転生したけど、手に入れたスキルが自由すぎて困ってます 作:低蓮
今年もこの不安定な気象という最大の敵が降臨してきました。傘持ってかないで外出したらずぶ濡れですよ、もう泣きたい……
目の前には厚い体皮に覆われたアーマーサウルスと、その足下をちょこまかと動き回るシフ。
アーマーサウルスの鋭い爪を有した腕が振り下ろされる度、シフがすんでのところで身をかわす。
目標を失った攻撃は、勢いそのままに地面を抉っていく。
ぱっと見、シフが一方的に追いつめられているように見えるけど、それは違う。
だって──
「あはは、遅い遅い! そんなんじゃ攻撃なんて当たらないよ!」
──めっちゃ尻尾振ってるし、めっちゃ楽しそうだし。
完全に遊ばれているのはアーマーサウルスの方で、さっきからこの周辺にはシフの歓声と破砕音しか響いてない。
その光景をぼーっと眺めながら、ふと私は思った。
……どうしてこうなったんだっけ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
遡ること四半日。
「で、言い訳の続きを聞こうじゃないか」
この人は王国警備隊隊長のカイドウさん。さっき私のことを牢にぶち込んでくれた張本人だ。
「えっと、本当に盗むつもりは無かったんですって……」
「じゃ、あそこでなにしてたんだ」
「魔鋼を使った武器作ってる人って、どんな感じの人なのかなって」
「工房に無断で入った理由は?」
「そこに関しては申し開きもございません申し訳ありませんでした!」
土下座する勢いで謝ったら、ふとカイドウさんが纏っていた剣呑な雰囲気が霧散して、苦笑をこぼす気配がした。
えっと、これは……?
「ようやく謝罪がでたか」
「え?」
「なに惚けた顔してんだ、まさか本当に窃盗罪で捕まったと思ったのか?」
え、違うの? てっきりそのせいで捕まったのかと……
私がカイドウさんの言葉に戸惑っていると、それを見抜いたのか顔に呆れの色を浮かべながらカイドウさんはため息を吐いた。
「幾ら何でも、あんなことで捕まえたりはしないぞ。大体、おまえが本当に盗むつもりが無かったことは分かってたしな」
「えっと、だったら何で私牢に入れられたんでしょう……?」
「無断で工房の中に入ったのは事実だったろう。素直にそれを謝ればいいものを、ぐだぐだと御託並べやがって……」
やばい! またカイドウさんに剣呑さが!
「本当に申し訳ありませんでした!」
「はぁ、わかったよ。ほら」
ガチャリ、と音がして牢の扉が開けられる。いやぁ、最初入れられたときはどうなることかと……
「迷惑掛けちゃって、ごめんなさい」
「別に良いさ。ガキの世話を焼くのは嫌いじゃないしな」
「えっと……ロリコン?」
「そういう意味じゃねぇよ、もう一度牢にぶち込まれたいか?」
「牢の外の空気はおいしいなあぁ!」
三十六計逃げるに如かず。全力で話題を逸らさねば!
