GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
勢いが死ぬのもイヤッスよねぇ~~
今回は康一くん視点です。地の文がちょっと、少ないか?
広瀬康一(ひろせ こういち)は、生まれて初めて戦車砲を体験した。
(こっ……怖ッ~~~!!
まだ下っ腹がジンジンしてるよぉ~~~っ
誰なんだ、『戦車道』が女の子用の競技だなんて言った奴は!)
鋼鉄の塊に大砲を乗っけた、ダンプカーよりも超重たい兵器で殴りあう。そんなものは戦争だけで沢山じゃあないのか。『戦車道』は時代に取り残され、廃れていると新聞にも書いてあったけど、こんなものを好んでやりたがる人がいるなんて、恐ろしい話だ。万が一、さっきのが自分に直撃していたら。パワーのない自分のスタンド、エコーズじゃあ防御なんかできるわけない。粉々の血煙になって、きっと仗助のクレイジー・ダイヤモンドですら復元できないだろう。小便チビりそうな恐怖を胸に、それでも康一は走る。仗助がいるし、億泰もいるからだ。そして何よりも。
(こんな『恐ろしいもの』を学校に向ける!
音石明は、これから何度繰り返すんだ。こんなことをっ……
ほっとけないぞ、絶対に!)
前を走る仗助が立ち止まる。周囲を見ると、駐車場。その中にある一台のバイクにまたがると、仗助はすぐさまエンジンを回した。
「なっ、何やってるんだァァーーー仗助くんッ」
「ちょっとの間、借りるんだぜ~~~
音石の野郎のところには、一秒でも早く着かなきゃならねーッスからなァ~」
「そ、それに、どうやってエンジンをかけたんだッ? その『キー』は一体?」
「『念写』してもらったぜ。……ジョースターさんに。
『校舎内で、キーを外し忘れた』バイクの場所をよ。
手段選んでる場合じゃないからな」
ホラ、乗れよ。
そう促されるまま、康一は仗助の背に張り付き、腰に手を回してひっついた。前進を始めたバイクは駐車場を離れると、どんどん速度を上げていく。
「ひぃッ、チョット早すぎない?」
「言っただろーがよォォーーー康一ッ 急ぐんだよ!
場所だけはわかってる! そこから動かれる前に到着すりゃあよぉぉーー」
「で、でも仗助くんッ、到着するまではいいけど、敵はやっぱり『戦車』なんだよ?
ぼくらでどうやって戦うの?」
正直、康一はすでに自分のエコーズで敵に直接ダメージを与えることは諦めている。エコーズは『生物を対象に』攻撃しなければ一切意味をなさない能力だからだ。戦車の中に引きこもられた時点で、攻撃を当てる手段が存在しない。ならば、康一のやるべきことは仗助の勝算を支えるアシストということになるが。
「いいか康一、『戦車』を狩るのは『戦闘ヘリ』なんだぜ。
『戦闘ヘリ』は『戦車』のどこを攻撃する?」
「ええっと……頭?」
「そう、頭だな。戦車の頭、というか天蓋ってのは大抵装甲が薄いんだとよ。
正面からじゃ、いくらクレイジー・ダイヤモンドでも抜ける気はしねーけど。
薄い部分を狙えるならイケるかもだなぁー」
「ど、どうやって? っていう疑問はあるけどさぁ……
それだったら、億泰君のザ・ハンドの方が確実なような」
「ああ確実だぜ。中の人質を削り取っちまってもいいならだがよぉぉーー」
「あ、そっか! ゴメン、忘れて」
それ以前に、康一はすでに仗助から聞いていた。億泰と別れて敵を追っている訳を。億泰の出番は、来るべきその瞬間のためにあるのだ。
「そういうことなら、わかったよ仗助くん。
それで、どうやって戦車の天蓋に取り付くの?」
「そのためのバイク、そのためのオメーだよ、康一」
「へっ?」
「次の角を曲がれば見えるはずだな。
曲がったらよ、速度を上げて……『4号戦車』に突っ込む」
「えぇぇ~~~ッ?」
曲がった先には確かに見えた。戦車四台と、少し離れたところにもう一台。確かにアレは『4号戦車』。生徒会長の角谷杏に見せてもらった写真と同じ、戦車らしい姿の戦車。使っている砲弾から、すぐにアレだとわかった彼女は戦車マニアか何かだろうか?
