GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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今回は億泰視点にして、事件の決着です。
今までと比べてかなり長くなったので二分割します。


音石明が大洗女子学園に忍び込んだようです(9)

虹村億泰(にじむら おくやす)は、決して油断などしなかった。

 

「まっ……マジかよ、ジョースターさんよぉー」

 

だが、それにしても無理というものがあったというだけだった。老人がブッ倒れた。そいつはダチのオヤジさんだ。たまたま事件に巻き込まれた見ず知らずの少女を生き返すために、自分の生命を光に変えて捧げてしまった。そのために倒れた。黙って見てなど、いられるわけない。

 

(オレが行っても何もできねーけどよォー

 離れて見てるダケなんてよォー、ありえねぇーぜッ)

 

だがもちろん、足元でボコボコにノされた音石明のことも忘れていない。一度、出し抜かれて殺されかかれば、バカでも用心はするものだ。そして、その用心は、ココの生徒会からスデに受け取っているのだ。

 

(戦車道に使うとかいうガンジョーなロープか……

 コイツで縛りゃあ逃げられねーな)

 

戦車に近づけてはならない。それは重々わかっている。だから、周りに電線も何もないここに、縛って放り出していけばいい。兄、虹村形兆(にじむら けいちょう)の敵に手加減なんぞ必要なかった。力いっぱい、ギチギチに縛り上げる。背骨が沿って、頭と足の裏がくっつきそうな勢いで。

 

「おががががががッ! ヒッ、ひげぇッ」

「てめーはしばらくヨガでもやってなよぉー音石ッ

 電気ショックよりも身体にゃあいいだろうぜぇ~」

 

今、コイツにかまっているヒマはない。蹴りを一発かましてから、億泰はジョセフの元に走った。近づけば近づくほど、億泰の頬にも冷や汗が浮いた。ジョセフの皮膚に色がない。髪の毛も、白髪どころの騒ぎではない無色。生命があるとはとても思えない有様だと、無理矢理にわからされてしまう。

 

「ふっ、ふざけんじゃねェーッスよ、ジョースターさん。

 あんた何しに来たんッスか?」

 

承太郎が抱きかかえているジョセフに、仗助がつかみかかる。スガりつこうにも、スガりつくやり方がわからない。億泰の目には、そんな風に見えた。

 

「オレの親父は立派な男でした。立派な最期でした、ッつーのかよ。

 うれしいもんかよ。 ふざけんじゃねぇよ」

 

ジョセフの肩をつかむ手が、ぶるぶると震えていた。これは多分、どこにも持っていきようのない怒りなのだろう。

 

「オレにはよぉーッ あんたが親父だっつー実感すらもねぇーんだよ……

 なのに、こんなもん見せられてよぉ~~~

 どうすりゃいいんだよッ、サッパリわかんねぇよッ!」

「『お父さん』と、呼んでやれ」

 

仗助の背中から、おずおずと呼びかけた奴がいた。大洗女子学園の、ヘアバンドをした釣り目のチビジャリ女だ。確か、麻子とか呼ばれていたか。

 

「……なんだよ、ヤブから棒によぉぉ~」

「『お父さん』と呼んでやれ。でないと、後悔する」

「何様だよ、あんた」

「何様でもいい。呼んでやれ! まだ息があるうちに」

 

ワケ知り顔でオセッカイを焼きに来た顔ではなかった。自分自身の身に起こったことであるかのように、チビジャリ女は仗助に対している。一歩も引く気はないようだ。仗助をにらんでいる。そして億泰の見るところ、仗助は次第に押されつつあった。このまま押し切られてしまった方がいい。億泰もそう思う。頭が悪くては、ジョセフが一番喜ぶだろう言葉くらいしか思いつかないのだ。

 

「仗助よぉぉぉ~~、

 『親父』って呼んでやりゃあいいだろうがよぉぉ~~」

「億泰。何やってんだよ」

「オレ、頭悪いからよぉー、

 おめーの『わだかまり』っつーヤツをどうすりゃいいのかは、わからねー。

 でもよぉ~~、『親父』って呼んでやるだけでよォー、

 ちげェーんだよ! ゼンッゼンちげェーッ

 たとえ聞こえてなくてもよぉぉー、ジョースターさんには伝わるかもなぁぁ~~」

 