「そ、そういえばカイドウさんは隊長なんですよね。どうしてあの場所に……?」
「あん? あぁ、それは兄貴にちょっと用があったからだ。あそこの職人ってのは、俺の兄貴だからな」
「もしかして、兄弟そろって有名人……?」
「兄貴の方が圧倒的に知名度高いがな。ドワルゴンのカイジンと言えば、国外にも名前が知られているほどだしな」
「へぇ……」
なんだかすごい人と出会っちゃったなぁ。あ、だったら伝手であわせてもらえないものかな? それをカイドウさんに伝えたら、若干申し訳無さそうに首を横に振った。
「いや、すまんが俺にも兄貴が今なにしてるかは分からん。ただ、最近素材がどうのとぼやいていたから、もしかしたら鉱山地区にいるかも知れん」
「いえ、情報をいただけただけでも有り難いです。早速行ってみますね!」
カイドウさんにお礼を言って、教えて貰った鉱山地区へと足を向けた。ちゃんと会えると良いなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で、言い訳を……って、これ二回目だな。ったく、次から次へと問題ごとが舞い込んでくるな……」
「へ?」
「あぁいや、何でもない。で、一体なにやったんだ?」
「そうそう、聞いて下さいよ! 俺たち悪くないですから!」
そこからリムルが話したのは、概ね正当防衛と言える程度のことだった。
馬鹿なことをしたもんだ、とカイドウがリムルに絡んだ人間の冒険者達に哀れみを抱いているところに、ドアを勢いよく開け放ちながら一人の王国警備隊員が駆け込んできた。
「おい、もうちょっと静かに……」
「それどころじゃない! 隊長、鉱山ででかい事故が起きた! そのせいで、魔鋼石採集の為に奥まで潜っていた鉱山夫が酷い怪我を……」
「な、ガルム達が?! くそっ、なんて日だ!」
「ありったけの回復薬集めてるが、戦争の準備だかで品薄だ。このままじゃ……」
「くそ、あいつ等は兄弟も同然なんだぞ! そう簡単にくたばらせてたまるか!」
大急ぎで出て行こうとするカイドウに、いつの間にか牢を抜け出していたリムルが声をかける。
「そう慌てなさんな、旦那。どうせ急いだところで品薄じゃどうしようもないでしょう? これ、必要なんじゃないですかね」
そう言いつつリムルが指し示した先には、先程までリムルが押し込められていた樽一杯に注がれている液体。
「これは……?」
「飲んでよし! 掛けてよし! の回復薬ですよ」
「……魔物の提示するものをつかえと?」
「どっちにしろ、旦那の兄弟分が危ないんでしょ? 試してみるのも一考だと思うんですがね」
「……」
リムルの言葉に何事か考え始めるカイジンに、駆けつけてきた警備隊員が慌て始める。
魔物のことなんて、といい募る彼を一喝で黙らせると、リムルにじろりと視線を向けた。
「なにが目的だ?」
「いやだな、人が人助けをするのがそんなに珍しいことですか?」
「おまえが魔物だから珍しいんだろ……まぁいい、絶対に逃げるなよ」
「た、隊長?!」
「ぼさっとすんなさっさと行くぞ!」
さっさと行ってしまうカイドウを、隊員が樽を抱えて慌てて追いかける。
鉱山へと足早に向かうカイドウは、ふと今朝にあった少女を思い出した。
彼女も鉱山へ行くと言っていたが……まさかな?
「そういえば、大きな事故ってなにがあった? 落盤でもしたのか?」
「あれ、言ってなかったか? アーマーサウルスがでたらしいぞ」
「は?」
アーマーサウルス? ……あれって、確かBランクに届くか届かないかくらいだよな?
「馬鹿やろう、それを早く言えよ?! 街に出てくる前に倒さんと……」
「……あーと、それなんだが。大丈夫というか、大丈夫じゃないって言うか……」
「……?」
歯切れの悪い返答に、カイドウは一抹の不安を覚える。いやいや、まさかそんな……
「……どういうことだ?」
「いや、小さい女の子が此処は任せろーって」
カイドウは頭を抱えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前では未だにアーマーサウルスとシフによる
余りにも暇だったせいか、アーマーサウルスを見るなりシフが飛び出してちょっかいを掛けたのが始まりなんだけど……
もうシフに軽くあしらわれているアーマーサウルスがいたたまれなくなって、私は思わず眼を背けた。
大体、なんで
アーマーサウルスが出てくる前に一瞬だけ空気が震えたけど、あれが何か関係しているのか知らん?
なんて考えていたら、いよいよシフ達の
あ、倒れた。
「ミク様ミク様! 見て下さいこれ!」
シフは倒れたアーマーサウルスに飛び乗って喉笛をかみ砕くと、勝ち誇ったように遠吠えをあげた。
ほめてほめて! と言うように尻尾を振るものだから、頭を撫でて労ってあげる。
弱かったとは言え、魔物を倒したのは誉められることだ。ただ、惜しむらくは……
私は、周囲の惨状を見てため息を吐いた。
「シフ、遊びすぎだから」
アーマーサウルスの攻撃で抉れまくった壁や地面を横目にみつつ、シフの頭を軽く小突く。
シフも言われて気が付いたのか、気まずそうに視線を逸らした。まぁ、シフも子供だし仕方がないのかな。そういえば遊んであげたこと無かったし。
結局、それらしい人とは会わなかったし空振りかなぁ。日を改めれば会える……? あれ、向こうから走ってきてるのって……?
