GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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億泰の、ちょっとした試練回。
彼視点も続くのです。


スタンド使いは引かれ合います!(6)

虹村億泰(にじむら おくやす)は、さして身構えていなかった。今まで学園艦なるものに縁もなかったからだ。無礼にはならないように、ダージリンの話に耳を傾ける。

 

「あれは、先代の隊長……

 アールグレイ様ですけれど……が誘ってくださった

 慰労会でしたわね。当時、マチルダの一隊を預かった

 直後の私も、皆さんとスキーに行ったのよ」

「マチルダ?」

「イギリスの歩兵戦車ですよう」

 

わからずオウム返しした単語に、即座に答えてくれる秋山。歩兵なのか戦車なのかよくわからないが、それはまあ後で聞こう。

 

「麓のホテルに泊まって二日目。

 夕方まで滑っていた帰りに、その『男』と出会った」

「『男』?」

「調子に乗りすぎて体調を悪くした私は、

 一足先にロープウェイを下ってホテルに戻ろうとしていたわ。

 そして、そこを狙われたの」

 

ダージリンはすでに、ティーカップから手を離していた。

 

「『弓と矢』を持った男よ。気がつけば彼は、

 私に向かって『弓』をキリキリと引いていた」

「『弓と』……『矢』……だとォ?」

 

億泰だけでなく、仗助も息を呑んでいた。心当たりはひとつしかない。

 

「当然、逃げたわ。

 道路じゃああっという間に狙い撃たれるから、雪の中に向かってね。

 でも、遅すぎた。背中から撃ち貫かれた私は雪に倒れ込んで血を吐いた。

 そんな私に、後ろから来た男はこう言ったわ」

 

『あ~~ダメだなこりゃあ。死ぬな……

 ま、期待をしたオレがバカだったってとこかな……

 高いオモチャで遊んでるような奴らにな……』

 

「そのまま私は放っておかれた。あの男は『矢』だけを引っこ抜いていった。

 雪が『始末』をつけてくれると思ったのでしょうね……

 事実、雪の中に倒れたまま、翌日の昼過ぎまで発見されなかったわね」

 

壮絶な話だ。そして誰の仕業なのか、ほとんど明らかではないか。だが信じたくない気持ちが働くまま、億泰は聞いた。

 

「ど、どーやって!

 どうやって生きてたんだよ、先輩よぉー」

「私のスタンド、ティー・フォー・トゥーは水を温めるスタンド。

 ギリギリで目覚めた能力のおかげで、

 即席の『温泉』を作ることが出来ましたわ」

 

そう、億泰も見ていた。品のいい磁器の花瓶が組み合わさったような人型のスタンドは、触ったレモネードを一瞬でホットにした。

 

「そんなこんなで、慰労会は解散。

 せっかくの温泉も、ほとんど入らずじまいでしたわ」

「ダージリン先輩よぉー」

 

そこに仗助が、トドメの質問をした。

 

「その温泉ってよぉー、なんて名前だよ」

「『白布温泉』ですけれど」

「……グレート」

 

確定だった。時期も状況も、全て揃ってしまった。

 

「億泰。おめーが白布温泉に行ったのは『何年か前』っつったよなぁー」

「……『二年前』だぜ。行ったのは『二年前』だぜ!

 先輩! あんたを貫いたのは間違いねえ。

 『虹村形兆』オレの兄貴だぜぇ~~ッ」

 

億泰は完璧に観念してしまった。言い逃れもクソもない状況で、しかも自分の性格で誤魔化しきれるなどとは露ほどにも思えなかった。ダージリンの目が、スッと細まる。

 

「そう。それは困ったわね」

 

その口調に、許すような響きはまったくない。紅茶を飲む仕草は変わらず、彼女を包む体温だけが雪に包まれたように下がっていた。他ならぬ億泰が、それを敏感に感じ取っていた。

 

「本当に困ったわ。とんだところで出てきたものね。

 私を殺した犯人の身内だなんて」

「返す言葉もよぉ……ねえぜ」

「ここまでの協力関係、ご破算にするには充分な理由ね」

 

ダージリンは目を閉じている。そこからは何も言わない。億泰はどうすればいいのか。この答えを他人に求めた日には、救いようがない。かといって何ひとつ考えつかない億泰がとった手段は。

 

「何の真似ですの?」

「オレのことは、許さなくてもいいよ」

 

膝をつき、床に額を擦りつけた土下座。誰かはわからない。席を立ちかける音がした。

 

「オレは兄貴の片棒をかついでいた男だ。

 あんたから見りゃあ同罪の男なんだよ……

 だから許さなくていい。

 どんな扱いをされても、オレは文句を言わねえ」

「なら。『それ』は一体何ですの?

