GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
エコーズAct3がチープトリックみたいに背中に貼りついてそうな体調が続きまして。
ということは、5m以内に康一くんが……そう考えればチョットは楽しくなる?
そんなのは置いときまして、仗助視点です。
今回で、三校会談は終わりですね。
東方仗助(ひがしかた じょうすけ)は、連続で発覚する驚愕の新事実にだいぶ打ちのめされ気味だった。どうかこれ以上ムチャクチャなことはわかってくれるな。そういう気分ではあったが、今は耳を傾ける。どうやらあの聖グロの赤毛は、ローズヒップというらしい。
「私の能力は、モノスゴくカンタンに言うと『空を飛べる』能力ですわ。
せっかくだし、ここでチョッピリ」
「ローズヒップ。おやめなさい。
天井に頭をぶつけたくないのなら」
「……ハイ」
ほら見ろ。いきなり人類の夢が飛び出した。とはいえ、それだけに、今まで現れなかったのが不思議な能力ではあった。やりとりから察するに、精密動作性は低いのか。まだ話は途中だ。
「オッホン。それでですわね。
生まれつきこの力を持った私は、家族をとっても困らせましたわ。
3歳になった頃には『飛べて当然』って感覚がオカシイことは理解しましたけど、
わかったらわかったで、私は『私は空の王様だ!』
『私一人が特別なんだ!』そう思い込み始めましたのよ。
完ッぺキ調子コイてたってヤツですわね」
仗助は自分に置き換えて考える。なんでもなおす能力をある日突然持ちはしたが、それを鼻にかけることはとくになかった。というより、妙なマネをすれば母と祖父にこっぴどく叱られたものだ。それにより教えられた。この力は、そこら中に触れ回っていいものではないと。そこに来てこいつの能力は『空を飛ぶ』。家族はさぞかし持て余しただろう。ひとたび飛んでしまえば止められるものはない。
「そーやって私がズルくなり始めた頃、あのお方がやってきましたわ。
『占い師』のオジさまが」
紅茶を飲んでいた承太郎の動きがピタリと止まった。
「都合が悪くなれば逃げ回る臆病者。
そう言われた私はケンカ売られたと思って、
空から石を投げまくりましたわッ
『このバカヤローに違いをわからせてやる』
それしか考えてませんでしたわ」
こいつが空を飛ぶスピードはわからない。だが、それによっては、単純だがかなり効果的な戦法だ。空からノロい標的を一方的に狙い撃つのと、高速で飛び回る敵に石を投げ返す。どちらが難しいのかは明らかだ。承太郎のスタープラチナならいざ知らず。
「そして、その石は全部『蒸発した』。
オジさまは『炎』を操るスタンド使いでしたのよ」
「『魔術師の赤』(マジシャンズ・レッド)……」
承太郎が、今度は完全に視線を上げた。彼が思わずつぶやく姿など、モノスゴイレアだった。それを聞いたローズヒップの反応は劇的だった。席を蹴倒す勢いで承太郎に迫る。
「知ってますのーーーッ?」
「ああ。昔、少しな……まずは話を続けてくれ」
「アッ、それもそうですわね。シッツレイしましたわー」
ヒョイヒョイと席に戻る後ろ姿はウキウキしまくっていた。
「で、『そんなバカな!』って思ってたら、
今度はオジさまは竜巻を起こしましたわ。
気圧の違いがどうのこうので、炎でそれができるらしいんですの。
『ほとんど狙えない』ともオッシャッてましたけど」
話を聞くだけでも、そいつのスゴさは伝わる。そいつは炎を通して物理現象を操っている。自分の能力を1から100まで理解していなければ出来ない芸当だ。
「竜巻にからめ取られてコントロールを失った私は
頭から真っ逆さまに落っこちましたけれど、
脇で見てたお父さん……お父様とお母様が受け止めてくれましたの……網で。
私はそこで『負けた!』ってハッキリわかりましたのよ」
しかも着地点に網を広げさせて待たせていたらしい。スタンド使いでもない一般人の両親を。それでもって受け止めたとなると、もう敬服するしかない。負けを認識するわけだ。
「シュンとなった私を、オジさまは叱りましたわ。
『その力で、君はどこに行きたい?』って。
『君はどこに行こうというのかな?
君を受け止めてくれる人達を置いて、
君はいったいどこに行こうというのだ?』
静かに、それだけ言ったんですのよ。
それから、スタンドで家族を困らせるのはやめましたの」
仗助の過去でいうところの、リーゼントのあの人。それがこいつの『オジさま』なのか。そこまでいかないにしても大切な思い出というやつらしい。出会えたことを、こいつはスゴく誇っている。
「それでですわねー、そのとき、スタンドに名前ももらいましたのよ?
