転生したけど、手に入れたスキルが自由すぎて困ってます 作:低蓮
名付けのせいで魔素の量が一定値を割り込んだせいで、身体に全く力が入らなくなりました。五感は生きてるみたいだけど何故かカイとの会話が出来なくなっていたから、この状態から回復するまではカイの毛がふわふわで温かいということ以外何もわからなかった。
体感で二日くらい。
その間はひたすらカイの毛に包まれているだけだったけど、漸く魔素が回復したみたいで四肢にも力が入るようになった。と言うわけで、この二日間ずっと言いたかったことをいわせていただこう。
「カイ、動けない私を守ってくれていたのは有り難いけど、時折頭ペロペロ舐めるのは止めて! 後シフ! 顔潤けちゃうから、もうちょっと舐める頻度減らして?!」
そう、二人そろって私の事をペロペロと舐めまくってくるのだ。カイに至っては、只でさえ体が大きいのに頭を舐めるものだから、その内パクリと行かれそうで気が気ではなかった。
確か、狼が相手のことを舐めるのは目上の者に対する親愛の証だったはずだから、そのこと自体が嫌なわけではない。嫌なわけではないんだけど、体中が唾液まみれでベタベタするのでもう少し控えめに表現してほしいなぁ……
「そうですか……わかりました、ミク様」
申し訳無さそうに尻尾と耳を垂らして返事をするカイに、私の心が痛む。
あれ? 私別に悪いことしてないよね?
「わかりました! ミク様!」
此方は何が嬉しいのか、尻尾をぶんぶんと振って元気良く答えるシフ。と言うか君、喋れるようになったのね。
「って、わかりましたって言いながら舐めるのは何故?!」
「ミク様に言われたとおり、舐める頻度は“なるべく”減らします!」
「減らす気無いよねそれ!」
尻尾をぶんぶん振って顔をペロペロ舐め回す。うーん、もう完全に犬だよこれ。
《種族進化してるから、犬っぽくは成らない筈なんだけど……子供だからかな?》
あれ、そういえばシフは大きくなったりしてないけど、進化に失敗でもしたのかな?
《え? いやいや、ちゃんと進化してるよ。種族は……》
まぁでも、こう言うときもあるよね。別に進化させたくて名前を付けてあげた訳じゃないし、このままの大きさなら連れ歩いても問題ないかな。
《あれ、これもしかしなくても無視されてる?》
あまり信用しないって決めたからね、「
というわけで、カイには私の影に潜ってもらい、シフは私の頭の上に乗ってもらった。頭の上に乗せる上で、絶対に頭を舐めないように言いつけたんだけど、さっきのこともあるし警戒しておこうかな。
ところでカイ、そんな羨ましそうにシフをみても、流石にカイを頭の上に乗っけるのは無理だからね? シフはまだ子犬程度の大きさだから、何とか乗せられてるだけなんだから。
「あ、そういえばカイ。この近くに人の住む国ってある?」
「人の住む、ですか……確か、近くに自然の洞窟を改造して住まいとする国家が有りましたね。人間の国家というわけではありませんが、国王が中立政策を取っているので、色々な種族が集っているそうです。その中にはもちろん、人間も居ますよ」
もしかしてとは思っていたけど、やっぱり人間以外にも文明を築ける種族が居るらしい。エルフとかかな?
「確か、名を〝武装国家ドワルゴン〟と。千年にも渡って不敗を貫くドワーフ王が率いる、戦強国です」
「ドワーフ……もしかして、鍛冶で有名だったりする?」
「ええ、そのようですね。良くご存じで」
まぁ、前世ではそういう扱いだったからね。と言うことは、エルフも精霊魔法とか弓術の達人だったりするんだろうか。
今はその話は置いておくとして、近くに国があるんならそこを目指してみようかな。洞窟を改造した国って言うのも気になるし!
「その国……ドワルゴンだっけ? それって、どのくらいの距離にあるの?」
「今の私の脚でしたら、数日中につく距離ですね」
うーん、カイの出せるスピードがどれくらいなのか解らないけど、そこまで遠い距離じゃないのかな?