 『だから俺は謝らない』そう聞こえましてよ」

「だが、話のご破算だけは待ってくれ!

 ここにいる、どいつもこいつも! オレや兄貴とは無関係……

 それどころじゃあねぇッ あんたと同じ被害者だ!

 そこの仗助は、じいさんを目の前で」

「それ以上ぬかしてみろ、てめーの顔面を整形するぜ」

 

土下座していた顔面を掴まれ引っ張り上げられると、そこにいたのは仗助だった。激怒しているようには見えないが、その口調が有無を言わせない。

 

「ダージリン先輩よぉー、許せねえっつーんならしょうがねえ。

 許してやる義理なんか、そりゃあねぇーよな。だがよ」

「仗助ェェ~~ッ」

 

だが億泰は、掴んだ手を振り払って遮った。

 

「もう、おめーとか他のヤツらは引き合いに出さねーよ。

 だから黙っててくれよ。ここはオレじゃなきゃあならねえ」

「……。いいのかよ?」

「『いつか来る日が今日だった』それだけだろうがよ」

 

ここで他人に守られたなら、兄貴が去ってなお、一人で戦えない男に成り下がる。いくら頭が悪くても、男を捨てるほど終わってはいないつもりだった。とはいっても、それはあくまで億泰の都合。仗助はそこを直ちにツッコンできた。

 

「それはいいんだけどよ。ダメだった時のこと考えてんのかよ、おめー」

「ウグッ……」

「ダメなら口を出す。さっさと続けろ」

 

返事に詰まった億泰の背中を押してきたのは、意外にも麻子。コイツがタレるのは大体イヤミなのだが、今回は正直、助かった。他人に守られていることに変わりない気もするが、これ以上ややこしくなるのはゴメンだ。オホンと咳払いをして、ダージリンの方を向く。口を開いたのは、向こうからだった。

 

「それで。落とし前はどうつけて下さいますの?」

「オレはよぉぉ~~……さっき、こいつらは無関係って言ったよな……そのスジをよ。通すぜ」

「具体的には?」

「まず、音石のヤロォをブッ潰すまでは何もしねえ。このままだ。

 だがその後は、ここにいる全員と……関わらねえ」

「アホか」

 

噛み殺すように吐き出していた言葉は、真横から麻子に一刀両断された。つまり『ダメ』と即行で断じられたことになる。それと、隣の仗助がまったく同じタイミングで舌打ちをしたのも億泰によく聞こえた。

 

「逆を考えろ。そうなったら私たちは『都合が悪くなった仲間を切り捨てたクズ』だ。

 信用できるか。そんな奴ら」

「うぅっ……、……!」

 

臓物がガオンとえぐられた気分だ。スジを通すどころか、その実こいつらを貶めるだけだったとは。麻子の一撃はド真ん中を直撃して反対側まで撃ち抜いていた。

 

「よく聞こえませんでしたわ。失礼……もう一度、言ってくださる?」

 

ダージリンは聞こえないフリをしている。億泰にもわかるアカラサマさでだ。次の間違いは許されない。とはいっても、こいつらは無関係だから、というやり方はもうダメ。姿を消すことで責任なんか取れないと、たった今突きつけられたばかり。ではどうする。生命ひとつ分の責任を、どう取る。

 

「生命、ひとつ分……」

「何ですの?」

「そうだ! 『生命ひとつ分』だぜ!

 あんたの生命ひとつ分の働きをする!」

「……ですから、具体的に」

「兄貴があんたの生命をとったってんなら、オレはその『逆』をやる!

 あんたが生命を落としたときは、オレが拾うッ

 それ以前によぉぉーーーッ 死んじまうような目に遭うっつーなら、

 オレが守りゃあいいってコトだなぁー」

 

思い付きで言ったようになってしまったが、通せるスジはこれしかない。ダージリンはパチクリと瞬きを数度する。何か変なことを言ったか?

考えろ。さっき仗助は言っていた。自分のやっていることを傍から見て考えろと。今、自分が言ったのはこれだ。『オレがあなたの生命を守ります』……ヘンな冷や汗がドバッと出た。

 

「な、ナシ! 今のナシ!