億泰に、理屈はサッパリわからない。だからこそ、心に思ったことを言う。

 

「億泰よぉ……」

「仗助ェェェ~~~ッ……」

 

仗助と、ガンをつけるようなにらみ合いになってしまった。もちろん、億泰にも引く気はさらさらない。先ほどまでの『秋山』同様、時間がないのだ。仗助にも、ジョセフにも。沈黙を保っていた承太郎が、そこへ割って入る。

 

「待て。二人とも」

「止めねぇで下さいよ承太郎さん。オレはオカシイことなんか言ってねぇーぜッ」

「その通りだ、億泰。ジジイの生命は、俺が必ず拾うがな……

 だが、それとは別にだ。この音が何か、わかるか」

 

言われてみて耳をすます。車の音がいくつか聞こえる。それと、サイレン。今まで固唾を呑んで見守っていた康一が、目を大きく見開いた。ほぼ同時に、戦車道の隊長をやってる、西住みほとかいうのが慌て出す。

 

「承太郎さん、け、警察だッ! パトカーが何台も来ているッ」

「ぱ、パトカー? それって」

 

数秒と立たず、パトカーが今までの戦場に殺到してきた。見えるだけで6台はいる。

 

「警察ですッ! 戦車が暴れていると通報がありました!」

「犯人はギタリスト風の男だと、匿名の通報を受けています」

「動かないで下さい、皆さんは参考人です」

 

降りてきた警官達に取り囲まれ、たちまち身動きがとれなくなった。遅まきながら、西住みほが慌てた理由が、億泰にもわかった。パトカーという『電源』が、大挙してやってきてしまった!

 

「億泰。仗助。生徒会から借りていた『ケータイ』は持っているか?」

「モチのロンッスよ。これっス」

 

仗助がポケットから『ケータイ』を取り出す。生徒会のホンワカした方、小山柚子から借り受けたものだ。億泰も、同じようにポケットに手を突っ込む。生徒会のムスッとした方、河嶋桃から借り受けた『ケータイ』がそこにあるはずだった。今回、音石明が出てくるタイミングに合わせて攻撃ができたのも、この『ケータイ』あってこそ。仗助がポケットの中でこっそり『ワン切り』したのを億泰が確認して攻撃に移ったのだ。コレだけの便利で高そうなアイテム、億泰は失くすはずがないと思っていた。

 

「……どうした、億泰」

「ねェ……ねェよ、ドコにもッ! ドコにやっちまったぁ~ッ」

「やれやれだぜ」

 

承太郎がぼやくと同時に、誰かの悲鳴が聞こえた。目をやると、パトカーが一台、遠くに離れていくではないか。そして、そこにいるべき奴がいない。代わりに警官が二人、ケイレンしながらひっくり返っている!

さすがに、何がどうなったかを億泰も理解した。

 

「や、ヤロォォ~~~音石ッ!」

「『ケータイ』をかすめ取ったようだな。億泰、お前から……

 まあいい。どのみち奴は逃げられん」

「どうしてですか? 電気のある所に行かれちゃいますよッ」

 

ダチを殺されかかった西住みほは、承太郎に食ってかかるように聞くが、承太郎の態度はやはり変わらない。時として憎たらしくなるほどにクールな男なのだ。

 

「『チリ・ペッパー』は、本体である音石明自身を電流に変えることは出来ない。

 出来るんだったら、ジジイを恐れて殺しに来る理由が最初からない。

 日本中どこへなりともあっという間に逃げちまえるからな……」

「あッ、納得……」

 

納得したのは康一だったが、すぐに思い出したように声を張り上げる。

 

「でも、だからって! ここで逃がす理由にならないぞッ!

 すぐに追わないと!」

「追うとも。この俺がな……だから康一くん、仗助、億泰。

 その間、ジジイを頼むぜ。病院に連れていってくれ」

「クッ、わかったぜぇ承太郎さん。音石のヤロォをぶっちめてくださいよ」

 

承太郎なら、最強のスタープラチナなら問題ない。音石の余命は風前の灯だ。億泰もまた、そう信じたのでジョセフの左肩を受け取った。右肩はすでに仗助が持っている。

 

「西住どの、なんとなくわかりましたよ状況。

 38tを使わせてください。

 皆さん生命の恩人です。力になりたいんですッ」

「意識、ハッキリしてるね……うん、私も同じ気持ちだよ、優花里さん。

 東方くん、それと、虹村くんだったよね?

