GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
とても見に行けねェッスよ……
それは置いといて、今回はみほ視点。
西住みほ(にしずみ みほ)は、突如として奇妙な冒険に足を突っ込んだ。
何か変だとは思っていたのだ。何者かに首の後ろを刺された感覚は、夢か幻と言うにはあまりにも……
そして直後に始まった、秋山優花里の奇行。砲弾を詰め込み終わって待っているはずが、たった一人乗り込んで戦車を発進させていく。これでは運転以外の何もできっこないと、彼女自身が一番よくわかっているだろうのに。しかも、今回の練習場とは逆方向に全速力で突っ走っている。
「唐突になんでこんな。麻子の操縦テクに触発されちゃったワケ?」
「お前は何を言っているんだ。追うぞ」
冗談めかした風に半笑いの武部沙織の声もさすがにどもり気味である。ともあれ、冷泉麻子の言う通り。追うしかない。格納庫を見回す。すぐ横にいた五十鈴華と同じように。
「追うと言っても、戦車はどうするんです? みほさん」
「カメさんチームの38tを借りよう。
生徒会長は『ヤボ用で来られない』って連絡があったから」
「不幸中の幸いかなぁ。同じドイツ製だったのは……あれ、チェコだっけ」
「どうでもいい。さっさと乗る」
最初に麻子が38tに飛び乗り、沙織が続く。さらに華が乗り込んだのを確認すると、みほもハッチに上り、そこから皆に指示を出す。アヒルさんチームにカバさんチーム、ウサギさんチーム。みんな揃っている。
「『4号戦車』を追います!
隊長として……友達として言うけど、優花里さんはおバカさんじゃない。
何か『わけ』があるはずッ 万が一、何か間違っちゃったのなら、私達で止めよう!」
了解ッ!
全員が小気味いい返事を返した後、素早くそれぞれの戦車のエンジンをふかす。みほはふと、前回の練習試合を思い出した。聖グロリアーナ女学院戦前半。統制ゼロの一斉攻撃。反撃からのぶざまな総崩れ。『あれ』は、もうない。今の動きだけで確信できた。みほ自身も38t車内に飛び込む。そして命じる。
「パンツァー・フォー!」
いつもと少し違った感覚で前進が始まった。いつも通り、ハッチから身を乗り出す。敵を見ずには戦えない。味方を救うのなら、なおさら。
『4号戦車』には、すぐに追いついた。ほとんど全速力で爆走していたが、動きが『非人間的なほどに直線的』だ。その違和感を最初に口にしたのは、麻子だった。
「変だな」
「確かに変よねぇ~、戦車マニアって言っても、いつどこでこんなに上手になってたの?」
「そうじゃない。とてつもなく精密なのに、道に不慣れな動きをしている。
じゃなければ私も追いつけていない……『道を知らない』のか?」
「そんなわけがありません。優花里さんはご実家もこの学園艦だったはず」
全員が同時に息を呑んだ。超がつく精密動作でもって戦車を操縦してのける麻子の言うことを、軽く見てナメてかかる者など、いるわけがない。華も、常識的な観点から反論を切り出そうとし、故にたどり着く先は同じだった。
「『4号戦車』を操縦しているのは、学園艦の道を知らない『誰か』。
そう言ってるんですか、冷泉さん」
「もっと言うなら、あれは人間じゃない。規則正しすぎるッ まるで『全自動』だ」
「ちょっとちょっと、なぁーに、麻子。『4号戦車』がロボットにでも盗まれたって言うの?
確かに、来年から21世紀だけどッ! そんなハイテクがなんでこんなところに?」
「私が知るか」
ぎゃあぎゃあ言い出した沙織はさて置いて、みほは拡声器を取り出した。『4号戦車』はすぐそばだ。まずは呼びかける。
『優花里さん、何やってるの? 一人で発進するなんてッ』
今度は、華が感づいた。
「『反応』しましたね。運転に動揺が見えました」
「あれっ、じゃあロボットじゃなくって、単なるスゴ腕?」
「どちらにせよ、優花里さんではありません。
『作法』も、『楽しもうとする気持ち』も! 見えてこないんです。これっぽちも」
「じゃあ、『戦車道関係者じゃない』? 単に必要だったから戦車を盗んだ……ええっと、何のために?」
車内では仲間達による猛烈な推理が繰り広げられているが、たった今!