 歯が浮くナンパ文句じゃあねぇーか!

 申し訳ねえ、ちっと言い方考えさせてくれッ」

 

ダージリンが吹いた。胸元を押さえてクククと肩を震わせている。それが収まらないまま、彼女は言ってきた。

 

「この格言なら、あなたもご存じね?

 『男に二言なし』」

「ンだとぉ~ッ」

「私の生命ひとつ分。安くはないわ。

 覚悟しておくことね」

「……なんかよぉぉー、取り返しつかねーコトになった気がするぜぇ」

 

振り向いた億泰は、仗助に向かって言ったつもりだった。が、いない。そこはすでにただの空間!

気がつけば仗助は、席で肘をつきながら紅茶をズビズビすすっていた。

 

「オイ、仗助ぇ?」

「……。オレ? おめーオレに言ってんの?」

「てめー以外に誰がいんだよっ」

 

目だけ上げてこちらを見た仗助は、しかしすぐに無視するようにティーカップをあおった。

 

「知らねーぜ……ダージリン先輩に聞いてもらえば?」

「ハァ?」

「カンケーねえんだろ、オレはよ。

 面白くねーの。せっかくカバッてやろーとしてもこれじゃあよぉー

 むなしいよなぁー、『空回り』ってのはよ……」

 

頭上にいくつかハテナを浮かべて、億泰はハッとなる。そして、またも赤い絨毯の上に五体投地気味な土下座を晒した。

 

「悪かった! 悪かったぜぇ~ッ」

「オレだけ? 頭下げんのはオレにだけぇ?

 そっかぁ~ カンケーねぇーもんなぁ~」

「オレが悪うございましたァァァ~~ッ!」

 

康一と女どもに向かって再々土下座。これまた侮辱だったのだ。仕方がない。

 

「もう~バカだなぁー億泰くんは!

 ひとりで勝手に突っ走らないでよね!

 ぼくらがついてるからいいようなものの……」

「もういいから席に戻れ。うっとうしい」

「私も許しました。次は無しですよ、虹村さん?」

「ま、アレよね。私、アンタのこと捨てるツモリないからね? オトモダチとしては」

「東方どのスネちゃいましたねぇ、仲直りしてくださいよ。チャンと」

「ありがてえんだか、なにげにヒデエんだか……好き勝手言うよな、おめーら」

 

思い思いのことを言う奴らに少し遅れて、西住も首を少し傾けて微笑みかけてきた。

 

「虹村くん」

「おう?」

「よかったね。それだけ」

「ン? お、おうよ」

 

たったの5文字が、異様に意味深だった。オレが許されたから喜んでいる……そうだが少し違う。どちらかというと、みんなが許したから喜んでいる。そんな気がするのだ。

 

「やれやれッスねぇ~~

 西住にそう言われちゃあ仕方ねえ……許すぜ、オレもよ」

「ワリい、仗助」

「許す、っつってんだろうがよ。

 戻ろうぜ。話がつっかえてるぜ」

「それなのだけれど」

 

紅茶をすすりながら今の騒ぎを傍観していたダージリンが、待っていたように声をかけてくる。

 

「スタンド使いになったきっかけ。次は、あなたに話して欲しいわね」

「別にいいけどよ。なんで?」

「被害者としては『納得』がしたい。いけないかしら」

 

こいつが何を言っているのかわかった。虹村形兆の話をしろと、こいつはそう言っている。当然の欲求だ。自分が同じ立場なら、ワケがわからないままなのはゴメンだ。

 

「わかったぜ……だがよぉぉ~、ここの奴らに聞かせたくねえ話がある。

 チィと表に出てくれねーかな」

「ここの皆も被害者。そう言っていたのはどなた?」

「ヌググ……」

「そして、話したい範囲で、と言ったのは私でしたわね。

 洗いざらい話せとは言いませんわ。話せる範囲で構いませんのよ」

 

迷った。考えた。ダセえマネはしたくない。億泰なりに頭をひねり、ようやく絞り出した説明は、やはり輪郭がぼやけまくっていた。

 

「不死身のバケモノをよぉー、殺せるスタンドを探してたんだ。兄貴は……

 『矢』を見つけて、最初に刺したのが兄貴自身でよ。

 数日後にオレもスタンド使いになった」

「不死身のバケモノ。それもスタンド?」

「違うぜ。吸血鬼の手下……だな。

 悪いがこれ以上は話さねえ」

 

