GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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今回は、麻子視点でお送りします。
戦闘は皆無です。秋山どのを助けるだけなんですが。



音石明が大洗女子学園に忍び込んだようです(8)

冷泉麻子(れいぜい まこ)は、38t車内から戦闘終了を見届けた。

 

(ヤバイ奴らだな。関わりたくない)

 

率直な感想は、これである。いくら強力な超能力を持っているからといって、至近距離からの戦車砲を防御しようなどという発想が、そもそも出てくるものだろうか?

つまりは、そういう命がけが彼らの日常。だから出来た。

 

(私達は小市民なんだ。特撮バトルはヨソでやれ……)

 

正直に言って、麻子は今回の事態を『ヤクザの抗争に巻き込まれた』としか考えていない。不動産王ジョセフ・ジョースターの生命を狙ってきた殺し屋が仕事をしくじり、大洗女子学園に救助されてしまったところへ追撃をかけてきた。そんな所だろう、と。あの学ランを羽織った二人は、ジョセフ・ジョースターを守るために雇われた傭兵なりガードマンなりなのだろう。なんにせよ一学生が関わりたい人間じゃあない。

とはいえ、だとしたら、それはそれでおかしい。

秋山優花里をあそこまでして助けようとしたのは、一体誰の指示なのか。ジョセフ・ジョースターさえ安全であれば目的はその時点で達成される。巻き込まれた不運な通行人のことなど、ガードマンであれば考える必要はない。むしろ考えてはならないはず。麻子の見たところ、『4号戦車』を倒すのに、あんな危ない橋を渡る必要はなかった。お手製の火炎瓶複数本。原材料はその辺のビンとガソリン。多分、それで倒せる。戦車の天蓋に取り付いた時点でハッチをある程度破壊していたのだ。そこに火炎瓶を浴びせれば、『4号戦車』は耐えても中の人間が耐えられない。『音石明』は蒸し焼きになって死ぬ。もちろん、このとき優花里も道連れになるが、ジョセフ・ジョースターを守ることだけが目的なら、そんなもの気にする必要がない。気にする必要があったのは、自分達、大洗女子学園戦車道チーム一同だけなのだ。

 

(微妙につじつまが合わないな。奴らは結局『何』だ?)

 

麻子は、自分自身も38tから這い出すことを決めた。もうここに残る意味がない。音石明その人が戦車の外にさらわれて、新手の学ラン男(アホ面)にぶちのめされている状況だ。また戦車が乗っ取られるなどとは思わなかった。ちなみに、停電にはとっくの昔に気づいていた。少し遠くで、交通信号が消えてしまったのを見ていた。あの学ラン男(アホ面)の言うところによると、停電は生徒会長の仕業であるらしいが。ジョセフ・ジョースターに脅迫でもされたか。それとも、利害が一致して協力関係になったか。ここはひとつ、少しでも判断材料を集めておこう。場合によっては、大洗女子学園戦車道との付き合い方も考えなければならない。38tから飛び降り、キツイ身体にムチ打って小走りし始めたところで、悲鳴が聞こえた。

 

「いィッ、イヤぁぁぁぁーーーーーッ 優花里ちゃんッ、優花里ちゃん!」

 

聞き間違えるはずがないその声は、幼馴染の武部沙織。麻子は直ちに小走りをやめた。小走りをやめて、全力疾走を始めた。

 

「待てッ、動かすんじゃあねーぜッ!

 動かしただけで死んじまうかも知れねぇ。

 オレをそこに持っていけッ、すぐになおす!」

「血が、血が溜まってる。優花里ちゃんの、血」

「康一、西住、それと」

「華(はな)です」

「すまねえ。華さんよぉー。今すぐオレを『4号戦車』に投げろ。

 後はクレイジー・ダイヤモンドでどうにかすっからよー。

 で、そこの沙織を落ち着かせてやってくれ。ありゃマズイぜ」

 