みほは、それどころではなくなった。
「ちょっと待って、みんな!
見えなかったの? 今のが!」
全員が、怪訝な顔で、みほを見た。何を言っているのかわからない。皆の顔にそう書いてある。
「そ……その! 電気を帯びた『河童』みたいなのが、こっち見てたの!
『4号戦車』の車体から、上半身だけ飛び出してッ」
気まずい沈黙が訪れた。反応に困っているようだ。
誰にも見えていなかったのか。
「ごめん、忘れて。血がのぼっちゃってるみたい。頭に……この状況で」
「おいッ、『4号』が止まるぞッ! 全員どこかシッカリ掴め!
みほ、号令出せッ、全車止まらせろ!」
麻子が、らしくない鋭い大声を出した。見ると確かに『4号戦車』が急減速し、路上に派手な痕を作っている。みほは拡声器を下ろし、インカムに命令を発する。
「全車、停止して下さいッ、『4号戦車』が止まります!」
それが済んでから、みほは一旦、車内に頭を引っ込めてハッチの取っ手を掴んだ。前方の車がいきなり急ブレーキを踏んだなら、真後ろの車がやることはひとつしかない。一瞬遅れて、車内に衝撃が走った。言うまでもなく急減速である。これでも最大限、丁寧に減速されていた。おそらく38tのキャタピラは、路上を傷つけてもいないだろう。車内に慣性を感じなくなってから、みほは再びハッチから顔を出した。
「き、きつい……殺す気か……酸素、がッ……ハヒィ
大声、やめとけばよかっ、た」
「麻子、深呼吸して深呼吸。10分吸ってェー、10分吐いてェー」
「サラリと不可能ごと吐くな」
麻子がグロッキーになっているが、それは沙織に任せて。『4号戦車』を見る。すでに砲塔が回っていた。砲の向かう先は、校舎。大洗女子学園の校舎だ!
『優花里さん……何する気なの?
砲を校舎に向けて、何をするつもりなのッ!?』
拡声器で呼びかけながら、みほは確信した。あれを運転しているのは、絶対に優花里ではない。『4号戦車』は直接校舎を狙っていない。曲射だ。砲の仰角を上げて、発射された放物線の行き着く先に校舎を収めているのだ。言うのは簡単だが、弾道計算が必須であり、観測員も必要になってくる難事業。これを、急ブレーキをかけている最中に、数秒とかからずにやる。第二次世界大戦時の戦車で。できるわけがないッ! 人間じゃあないッ!
「華さん、射撃用意……『4号戦車』の履帯を狙って」
「はい」
38tの砲が動いていくのを感じながら、拡声器を後ろに向けた。M3中戦車リー、3号突撃砲、89式中戦車。全員いる。
『……全チーム、4号戦車を撃って下さい。
撃破判定を出して止めます。やむをえませんッ!』
みほの脳内で、すでに目的は秋山優花里の『救出』にシフトしていた。『4号戦車』にいる何者かが優花里に害を加える前に、戦車自体を役立たずにする。その後どうするか。もう決めている。自分自身が『4号戦車』に乗り込んで、中にいる『敵』を倒すッ!