そんなことを考えている間にも、視界の『4号戦車』はどんどん拡大していく。
「ど~~すればいいんだよぉぉ~~仗助くーーーん!」
「『尻尾文字』をオレにくれ、康一!
フワリと浮かんで『4号戦車』の頭上を通過できるようなやつをよォォォーーー」
「ッ!! わかったよ仗助くん! きみが何を考えているのか、やっと!」
今の状況と戦車の能力。そして自分。全てのパーツがつながった。わかれば、何もためらうことはない!
「エコーズAct.2、仗助くんに貼り付けろ!
そしてぼくは降りるよ」
「ありがとよ康一! 速度を落としてるから3秒したら飛び降りるんだ」
3、2、1。
二人で数え、康一だけがゼロで飛ぶ。着地の瞬間、衝撃が来た。速度を落としたとはいっても時速30km以上は出ている。足から着地しては骨を折ると踏み、あえて五体倒置気味に身を投げ出したのは正解だった。ごろごろ転がる。何度も、何度も。勢いが止まったあたりで飛び起きた。やはり痛いが、ケガの類は仗助に後で直してもらうとして。すぐに前を見ると、まさにバイクが『4号戦車』に突っ込むその瞬間!爆発炎上の頭上を通り越して、仗助が天蓋に取り付いたのがハッキリ見えた。自分も走って現場に駆け寄り、エコーズを放つ。役目を終えた尻尾文字を回収し、次に備えるためだった。回収すると同時に周囲を見回す。奥にいた戦車4台のうちひとつから、顔を出している女の子がいる。
(無用心だなァ~~、攻撃されるかもしれないのに)
エコーズは音のスタンド。一般人にも声を伝えることはできる。警告だけはしておこうと、エコーズをAct.1にシフトして送り出す。射程距離は50m。速度もけっこう速いので、女の子のところまではあっという間だ。しかし、予想外は思わぬところに潜んでいた。エコーズが戦車の上に飛び出したところで女の子がビックリし、直後に身構えたのだ。
「これは何? 『ギタリスト』の仲間だっていうなら……」
『違う! 違います! ぼくは、音石明の敵です!』
「私は『二人の超能力者』が来るって聞いています。あなたはどう見ても人間じゃあなくて、しかも『三人目』です」
『二人目ですよ! ぼくは広瀬康一。今、少し離れた路肩からあなたを見ている男がぼくです』
話にかみ合わなさを感じる。見えているというのなら、つまりこの女の子はスタンド使いであるはずなのに。『スタンドがいれば本体もいる』という思考が働いていないように見える。
「あっ。もしかしてあの子?」
『あの子です』
「じゃあ、コレは、あなたの出している『ラジコン』みたいなもの?」
『はい。大体合ってます』
背が低いって自覚くらいはあるよ、チクショー。
あの子呼ばわりされるのは、とっくに慣れきっている康一であった。それは置いて、本来の目的を果たしに移る。
「詳しく話を聞きたいけど、多分そんなヒマないよね」
『はい。危ないから車内に引っ込んでてください』
「それは出来ないかな」
『どうして?』
「戦っているから。頭を引っ込めて幸運だけを待つわけにはいかないよ」
康一に、重ねての説得は出来なかった。多分、言っても聞かないだろうということが、なんとなくわかってしまった。
「『4号戦車』が動く。広瀬くんこそ安全なところに移動して」
『できないね。仗助くんが戦っているんだ』
「そっか。ケガとかはしないでね」
女の子も、康一にそれ以上は言ってこなかった。二人して『4号戦車』に視線を向けると、クレイジー・ダイヤモンドのラッシュが始まった。
「ドラララララララァーーッ!!」
家一軒くらいはたやすくぶち砕くだろう破壊の連撃が戦車の頭上を叩く、叩く、叩く。
仗助を振り落とそうと右往左往している『4号戦車』は、叩かれるたび右に左にきしみを上げる。
『やったッ! 一方的に袋叩きにしているッ、これならッ』
「……あれが全力なら、ちょっと無理かも」
『えっ?』
言われて、康一は改めてよく見てみる。確かにクレイジー・ダイヤモンドは一方的に『4号戦車』を叩きのめしているし、天蓋の装甲には拳の型が無数に刻み込まれている。だが同時に、天蓋にしがみついた仗助の手からは。
『仗助くんの手から、血が……』
「えっ、どういうこと?」
『スタンドがダメージを受けたら、スタンドの受けたダメージは本体に跳ねかえるッ
殴ったクレイジー・ダイヤモンドが逆にダメージを受けているんだ!』
「殴った手の方が痛かった。って、当たり前だよ! 戦車に拳ひとつで勝負なんてッ」
『これじゃあ、破壊できたとしても時間がかかる!