よし、なら道々修業しながらドワルゴンを目指すことにしよう。
「それじゃ、ドワルゴンに向かってみようか。歩いていくけど、カイはどうする?」
「ミク様がお赦し下さるのでしたら、お側に」
「私小さいから歩くの遅いし、修業しながらだからもっと遅くなると思うけど?」
「問題ありません」
ま、本人が良いって言うなら良いや。修業って言っても素振りと持っているスキルの確認程度だからそんなにかからないし、一週間程度でドワルゴンにつけるだろうからそれまで辛抱してもらおう。
それじゃ、ドワルゴンに向けて出発ー!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
遡ること数日、「
見た目はRPGの雑魚キャラでお馴染みのスライムそのもの。雑魚とは言え、物理攻撃耐性を持ち中々に厄介なのだが、下手に自信をつけた冒険者なら舐めて掛かるような魔物だ。
そのスライムは、ジッと門をみたまま動かない。まるで、その扉の構造に興味を示しているかのようだ。
このスライム、一体何を思っているのかというと……
──「大賢者」さんや。目の前のこれ、どう思う?
《解。〝暴風竜〟ヴェルドラが封印されていた箇所への侵入を防ぐための、封印の扉と推測します》
──いや、そうなんだけどさ。そうじゃなくて、形状に違和感を覚えないかね?
《解。経年劣化や損壊などが見受けられないため、極最近何者かの手が加えられた可能性があります》
──つまり、元は普通の扉だったかも知れないけど、誰かの手でこんな悪趣味に改造されたと……
思い切り困惑していた。
このスライムは一定以上の知能がある上に、何らかのスキルを手に入れている様子だった。
実はこのスライム、ミクと同様に異世界から転生してきた元日本人であり、暴風竜ヴェルドラより授けられた名をリムルという。
まだこの世界のことは慣れてはいないとは言え、目の前の明らかにおどろおどろしい造形の扉には違和感を覚えたようだった。覚えない方がおかしいのだが。
──しかし、うーむ……この扉、どうしたものか。「水刃」で切り刻むか、いっそのこと「捕食者」で……
《告。扉から僅かな魔素の放出を確認しました。警戒して下さい》
──おっと?
そんなリムルを余所に、扉が音もなく開き始める。如何に最近手が加えられているとは言え、一切の淀みなく滑らかに開いていく扉はリムルの眼からしても異様に映った。
「あ、開きやしたね……」
「開いたな……」
「開いたわねぇ……」
と、扉が完全に開ききったところでそんな声とともに恐る恐るといった体で数人の人間が顔を覗かせてきた。
「えっとぉ、封印の扉ってこんなのだっけ?」
「少なくとも、あっしの知ってる扉は自動で開閉したりはしないでやすね……」
「ってか、こんな気味の悪い造形じゃなかっただろ……」
「なんか不安しかないわよぅ……もう帰って、ギルドマスターに文句言ってやりたいわ」
「まぁまぁ姉さん。いざとなったら盾になりやすから。……カバルの旦那が」
「俺かよ?! まて、リーダーは俺だぜ? 此処はギドが盾になるべきだろ」
「
「
「納得いかねぇーー?!」
──なる程、人間ね……見た感じ、冒険者かな?
