転生したけど、手に入れたスキルが自由すぎて困ってます   作:低蓮

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 お待たせしました、毎度のことながら難産回となっております。
 遅くなったのは決して気分転換に読み始めた他作者様のSSが面白くて読みふけってる間に時間が経っていたとかそういうのでは決してないのですはいなんだかもう本当に申し訳ありませんでした。
 次話は近いうちに必ず……


厄介なもの

 天高く上がった炎の柱が捻れ合うと、地表に向けて一直線に振り下ろされる。

 その矛先が向かうは、年端もいかないような外見をした少女が一人。

 その少女は、己に向かって伸びてくるその炎の柱を無感動に見つめつつ、逃げようともせずにその場に立ち尽くす。

 逃げられないと諦めているのか、そもそも逃げる必要も無いと考えているのか。

 そんな少女の考えなどお構いなしに、炎の柱は無慈悲に迫る。

 やがて、それら全てが少女のそばに着弾し、周囲に爆炎が巻き起こった。

 

 

「お、おい……いくら何でも、それはやり過ぎだろ?!」

 

 

「直撃だ……生きてるかどうかも怪しいぞ!」

 

 

「お前、なんのつもりだよ!」

 

 

 そのときになって(ようや)く、我に返った人々──二人を取り囲んでいた野次馬達が、ざわめきとともに男を糾弾する。

 しかし、男はいかにも涼しげな顔で周りを見回すと、野次馬達の声を遮るように片手を上げる。

 

 

「安心しろ、お前らの目は節穴か? 流石に直撃したらまずいと思って、至近距離で炸裂するにとどめておいたさ」

 

 

 その言葉に、野次馬達はお互いの顔を見合わせると恐る恐るといった顔で男を見て、あの少女は無事なのかと訊ねた。

 

 

「さあな、生きてはいると思うが……酷いやけどでも負ってるんじゃないか?」

 

 

 未だに爆炎の名残と土煙によって視界が閉ざされたそこを見ながら、薄ら笑いを浮かべてそう宣う男。

 その言葉に野次馬とは少し離れた位置にいた、少女とともにいたコボルドがかみつく。

 

 

「なにが……ッ 自分が何をしたか分かってるですか?!」

 

 

「は? おいおい、散々煽ってきたのはそっちだろ? 寸止めしなくて良いとまで言われてたのに、わざわざ直撃させなかったことを感謝してほしかったくらいだ」

 

 

「それは、剣での話しだったはずです! 魔法なんて、そうそう対処できるはずが──」

 

 

「おい、その辺にしておけルト。それ以上言ったところで無駄なだけだ」

 

 

「なッ……何でそんなに淡泊なんです?!」

 

 

「いや、何でと言われてもな……」

 

 

「そこな豚に意見を合わせるのはしゃくだが、私も同意見だ。余り騒ぐと、主様の評判が落ちる」

 

 

「いやまて、何でお前俺にそんな当たりきついの? 心当たり無いわけじゃないが、それにしたってあんまりじゃないか?」

 

 

「黙れ豚。主様の評判を落とすつもりか?」

 

 

「ひでぇ……」

 

 

「って、何遊んでるです?! そんな場合じゃないです!」

 

 

「いや、遊んでるように見えるか? どう見たっていじめだろこれ?」

 

 

「もういいです!」

 

 

 コボルドの少女は怒ったように二人から視線を逸らすと、未だ視界が不明瞭な爆心地へと歩を進めようとする。

 しかし、一歩踏み出すか踏み出さないかというところで肩を掴まれると、ぐいと引き戻されてしまう。

 少女は、自分を引き戻した存在──シロガネに向けて、怒りを込めた視線を送った。

 

 

「邪魔しないでほしいです。私はこれから、おねーさんを助けにいくところです」

 

 

「邪魔は貴様だ、コボルド。主様の決闘に水を差す行為は認めん」

 

 

「そんなこと言って、おねーさんに何かあったらどうするです?!」

 

 

「口を慎め。我らが主様が、あの程度のことを対処できないとでも思っているのか?」

 

 