話をどう受け止めていいか悩んでいるらしい。ダージリンの目が宙を泳いでいる。

 

「……困ったわね。謎がさらに謎を呼んでいるわ。

 吸血鬼というのは例え? それとも……」

「本物だぜ。会ったことはねえけどよ。

 もう、いいかよ」

「最後に、ひとつだけ」

 

目の前に、一本立てた人差し指が差し出される。

 

「あなたのお兄様が去り際に言っていたこと。

 私はあれに、戦車道への『嫌悪』と『憎しみ』を感じたわ……

 弟のあなたに、心当たりはありまして?」

「わからねえ。少なくとも兄貴に戦車道は無関係だぜ」

「では、お母様はどうかしら」

「……わからねえ。おふくろはよぉー、オレが4歳の頃に死んじまったからよ。病気でな。

 ほとんどわかんねぇーぜ。なんか思い出そうにもよぉー」

 

周りがざわついた。億泰も、顔をしかめて首をすくめる。ダージリンも真顔になっていたが、こちらの目を覗き込むような視線を少しくれた後、何事もなかったように続けた。

 

「お母様のお名前は?」

「『虹村万千代(にじむら まちよ)』だぜ。

 関係ありそうかよ? 戦車道によ」

「わかりませんわね……でも、お名前は預かりましたもの。

 こちらでも少し調べてみますわ。漢字を書いて下さる?」

 

隣のチビ女からペンを受け取ったダージリンが、それを差し出す。とはいっても、必要がない。億泰の経験からして、しゃべる方がよっぽど早くてゴミも出ない。今回もそれにならう。

 

「書くまでもねーぜ。簡単なんだ。

 親父の名前が『垓(がい)』でよ。

 そのまんま垓形兆億万千でよ、万と千だぜ。

 んで、先祖代々の代って書いて『代(よ)』だぜぇー」

「あら、素敵なお名前。なるほど、覚えましたわ」

 

しかし、ダージリンの方がしっかりメモをとっていた。これなら書いた方がよかったかもしれない。メモをしまい込んだダージリンは、今度は入れ替わりにケータイを取り出した。

 

「ケータイはお持ちかしら」

「持ってるぜ。作ってもらったぜ、会長サンに」

「連絡先をいただくわ。『私の生命ひとつ分』いずれ取り立てますものね」

「わ、わかってるぜぇ~。チキショー」

 

オンナのコとの番号交換が、こんなにも気が進まないモノだとは思わなかった。ポケットの中にあったケータイをイジクッて、番号を読み上げようとすると、向こうから何やらケータイを向けられた。

 

「赤外線通信。こちらの方が間違いありませんのよ」

「チョイ、チョイ待ちッ

 ンなコト言われてもよぉ~、ワカンねーぜぇ。

 昨日今日持ったばっかでよぉ~~」

「ラチあかないわね。ほら貸した貸した」

 

四苦八苦していたのを、沙織がスッと奪い取った。二、三、何か操作してからダージリンに相対し、さして時間も経たずにケータイを返される。『電話帳』が開いていて、そこに『ダージリン』の名があった。ここから番号を呼び出す操作なら、おりょうのケータイで覚えている。

 

「ついで、ではないですけれど。

 他の皆さんとも番号を交換しましょう。帰り際にでも」

 

助けを求める可能性もあれば、求められる可能性もあるだろう。ダージリンはそう言って、手の平のケータイを示した。そして席につき、ティーカップを手に取る。

 

「次は……そろそろ、準備が出来たようね。アンチョビさん」

「ああ。今のを見ててハラも決まったしな」

 

いつの間にか、足元に置いていた自分のスタンドを拾っていたらしい。柄を手で少し弄ぶと、机の上に横たえて、席を引いて立ち上がった。

 

「じゃあ、話すぞ。あれは去年の夏。

 イタリアのネアポリスでのことだな。

 私はもう、イタリアには近寄れない。

 ペパロニやカルパッチョも近づけたくない。

 今から話すのは、その『わけ』だ……」

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




当然のように京(けい)を形(けい)だと思ってるおっくん。

億泰の両親の名前は、原作中に記述ゼロです。
謎の人、空条貞夫&西住常夫と違って顔も原作中に出てくるというのに。

次回はアンチョビさん視点となります。

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