《是。Bランク相当の冒険者と推測します》
──「大賢者」さん流石っす。何でも解るんだね、と……さて、今出ていっても最悪討伐されるだろうし、此処は様子を見させてもらおう。
リムルが様子を窺い始めて幾らもしないうちに、騒いでいた冒険者達が一カ所に集まったかと思うと、その身を視認しにくい状態にした。
──おー、何という
《……告。扉が閉まりつつあります。再度開く可能性は推定不能です》
──おっとっと?! 危ない危ない、と言うかこの扉自動で閉まりもするのか……
馬鹿なことを考えているうちに危うく扉を潜る機会を失いかけたリムルは、安堵しつつ気持ちを切り替えた。
──取り敢えず、外目指すか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一週間で着けると言ったな、あれは嘘だ。
いやまぁ、うん。カイの足で数日以内とかよくよく考えたら結構な距離になるよね。だって四足歩行だし。
寧ろ道々修業しながら来たにしてはかなり早い方なんじゃないか知らん。
そんなわけで、あれから三週間ほど掛けてようやくたどり着きましたドワルゴン。山脈の麓にある門を見たときには、安堵から涙がでかかったよ。
今現在は、入国のための審査を受ける列に並んでいるところなんだ。
「ミク様、ドワルゴンへは何をなさるおつもりで?」
と、今更ながらにドワルゴンへの到着の喜びをかみしめていたら、頭の中にカイの声が響いてきた。
今、カイは人間達を驚かせないようにと私の影に潜ってもらってる。会話で声だけが聞こえるのは、「思念伝達」の恩恵みたい。
「これって目的はないけど、強いて言うなら人間達とも友好を結べるかどうかの確認かな」
私がそう返すと、カイは成るほどと呟き「流石ミク様です」と嬉しそうにしていた。目の前にいたら尻尾をブンブン振ってるんだろうな。
「人間とは欲深き生き物。その欲深さが将来ミク様の覇道の害となるか否か、今のうちに見極めておこうというわけですね」
何言ってるんだろうこの子。そんなつもりだったわけじゃないというか、覇道って何?
まぁ、カイがそれで納得してるんなら別にいっか。わざわざ訂正するのも面倒だし、適当に頷いておこう。
「やはりそうでしたか。ご安心下さい、ミク様。後の災いと成るようでしたら、私が処分して見せましょう」
うんうん、それにしてもこの国って、本当に天然の洞窟を改造して造られてるんだね。この門もそうだけど、なんだか自然を身近に感じられる造りになってて良いなぁ。
「それに、シフもミク様に名を付けていただいたことで新たな力に目覚めたようですし、ミク様を煩わせるものにはそれなりの制裁を与えられることでしょう」
うんうん。シフ、シフかぁ。そういえば、ごっそりと魔素を持っていかれた割には、見た目変化無いよね。今も私の頭の上で幸せそうに寝息立ててるし。
あれだけの思いして、喋れるようになっただけとか笑えないよ……
「シフもミク様と同じく、────の力を引き出せるようになっていますしね」
うんうん……うん? なんの力?
なんだろう、聞き逃しちゃいけなかったような気がする。仕方がない、あんまり聞いてなかったって正直に言って、もう一度話を……
「次!」
と思ったら、いつの間にか私の順番が来ていてタイミングを逃してしまった。
まぁ、また今度聞けばいっか。今はさっさと中に入れてもらおう。
「子供……? 一人か?」
「ううん、この子も一緒だよ」
「魔物……それも牙狼族の子供か。どんな手を使って手懐けたかは知らんが、そいつが騒ぎを起こしたらどうなるか解ってるか?」
「うん、ちゃんと言って聞かせるから大丈夫だよ」
「言って聞かせる、なぁ……まぁいい、通れ。次!」
入国審査みたいなものはそこまで厳しくないみたいで、意外とすんなり通してくれた。
本当に危ないのだけを弾いて、後は中で対処するって感じなんだろうね。流石戦強国、なるべく問題を起こさないようにしよう……
門を潜ってみると、活気のある雰囲気に面食らってしまった。
街並みも、如何にもな感じに配管やら何やらが通っているし、所々には人集りもあるし。
覗いてみるとどうやら武器防具のお店みたいで、なんかすごそうなものがずらりと並んでいた。
って言うか、この武器なんか光ってない?
《素材に魔鋼を使ってる武器だね。魔力になじみやすい材質で、空中の魔素に反応して光って見えるんだよ》
あ、そうなんだ。って言うか「
《ずっと無視してたのはそっちだよね?!》
え? ……あ、もしかして修業中に手に入れた「思念遮断」ってスキルの効果を無意識に使って、声が聞こえていなかった可能性が。
《えっ》
ま、まぁ過ぎたことは水に流そ? そんなことより、魔鋼ってなに?
