あと、借金額を1億に訂正しました。
理由としては、8巻でダフネがミアハファミリアに入った理由を語る際に、「2億ヴァリスなんて馬鹿げた額を聞いたら、もうどんな借金も可愛く見えるわよ」と言っているのを思い出したからです。
つまり
「ん…この声は…」
素材採取の帰り道、ダンジョン13階層を歩いていると、遠くでモンスターの雄叫びと、複数の冒険者と思われる悲鳴が聴こえてきた。
通常、ダンジョン内では他のパーティーには不干渉が基本ルールではあるのだが、ピンチに陥っている人を見捨てるのは夢見が悪い。
そもそも、私は死にかけたところを通りすがりの冒険者に救われたのだ。
情けは人のためならず、様子を見て危なそうだったら助けに入ろう…
そう決めた私は、声の聞こえたほうへ向かって走りだした。
悲鳴が聞こえた場所は、少し大きめのルームとなっている場所だった。
恐らく
5人組のパーティーが大量のモンスターに囲まれ、必死に応戦しているところだった。
しかもそのうちの1名はダメージを負ったのか、ぐったりとして仲間に背負われている状態だ。
即座に危険と判断した私は、弓の速射で上空にいたバットバットを射抜き、短剣を抜いて走りだす。
ルームの通路付近にいたアルミラージやヘルハウンドを即座に切り捨て、彼らの逃げ道を作り出す。
「こっちへ逃げなさい…はやく」
こんな場面なのに、我ながら危機感のない声音だな、と思う。
しかし彼らの耳には届いたらしく、全速力でこちらへと駈け出した。
彼らが私の横を通り過ぎたあと、追ってくる数匹のバットバットなどを切り捨て、彼らの後を追う。
助けたパーティーが通路へと逃げこみ、もう安心かと思った瞬間、視界の端に、口内に火炎を貯めこむ数匹のヘルハウンドを発見した。
マズイ…
弓で射抜く時間はないと判断した私は、全力でヘルハウンドとパーティーの間に割り込み、地面へ手をついた、ヘルハウンドのファイアブレスが放たれる直前、私の《スキル》を発動させる。
「《
途端、私が手をついていた地面が急激に隆起し、一枚の大きな壁となる。
通路を塞ぐほどの大きさはないが、人を数名隠せるほどの大きさの岩壁が、ヘルハウンドのブレスをシャットアウトする。
これが私がランクアップした際に発現したスキル《
マインドを消費して物体の形状を変更したり、道具を作成したりできる。
とはいえ、それほど便利なスキルではない。
岩から武器を作ろうとすると、大量のマインドを注ぎ込んで、見た目だけはそれなりな剣を作り出すことはできるが、切れ味はそこらのナマクラ程度にしかならず、しかもすぐ壊れてしまう、まるで費用対効果が吊り合わないのだ。
逆に、今の岩壁のような、シンプルな形状であれば少量のマインドで結構なサイズと量を一度に作り出せる。
結局のところ、使い道としては、先ほどのように壁を創りだして防壁にするか、地面から錐のように鋭くした岩を突き出して、モンスターを串刺しにするか、といったシンプルなことにしか使えない。
他になにかいい使い道はないものか、と考えているのだが、思い浮かばないのが現状だ。
ファイアブレスを防ぎ、全員が無事に通路まで退避できたことを確認し、振り返る。
当然、私達を追って、大量のモンスターが通路へと雪崩れ込んできていた。
だが、大して広くもないこの通路であれば、まさに私の魔法は最大の効果を発揮する。
「穿て、七色の矢…レイ・ボウ」
まずは1発、範囲の広い炎の矢でアルミラージやバットバット等の大半を薙ぎ払った。
炎への耐性が高いヘルハウンドが、体の炎を纏ったまま突き進む。
だがそれは予想通り、私はすでに持ち替えていた短剣で、ヘルハウンドを切り捨てる。
数分と経たずして、モンスターの大群は全滅した。
「あ、あの…ありがとうございました!」
モンスターを殲滅し、短剣を鞘にしまったところで、先程助けたパーティーのリーダー格と思われるヒューマンの青年がこちらにやってきた。
そして深々と頭を下げ、お礼を言ってくる。
「いいよ、困ったときはお互い様…それより、あの気を失ってる子は大丈夫?」
サポーターと思われる女性に背負われたまま、気を失っている女性が気にかかる。
もし危ないようなら、手持ちのポーションを分けてあげるつもりだ。
「彼女はちょっと、さっきの戦闘でマインドダウンをしてしまって…肉体的なダメージは大してないはずなので、大丈夫です」
「そっか…」
それならば安心だ、マインドダウンであればしばらく休めば回復するだろう。
「貴方達は、これからどうするの?」
「一度地上へ戻ろうと思います、彼女も休ませないといけないし、補給もしたいですから」
