転生したけど、手に入れたスキルが自由すぎて困ってます 作:低蓮
色々なものに手を伸ばす癖に、更新速度が遅くて申し訳ありません。きちんと完結までは持って行くので平にご容赦を……
さて、この「転生したらスライムだった件」。漫画から入ったのですが、主人公のノリやツッコミ。主人公の取り巻きたちの個性の豊かさにすぐに虜にされてしまいました。直ぐに単行本を買いあさり、一昼夜掛けて最新刊まで読破してほっと一息。世界観に引き込まれて、時間の経過も忘れてしまっていました。そしてふと思ったのです。この作品をお手本とすれば、さらによい作品が作れるのではないかと……!
というわけで(どういうわけだ)、原作の素晴らしさの億分の一でも知っていただこうと、駄筆ではあるものの筆を取った次第です。とは言ったものの、ちゃんと原作キャラと絡めるかな……
不安ではありますが、がんばって参りたいと思います。では、本編へどうぞ!
9/2 一部を大幅に変更、なんだか別のお話みたいになっています
異世界転生
世界とは残酷である。
等しくすべてが不平等であり、理不尽にまみれ、死という恐怖が跋扈している。
それに打ち勝つことが出来るものなど僅かもおらず、故に人は僅かでも自分に有利に事を運ぼうと争う。
時とは無慈悲である。
冷酷に無遠慮に、全てのものを「過去」という次元の彼方に流し去る。
時に抗い得る者もまた幾程も居らず、人はやがて過去を忘れていく。
しかして、それ故に人の生は面白い。
理不尽が無ければ奇跡など起きず、死という恐怖があって初めて生という喜びを得られる。
傷付こうともそれはやがて癒え、人はまた前を向くことが出来るだろう。
生きることを諦めるなかれ。
人の生を謳歌せよ。
諦めなければ、意志を持って対峙すれば。
自ずと、道は開かれるのだから──
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とある病院の一室にて、表情の抜け落ちた硬い顔をした少女がベッドに横たわっていた。
歳は十五を数える程度か、その顔には未だ少しばかりの幼さが残っている。
周囲には誰も居らず、少し開いた窓から吹き込む風が、只いたずらにナースコールを揺らしていた。
少女──
彼女の母親は病弱であった。それこそ、子を産めば命が危ないと言われるほどに。
しかし、子供を生むのは夢だったのだと譲らず、遂に身ごもるまでに至った。
出産の日、それに立ち会ったのは病院側の人間だけだった。
父親は彼女が身籠ったと知った途端蒸発し、最後まで反発していた親戚達は立会を拒んだ。
念願の子を成した彼女は、しかしそこで力尽き果てたのか我が子を見ることなく息を引き取ってしまう。
更に、母体の健康状態が悪かったせいか、生まれてきた子供はいくつかの障害を抱えていた。
一つは、隻脚。生まれつき片足が欠損しており、車いすや義足などを用いないかぎり移動すら困難になるものだ。
そして、もう一つが重度の免疫不全症。あらゆる病に対する抵抗力が損なわれ、いつ死んでもおかしくない状態にまで悪化すると手がつけられなくなる。
そのため迅速な手術が求められるのだが、生まれたばかりの子に手術に耐えられるだけの体力があるのかどうか、そこが問題だった。
幸いにもドナーと腕の立つ医師に恵まれ、更には手術も奇跡的に耐えぬいた子は一命を取り留めることに成功した。
だが、母親方の親戚たちは子を引き取ることを拒否し、当然父親の行先など知る由もない病院側は、仕方なくその子を孤児院へと預けた。
幾年もが過ぎ、少女は孤児院で10の誕生日を迎えた。その頃には身体も成長し、車いすを使えばある程度なら地力で移動することも可能としていた。
少女が預けられた孤児院は、所属する子供の誕生日には盛大に祝うのが習わしだった。けれどもその日、孤児院からは楽しげな声一つ漏れてこない。
なぜなら、少女はこの孤児院において「いないもの」として扱われていたからだ。
元々、少女を引き取った際の孤児院の院長は人の良さそうな老婆だった。
幼いころに受けた手術の反動からか、感情を表面に出せないでいる少女の、たった一人の良き理解者でもあった。