名前は形と意志になる、とかオッシャッて。
こーやってカードを引いてぇ、『魔術師か、困ったな』とかボヤいてですわね。
『レッドローズ・スピード・ウェイ』この名前がつきましたの」
言いながら、ローズヒップはスタンドを身体からわずかに浮かせた。人型だ。億泰のザ・ハンドのようにロボットじみているが、こいつはまたジャンルが違う。F1カーのような流線形を帯びている。無数に折り重なった真っ赤な『矢印』で全身が装甲されているのだ。実際のところはわからないが、近距離パワー型であるように感じる。これ以上を知りたければ、一度殴り合っておく必要があるだろう。そこまでするかは別として。
「私の話はココまでですわ。ねえ空条様!
オジさまのこと、ご存知なんですよねぇ?
教えていただきたいですわぁーっ お礼が言いたいんですのッ」
突風だとかツムジ風みたいな女だ。話を締めくくった瞬間、承太郎の目前に迫るまでほとんど一瞬。身構えてしまった承太郎がうっとうしそうに顔を歪めたが、ほどなくしてわずかに視線を落とした。これまたレアな表情だ。気まずそうなのである。
「……そうだな。だが、今すぐとはいかない……
全国大会が終わってからだ。必ず教える」
「? よくわかりませんけど、ごツゴーがワルうございますのね?
わっかりましたわー、楽しみにしてますわーっ」
承太郎の歯切れが悪い。そんなことはとくに気にせず、ローズヒップは戻っていった。なんとなく、向こう側のダージリンの顔を見るが、音もなく紅茶をすすっているだけだった。
「次は俺が話そう。丁度いいようだからな」
承太郎の話は、仗助もすでに知っている話ばかりであった。親族に影響を受けて発現したスタープラチナを、当初は悪霊だと勘違いしたことまで話しているのは、スタンドを恐れていたアンチョビへの配慮だろうか。
「……ということでな。『オジさま』の名はモハメド・アヴドゥル。
ある意味で、俺の師とも呼べる男だ」
留置場に籠もった承太郎に一杯喰わせ、自ら檻の外に踏み出すように仕向けた話は、ローズヒップへのサービスかもしれない。だが、それ以上は話さない。話すならば、それはすなわちDIOとの戦いの話になるからだと、仗助にはわかった。ちょうど十年前の話となれば、それ以外にはありえなかった。
(だがよぉ~、聞いてもいねーことをしゃべるってのは気になるよな……
『話のタネ』承太郎さんにこいつほど似合わねー言葉はねえぜ)
先ほどのアンチョビの態度に重なるものがある。承太郎が進んで話したくない何かがその先にはあって、その代償を提供しているように仗助は感じた。
「俺からは、ここまでだ。ガラにもなく話しすぎたな。
康一くん、頼む」
「えっ、ぼく?
いいですけど緊張するなぁ……」
「『シメ』はオレだぜっ
まだマシな方だろうがよ、康一」
「うん。
え-、他のみんなに比べたら、
ツマラナイお話になっちゃうんですけど」
その後、順を追ってトツトツと話していった康一の物語は、わりと好評だった。『矢』で貫かれた経緯やその前後については意図的にぼかしまくっており、億泰にイヤな目つきが向かうこともついになかった。その分、玉美……『錠前(ザ・ロック)』の小林玉美が悪者にされてしまったが、そこは仕方のないところか。ウソはハナッからゼロだ。
「えっ、オッサン? それもチビのオッサン……?
オンナのコだと思ってたのに。浮いたオハナシ期待しちゃったんだけどワタシ」
「そんなこと言われても。なんかゴメンナサイ……
玉美の玉は『肝っ玉』の玉なんだって」
そういやコイツ、『玉美』の名前だけはチラッと聞いていた。沙織の中ではそれ以降、オンナのコの名前としてイメージが固定され、さらに康一の『オンナのコに関する経験』を匂わせる発言を後から聞いて、頭の中で勝手な化学反応を起こしていたらしい。
「うわぁっ予想外……
テッキリ、玉美ちゃんと由花子ちゃんが恋のサヤ当てを繰り返してるモノかと」
「ゲェェ~~~ッ
何おぞましいこと口走ってるんだよぉーッ
人をダシにして勝手なこと言わないでェェーッ!」
「ゴメンゴメン。でも、そーいう話題に飢えちゃってさー」
「自分で経験しなよ、そんなコト言うくらいなら!