「そっか、私も帰る途中なんだけど…一緒にいこうか?」
見たところリーダーの男性がLv2で、他は全員Lv1。
ちょっと冒険して13階層に挑戦してみたといったところだろうか。
12階層まで戻れればもう安心だろうが、仲間が1人戦闘不能の状態で、階段まで13階層を歩くのは少々危ないだろう。
「…宜しければ、ご一緒させて頂いていいでしょうか?」
自分たちだけでは危険だとわかったのだろう、正しい選択だと思う。
「うん、少しの間だけど…よろしくね」
私と5人のパーティーは、共に地上を目指して歩き出した。
「それじゃ…さようなら」
「「ありがとうございました!」」
地上へ帰り、5人組のパーティーとお別れする。
地上へ帰還する途中で、意識の戻った女性も加えて、なんだかんだとガールズトークが盛り上がった。
一人さびしい帰り道の予定だったが、予想外に楽しい道のりとなった、人助けはするものである。
彼らは全員、エウリュアレーファミリアのメンバーらしい、失礼ながら聞いたことがないが、派閥ランクはHの小規模ファミリアらしい。
私も自分のファミリアを説明し、ついでに《青の薬舗》の宣伝もしておく、こういった地道な広報活動が、いつか実を結ぶのである。
ところで、彼らと話している間に、私は一つ、新たなポーションのアイデアが閃いていた。
まだマインドに余裕があると思っていたところからの。突然の連戦によるマインドダウン。
それを未然に防ぐことが出来るポーションがあれば、需要は大きいのではないだろうか。
今月の借金の返済額は、貯まっているので、余裕のあるうちに、目玉となりそうな新商品を開発しておきたいと、前々から何かいいアイデアはないかと考えていたのだ。
私はさっそく、そのアイデアを実現する為、素材の買い出しへ行くのだった。
言うまでもないが、新商品の開発はトライ&エラーの繰り返しである。
当然、素材は作るたびに消費するので、とにかくお金がかかる。
余裕があるうちに開発したいというのはそういう理由だ。
ミアハ様と相談し、いくつもの調合方法、素材の組み合わせを検証する。
「で、できた…」
私はフラスコの中を満たしている、水色の液体を眺めていた。
「おぉ…よくやったぞナァーザ!」
「ん…頑張った」
ミアハ様に頭を撫でられ、全力で尻尾を振ってしまう。
わかってはいるが止められないのだ…嬉しいから。
「さて、このポーションの名称はどうする?」
「んー…《リジェネポーション》で…どうかな?」
この新商品は、種別としてはマジックポーションに分類されるだろう。
だけどその効果はこれまでのモノと違い、『持続的にマインドを回復し続ける』という物だ。
服用してから約12時間、僅かずつではあるが常にマインドを回復し続ける、分かり易く言うなら、発展アビリティの《精癒》を疑似的に付与すると言ったらいいか。
その回復総量はハイ・マジックポーションをも上回る…はず。
もちろん《精癒》とは違うので、それらは重複して効果を発揮する…はず。
だって私は《精癒》を持ってないし、持ってる友人もいないから試せないし…
「うむ、リジェネポーションか、いいのではないか?」
「ならそれで決まり…さっそく残った素材で作れるだけ作って…目玉商品として売り出す」
「そうだな、私も手伝おう」
私とミアハ様は、新商品のリジェネポーションの量産するため、揃って調合を開始したのだった。
新商品で売上激増!借金返済も目前!
となる予定だったのに、新商品のリジェネポーションはなぜか売上はイマイチ、どうしてこうなった。
最初こそ物珍しさからすぐに売り切れていたんだけど、徐々に売上は落ちていき、最近では一部のコアな冒険者だけが好んで買っていくようになってしまった。
最初に買っていった何人かに、使用感はどうだったかとアンケートをとってみたところ、揃って「効果が地味で分かり難い」とバッサリ言われた。
確かに…通常のマジックポーションみたいに飲んだら即回復!みたいなものじゃないけど、そこは用途の違いであって…
なんて言い訳をしたところで、売上が伸びるわけでもなく。
唯一の救いとしては、リジェネポーションを買っていく一部の人の中に、どこから噂を聞きつけたのか、かの《
時々やってきては、複数個買っていくのだ、遠征にでも使うのだろうか?
これをキッカケにロキファミリアがお得意様になってくれれば、新商品を開発した甲斐があるのだけれど…
《リジェネポーション》
必要素材
ブルーパピリオの翅
ユニコーンの角
月光草
マジックセージ
大樹の泉水
今回の利益0ヴァリス(開発費用とトントン)
借金残額1億ヴァリス