「カイドウさん……?」
なんだろう、すっごい慌ててるような……
もしかして、お兄さんがもう帰ってきてたからわざわざ知らせに? なんて優しい人なんだろう。
笑顔で手を振ってみたら、何故か顔をひきつらせてスピードをあげる。
うん? なんで?
「こんの……大馬鹿やろう!」
「痛い?!」
なんで今殴られたの?!
カイドウさんによると、さっきシフが倒したアーマーサウルスは、ランクがBに届くか届かないかくらいの強さらしい。なんでも、それなりに強い部類の魔物だとか。
いや、でも待ってほしい それにしてはシフあっさり倒してなかった? どういうこと?
と言うわけで「
《調子良いね……シフがアーマーサウルスに勝てたのは、単純にシフの方が強かったからだよ》
はぁ……そう言われてもいまいちぴんとこない。ランクで言うとどの辺りなの?
《Sランクくらいじゃない?》
……えすらんく? なんか強そう。
《もうその認識で良いと思うよ……》
兎に角、シフが意外に強いと言うことが発覚したわけだけど、まぁ今はそんなことは細事なわけで……
「おい、聞いてるのか!」
「聞いてます!」
「なら、今言ったことを復唱してみろ」
「聞いてなかったですごめんなさい!」
「この野郎……」
カイドウさんの有り難いお説教が早く終わってくれることを祈るばかり。
「いいか? Bランク以上の魔物っていうのは一人で挑むものじゃないんだ。今回はB-だったから何とか成ったものを、もう少し上位ランクの魔物だったら死んでたかも知れなかったんだぞ?」
「いやあの、戦ってたの私じゃ……」
「言い訳すんな!」
「ごめんなさい!」
カイドウさんはカンカンになってて、今は何を言っても取り合ってくれそうにない。
しかも、心配してくれているからよけいに反論しづらいし。真っ先に心配……うん、真っ先はなぐられたけど。でも、その後一応私の心配もしてくれた。一応。
……カイドウさん、私のこと心配してくれてるよね?
「──と言うわけだ、いいな?」
「ぇあ、はい?」
「……また聞いてなかったろ」
「あ、あははー……わ、わんもあぷりーず」
カイドウさんの目つきが怖い。正直、Bランクだ何だのと言っていたアーマーサウルスなんかより断然今のカイドウさんの方が怖い。
それを言ったらまた怒られるだろうから黙っておくけどね。
「いいか? お前がアーマーサウルスと暴れ回ってくれたおかげで、鉱山の至る所で落盤が起きたんだ。幸い死者こそ出なかったものの、暫くの間採掘作業が出来なくなった」
「え、私が悪いの……?」
「はぁ……いや、魔物を討伐してくれたことは感謝している。だが、採掘作業が出来ないってのは
「そっか、装備とかを作るための素材だもんね」
「ま、そういうこった。んで、処置としてお前には国外退去命令。簡単に言えば出禁が言い渡された。これでも相当処置が軽くなってるんだからな? 下手したら国家転覆罪だ」
魔物倒したら国家転覆罪で処刑とかたまったものじゃないんですが……というか、処置が軽くなったってことはカイドウさんが口添えでもしてくれたのかな。やっぱり優しい人だ。
「……って、出禁? それって、私がカイドウさんのお兄さんに会えるまで待ってくれたりは……」
「するか馬鹿やろう。退去命令は今すぐだ」
「ですよねー」
さて、そうなると困った。正直この後どうしようとかいうプランが全くない。
カイドウさんのお兄さんにも、すごい武器を作れる人ってだけであいたかったわけだし、この国にきた理由もカイドウさんに会ったことで殆ど達成してるし……
私が悩んでいると、それを国外退去を渋っているととらえたのかカイドウさんが一つの提案をしてくれた。
「まぁなんだ。お前ほど腕が立つなら、冒険者登録でもしてみたらどうだ? どうせ登録していないんだろ?」
「冒険者登録……そういうのがあるんだ……」
ファンタジーな世界観だし、魔物とかが居るなら冒険者も居るだろうとは思っていたけど、まさか登録制だったとは……
もしかして、勇者とかも登録制なんだろうか。夢が壊れるなぁ……
「冒険者登録をすればある程度自由に国家間を行き来できるし、方々で優遇されたりもする。勿論それにはランクを上げることが重要だが、お前なら討伐部門でCランクくらいなら直ぐとれるかもな」
どうやら冒険者にも種類があるらしく、薬草などの素材採集に特化しているのが〝採取部門〟。遺跡探索など、罠の解除や周辺警戒に特化しているのが〝探索部門〟。そして、魔物との戦闘を第一に考え、対魔物戦のエキスパートと呼ばれるのが〝討伐部門〟なのだそう。
勿論、部門加入に制限はなく、各部門でランクを上げる猛者もいるそうだ。
ただ、Bランクまであげるのは比較的簡単らしいんだけど、その先は確かな実績がないとランクアップの試験を受けることが出来ないらしくて、高ランクを目指したいなら部門は一つに絞った方がいいとの助言を貰った。
うーん、折角だし討伐部門で最高ランクを目指してみようかな!