「未空ちゃん、貴女は無愛想なんかじゃないわ。あなたの心の中は、何よりもその瞳が雄弁に語っているもの……」
そう朗らかに笑って少女の頭を撫でた老婆。
そして、毎回のようにとある言葉を繰り返した。
――世界とは残酷である
――時とは無慈悲である
――しかして、それ故に
「人の生は、面白いんだよ」
それは、どこかの小説から引っ張ってきたものか、あるいは少女を元気づけるために老婆が考えたものか。
どちらにせよ、その言葉は少女のココロを数年来支えてきた。
老婆が寿命により孤児院を去った後、新たに院長となったものはお世辞にも子供が好きだとは言いがたかった。
傍見無愛想である少女のことを可愛げのない奴だと決めつけ、孤児院での少女に対する嫌がらせは更におおっぴらとなった。
そして、少女の容体が悪化したと見るや、これ幸いと病院へと押し込んだのだった。
──これで、終わりかな……
無愛想に見えて、その実人一倍感情が豊富だった彼女は、自分の死期を正確に悟った。
もう、長くはない。今にも、ドアを開けて死神が顔を出しそうな予感。
──嫌なこともあったけど……でも、それだけじゃなかった。生まれてきてよかったって、思えることもちゃんとあったよ……
苦しみを受け入れ、その上で乗り越える。誰に倣うでもなく、少女自身が成し遂げた偉業。不安に潰されず、恐怖に屈せず、15年の長きに渡り保たれ続けたその声は、意志は――
──死ぬのは怖くない……だけど、只の一人も友達が出来なかったのは、ちょっと寂しいかな……
『──確認しました。エクストラスキル「
届くはずのない場所へと、少女を誘った。
──来世って有るのかな……? あるんだったら、少しくらい私の思い通りにことが運ぶように祈っても、罰は当たらないよね……
『確認しました。ユニークスキル「
──いっそ、世界の神様に……なんて、ね
『確認しました。ユニークスキル「
──……えっと、なんか変な声が聞こえるような。そ、創造神? また大層な名前だね……うん、まぁどうせ私の悲しい妄想なんだろうけど。っていうか、死ぬ間際に何やってるんだろ私……
『確認しました。エクストラスキル「
──いやいやいや?! それ退化! 退化って言うか悪化だから! 進化してないから!
思わずツッコミを入れた少女は、次の瞬間には自嘲気味に笑った。
――はぁ、これから死ぬって言うのに、私も強かだなぁ……あはは、全く……
薄れていく意識、闇に埋もれていく自我。それをはっきりと感じ取りながらも、少女は最後の最後まで笑っていた。
――死ぬのって、思ってたよりも……怖く、な……――
死ぬ間際の不思議な体験。それは少女の妄想か否か。何れにせよ、これから起こる現象の前兆であったことは疑いようもないことだった。
『確認しました。ユニークスキル「
──まだ言うか
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暗い、ひたすら暗い闇の中。ある意味何もない空間において、私の意識は覚醒した。
って……? 私、死んだん……だよ、ね? えっと、そしたら此処は死後の世界……?
当然、答えなんて期待してないし、返ってくるとも思ってなかった只の胸の内のつぶやき。けど──
《うーん、まぁ一回死んでるし、死後の世界って認識でも間違いないかな?》
──ふぁ?!
返事、返ってきました。
《──と言うわけで、紆余曲折の末に君は異世界に転生したってわけだよ》
紆余曲折って?
《紆余曲折は紆余曲折だよ。あんまり細かいこと気にしてたら、肥るよ?》
え、肥るの?!
現在、私は現状についての説明を受けている。
どうも私は、所謂異世界転生なるものをしたらしく、一度元居た世界で死んだ後に、この世界に移ってきたらしい。
で、今私に説明をしてくれているのが、死ぬ間際に聞こえた声が何たらスキルとして説明してくれた「
なんだか、擬似人格がどうのこうのと難しそうな話を長々と始めそうだったので、あわてて遮ったのは秘密だ。
兎に角、自分の現状はだいたい解ってきた。で、そろそろ話を進めよう。
結局この暗い場所は何処なの? 異世界って、まさか闇に閉ざされた世界とか?
