GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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今回は麻子視点でお届けになります。
なのでスタンドは見えないし聞こえません。
ほぼケータイからの執筆オンリーになってしまって、
推敲がだいぶ甘いかもしれんです。


スタンド使いは引かれ合います!(4)

冷泉麻子(れいぜい まこ)は、今回、自分は置物だと思っていた。

 

「空条さん、仕切りはお任せしても?」

「わかった。ではまず、『これ』が見える奴は手を上げてくれ」

 

スタンドなんか当然見えない。この状況で、それが『幸い』なのか『不幸』なのかはわからないが、核心に居合わせる人間でないのは確実だ。見たところ、聖グロのオレンジ髪……確か、オレンジペコとか言ったか……が、ちょうど自分と同じ立場であるようだ。見えないことを知っている。空条承太郎の不可解な質問にとくに反応を見せず、ああそうだろうな、みたいに流している。逆にアンツィオの連中は反応が明確に分かれた。隊長のツーテール縦ロール、アンチョビは少し泣きそうな顔になり、他の二人はいぶかしげにキョロキョロしている。こいつらは『知らない』動きだ。ほどなく手が上がる。杜王町三人組はすでに手を上げていて、優花里が続いてエッヘンと誇らしげに手を上げた。それを見たみほも笑って続く。応えるようにダージリンが挙手。脇にいた赤毛も、なにやらウキウキした顔で挙手。最後に、心底気が進まなそうにアンチョビが挙手。スタンド使いは、全部で9人。

 

「まずは手短に用件だけを言う。

 音石明という男が、戦車道チームの乗っ取りを企てている可能性が高い。

 各校連携して、これを阻止したい」

「わかるように補足しますけれど。

 音石明は『見える』男だそうですわ。

 そして電気を操り、電線さえ通ればどこにでも現れる」

「わからねー、なにひっとつわからねーっ」

 

アンツィオの黒髪が突っ込んだ。金髪も同感のようだ。当然だと麻子も思う。

 

「まず、話がまるで見えません。

 わかるようにお願いします」

「だろうな……

 仗助。悪いが能力を見せてくれ。

 お前以外のはかなりわかりにくい」

「了解ッスよ。あんましジマンげにやるモンじゃあねーッスけど」

 

能力を明かせというのは弱点を明かせに等しい。それだけに信頼を示すにも使えるのだろうが、それを自分でやらないのはどうなのだろうか。アレにソックリだとかスージーQに言われてこっち、なんか反感を持ってしまう麻子であった。面倒くさいので表には出さないが。

 

「えぇーッと、取り出しますのは千円札」

 

何をやるのか、この時点で読めた。こいつと付き合いがあれば嫌でもわかる。いや、スタンドまで知っている奴はそうそういないか。注目を集めた仗助は、三枚取り出したそれを、ビリッビリと音を立て、乱暴に粉々に破いてのけた。

 

「ギャアアアアーーーッ!」

 

引き裂くような絶叫を飛ばしたヤツを見て、麻子は出かけたため息を押し殺した。

 

「なンで、てめーがビビッてんだよ。億泰」

「ンなッ! ンなオソロシーことをオレの前でやるな!

 心臓がッ 心臓が、ヒイィ~ッ」

「気は進まねーんだぜ、オレだってよぉ~っ

 だけど、メーワクかけずにインパクト与えるにはよぉーっ」

「呪われる! てめーは金に呪われるぜぇーっ

 千円札を殺したヤツは、千円札に殺されちまえ!」

「何言ってんだおめー」

 

ゴン。

机に拳を打ち付けたのは承太郎。軽くだったが、その音は決して小さくなかった。帽子に隠れて目元は見えない。

 

「す、すいませんッした……続けますぜ」

「じょ、承太郎さん。悪かったぜぇ。ナニも机ゲンコしなくてもよぉ~」

 

気を取り直した仗助は、今度は千円札の切れ端を高く掲げて注目を集め、能力を発動。いつものごとくビデオの逆再生が起こった。今回はケガ人もいないのだから、誰も痛い思いをしていない。何よりだ。散り散りの破片がひとりでに舞い戻っていくのを目の当たりにしたアンツィオの黒髪は口をアングリ空けて呆け、そして拍手ではしゃぎだした。

 

「す、スゲェェェ~~~ッ なぁ、どういう手品よ?」

 見てても全然わかんねーし! コッソリでいいから教えろよ。なぁ」

「だから、あのな? タネもシカケもねえんスよ、コレ」

「やっぱりかぁー、メシのタネはカンタンに明かせねェーよなぁーっ」

「グレート、話進まねえ。

 9人のユカイな手品師になっちまうぞ、このままじゃ……」

「ヘソが茶を沸かしましてよ」

 

眉が八の字になった仗助に、ノンキなフウにかまえたダージリンが激しく湯気を吹くポットを見せつけた。キョトンとした仗助は、直後にズリズリと床にくずおれた。

 

「くっ、くだらねェェ~~~

 アンタね、まさかズッと待ってたんじゃあないでしょうね?