なんて冗談半分にカイドウさんに伝えたら、ものすごく微妙な顔をされた。
「いや、その歳でそれだけ腕が立つなら、将来的に狙えなくもないだろうが……それにしたって、お前が高ランクの冒険者に成るってのはどうもいけ好かないな……」
「ひどい?!」
「冗談だ、半分くらいは。そんなことより、受けるつもりがあるならこれを持ってブルムンドを目指せ」
「えっと、これは一体?」
「簡単な紹介状みたいなもんだ。その見た目じゃ討伐部門は受けにくいだろうし、受付が渋ったらそれを見せればいい」
「へー……ありがとうございます!」
「いや、良いさ。恩人への餞別みたいなもんだからな。俺はこの後もう一人の恩人に礼をしに言く予定だから、おまえはさっさと国をでろよ?」
「分かりましたって……そんなことより、もう一人の恩人って?」
「あぁ、実は俺の兄弟分が運悪く此処に採掘しに来てたみたいでな。大けがを負って死にかけてたんだが、お人好しな魔物のおかげで助かったんだ」
「……もしかして、それって私のせいだったりします……?」
「……気にするな。おまえがいなかったらあいつ等は怪我どころじゃすまなかったかも知れん。過ぎたことをとやかく言ったりはしないさ」
良かった。もしシフ達の
カイドウさんも気にするなっていってくれたし、此処は素直に忘れてしまおう。
それにしても、お人好しな魔物ね……会ってみたい気もするけど、さっさと国をでないとまた怒られるんだろうなぁ。
よし、此処はブルムンドとやらに行って冒険者になってみよっと!
「因みに、その魔物ってどんな感じの?」
「しゃべるスライムだ。まぁ、会ったら直ぐ解るくらいには変な奴だよ。そんなことより、さっさと出てった方が身のためだと思うが……?」
「分かりましたぁ! ……それじゃ、いろいろお世話になりました。またどこかで!」
「俺的にはあんまり会いたくはないな」
「えぇ……」
何という冷たい反応。私が一体なにをしたと言うんだろうか……
《不審な動きしたり、鉱山破壊したり?》
そういえばそうだった。そう考えると、私ってカイドウさんに迷惑しかかけてない……?
うん、このことを考えるのは止そう。考えても私が悲しくなる未来しか見えない。
そんなことよりも、また暫く歩くことになりそう……まぁ、この体は存外丈夫みたいで幾ら歩いても息切れ一つ起こさないから、問題ないと言えば問題ないんだけど……
なんというか、道中がとても暇なのだ。
いや、スキルの研究とか修業とかやることに暇はないんだけど、それだけで時間を忘れられるほど集中できるかと聞かれたら否なわけでして。
カイドウさんと別れてドワルゴンから出た私は、ひっそりとため息を吐いた。
「はぁ……何かおもしろそうなこと起きないかなぁ……」
そのささやかな願いが聞き届けられるかどうかは、今の私には知りようがないけどね?
あとがきに転生する?
〉Yes
No
ミク・ヒグラシ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『神話召異』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『
スキル──『武器習熟』
耐性──『精神攻撃無効』
──────────
カイ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『黒き稲妻』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『影移動』『思念伝達』『魔力感知』
耐性──『物理攻撃耐性』『精神攻撃耐性』『状態異常耐性』『自然影響耐性』
──────────
シフ
種族──牙狼族(???)
加護──???
称号──
ユニークスキル──『