『見えている』のが自分だけというのなら、『勝てる』のも多分、自分だけということ。しかし敵は一体、何人なのか。何ができるのか。最悪の事態であろう『戦車VS生身』を回避したところで、敵の全貌が未だに見えないが……
数秒間の黙考は、ボイスチェンジャーか何かの音で破られた。
『ウツナ~ヨォォ~~ヒトジチヲ~トッテ~イルゥ』
『ッ、人質? 動かしてるのは、優花里さんじゃない?』
自分で言っていてワザトらしすぎる反応だと思った。向こうから人質と言い出したということは、こちらの攻撃は封じられた。他の戦車も、全車同時に動きを止めている。
(無理だ……『戦車で何かやる』のを止めることはできない。
ここで無理矢理攻撃すれば、優花里さんは、少なくとも『ひどい目に遭う』
でも……でもッ 狙われているのは校舎ッ どうすれば!)
結果として、黙って見ているしかなかった。『4号戦車』が校舎に撤甲弾を撃ち込む瞬間を。毎日通う学校だ。着弾地点もわかってしまう。そこは、戦車道の格納庫に次いで接点のある場所!
『……あ、あそこは確か、生徒会室……』
生徒会長、角谷杏には苦手意識を持っていた。その取り巻きの面子にも。小山柚子はともかく、河嶋桃は自分の意見ばかりを頭ごなしに投げつけて強要するイヤな人だ。でも、死んでほしいなんて、カケラも思ったことはない。ましてやこんな、死体も残らないような粉みじんの死に方だなんて。絶望のあまり拡声器を取り落としかけたみほは、しかし次の瞬間に目を見張った。
『あれはッ、なんか、おかしい!?』
「何、あれ。超常現象?」
「戻るわけが……バラバラになった生徒会室が、何事もなかったみたいに」
「わからん、が……想像できない何かに巻き込まれたのは確かだ」
今度は全員に見えていた。確かに弾が直撃した生徒会室が、何事もないままに存在している。あんなものが当たって、無事であるはずがないのに。
『砲弾が直撃して崩れたのが見えたのに……全然! 崩れてないッ!
気のせいって言うには、いくらなんでも……』
「みぽりん、それ拡声器いらない! 一度、中に降りてよ」
少し赤面してから、みほは沙織の言う通り車内に降りてハッチを閉めた。車長席につくなり、沙織があわただしく詰め寄ってきた。
「い、今起こったことをありのまま言うよ。確認のために!」
「う、うん、落ち着いて?」
「『4号』の砲で生徒会室が撃たれたと思ったら、別に何ともなかった!
『一瞬壊れて、すぐ元通りになった』! 意味不明なんですけどォォォ~~~ッ」
「同感だな……なんだこれは? どうすればいいんだ?」
混乱が極まっている。無理もない。みほ自身、何が何だかわからないが、これだけは言える。
「どうすればいいなんて決まってるよ、麻子さん。
『優花里さんを助ける』ただそれだけ。全然変わらない」
「その通りです、みほさん。それで……どうしましょう?」
とはいえ、決意表明だけでは何も変わらないのも確か。手詰まりなこの状況、どこかで動かないものか。
「あ、メール。生徒会長から。宛先は戦車道チーム全員だね」
沙織がケータイを取り出したのに、全員が従った。誰もがすがる思いだった。みほはケータイを開く。『メール 1件』!
『戦車を盗んだのは電気を操るギタリスト、音石明。
音石明の目的は、不動産王ジョセフ・ジョースターの殺害。
音石明を倒すため、生徒会から二人の超能力者を送り込んだ。
東方仗助(リーゼント)は壊れたものを元通りに直す。
広瀬康一(ボウヤ)は音を操る。
あとはうまいこと連携してね』
読み終わるなり、沙織は内壁に突っ伏した。
「な、なぁにこれェー、どうしろと? どこのジャンプ漫画ァァ~?