 そのネタおヒロメする時を、今日まで、ズ~ッと!」

「『お仲間』のお客様ですもの。

 とっておきのおもてなしなら、ずっと考えていますわ」

「その『やってやったぜ』みてーなツラ引っ込めてから言え!」

 

麻子も見ていた。くだらない。死ぬほどくだらないマネをしているが、そこにさらりと『お仲間』へのアピールを含んでいるあたり、底が知れない。

 

「当意即妙、ですね」

 

そうつぶやいた華は、かえってその表情を引き締めていた。ここに火元はない。コンセントから伸びたコードもだ。あるのは磁器のポットだけ。

 

「まあ、いいや。アンタが収拾して下さいッスよ、ダージリン先輩。

 承太郎さんがキレる前に」

「よろしいの?」

「オレに負けず劣らず、わかりやすい能力みたいだからよ」

 

ポットをオレンジペコに渡したダージリンは、室内中央に進み出ると、アンチョビに確認する。

 

「水筒はお持ちでして?」

「あ……あぁ。レモネード持ってきた。

 冷たいヤツな。手作りだ。ジュース買うとかもったいない」

「一杯、いただけませんこと?」

「あ、姐さん。あたしにも一杯ちょうだいッス。

 甘いモノが欲しくってさぁ~

 頭使ったからかな……」

 

要領を得ない顔で、用意されていたグラスにレモネードを注いだアンチョビにひとつ微笑むと、ダージリンは利き酒でもするような仕草でそれを振ってみせる。全員の目が集まったところで、彼女は『何か』した。そうとわかるのは、グラスから湯気が上がっているからだ。レモンの爽やかな香りが温かい霧となって漂い始めた。

 

「ンなッ!……」

「あ、アレ? 姐さんのレモネードはよく冷えててッ

 んで、あれはガラスのコップで……アレ?」

「私のだけではありませんのよ。ペパロニさん」

 

アンツィオの黒髪が、恐る恐る手元を見た。ついでにもらったレモネードから湯気が出ている。

 

「あ……アチい

 いつのまにかホット、に」

「『ティー・フォー・トゥー(あなたとお茶を)』

 この能力を、私はそう呼ぶ。

 手品でないこと、納得いただけた?」

 

目を丸くしたままでしばらく沈黙した黒髪……ペパロニは、だがすぐに喜色満面と化した。

 

「スゲェよコレは……アンチョビの姐さんもだって?

 さっき手ェ上げてたもんなぁーっ

 ビッグに! ビッグになれるぞぉーアタシらッ!」

「ちょっとアナタ、どーする気?」

「どーするってお前! えぇーっと」

「沙織ね。武部沙織」

 

嫌な予感しかしなかったのだろう沙織に、やれテレビだ何だ、ミスターマリックでユリ・ゲラーで、戦車道にお金がジャブジャブ注げるだの何だのとまくし立て始めたこの幸せ頭は、しかしすぐに当のアンチョビに怒鳴られた。

 

「これはッ! バレたら表を歩けない『力』だぞ!

 そういうことだったのか……うううッ」

「え、なんで?」

「マンガでもよく出てくると思うんですけれど、ペパロニどの。

 超能力者が迫害されたり、仲間外れにされたり。

 最悪、変な集団につかまって実験台にされたり」

「あぁ? ンなヤツ、アタシが許さねーッ

 姐さんにンなことさせねぇーッ」

「なら、そうなるようなことをするお前は何だ」

 

ついに、麻子自らが突っ込んでしまった。その甲斐あって、わかってはくれたらしい。宙をにらんだペパロニは、ほどなく意気消沈した。

 

「俺の古い知り合いの話だがな」

 

承太郎が珍しく。本当に珍しく、語って聴かせる。

 

「生まれつきスタンド……超能力を持ったそいつは、

 家族にすらそれを理解されなかった。

 そいつは友人も仲間も作ることができず、

 ある日、そいつを利用しに近づいた悪党に耳を貸した」

「それが、何なんスか」

「さあな。何を感じるかはお前の勝手だ。

 ただ、お前が今言ったようなことをそいつがされたとして、

 そいつの未来がマシになると思うのか」

「……思わない。

 むしろ『利用しに近づいた悪党』のやることじゃあねーかよ」

 

どれだけ浅はかな発言だったのか、完全に腑に落ちたのだろう。気まずい顔になったペパロニは、その場で頭を下げた。

 

「姐さん、ごめん。みんなもごめんなー」

「お気になさらないで。

 そういうことを考えたことがないと言えば

 ウソになりますもの、私もね」

 