引く手あまたでしょ!」
自然な流れすぎて『バカ』と止めるヒマもなかった。ヤバい。この流れはヤバい。よりにもよって『恋愛』方面で触り返した。この武部沙織に。よりにもよって康一が。
「……そう思う? ホントに?」
「ウソは言わないよ。だからホモ扱いはヤメテ!」
沙織の口元がゆるむ。ホンノリ頬にさした朱は、しかしダイナマイトへの導火線だった。
(せめて……あと、一ヶ月早かったらよぉ~)
ここ一週間の付き合いで、こいつのこともある程度見えている。心の機微に敏感で、場がマズくなったり、誰かが傷つけられそうになったとき、おどけて引っかき回しに入る奴だ。場合によっては正面切って戦いにも行く。いいヤツだとは思う。ただし、『恋愛』に結びつけられそうな何かがあると、そっちに引っ張られまくるのはどうかと思うのだ。
(オセッカイなオバチャンじゃあねぇーんだからよぉー
勝手にヒトを三角関係にしてるんじゃあねーぜ!
ってのは置いとくとしてもよぉー)
こいつをそんな風に暴走させるのは、多分だが恋愛そのものに対する憧れだろう。本人が言っている通り、現物に飢えているらしい。まあ、それはいいのだ。そこから始まる縁だって否定はしない。あと一か月早かったなら、別に何も気にしなかったし、『うまくいく』なら大喜びで冷やかしただろう。思うに、康一にとってもコイツ自体は決して悪い選択じゃあない。外見だって、これ以上を望むヤツは高望みしすぎのアホと言っていい。だが、山岸由花子。康一に恋い焦がれるあのイカレポンチの存在がとにかくヤバイ。一歩間違えれば、結果はブツ切りの死体と4号戦車の空席になりかねない。
(ま、すぐに全国大会だしよ……
なんかアクション起こすにしてもヒマがねえ。
そこんとこ心配する必要はねーかもしれねーけど。
警戒しとかねえとやべえかもな)
とりあえずだが、事情を西住の耳に入れておくことは決定だ。華に言おうかとも考えたが、緊急時に強く相手を止められるのは西住だ。だが、言い方は考えなければ。自分の辛気くさい過去の暴露をさえぎった手前、康一の恋愛事情を勝手に開陳するのは気が引ける。これは明日までの課題……そんなことを考えている間に、自分の番が来た。康一に言った通り、自分がシメだ。
「さて……と。最後はオレッスね。
オレがスタンド使いになったのは承太郎さんと同じ頃だぜ。
身近な血に影響を受けたってことだよな……」
別に聞かれてもいないことは話さなかった。スタンドを身につけた経緯だけを聞いているのだから、それ以外は何もいらない。熱を出して病院に行ったことだけを話した。承太郎は黙っている。康一も何も言わない。西住はじっとこっちを見ている。話を終えたあたりで、秋山が少しガッカリしていた。何かドラマでも期待していたのだろうが、こちとら見世物でもないのだ。それはこいつもわかっているはず。が、拍子抜けしたローズヒップは、それを隠すこともなかった。
「それだけ……ですの?
何か変わった事件とか、ありませんの?」
「ローズヒップ」
即刻、諫めに入るダージリンを見て、考え直したのはむしろ仗助である。どうもこいつは、根っこがとにかく素直にできているらしい。康一が脇から袖を引いてきた。
「話した方がいいよ、仗助くん。髪型について」
「だよな。危ねぇぜ、こいつはよ」
何の悪意もなくリーゼントをバカにされかねない。そして、そんなことになれば仗助一人のせいで協力関係が終わる。億泰の土下座がまるっきり無駄になるのだった。
「……それで、ッスねぇ~~
病気になったとき、おふくろが車出したんスけど、大雪の中で立ち往生しちまってッスね。
ンな中、自分の学ラン、タイヤの下に敷いて、車押してくれた人がいたんスよ。
その人の髪型がよ、これだぜ!」
一息に言い切って、自分の頭を指さす。大切な、かけがえのない記憶ではあるが、自慢げに話すのは何か違う。本当だったら口になんか出さず、そっと心に秘めておきたい。
「だから、オレをバカにするときは、オレだけをバカにしろ。
髪型には絶対(ぜってぇ)に触れるな。
中学の頃、何度か傷害事件を起こしちまってる。
どうにもならなくなる。真面目にやべえんだ」
「ホ、ホントですよ。これは本当です!
コンビニ強盗の現場を野次馬してた時!