音石明がそれを黙って見ているだろうかッ?』
スタンドごしに話すのがそろそろもどかしくなってきた。康一が、女の子のいる戦車に駆け寄り始めたとき、それは起こった。
「うぐうッ!?」
『4号戦車』が一瞬まばゆく輝いたと思うと、仗助がふっ飛ばされて地に落ちたのだ。装甲の表面に立っているのは、レッド・ホット・チリ・ペッパー!
『フー焦った。焦ったよ東方仗助。戦車の天井に引っ付いてブン殴ってくるとはなぁ~~
終わった! 詰んだ! マジにそう思ったよ』
「ヤ、野郎ォ……」
『だが! この4号戦車をブチ壊すにはッ!
ちぃっとばかしパワー不足だったようだなぁぁ~~ッ
空条承太郎のスター・プラチナならいざ知らずよぉぉぉ~~~ッ!』
「時間がかかるだけならよぉぉーーーー、
大した問題じゃあないんだぜ、音石サンよォ」
仗助が立ち上がり、再度戦闘態勢をとる。クレイジー・ダイヤモンドを前方に出して構えた。
『へっ、言うねぇ! そう言うとは思ってたよ……
だから、それなりの備えもあるッ
出番だぜぇ~優花里ちゃんよォォーーーッ』
『……に、西住どの』
『4号戦車』の外部スピーカーから、音石明以外の声がする。やはり人質は取られていたか。来るべき時が来てしまった。康一が思考する横で、女の子が呼吸を止めて目を見開いた。
「優花里さんッ……」
『撃ってください西住どのッ! この男は追い込まれて』
『余計なクチ聞いてんじゃねェェンだよォォーーーッ
このクサレオタクアマがァァァーーーッ!!』
『いぎ、ギィィィィ! ギがが、ががッ、ガガッ、カカカぁッ!』
バスン、バスンと電気のショートするような音が響き、聞くに堪えない無残な悲鳴が外部スピーカーから轟く。
「音石、てめぇ」
『おォォ~ッと仗助! わかっているはずだぜェェ~
オレの言いたいことが何なのかがよォー』
「ああ……よぉぉーくわかるッスよぉぉーー
てめーみてぇなクッセェゴミはキッチリたたんで出しちまわねーとなぁ~」
『減らねぇ口だぜ。なら言ってやる!
一発に一度、だ! クレイジー・ダイヤモンドの拳一発につき一度、
電気の拷問でソロライブをやらせるぜ! この秋山優花里ちゃんになァー』
そこで一旦、音石は言葉を区切った。戦車の車内に頭を引っ込めて、中の誰かに何か言おうとした女の子……西住どの、を見咎めたようだった。
『怪しい動きしてんじゃねぇぞ。西住どのよォォー
てめぇら大洗女子学園戦車道チームにも言っておく!
てめぇらも同じ扱いだ。ちょっかいをかけてきた時点で一発とみなす。
さらに、オレの指示に従わなかった場合も一発とみなす!』
そうやって厳しく脅しておいて、にやけたように口調をやわらかくする音石。
『で! 早速なんだが……その自慢の戦車よ、あるだろ?
そいつで、この東方仗助をひき潰してもらおうか。
そこにいる広瀬康一もよォォ~~』
ついに自分の名前が出てきた。しかも、戦車で引き潰させるのだという。
『誰のことかわからねーかぁ? ならもっと親切してやるぜぇ~
今、4号戦車に殴りかかってたドアホのリーゼントが東方仗助で、
そっちの方にいるチビ男が広瀬康一だ。わかったろ?』
西住と呼ばれた女の子が、戦車からじっと『4号戦車』を見つめている。康一の目からは、泣きそうな顔に見えたが。同時に、瞳の奥深いところで、まだ見ぬ勝算を探っている。そんな風にも見えたのが不思議だった。
『わかったなら命じろよぉぉー、西住みほッ!