 そう言うと、シロガネは土煙へと視線を向ける。

 それにつられ、ルトもまたそちらへと視線を送った。

 もうもうと舞い上がっていた土煙は段々と薄らいでおり、随分と視界も明瞭になってきていた。

 その中にあって、未だに不透明さを持つ部分。

 人型のシルエットが浮かび上がっているのを見て、ルトは漸く悟る。

 この場において、あの人の仲間として……

 未だに理解できていなかった(・・・・・・・・・・・・・)のは、自分一人。

 共に戦い、又は対峙した彼等は知っていたのだ。

 

 

「……本当、でたらめすぎです」

 

 

 土煙が収まる。

 そこには、先と変わらない姿で男を見据える少女(あるじ)の姿があった。

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 漸く晴れた土煙にため息を吐きながら、突然の暴挙に出てきた相手の人にジト目を送る。

 模擬戦と言っているのに、突然魔法をぶっ放してくるのはいかがなものなのか。

 いや、真剣な上に寸止めなしな時点で模擬戦かどうかは怪しいけど、だからっていきなり魔法に対処しなきゃいけなくなったこっちの身にもなってほしい。

 ぱんぱんと服に付いてしまった砂埃を払うと、唖然とした表情で此方を見ているその人に肩をすくめてみせた。

 

 

「えっと、なんか格好良さそうな技を無傷で乗り切ったけど……まだやる?」

 

 

 その言葉に、漸く我に返ったのか悔しそうな表情を浮かべると、静かに首を横に振った。

 

 

「流石に、今のですら届かないんじゃ俺に勝ち目はない。大人しく引き下がるが、一つだけ教えてくれないか? どうやって今の攻撃をしのいだんだ?」

 

 

「私のスキルに、便利なのがあるから」

 

 

 それだけ言うと、ごまかすように曖昧に微笑む。

 実は私がしたことといえば、「妄想(しんゆう)」に全部対処を丸投げしてそれを眺めていたくらいだ。

 ぶっちゃけてしまうなら、私も何をしたのかよく分かってない。

 まぁ、そういうのは「妄想(しんゆう)」が勝手になんとかしてくれるから、私が理解してる必要は無いよね。

 

 

《ねぇ、自己防衛機能かなにかと勘違いしてない? そういうの諸々含めて、自分で出来るようになっておかないといざって時に困るよ?》

 

 

 う……仕方ない。今度それぞれのスキルについて、もっと深く理解するように努めよう……

 「妄想(しんゆう)」が吐いたと思しきため息を敢えて無視して、私はそう決意を固める。

 

 

「じょ、嬢ちゃん……怪我はねぇか?」

 

 

「あ、はい。特になんとも」

 

 

「凄え……本人はB級っていってるけどよ、ありゃ少なくともAはあるぜ……」

 

 

「あぁ……なんにしても、D+程度の俺達とは格が違うな……」

 

 

「全くだ。上の連中は果てしないなぁ……」

 

 

 なにやら呆れたような、感心したような、そんな微妙な視線が突き刺さってくる。

 しまった、完勝しちゃうのはまずかったのかも知れない。

 わざと苦戦した体を示しつつ、ぎりぎりのところで勝っておけば変に注目されなかったかも知れないのに……

 

 

《ここに来た時点で注目はされてたから、それは無いと思うけどね》

 

 

 それもそっか……

 

 

「おねーさん、お疲れ様です」

 

 

「流石主様です。奴自慢の技を無傷で凌いでみせるとは、見ていてスッキリしました」

 

 

 周りで大人しく見守ってくれていたらしいルト達が、そんなことを言いながら私をねぎらってくれる。

 実は私は何にもしてないんですなんてことを言えるはずもなく、ルト達にも曖昧に微笑んでおく。

 

 

「そういえば、食べに行くとかなんとか言ってた気がするけど、今から行く?」

 

 

「主様がかまわないのでしたら、是非」

 

 

「いや、そんなこと言っておきながら、さっき即決で行こうとしてたよね……」

 

 

 呆れたようにそう聞くと、あからさまに目を逸らそうとするシロガネ。

 ごまかしにくる辺り、さっきのことはなかったことになっているらしい。

 でもまぁ、ごはんを食べることに反対する理由はない。

 ここは、お言葉に甘えさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後食べたご飯は、肉と野菜が豪勢に盛られてる野性的なものだった。