状況はつかんだ。沙織が先行して『4号戦車』の中を覗き込みに行ったようだ。そして、どうやら……秋山優花里の生存は、絶望的だ。あのリーゼント、東方仗助とのやりとりは、ケータイ通話を介して聞いていた。沙織が38tから出て行ってからこっち、通話しっ放しになっている。終わっちまった生命だけはなおせない。あの男はそう言った。

 

(出会って一ヶ月もしない奴なんだがな)

 

麻子は、自分が奥歯をギリッと食いしばったことに気づいていなかった。『4号戦車』の前に到着する。天蓋から下ろされた沙織が華に抱きすくめられ、みほがその背中をなでてあやしているようだ。

 

「あっ、麻子さん。優花里さんが……」

「いらない。大体わかってる。それより、広瀬康一」

「……え? ぼく?」

「お前以外に誰がいるんだ。ジョセフ・ジョースターは今どこで何をやっている?」

「えっ、ジョースターさん?

 さっき、決着はついたって連絡したら、こっちに来るって。

 チリ・ペッパーのこともあるから、車じゃ来ないと思うけど」

 

広瀬康一が最後まで言い切る前に、大きな音が聞こえた。少し離れた地点に何かが落着してきたのだ。そちらへ振り向くと、大柄な老人をおぶった巨漢が一人。アスファルトにクレーターを穿っている。

 

「じょ、承太郎さんッ、ど、どうやって?」

「ジジイに急かされてな……建物を飛び越えて最短で来た。

 やれやれ、10年ぶりの無茶だったぜ」

「建物って、ひとっとびでェェ~~? ムチャクチャだぁぁ~」

「7跳びだ。ジジイにケガはさせられないからな」

「承太郎ォ~、確かにわしじゃよ、急かしたの。

 でもヒドすぎるわいッ、『絶叫マシン』じゃ、こいつはッ」

「『G』で潰されるのが好みなら、今度からひとっとびで行くぜ。

 それより、ジジイに用がある奴がいるようだが……」

 

割って入ろうとする前に、巨漢の方がこちらを見た。物静かで理知的な男のようで、さして悪印象は持たなかった。だが、この承太郎こそが、あの音石明がもっとも恐れていた男。おそらくは、名前が知れ渡るほどの百戦錬磨。しかし、今、用があるのはこいつではない。背中につかまっている老人の方だ。

 

「おじいさん……お前が、ジョセフ・ジョースターか」

「ン? あぁ、そうじゃが。何かな、お嬢さん」

 

生徒会との関係について、問い詰めるはずだった。今、本人をまさに目の前にしているのに。聞くべき内容が飛んでいった。出てくるのは、ただ『文句』だけだ。

 

「いや、黙っちまわれると困るんじゃが。思うままに言ってみるといいんじゃよ」

「なぜ、こんなところにやって来た」

「……。なんじゃって?」

「なぜ、日本くんだりまで来て殺し屋に狙われた。

 私の仲間が巻き込まれた。今、そこで死のうとしている」

 

お前のせいだ。お前のせいだ。お前の。

そこから先は、壊れたロボットか何かのように、同じ単語を延々と繰り返すだけになった。感じなかった、否、見ないふりをしていた無力感が、言葉をきっかけに押し寄せた。立っていられなくなり、その場にうずくまる。

 

「ま、麻子ッ!」

 

華の手を振りほどいた沙織が駆け寄って来た。ちょっとして気がつく。痛いほどきつく抱きしめられている。

 

「大丈夫だから。優花里ちゃんは、私達を置いていったりしないってば」

 

背中をなでてくる沙織の背後で、『4号戦車』のハッチが音を立てて閉じた。東方仗助が、無傷の優花里を引っ張り出して、表に出てきていた。下唇を歯で噛んだまま、自由にならない足を引きずってゆっくりと降りてくる。優花里の姿を見たみほが、安心したように微笑んで東方仗助に近づくが。

 

「東方くん、優花里さんは無事……」

「息をしてねぇ」

 

優花里を上に、自身は下になる形で『4号戦車』から転げ落ちた東方仗助は、うめくように言った。

 

「心臓も動かねぇし、瞳孔が開いちまってる。

 何よりもよぉぉーーー、なんか、わかっちまうんだよ。

 こいつから煙みてーに何か抜け出していくのがよォォーー

 間に合わなかった……こいつは、もう」

「嘘、だよね。優花里さん、どう見ても無傷だよ?