《うん? 真っ暗?》
うん、真っ暗。
《うーん? ええ、とぉ……》
……?
《……》
『エクストラスキル「魔力感知」を獲得しました』
突如死ぬ間際に聞いた無機質な声が頭のなかに響くと同時、闇に閉ざされていた周囲に光が宿る。周囲は岩に囲まれてるから、洞窟かどこかなのだろう。
いや、そんな事よりも……
えっと、これは一体どういう……?
《あー、うんと。どうやら身体にまだ馴染めてないみたいだったから、スキルを使って少し補助してるんだ》
ふーん……? 分かったような、わからないような……
それに、魔力感知って何?
《元いた世界には魔力がなかったんだっけ。まぁ、端的に言えばこの世界に充満する――》
え、この世界って魔力があるの?! ……って言うことは、魔法とかも……?
《あぁ、うん。あるよ。》
周囲を見渡していたら、ふと違和感を抱いて小首を傾る。
なんだろう、と考えていたら、自分の視線が妙に低くいことに気が付いた。
ねぇ、視線の位置が低い気がするんだけど、もしかして……
《君は「転生」してるからね。当然、体も新しいものになってるよ? なんと、ぴっちぴちの十代前半! ……を通りこして、一桁台!》
おおぅ、若返ってる……まぁ、五体満足な時点で私の体じゃないことは確信していたし、なんかもう納得いっちゃうなぁ。
それに、これで自由に動きまわったりいろんなことが出来ると思うと、今からワクワクがとまらないし。
「
前世ではまともに歩いたことすらなかったから直立するって感覚に少し戸惑ったけど、慣れてしまえば元からこの体で過ごしてきたみたいに馴染んでいる。
一歩一歩感覚を楽しむように足を踏み出してみれば、足の裏から心地の良い振動が返ってきて気分が高揚する。試しに足を動かすスピードを速くしてみれば、何の違和感もなく身体は思い通りに動き、その動きを加速させる。
うん、これあれだね。すっごい楽しい!
ただ単に体を動かすだけでもこんなに楽しいんだから、前世でやれなかったことを片っ端から試してみたいな!
《あ、ちょっとそっちは……》
とりあえず気の済むまで走ろう! そう思い立って、スピードを緩めずに走り続けてたんだけど……私は忘れていた。ここが「異世界」だってことを。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ろくに確認もせずに曲がった曲がり角。前世だったら人にぶつかってたかもしれないんだけど、この世界ではもっと恐ろしいものにぶつかるみたいです。
「シャーッ!」
《おー、ありゃ毒霧だね。当たったら溶けるよ》
「呑気なこと言ってないで逃走補助! 逃走補助して!」
勘で右に避けた瞬間、今まで私がたっていた地面が溶けた。
それをみて、呑気なこと抜かしている「
「
折角色々やってみたいことが出来たというのに、こんな所で溶かされてたまるもんですか。
「「
《右でいいんじゃない?》
んな適当な。だけど文句を言う暇も考える暇もないので、言われたとおり右に曲がる。もうかれこれ十分は全力で逃げてるというのに、追っかけてくる
《
──
ちょっと、あれどうにかならない?! このままじゃいづれ体力つきちゃうよ!
《いや、それはないと……というか、戦えばいいんじゃない?》
いやいや、無手の私に何を言うかな! それに、戦うって言ったってそもそもどうやって……
《無いなら造ればいいんだよ。ほら、君にはユニークスキルがあるじゃないか》
ユニーク……? って、あの
ごめん、使い方全然わかんない。
《仕方がないなぁ……なんか好きな形状の武器を思い浮かべれば、PON☆て出てくるよ、多分》
ちょ、多分なの?!
そこは言い切って欲しかったんだけど……でも、そこにつっこんでいる余裕はない。
「
ええとええと、あの蛇を殺せる武器……って、あれもう蛇っていうかドラゴンだよね?
うわぁ、一気に倒せる自信がなくなった!
などと思いつつも、しっかりと武器のイメージは固めておく。
思い浮かべるのはドラゴンを殺したという因果を持った武器。
流石に言い伝え通りの強さなど望むべくもないだろうから、何処まで意味があるかは解らないけどね。まぁ、ゲン担ぎゲン担ぎ!