たまたま犯人に髪型をバカにされちゃった仗助くんは、
ぶちキレて犯人を叩きのめしちゃったんだ!」
少し顔がゆがんでしまう。思い返すに、あれが巡り巡って祖父を殺したのだ。悔いたところでもはや何も始まらないし、どのみちスタンド使いは引かれ合う。アンジェロとは結局どこかで会って、誰か殺されていたのかもしれないが。母と自分、二人しかいない家は、未だ異様に広いままなのだった。ともあれ、強く警戒を呼び掛ける康一に感謝はすれど、文句など出ようはずもない。
「東方さん」
「はい」
「ご存知でしょうけれど、貴方の髪型。
その語源は、イギリスはロンドンの『リーゼント・ストリート』にありますわ。
貴方の背負う看板に恥じない振る舞い、期待しましてよ」
「わかりました……裏切りませんよ」
「そうある限り、我が聖グロリアーナは貴方の友人よ」
ティーカップを置いて微笑んでいるダージリンに、仗助は思わず下唇を噛んだ。悪い奴ではない。嫌な奴でもない。それでもだ。
(グレート。うかつにハイハイ言ってられねー)
気づかないうちに取り込まれる。善悪と関係ないところで、こいつはヤバイ。現状もっとも危機から遠いこいつが、気づけばほとんど司会進行をやっているのもそれだ。善意も悪意もなく、当然のように。単純に、誰もやろうとしなかった役を拾っただけとも言えるのだろうが。西住が負けてしまった訳の片鱗が見えた気がする。
「他に話しておきたい事は?」
「……あっ、もうないッス。スミマセン」
「そう。では、アンチョビさん」
「えっ」
話の終わりを確認したダージリン。彼女に唐突に呼ばれたアンチョビは、自分のスタンドに足を引っ掛けて蹴り飛ばしてしまった。足元に置いたままだったらしい。
「貴方をこのまま帰せませんわ。
スタンドの使い方も、能力もわかっていない貴方をね。
ちょうど、傷を治せる東方さんもいらっしゃいますし……
試しませんこと? 色々と。色々と」
なぜ、二度言った。アンチョビはたじろいだ。
「そうだな。今しか出来ない。
少しつらくとも生き残るためだ。耐えてもらう」
「未知の能力を試す。
……これは、ワクワクしますねぇッ
新型戦車のおヒロメに立ち会う気分ですよぉーっ
立ち会ったコトないケド!」
「ワクワクって、他人事だと思ってるよなぁ~お前ら!
く、来るなよ。こっち来るなぁぁーッ!」
その後、アンチョビは本当に色々されることになる。色々。正確に言うとアンチョビのスタンドに、だが。スタープラチナに刀身をつままれ、全力で折り曲げようとされ、最終的には膝を枕にオラオラされまくった。店の床が陥没し、ローズヒップがズッコケた。
「どうッスか、承太郎さん」
「ダメだな。硬くも柔らかくもない……
剣の形をした『空間』とでも言うべきだな。
これは破壊することも、されることも決してないらしい」
「実体がないスタンドで、さらに実体がない?
なら、これならどうですか?」
西住がトゥルー・カラーズで素早く丹念に色を塗る。刀身と柄の色とが微妙に変わった。剣の周りにスタンドの塗料を塗りつけて、それによって実体を与えようということか。やりたいことを一瞬で理解した仗助だったが、直後にはしゃぎ出したペパロニの反応は完全に理解の外だった。
「あッ、何それッ いきなり剣が……それが姐さんの?
マジ勇者みてぇーーーッ」
「え、見え……あ、あぁッ なるほど!」
康一の『なるほど』でようやく思い当たった。
「えっ……何? なんで?
どうして見えてんだよ、こいつによぉ~ッ」
「虹村どの。『見える』スタンドです。
西住どののトゥルー・カラーズは色を塗るスタンド!
もしスタンド使いにしか色が見えない能力だったら、
あまりに哀しすぎますよぉっ」
「……あぁーーーっ なるほど!
わかった! おめーの言ってることわかったぜ、秋山!