 ジョースターさんと一緒に、あそこの戦車に乗って。広瀬くんも」

「すまねえ」

「やりたいからやるだけだよ。急いで」

「……アッ、勝手に動かないで下さい! 事情聴取するんですよ」

 

全員で戦車を目指すところを警察が止めてくる。彼らも仕事だから当然なのだろうが。沙織とかいうフワフワロングの女が、何か取り出し、警察の手に押し付けた。生徒手帳のようだった。

 

「私達は大洗女子学園戦車道! 逃げも隠れもしないから!

 それと、この男の人たちのことは生徒会に聞けばわかるから!

 後で呼び出しでも何でも応じるから、今は後にして下さい!」

 

警察があっけに取られているところに、秋山と、沙織と麻子に、オシトヤカなヤマトナデシコ(まだ名前を聞いてない)が、次から次に生徒手帳を押し付けていく。西住だけは、生徒手帳を取り出したところを仗助に止められた。

 

「病院でよぉ~、身分を保証するモンを誰一人持ってねーのはマズイぜ、西住」

「あ、うん」

 

戦車道は彼女達だけではない。他に十数人いた奴らが続けて警察に殺到する。話を聞くなら自分達からにしろと言っているようだ。その間に、38tとかいう戦車に全員よじ登る。秋山優花里も手を貸して、ジョセフを戦車の上に押し上げていた。自分が彼に生命を救われたたこともわかっているようで、いたわりを持ってジョセフの身体を扱っていることがわかる一方、微妙にそらしている視線が罪悪感を物語っているようだ。いきなり戦車を使えと申し出てきたのも、そこの所を逃れたい気持ちもあるのだろう。そこに、振り向きもしないまま、仗助が唐突に彼女を呼ぶ。

 

「秋山さんよぉー」

「あっ、えっ、私ですかぁ?」

「これからどうなろうが、生命が助かったことをよ、引け目になんか思うんじゃあねーぞ。

 このクソジジイは『好きでやった』んだからな」

「あぅ……」

「ただし! 次、生命を粗末にしてみろ。そん時は、オレがてめーを殺すぜ」

「うっ。はい、キモに命じますッ」

 

秋山の兵隊じみた返事に、やっぱり振り向かないまま頷いた仗助は、戦車のハッチから中に乗り込み、ジョセフを注意深く受け取った。そしてそのまま近くの席に座らせる。多分、大砲を発射する席だ。続いて全員、なだれ込むように乗り込んでハッチを閉める。

 

「うわーっ狭い! 何この満員電車! しかもオトコまみれ」

「M3リーを借りた方が良かったですねぇ武部どの。イマサラだけど」

 

入りきらないので、仗助はジョセフの下に敷かれる形で席に座った。運転手はチビジャリ女こと、麻子であるらしい。コイツの邪魔はできないので、コイツの周りだけはスペースがとってある。億泰は車内の左半分、後ろ側で壁を背にして、正面から『子泣きジジイ』か何かのように抱きつく康一を抱える。康一のさらに前には西住がいて、康一は億泰と西住でサンドイッチになっている。そこまでして西住がそこにいたがるのは、本来の『車長席』が、『砲手』の席であるからだそうだ。ちょうど、仗助とジョセフがそこに座っているので、せめてその真後ろということらしい。向かい側では、西住以外の女ども3人がギッシリ詰まった。

 

「『全員乗る』って選択をコイツでした時点でよォー、すでに間違いだったんだろうがな。

 時間がねぇ、行ってくれ。運転手さんよ」

「わかった、まかせろ。荒っぽくなる。『お父さん』を離すなよ」

「離さねーよ。後ろの奴らがコッチに倒れてきたらクレイジー・ダイヤモンドで押さえるからよ。

 オメーは全力で病院に行ってくれよ」

「よくわからん『力』だな。まかせる。行くぞ」

 

麻子がエンジンをふかし、このモンスターマシンをスムーズに加速させる。それを見て億泰は不覚にも『チョットうらやましいぜ』と思ってしまったが、仗助からわずかに聞こえた言葉が、今はそれを消し去った。

 

「おふくろを悲しませたらよー、ゆるさねぇぜ。親父よ……」

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




一発目が着弾したかはさて置いて、続いて二発目の装填。

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