 味付けも所々偏りがあったけど、素材そのものが良いのか全く気にならないで食べられた。

 肉は、森に生息してる透明山羊(インビジブルゴート)から獲っているらしい。

 名前通りの透明なわけじゃなくて、警戒心が強すぎて滅多に人前に姿を現さない上に、逃げ足がとんでもなく速くて捕獲するのが途轍もなく難しいかららしい。

 捕獲ランクだけでいえばBにも迫るとか。

 

 

「逃げるのに特化してる動物っていうのも、珍しいよね」

 

 

《なにか一芸に特化してたほうが、生き残りやすいんじゃない? 人間だって、所詮知恵に特化した動物な訳だし》

 

 

「それもそうだね……」

 

 

 「妄想(しんゆう)」の割ときわどい言葉に苦笑して、私は何の気なしに空を見上げる。

 澄んだ空に光るは、どれだけ離れた場所にあるか分からない星々のきらめき。

 決して手が届かないのに、その煌びやかな姿を私たち下々にまざまざと見せつけてくる。

 そんな星々を眺めているうち、ふとこの世界に来る前のことを思い出す。

 掃除の手が行き届いていない壁を見つめながら、ただ暗々と日々を無駄に過ごしていただけの人生。

 人生でたった一人の理解者であった婆が居なくなってからは、私は一層に自分の殻に閉じこもり外と己を遮断した。

 だから、こんな風に星空を眺めたことなんて無かったし、私のことを慕ってくれる仲間と旅ができるだなんて考えもしなかった。

 私の知らない世界、もの、そんな一杯を教えてくれる皆には、感謝しても仕切れないね。

 

 

「──なんて、一人で考えててもしょうが無いか。そろそろ私も休もっかな」

 

 

 何となく柄じゃないことを考えてしまった気がして、苦笑交じりに声に出してそう宣言する。

 うん、夜更かしは身体に毒だからね。この身体にそれが適用されるかどうかは置いておいても。

 さて、と宿の屋根から飛び降りようと視線を下げたら、空だけでなく地上にも光るものがあるのを発見した。

 人の携帯できる光源の光り方ではなく、しかし森林火災などではないもの。

 ぼやーっと光っているそれは、ふっと瞬いたかと思うと直ぐにかき消えてしまった。

 

 

「なんだろ……変な光。「妄想(しんゆう)」あれなんだとおもう?」

 

 

《うーん、あれは……なんの光かは分からなかったけど、あの方向からおっきな魔力反応がしたね》

 

 

「ふーん? 魔力反応ってことは、何かしらの魔法を行使してたってことだよね……ちょっと、見に行ってみよっか」

 

 

 腰掛けていた宿の屋根からひょいと飛び降りて、私はもう一度光が見えた方角に視線を向ける。

 もう一度光ってくれないかななんて思って暫く見てたけど、さっきの一回だけで用事は済んでしまったのか光を見ることはなかった。

 まぁ、大体の場所はつかめたから別に良いんだけどさ。

 

 

「それじゃ、深夜の探索といってみよっか。こういうの初めてだから、何だかわくわくするよ」

 

 

《ろくなことにならないと思うけどなぁ……》

 

 

「それもまた経験ってことで。さぁ、しゅぱーつ!」

 

 

 その場ののりで、何となくかけ声をして森へと足を踏み入れる。

 かけ声に「妄想(しんゆう)」が反応してくれなかったのが少しだけ残念だと思ったのは内緒だ。

 さてと、いったい何が見つかるかな……

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 深夜の森に、低い地響きが響く。

 その音自体はけして大きいものではないが、寝静まっていた森の動物たちを起こすには十分なものだ。

 ある者は音が聞こえるやがばっと身を起こし、一目散に音から逃げていく。またある者は、自らの縄張りに不快な音とともに侵入してくるものに敵意をむき出しにして威嚇する。

 気怠げながらも身を起こし、こんな時間にはた迷惑な音をまき散らす不届き者に殺意すら混じった不愉快げな唸り声をあげるこの一角熊(ホーンベア)もまた、睡眠という至福の一時を邪魔された被害者だ。

 この辺り一帯を縄張りとしている彼は、多少の幸運こそ混じっているものの生まれ持った強靱な肉体と自慢のドリルのような角で、本来一角熊(ホーンベア)が区分される推奨狩猟ランクより一ランク高く設定されている。