つまりよ、スタンドに色を塗りゃあよぉ~~~」
「ハイ、『見える』んです。
この場にいる、どなたにでもご覧になれますよぉーーーっ」
「グ、グレート……言われてみりゃあ当然のことだぜッ」
思わず西住を見ると、表情に困惑が張り付いている。なんでこんなに驚かれるのか。まさかみんな、その発想はなかったのか。顔にそう書いてあるようだった。続いて承太郎を見る。やれやれだぜ。顔にはそうとしか書いていなかった。
「と、とりあえず試してみるッスよ。承太郎さん」
「わかった。斬ってこい仗助。音石にかかるつもりで全力で来い」
「あ、ハ、ハイッス」
投げ渡された剣をクレイジー・ダイヤモンドで受け取ってみるものの、剣の使い方なんかわからない。結局剣道をマネた動きでドラララと斬りかかりまくったが、わかったことはたったひとつ。
「塗られたペンキ分の威力しかねぇーッスよ、これ」
「だろうな。重さもない。それでも無理に攻撃すれば剣の方からそれていく……
これを戦いに使うのは不可能だ。盾にすら使えない」
「んじゃあよ~どうすんだよ承太郎さんよぉ~、ないない尽くしじゃあねぇーか!」
「アプローチを変えてみるのはいかが?」
ダージリンが指を鳴らすと、付き人っぽいオレンジ髪が水を張った大鍋を台車に積んで持ってきた。そして、それが一瞬で煮立つ。
「熱だったらどうなるか。もしかしたら水の方が変質するかも」
無言の承太郎は、ためらいなく剣を鍋に差し込んだ。衆人環視の中、数分間、鍋で煮込まれるファンタジーな剣。アンチョビは口をパクパクさせていた。イイ店で出される魚の活け造りみたいに。注意深く聞いてみると、何かブツブツ言っている。
「ア、アレは私で、それが叩かれて、鍋でグツグツされて……え?
ナニされてんだ? 私、何をされてるんだ今?」
「味はどうッスかねぇ~」
「なんかペパロニとカルパッチョが『だし汁』の回し飲みを始めた……剣の? え?」
「塩ならありますわね。擦りこんでみましょう。
オレンジペコ、氷をここに。急激に冷やしながら塩で揉むのよ」
「『塩』『氷』……って、コラァァァァーーーッ!」
が、ついにキレた。どう見ても悪ノリしかしてない役一名に。
「塩と氷で味でもシメる気なのかぁーッ
第一何をやろうとしてんだよお前はーッ」
「……『石川や 浜の真砂は 尽きるとも』」
「それ格言ってゆーより辞世の句な。
しかも油だろーがそれ」
「オレンジペコ。オリーブオイ……」
「いらんわッ 今度は天プラか? 天プラなんだな?
それに冷静に考えりゃあヒトをナチュラルにドロボー呼ばわりだよなソレ!」
「カラッと仕上がりますのよ」
何を言っているのかわからない。秋山の戦車談義状態だ。秋山の方を見てみると、目を泳がせている。わからないらしい。康一も同じ状態で、億泰は早々に聞き流しを決め込んでいた。承太郎は……おもむろにフワリと手を浮かせていた。直後、机をドン!
「エネルギーの干渉を受け付けないスタンドだということはわかった。
問題は、これが『能力』によるものなのか、または単なる『性質』かということだな」
全員黙って静まり返った中を、静かに話す承太郎。女が騒ぐとムカつく人が、よくぞここまでガンバッた。仗助は心の中でそっと拍手。
「康一くんじゃあないが、何かきっかけがあれば能力もつかめるだろう。
人を巻き込まないところで、色々と試してみればいい。
俺が護衛につく以上、その程度の自由は確保する」
「ハ……ハイ。ありがとうゴザイ、マス。スミマセンホントに」
話は、ここで終わりだった。後は、全員でケータイの番号を交換しあっただけ。ヘバッたアンチョビは、フラフラしながらペパロニとカルパッチョに肩を貸されて出て行った。思えば、今日のこれで一番疲れたのはアイツだっただろう。
「あはは。疲れた顔してるね、東方くん」
「そりゃあよ……あっ」
「?」
新幹線の待ち時間中。西住に声をかけられ、自分自身もだいぶくたびれているのに気が付いた。それと同時に、この瞬間まで忘れていたことがひとつあったのにも気づく。別に電話でもいいのだろうが、早い方がいい。
「ちっと提案があるんだがよ。西住。
判断はそっちに任せるぜ。オレらはほぼ無関係だからよ」
「無関係……学園のこと?」
「拠点を絞って戦力を集中する提案だぜ。
戦線を減らす、っつー言い換えもできるぜ」
「つまり、チリ・ペッパー対策だよね。詳しく聞かせて」
「実際の方法に落とし込むのはおめーになっちまうんだがよ。
つまりは、こうだぜ……」
To Be Continued ⇒
今回遅くなった理由のひとつに、
安易に扱ったら全て黒コゲになる二次創作界の危険物質を
目に見える形で突っ込んだこともあります。
もちろん、『これ』が出るからには『あの人』が来ます。