 なんでもなおすクレイジー・ダイヤモンドだよね。

 なら、すぐにでも目を覚ますよ」

「オメーで、納得するんだよ西住。

 それだけだぜ。オレに言えんのはよぉ~~

 そして、すまねぇ。

 オレがチリ・ペッパーの野郎に時間をかけすぎたばっかりにこうなった。

 オメーに30秒の妥協をさせた、このオレの責任だ」

 

みほが、半笑いのままプルプルと震え出す。東方仗助が優花里を安置した所に、駆け寄っていく。

 

「ど、どうでもいいよぉー、責任、なんて。優花里さんさえ無事なら。

 ほら、優花里さん、起きて。これから戦車を修理するんだよ?

 疲れてるからダメ、なんて言わないよね優花里さん。

 ねぇ、ホントに寝こけちゃってるの?

 ここの所、居残り練習ばかりだったから」

 

目を閉じたまま反応しない優花里に、一方的に話しかけ続けるみほ。そしてもう、みほの言葉が『彼女』の耳に届くことは、もう無いのだろう。周囲が騒がしくなってきた。他チームのメンバーも全員、戦車から降りてきたようだ。全員が一様に理解したのだ。今回の事件がどういう結末を辿ったか。麻子の全身を支配する無力感も、今や『真実』の圧力に変わっている。

 

「なぁ、承太郎」

「どうするというんだ、ジジイ。

 もう、俺に出来ることは何もない。なくなっちまったぜ」

「お前に出来なくて、わしに出来ることが、あるんじゃよ。まだ。

 ただ、多分死ぬからのォォー、それだけは断っておかんと」

「多分……なんだと?」

 

老人、ジョセフ・ジョースターが承太郎の背から飛び降り、一人、歩き始めた。行き先は、秋山優花里の亡骸の元であるようだ。今更、何をやるというのか。人を生き返す超能力を持っている?

だとしたら、全員揃って私達をバカにしている。死に別れた無力に泣く私は何なのだ。奴ら自身も、終わってしまった生命は戻せないと確かに言っていたはずなのに。

 

「何しに来たんスか、ジョースターさん。

 こっちはよぉー、取り込み中だぜ……」

「まだ取れる手があるんじゃよ、仗助。わしにだけ出来ることが」

「ハーミット・パープルは『検索』するスタンドじゃねーっスか。

 救命方法を探すんならよー、あんた遅すぎだぜ。今更ってやつだぜ」

「仗助、わしはのぉ」

「ひっこんでなよジョースターさん。

 これ以上ヒトのこと引っ掻き回したらよぉー、

 しまいにはプッツンするぜ」

 

東方仗助が示した態度は、予想外の拒絶。どうやら、ジョセフ・ジョースターのボディーガードやら何やらの『雇われ』ではなく、複雑な関係があるようだ。どうでもいいことだが。みほは未だに半笑いで震えながら、優花里の亡骸に話しかけている。この場では、東方仗助に賛成する。この老人には、さっさといなくなってほしい。

 

「『人間の偉大さは恐怖に耐える誇り高き姿にある』

 わしの、古い戦友が言っておったんじゃがのォ。

 この子は、まさにそれじゃよ。

 こんなところで死ぬ子じゃあないわい」

 

帝政ローマの史家、プルタルコスの言葉だな。

他チームの中から、そう解説する声が聞こえた。あれは確か歴史オタク4人組のチームで、しかもアレはカエサルとか名乗っていた奇人。お前達も空気を読め、と麻子は言いたかったが、すぐ忘れることにした。東方仗助が、静かにキレかかっている。

 