《な、なんか納得いかないけど……魔鋼は、さっきも言ったとおり魔力に馴染みやすい性質を持った金属だね。長期間自然の魔素に当てられた鉱石が一定の確率で魔鋼石になって、それを冶金すれば魔鋼の出来上がり》
ふーん、それってごろごろあるの?
《それなりに珍しいよ。だから、魔鋼を使った武器や防具は高いんだ。まぁ、加工が難しいって言うのもあるけど》
つまり、これを造ってる人って凄いんだね。あ、この工房みたいな所で造ってるのかな?
偶々目に入った建物を覗いてみたけど、視線の先には無人の工房が。使われてないという訳じゃなさそうだったけど、職人の人はどこにいるんだろう?
「あれ? これって……」
何の気なしに工房の中を見回していたら、無造作に置かれている武器の一振りが目に入った。
薄く発光しているそれは、「
ということはつまり、この工房を使っている職人さんが凄腕の業師ということだよね。うん、一目会ってみたいなぁ。
なんて、目の前の武器に感心していた私は、背後から近寄ってくる気配に気が付かなかった!
「おい、お前。そこでなにをしている?」
別に殴られも薬を飲まされもしなかった私は、普通に声をかけられ普通に肩に手を置かれた。
え、なにをってそりゃ──
「──べ、別に盗もうとしていたわけじゃないですよ?」
「ほぅ、そうか。俺はてっきり許可を得て見ているものだと思っていたんだが」
墓穴掘ったあぁぁぁ?!
機先を制して盗みを否定するつもりが、これじゃ盗みの現場を見られて焦ってるようにしか見えないよ?! だって凄い視線痛いし!
ま、まだあわてる時間じゃないぞ私! 此処から挽回するんだ!
「そ、そういえば、この武器って魔鋼を芯に使ってるんですよね」
「……」
「いやぁ、こんなに良い武器を造れるなんて、此処の職人さんは腕がいいんですね」
「……」
「それにしても、こんなに良いものを無造作に床においておくなんて、盗んで下さいって言ってるようなものですよね。不用心だなぁ、あはは」
言葉を発するごとに追いつめられていく気がするのは何故?! もうこの人の私を見る目が、完全に犯罪者をみるそれなんだけど!
《そりゃ、あんな言い回ししてたら疑わしくも思うでしょ》
ですよね私もそうじゃないかと思ってた!
「おい」
「はい!」
「続きは牢の中で聞いてやる」
誰か助けて?!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リムルがヴェルドラとあってから一月そこそこ。その間、スキルの修業やらゴブリンとの遭遇やら牙狼族の群れを支配下に入れるやら、様々なことを経験してきた。
特に、考えなしに名付けを行って
そんなわけで、リムルはゴブリン達の住まいを改善させるべく修繕指示を出したのだが、できあがったのを見てみればそれは今までのと何ら変わらないボロボロの小屋だった。聞いてみれば建築の知識がないのだという。
「そういえば、今まで何度か取り引きしたことのあるものの中に、手先の器用なもの達がいました。そのもの達なら、家の作り方を存じておるやも知れません」
村長リグルドのすすめに従って、リムルはドワーフの王国ドワルゴンへと向かった。移動は牙狼族の背に乗って行ったために、僅か三日で目的地であるドワルゴンへと到着した。
「ここにドワーフが居るわけか……会うのが楽しみだな」
密かにそんなことを思いつつ、リムルは入国検査を受ける列へ並ぶべく案内のゴブタを連れて門の方へと進み出した。
不思議と引き寄せられる二人。互いに気が付かなくとも、実はすれ違うように二人の道は入り組んでいる。
二人の道が交差する時がくるのは、案外近くなのかも知れない。
あとがきに転生する?
〉Yes
No
ミク・ヒグラシ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『神話召異』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『
スキル──『武器習熟』
耐性──『精神攻撃無効』
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カイ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『黒き稲妻』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『影移動』『思念伝達』『魔力感知』
耐性──『物理攻撃耐性』『精神攻撃耐性』『状態異常耐性』『自然影響耐性』
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シフ
種族──牙狼族(???)
加護──???
称号──