 事実、彼を倒そうと襲ってくる冒険者はそれなりの数いたのだが、その悉くが返り討ちに遭ってしまっている。

 幸いにも死者こそ出ていないものの、一角熊(ホーンベア)らしからぬ強さに固有名持ち(ネームド)ではないかと噂されるほどだ。

 無論彼は固有名持ち(ネームド)などではなく、純粋に強いだけなのだが。

 それはともかくとして、今彼の縄張りに侵入してきている存在に対して、彼は今までに無いほど殺気を迸らせている。

 その原因は、地響きが大きくなるにつれて聞こえてくるようになってきた、やけに甲高い耳障りな音だ。

 のっしのっしと苛立たしげに地面を踏みならしながら、彼はその何処かで聞いたことがあるような不快な音をはて、何処で聞いたのだろうかと首をかしげる。

 その疑問は、とうとう間近に迫ってその甲高いだけだった音が意味を成すようにはっきりと聞こえるまでになったとき、漸く氷解した。

 あれは、生意気な二足歩行をする連中を少し撫でてやったときに出る音とよく似ている。

 つまり、これから来るのはニンゲンであり、そいつらはなにかに追われているということ。

 俺の縄張りに面倒ごとを持ち込みやがって、と鼻息も荒く憤慨した彼は、追い掛けているであろうもの共々串刺しにしてやろうと息巻いた。

 そして、遂にニンゲンがその姿を現す。

 甲高い音をまき散らしながらなにかから逃げるがの如く必死の形相で走っているのは、メスが一匹とオスが二匹の計三匹。

 豊富な経験と天性の勘から、彼はその三人組がそれなりの実力者だということを看破する。

 彼をして、下手をすれば手傷を負わせられかねない手練。この観察眼があったからこそ、彼はこの辺りを縄張りにできたといっても過言ではない。

 そんな手練が脇目も振らず逃げるとはどういう相手なのかと、彼は手を出すことを一旦諦めて見に徹する。

 

 

「ぬああぁぁぁ! っぶねぇ、マジ危ねぇ! 旦那に貰った装備無かったらぽっくり逝ってたかも!」

 

 

「縁起でも無いといいたいとこでやすが、あながちで間違いでもないでやんす!」

 

 

「ちょっとぉ! 魔法が効かないのは反則じゃない?!

カバル、ちょっと試しに殴ってきなさいよぉ!」

 

 

「馬鹿いうなよ?! さっきはなんとかなったが、あんな目は二度とごめんだぜ! つか、それなら宝箱の代わりにあんなもの引き当てたギドが行くべきだろうがぁ!」

 

 

「嫌でやんす! それに元はといえば、エレンの姉さんが何かありそうだって言うから!」

 

 

「悪かったわよぅ! もう、こんなのばっかり!」

 

 

 彼には人語を理解するほどの能力は無かったが、それでも相当に焦っているということは理解できた。

 ただ一つ、分からないのが何に追われて逃げ惑っているかということ。後ろを見ても、特になにかが追い掛けてきているというわけでもない。するのは精々地響き程度。

 姿が見えない類いの相手か、と彼が首を捻った直後、それを否定するかのように追跡者が姿を現す。

 ぼこり、という音とともに土の中から(・・・・・)姿を現したのは、三メートルは有ろうかという巨大な身体と一対の鋭い角を持つ、恐ろしいほどの妖力(プレッシャー)を放った土竜だった。

 その姿を見た瞬間、彼はきびすを返してねぐらへと戻っていった。その只ならぬ雰囲気に、経験と本能が全力で警笛を鳴らし始めたのだ。

 引くべきところは引く。この感情に流されない冷静な部分がなければ、彼は何度その命を落としたか分からない。

 やれやれとねぐらに帰った彼は、未だ響く地響きと甲高い音を無視して眠りにつこうと奮戦しはじめた。

 このたまりに溜まったストレスは、明日の狩りの獲物に晴らしてやろうと心に決めながら。

 

 

──魔物の彼が知るよしもないことだが、彼が見た土竜は人族達に固有勢力圏持ち(テリトリー)と位置付けられるほどの魔物で、相当の手練が複数いて漸く討伐できるか否かとされる強力な個体だった。

