
《名付けをすれば、手っ取り早く力をあげることが出来るよ?》
あ、そっか。カイもそれで進化したしね。
でも、同意なしに名付けをするのもなんだかなぁ。カイの時のは不可抗力ってことで。
というわけで、この子に聞いてみよう。本当に力がほしいなら、受けてくれると思うけど……
「力を、ね。それはいいけど、一つ条件があるよ」
「それ、は……?」
「私はあなたに名前をあげる。だから、あなたは私の〝家族〟になってくれない?」
「名前を……? いえ、それよりも……〝家族〟?」
「そう、家族。カイもシフも私の大切な家族だから、何かの時は守ってあげるし、力にもなる。君も家族になってくれるんだったら、全力で助けてあげる。……なにか、困ってるんでしょ?」
「あ……」
その子は小さな声を漏らして顔を俯かせてしまう……と思ったけど、すぐに顔をあげて私の目をまっすぐに見てきた。
あぁ、漸く怯えられずに済む!
「……私は、仲間に託されました。仇を取ってくれと」
「うん」
「だから、私に力を……そして、居場所を下さい」
これで同意は得たかな。さてさて、本題の名前を決める段階に移るけど……ぶっちゃけると、私にネーミングセンスとか求められても困る。
カイは毛の色から取ったし、シフはもうなんかあれだし。
というわけで、此処は大人しく髪の色から決めさせて貰おう。
えーっと、銀色だからギン……? いや、それとも……
「うん、〝シロガネ〟って名前はどうかな?」
「シロガネ、ですか……」
「気に入らなかった?」
「いえ、そんなことは。ありがとうございます」
私に頭を下げるその子の体が、カイの時と同じように光に包まれる。
この子も進化かぁ、とか思っていたら案の定きましたよあの虚脱感。
い、いや。でもシフの時に比べたら軽い気がする。あの時は溜まらず崩れ落ちちゃったけど、今はなんとか踏みとどまれる……と。
危ない危ない。気を抜いたら足から崩れ落ちそうだけど、立っていられなくはない。
「あの……大丈夫ですか?」
「あーうん、大丈夫だいじょう……?」
あれ? なんか声音ちがくない?
視線をあげてみれば、身長150cm程度の女の人が私のことを心配するように見下ろしている。
えーっと、どちら様でせう……?
《さっきのオーガの女の子だよ。進化して体格が良くなったんだね》
え、えー……? 変わり過ぎじゃない? いや、こんなものなのかなぁ……
あ、やばい力抜けた。
「ちょ、大丈夫ですか?!」
「ミク様?!」
シロガネやカイの心配そうな声を聞きつつ、足先から崩れ落ちた私は、さっきの激闘も相まって私は意識を落とすことにした。
うん、なんか今日は濃い一日だった……っていうか、ちゃん 目を見てくれたことで嬉しくなってよく聞いてなかったけど、仇ってなに?
なんか、面倒なことになりそうだなぁ……
そんなことを思いつつ、私は二度目の虚脱感に身を任せていった。
あとがきに転生する?
〉Yes
No
ミク・ヒグラシ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『神話召異』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『
スキル──『武器習熟』
耐性──『精神攻撃無効』『状態異常耐性』
──────────
カイ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『黒き稲妻』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『影移動』『思念伝達』『魔力感知』
耐性──『物理攻撃耐性』『精神攻撃耐性』『状態異常耐性』『自然影響耐性』
──────────
シフ
種族──牙狼族(???)
加護──???
称号──
ユニークスキル──『
─────────
シロガネ
種族──オーガ(???)
加護──???
称号──