「つまらねー能書きをタレに来たのかい、くそじじい」

「仗助。わしはおそらく死ぬ。

 お前の母さんに、よろしく言っておいてくれんかの」

「は? おい、何だよイキナリ」

「わしに、お前の父親である資格はなかった。

 十五年も放っておいて、今更姿を現して、すまなかったよ。

 忘れろ、わしのことなんか。母さんと友達を大切にな」

 

なるほど、ジョセフ・ジョースターは東方仗助の父親であるらしい。そして、十五年間も放っておき続けたらしい。複雑な関係にもなるだろう。しかし、ジョセフ・ジョースターは何を言っているのか。これではまるで遺言だ。何をしようというのだ。

 

「人から又聞き、聞きっカジリのブッツケ本番じゃが、やってやるわい。

 思い出せ。わが友、最期の波紋……あの感触を」

 

コォォォォォォォォ……

老人の喉から呼吸音が響く。深く、そして速い。戦車のエンジンがうなりを上げているかのように力強くもあり、やがて、老人の全身から微弱な光が見え始めた。

 

「まさか! よせ! ジジイ! 仗助ッ! 止めろッ!」

「止めるなよ承太郎! わしのせいで死ぬはずのない子が死ぬんじゃ!

 このくらいせんとなァァ~、帳尻が合わんわいッ!」

 

老人の全身からほとばしる光が際限なく強力になっていく。ジョセフ・ジョースター自身が瞬間的に若返っているように見えるのは、果たして幻覚か。

 

「深仙脈疾走(ディーパス・オーバードライブ)ッ!!」

 

ジョセフ・ジョースターが優花里の手をとった。溢れる光の全てが優花里に流れ込んでいく。

 

「じっ、承太郎さん! こいつァ一体何やってんスかーーッ」

「『波紋』だ。『仙道』と言った方が通りがいいか……

 呼吸法で引き出した自分の『生命エネルギー』を分け与えているのだ」

「『生命エネルギー』ィィィ? この光ってるの全部ッスか?」

「おそらくジジイは『生命エネルギー』のありったけを

 秋山優花里に注ぎ込もうとしている。

 そうでもなければ『呼び戻せない』と踏んだからだろうな」

 

東方仗助が承太郎に質問を飛ばしている最中も、光は溢れ続ける。全員が、そこから目を離せなかった。どれだけそうしていただろうか。やがて光が収まると、何事もなかったかのような街中の風景が戻る。数秒間。誰一人動けない。時間が止まった世界などがあるというなら、これだろう。沙織も、麻子を抱きしめたまま首だけで優花里の方を向き、固まっている。優花里の一番近くにいたみほは、真正面で起こった謎現象に対応できず、これまた固まっている。華の方もチラリと見てみる。こちらは自分と同じで、場が動くのを静かに待っているらしい。『どうしていいのかわからない』これが本音なのも自分と同じであると見た。もう一度、みほの様子を見ようと視線を戻すと、そこで優花里の身体がピクリと動いた。少し動いたと思ったら、上半身をサッと起こし、いっぱいいっぱいの背伸びをしてみせる。

 

「ン、ンぅぅ~~。なんだか、かなしい夢を見たような……

 あれッ、ここは? なんか囲まれてるし。

 西住どのー、一体どうしましたー?」

 

優花里が、いつものように元気に動き、しゃべっている。が、やはり誰も動けない。さっきまでの優花里が『死んでいた』ことさえ受け止めきれない中で、いきなりこんな『奇跡の生還』、しかもオカルト的なやつを見せられても、説得力がイマイチどころかイマサンだ。

 

「ジジイッ!」

 

空条承太郎が最初に動いた。動いて、ジョセフ・ジョースターを抱きとめた。ジョセフ・ジョースターは、色を失っていた。比喩ではない。全身の皮膚から、髪の毛から、ことごとく真っ白に漂白されている。人形のように無機質に見える。そして、動かない。場は、騒然となった。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




ネタバレ:ジョセフ・ジョースター
とはいえ、寿命はガッツリ削られると思います。

そして、1999年当時。
『歴女』なる単語は、おそらく概念すら存在していない。

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