 本来ならば自身の勢力圏(テリトリー)からは殆ど出ないのだが、久々にキレちまったよといわんばかりの執念深さで三馬鹿を追い掛けて外に出張っているのだ。

 それを承知で手を出したのかどうかは定かではないが、今はとにかく必死の逃走劇を繰り広げているのであった。

 というか、死ぬ気で走らないと追いつかれたら本当に死が待っていそうなので、冗談を言っている場合ではないのだが。

 

 

「さ、さっき見えた光はこの辺りだったはずだ! こんな夜中に出歩いてる奴なんざ、相当の手練に決まってる! なんとしてでも協力させて、この窮地を乗り切るんだ!」

 

 

「合点承知でやす! 姉さんも、探知魔法でも何でも掛けて探すでやんす!」

 

 

「も、もうやってるわよぅ! これ、走りながらやるの大変なんだからね?!」

 

 

 逃げる三馬鹿は、皆一様に涙目になりながら必死に協力者(イケニエ)を求めて走り回る。

 その後ろを土竜が追いかけるという、見る分にはなんとも滑稽な光景だった。

 その土竜というのが三メートルを超えるほどのもので、触れたら即死亡な攻撃さえ放ってこなければではあるが。

 見えた光を放った主が自分たちを助けてくれると信じてひたすらに走り回るが、中々それらしい人物をみつけることはできない。

 カバルはすがるような視線をエレンに向けるが、その視線に気が付いたエレンは首を振るのみ。

 それはつまり、近くに人は居ないということであって。ひいては、自分たちの置かれている状況は全くもって改善していないということだ。

 このままだとジリ貧だ、とカバルは歯がみする。

 前回はシズやリムルのお陰で事なきを得たが、今回手を貸してくれそうな相手はここにはいない。

 装備こそ最高品質の物を受け取り、一度は命すら守ってもらったといえど、それだけでは立ち向かえるものでもない。

 長く旅をしているとはいえ、生粋の前衛職のカバルや罠などの探索によって意外と身体を動かしているギドに比べ、魔法職のエレンは体力も少ない。

 今も、魔法を使いながらも足下をとられないように走るという恐ろしく集中力を使うことをしており、いつ限界が来てもおかしくない。

 どうにかならないか、とカバルが再度歯がみしようとしたとき、ずっと難しい顔をしていたエレンがぱっと顔を輝かせて声を上げた。

 

 

「み、みつけた! すぐ左の方に反応が!」

 

 

「おっしゃあ! 悪いが巻き込ませてもらうぞ!」

 

 

 それを聞くやいなや一気に舵を左に切る一行。

 必死すぎた彼等は気がつかない。それなりの範囲をカバーできるはずのエレンの探知魔法が、何故至近に近づくまで反応しなかったのかを。

 がさがさと茂みをかき分け、エレンが捉えたという反応の方へと突き進む。

 欲を言えばAランク並みの近接戦闘職が居てくれれば話は楽なのだが、この際戦力になってくれるなら贅沢は言っていられない。

 そんな考えを抱きながらちょっとした広場のようなところへと出てきた三人は、反応の主を見て一瞬固まる。

 それも無理からぬことだろう。目の前にいたのはどんな予想とも違った見た目年齢一桁台の幼子だったのだから。

 三者共に何故? と内心混乱していたが、ふと自分たちが何に追われているのか思い出し、このままではこの子が危ないと直ぐさま離脱する決断を下す。

 

 

「ギド!」

 

 

「了解でやす!」

 

 

 キョトンと惚けたような顔をしている少女の両側にギドとカバルが回り込むと、双方からしっかりと抱え上げて一気にかけ出す。

 

 

「え、え? なに、なにごと?!」

 

 

 困惑したような声が上がるも、今はかまっていられないとガン無視を決め込んだ二人は、若干スピードを落としながらも流石の連携でエレンの後ろにつけながら必死の形相で走る。

 幸いにも抱え上げている子が暴れずに大人しくしているために、僅かな走りづらさはあるものの気になるほどではない。

 それよりも──

 

 

「──ッ!」

 

 