よし、竜殺しの武器っていったらこれしか思い浮かばなかった!
「──
私の手に光が集まり、光度を増していく。
眩いばかりの光が散って、姿を現したのは一振りの直剣。嘗て聖ジョージが使用したとされる、竜殺しで有名なものだ。その伝説上の武器が、今私の手の内に収まっている。
……細身の刀身をみる限りだととてもドラゴンを殺せるようには見えないんだけど、大丈夫かなこれ?
《まぁ……うん、大丈夫だと思うよ?》
「
足を止めて向き直ると、こちらに向けて真っ直ぐ突進してくる
正直その体躯と射抜いてくる眼をみると体がすくみそうになるけど、どうにかそれを押さえ込んで対峙する。よし、この剣でもって攻撃すれば……すれ、ば……
「あれ? 私剣なんて振ったことないんだけど?」
《え? あー、そういえば……》
直前になって重要なことに気が付きました。
どうやって攻撃すればいいか解りません。なにこれ終わった。
もう目前にまで迫ってきている
《仕方がないにゃあ。代わりにやってあげるから、ちょっとお寝んねしましょうねー》
へ? え、ちょ……
なんかとんでもないこと言われたような気がする。
慌ててどういう意味かを聞こうとした瞬間、私の周囲が闇に覆われ、意識にまで黒い靄がかかる。
そして、何がなんだか解らないままに、私の意識は闇へと落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ズバンッと言う音とともに
ずり落ちる身体はピクリとも動かない。
それも当然だろう。その巨躯には大きな風穴がぽっかりと空いており、一目でそれが致命傷だというのが解った。
カツン、という足音が響く。その音の主は、今し方
金色の髪を流すその幼さを残す少女は、ちらりと
『いやいや、オーバーキルにも程があるよ。武器だけでも少なく見積もって
まさかそんなものが出てくるとは思っておらず、「
今その少女の意識は、眠りに落ちてしまっているが。
それに、と「
「神話召異」。神話の武器、防具や神、人。果てはその1シーンすらも再現できるというぶっ壊れ性能。
といっても、明確に思い描かなければそのままの力を再現できないために、劣化版だと思い込んでいる少女には使いこなすことはできないだろうけど。
まぁ、別に知らせなくても良いか、と「
なんともスキルの癖に自由な奴なのだがそのスキルの保有者の意識は現在闇の中のため、問題はない。
『……で、これどうしよう』
問題はそう、目の前の死体と鉄の扉だ。
いや、死体だけなら魔素に分解すればいい話だから問題はない。そもそも洞窟に魔物の死体が転がっていようと気にするものなどいない。
だが、その死体にぶつかられ歪んでしまった鉄の扉が問題なのだ。
「
『流石に、直さないとまずいかなぁ……』
封印に直接影響したりはしないだろうけど、流石にこのままにしておくのは忍びない。
そう考え、鉄の扉に手をかざす。それだけ、たったそれだけの動作で歪んだ鉄の扉は元の姿を取り戻した。……いや、それでは語弊がある。
正確には、おどろおどろしい感じに
後に残されたのは、不気味に改造された封印の扉()のみであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いつもと変わらない日。朝を迎えたものは今日もそうだと信じて疑わなかった。
いつものように家事をし、いつものように仕事場に出かけ、またいつものように魔物を討伐する。
そんな
しかし、一部のものはその異変に気が付いていた。巨大な抑止力の消失。
それに伴う魔物の活発化。非日常の足音が遠くから近付いているのを感じ取れたものは、今はまだごく少数。
しかし、時がたちその足音を感じ取るものが増えるにつれて、その影響は小波のように広がっていく。
その元凶、リムル・テンペストと呼ばれる後の魔王となる、スライムに転生した異世界人は未だその事を知らない。
そしてもう一人。
後に
あとがきに転生する?
〉Yes
No
ミク・ヒグラシ
種族──
加護──???
称号──
魔法──『神話召異』
ユニークスキル──『
エクストラスキル──『
耐性──『精神攻撃無効』