せめて『なかよし』にしてよぉぉぉ~~~」
「もう事実と思うしかないな。全員が現場を見てしまった。
しかしホンモノの疫病神だったのか『ジョセフ・ジョースター』め」
益体もない愚痴大会をやっているヒマはない。気持ちはわかる。トッテモわかるが。小さく咳払いをした後、華が言う。
「確かなのは、これから二人、増援がやってくるということですね。
電気を操るという超能力者と戦える増援が、二人」
「うん。今からはメールだけで連絡を取ろう」
「え、でも敵は電気を操るって……ケータイも電気で動くけど?」
「『ありとあらゆる』場所の電気を無制限に操れるんだったら、
人質をとってまでこんなことをする意味がないと思うよ。沙織さん」
「操られているのは『4号』だけで、私達は無事。これが答えかもな」
おそらく、麻子の言う通り。電気の介入できるところ、何もかも全て同時に操れるのなら、戦車道の戦車は今頃すべて乗っ取られ、全車がかりで大洗女子学園を蹂躙したかもしれない。それどころか、学園艦そのものを乗っ取って、住民3万人もろとも道連れの大事故を演出したかも……
恐ろしい想像を今はグッと飲み込み、沙織に伝える。
「沙織さん、メールお願い。
『今から車間の連絡はすべてメールでやる』
『表面上は動きを止めつつ、攻撃命令と同時に履帯を狙えるようにしておく』
『4号戦車には絶対に接近しないこと』って」
「了解ッ!」
今できることは、これでもうないはず。後は、追い風が吹く瞬間を見逃さないだけだ。ハッチを開け、また外に顔を出す。『4号戦車』の向こうに、風と共にやってくる誰かを見た。
「ノーヘルに2ケツのバイクが1台。って何言わせんのよ、アイツらッ」
「一人で勝手にキレてどうする。アレが『リーゼント』だな」
「すると、後ろの『小さい子』が『ボウヤ』……早い。あっという間に来ましたね」
ヘルメットをしていないのもうなずける。なにしろリーゼントだ。みほは正直、この髪型の実物を見る日が来るとは思わなかった。リーゼントの少年の背に抱きついている小さな男の子が、何やら合図を出してから飛び降りた。受身をとった男の子がゴロゴロ転がる脇で、バイクはますます加速。
「ちょ、ちょっ、あのバイク! あのままじゃ『4号戦車』にぶつかるわよッ」
「どう見てもそのつもりだな」
「そ、そんなバカなことッ! やめさせないとッ、みほさん、拡声器を」
車内でそんなことを言っている間にバイクは真正面から『4号戦車』に突っ込んだ。一瞬にしてへし折れ、ねじれ曲がって引き千切れた車体は爆発炎上。いくつかの炎の塊に成り果てて飛び散った。見ていた沙織は目を覆い、顔をそむける。
「きゃああああーーーーーーッ何てこと! これじゃ単なる自殺じゃないッ!」
「いえ、沙織さん。『4号戦車』の上を!」
「えッ?」
華は気づいていたし、表に顔を出していたみほには、最初の最初から見えていた。バイクが激突する寸前に跳んだリーゼントの少年が、ムササビのように4号戦車のハッチ付近に取り付いたのを。取り付く瞬間に飛び出した『少年のものとは別の手』も、今度は見間違いではなく見えた。そして、少年の学ランに張り付いている大きな文字。『フワーーーッ』と読めたそれは、飛び出してきた別の『何か』に回収されて消える。『4号戦車』の外部スピーカーから、切羽詰った男の声が響いた。
「て、てめぇ、仗助ッ!」
「戦車にはよォォーーーー『トップアタック』だぜーーーッ
バイクごときじゃあ戦車にはカスリ傷だけどよぉぉ~
この仗助さんの『クレイジー・ダイヤモンド』ならよォォーーー」
「ま、まさかッ、振り落とせ『4号戦車』ッ」
「ボコボコにブチのめしてやるぜッ!
『アベンジャー』とかいうアメリカ野郎のバルカン砲みてーになぁー」
To Be Continued ⇒
歴女チームとか、バレー部とか、現時点で全員扱いきるのは多分無理。
『ノリ』と『勢い』が向かない限り、あんこうチーム以外の面子が
半分モブになってしまうのは避けられなさそう。
ちょろっと喋るくらいならやりそうだけど。