 ゴバッと土が盛り上がる音とともに、土の中からその巨体が顔を出す。

 その衝撃で周辺の大地が揺れに揺れ、カバルとギドは運悪くそれに足をとられて蹌踉(よろ)めく。

 転倒には至らなかったものの、走るスピードを落としてしまった彼らを追跡者が狙わないはずがない。

 大きく振り上げられた前脚に反応したのは、長く前衛職をつとめて戦闘では司令塔としての役割も兼ねているカバル。

 咄嗟に抱えていた腕を放すと、支えを失って無残にも地面に顔面から落ちむぎゅっと潰れた蛙のような声を上げた少女を無視し、背の大剣を抜き放つ。

 

 

「ぜ、ああぁぁぁあ!」

 

 

 裂帛とともに振り下ろした大剣は、今まさに三人を切り裂こうと迫ってきていた爪とせめぎあい、押し返す。

 その代償としてカバルもそれなりに後退させられたのだが、むしろ距離をとれて幸いだったと考えるべきだろうか。

 なにせ、目の前の巨大土竜は防がれたことが気にくわなかったのかその目に怒りの色を湛えながら此方をにらんでいるのだから。

 怒らせちまったか、と内心冷や汗もののカバルだったが、そんなことはおくびにも出さずに他二人へと指示を出す。

 

 

「ギド! お前はその女の子連れてさっさと離脱しろ! エレンは魔法で援護を……って、おい?!」

 

 

 指示を出している途中で、カバルが信じられないものを見たかのような顔で声を上げる。

 いつの間にか隣まで来ていた少女が、何を思ったかすたすたと巨大土竜の前まで歩いていくのが見えたからだ。

 当然、土竜は射程内に無防備に飛び込んできた獲物を逃がしたりするほど甘くはなかった。

 無慈悲にも振り上げられた前脚をみて、カバルは咄嗟に前へと駆け出す。

 先に動いたエレンがその前足へと魔法を放つも、抵抗(レジスト)されているのかその勢いには一切の衰えが見られない。

 当の少女はといえば、迫り来る前足を只じっと見据えているだけ。

 いったい何がしたいのか。それは分からないが、目の前でこんなに小さい子が魔物に殺されるところなど見たくもない。

 この装備なら、さっき同様死ぬことはないはずだ……あんなの二度とごめんだと思ったが、仕方がねぇ! そう考え、カバルは躊躇無くその攻撃の前に身をさらした。

 大剣は面積が広い分攻撃にも防御にも使えるが、その反面咄嗟の出来事や精密を要することに関しては苦手としてしまう。

 つまり、この局面においてカバルの身を守るのはリムル達から受け取った装備のみ。

 流石に痛いだろうな、と攻撃が当たる瞬間に身をこわばらせ、目をつむってしまう。

 緊張からか、やけに攻撃を食らうまでの時間を長く感じ、そしていくら何でも長すぎないかと首を捻る。

 

 

「えっと……あの、大丈夫?」

 

 

「……は? って、うおわ?!」

 

 

 突然聞こえてきた声に、カバルは反射的に目を開ける。

 その視界に飛び込んできたのは、ぎらりと鈍く光る鋭利な爪の切っ先。

 驚いて思わず後退ったところで、土竜のからだの全体が見えるようになった。

 その自慢の爪をカバル達に突き立てる寸前で動きを完全に止めてしまっている土竜は、しかし変わらず目の前の自分たちを睨み付けている。

 だが、その瞳に浮かぶ僅かな濁りにカバルは気がついた。

 その視線はカバルなど捉えておらず、只一心にカバルの後方へと注視している。

 まるでその存在の一挙手一投足までをも見逃すまいとするかのような視線。それに晒されているのは、当然直前までカバルの後ろにいた存在。

 つまり──これではまるで──

 

 

「──警戒……いや、恐れ? この子を……?」

 

 

 あたかも化け物でも見たかのような瞳で少女を見下ろしているのは。

 何故なのだろう?

 

 

 

 

 

あとがきに転生する?

〉Yes

 No




ゴ「なんかもう、知ってたって感じの展開っすね。モブが主人公に勝てるわけ無いんだなって」

ガ「うむ。せめてもう少し設定が濃ければ善戦できたであろうが、明らかに噛ませの立ち位置だったのである」

ゴ「モブの宿命って奴っすね。自分たちはモブじゃなくてほんとに良かったっす」

作者「え?」

ゴ・ガ「「え?」」

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