パンツァー・フォー、ってよぉぉーーー』
「人質を、代わります」
『……。あん?』
大声を出したわけではない。だが、西住みほの声は、遠くまでよく通った。そして、自ら戦車を降りて、『4号戦車』に向かって歩き出す。
「優花里さんは、いち装填手でしかない。
そこに来て、私は隊長です。大洗女子学園戦車道を預かっている……
私の方が、よほど『旨み』があると思います」
仗助を横目に、砲の前に立つ西住みほ。飢えた虎に、自分自身を差し出すかのような光景だった。しばしの沈黙が流れる。誰もが反応しきれなかった。
「優花里さんを放して下さい。
私が、代わります」
『なぁるほどよぉぉー、ナンニモわかってねぇーなぁー西住どのよぉーー』
『ぐっ、ぐがッ、がぁぁーーーーッ、ガ、ハッ』
対する返礼は冷酷だった。耳をつんざく悲鳴が、またも響き渡った。さっきの女の子、秋山優花里とかいう……の声だ。喉を破りそうな奇声が、次第にかすれていく。
『一発とみなしたッ! てめーに許されるのは屈服だけだぜぇぇーーッ』
康一には見えた。仗助にも見えただろう。表面上はうつむき、歯を食いしばっているだけの、西住みほ。その全身から一瞬、沸騰するようなオーラが立ち上った。スタンドのエネルギーだ。形を取れずに荒れ狂っている!
『おおっと……ヘッヘッ、落ち着きなよぉ~
優花里ちゃんの余命は、あんたの心がけ次第なんだからよー』
音石明も気づいたようで、トーンを落としてなだめにかかる。今のやり取りで確信できた。
「仗助くん」
「ああ……あの、西住みほ、だったか?
間違いねぇ。なりたてのスタンド使いだ。
そして、状況証拠的によぉぉーー、どこで『なった』かっつーと」
「『弓と矢』だね。音石明はここに持ってきている!」
『こそこそナイショ話してんじゃねェェーーーよ仗助ッ!』
エコーズでこっそりと話していたのだが、レッド・ホット・チリ・ペッパーにはさすがにバレたらしい。康一も仗助も、とっさに身構えた。
『っつーわけで、今度こそ命令するぜぇー西住どのォォ~
パンツァー・フォーだぜッ、そこの二人を田んぼのウシガエルみてーにひき潰させなよぉぉーッ』
西住みほが、こちらを振り返る。今度は明確に泣きそうな顔をしていた。康一と仗助を、自分の友達と天秤にかけ始めたのか。
『悩むこたぁーねェーんだぜぇー。
兵器がよ……なんでカッコイイのか、知ってるかい?』
無言で流すみほに構わず、音石は持論をぶちまけた。そのテンションは最高潮。早くも勝利を確信しているかのような態度。
『テメェのあり方に忠実だからよォォォーーーーーーッ
人を殺すための形ッ 人を殺すための進化! そのための戦車なんだぜぇぇーーーッ
ボチボチ本道に立ち返らせてやんねーとよう、カワイソーじゃあねェかッ、ギヒヒッ』
『なるほど、へぇー。ツマンナイご高説、ありがとうございます』
だが、そこに思い切り冷や水をぶっかけた誰かが一人。音石と同じ『4号戦車』の中から聞こえた、その声は。
「優花里さんッ」
『西住どの。もういいんです。このロクデナシをぶっ飛ばしてください』
『ズイブン、エラソーになっ……てめぇッ、矢を!』
「何言ってるの優花里さん。そんな、まるでッ」
康一にも仗助にも。『4号戦車』の中で何か起こっているのか、手にとるようにわかるようだった。仗助がたまらずに駆け出した。
「ま、待てよ、おいッ。早まってんじゃねぇぇーーッ!」
『こんな奴の言いなりになる西住どのなんて、戦車道なんてぇ。
私(わだじ)、見たぐありばぜんがらぁッ。
フゥッ、ううぅッ……来世でぇッ、またお会いしましょうッーーー!』
『矢を放しやがれてめぇぇぇぇーーーーーッ!!』
そこで『4号戦車』の外部スピーカーはプッツリ切れた。切れるなり、エンジンが猛回転して、全速力で後ずさっていく。その動作自体が、何があったのかを誰の目にも明らかなほどに証明していた。砲が動く。照準は仗助にピタリと合っている。
「グレート……正面からでもぶっ叩くしかねーぜ、こりゃあよー」
血のしたたる拳を握り締めた仗助。間に合うかどうか。直せるかどうか。戦いは、時間との勝負に入った。
To Be Continued ⇒
ネタバレすると死なないです。いくらなんでもそれはない。