ホカホカのレモネードを、ダージリンはすすった。役目は果たしたと思ったのだろう。席に戻っていく。その隣に座っている知らないヤツ……赤毛のヤツが、興味津々な顔で、承太郎に質問を投げてきた。

 

「その方、どうなりましたの?」

「ん?」

「私も、生まれつきですの。

 家族にもスタンド使いはいませんわ。

 だから、気になりますの。その方がどうなったのか」

 

そういう悲愴感とはまるっきり無縁そうなヤツだが、ウソとも無縁そうなヤツだ。紅茶を飲みながら顔を覗き込んでくるそいつに、承太郎は帽子を少し深く被り直してから答える。

 

「その悪党と戦って、死んだ」

「う……悪党は、どうなりましたの?」

「そのすぐ後に殺された。

 四人がかりで戦っていたからな」

「ひとりぼっちではなかったんですのね。

 生きていてほしかったですわ」

「……ああ」

 

承太郎はティーカップの紅い水面に視線を落としていた。

 

「『DIO』、か?」

「誰に聞いた」

 

麻子としては、仗助からたまたま聞いていた、遠くで血がつながった悪党とやらの名前を思い出して、もしかしたら、と思っただけだった。だが承太郎の顔色の変わりようたるや、笑い事ではなかった。

 

「お、オレッス。承太郎さん。

 オレのクレイジー・ダイヤモンドが発現した経緯話した時にちょっと」

「そうか。だがその名前はみだりに口に出すな。

 今なおヤツの『信者』が生き残っている。

 音石明どころではない不幸を、呼び込みたくなければな……」

「軽率でした。スンマセン

 今日、アヤマッてばかりいない? オレ」

 

これ以上は、進んで突っ込まない方が良さそうだ。脇に目をやると、優花里がおびえた雰囲気を漂わせていた。みほが心配そうに見ている。

 

「ちょうどいいかも知れませんわね」

 

出し抜けに口を挟んだのはダージリン。

 

「時間が押しているわけでもありませんし……

 自己紹介も兼ねて、スタンドが発現した経緯について話すのはいかが?

 もちろん、話したい範囲で」

「いいだろう。どのみち、西住と秋山の二人のそれは、

 音石明が大洗女子学園でやらかした事件そのものだからな」

「なら、私から」

 

席を立ったみほは説明を始める。先週のあの日の事件。麻子が見ていた部分から、見えない部分に至るまで。優花里についても本人に断り、時系列順に全てを並べた。全員の表情が引き締まる。電線を伝って、どこにでも現れる悪党の姿は、絵空事ではなく伝わったようだ。三日前、黒森峰にも現れたことまで話して締める。今この瞬間も、奴は手駒を増やすべく動き回っているのだ。

 

「質問」

 

話が終わってすぐに挙手したのは、以外にもアンチョビだった。

 

「音石明が悪いヤツなのはわかった。

 だけど、音石の両親はどうなんだ?」

「質問の意図がわからない……そこから聞かせてくれ」

「その、な。ド悪党って言ってもさ。

 お父さんお母さんを簡単に裏切れるヤツって

 結構少ないと思うんだよ」

 

まだ、話が見えない。質問に質問で返した承太郎に不快感を見せることもなく、アンチョビは続ける。

 

「音石明の悪名は今や全国区だろ?

 ヘタしたらそこのダージリンよりも有名だぞ」

 

紅茶をすする、その得意げなツラにハリセン一発浴びせたい。そんなことはどうでもよかった。ダージリンから視線を外す。

 

「お父さんにお母さんがカタギだったなら……

 今、どんな思いして会社に行ってるんだ?

 どんな思いしてスーパーで買い物してるんだ?

 これを放っておくのがまずい」

 

そこで言葉が途切れた。途切れさせられた。ティーカップの割れた音がした。叩き割られた音ではない。そいつは握りつぶして血の混じった紅茶をしたたらせていた。虹村億泰だ。

 

「お優しいこと言ってくれてるようだがよぉー」

 

アンチョビがたじろいだ。ついさっき、コントじみたやりとりをしていた奴が、人を殺しそうな目で見ているのだ。豹変の落差に叩きのめされているようだった。

 

「オレの兄貴の仇によ、眠てえことぬかしてんじゃあねえぞ」

「か、カタキ? 殺され……待ってくれ、そんなつもりじゃあないんだッ」

 

ビクついたその態度を見て、奴の視線はさらにぎらついた。その怒りには納得しよう。だが、アホか。ペパロニが音を鳴らして席を立つ。名前のわからない金髪もだ。騒然となりつつあった場に、割り込んだのは東方仗助。

 

「億泰、おめーよ」

「ンだよ」

「まず落ち着け。んで、おめーが今やってることを

 ハタから見て考えろ。どう思う?」

 

暴力をちらつかせて黙らせようとしているだけだ。この場の事実だけを持ち出せばそうなる。

 

「第一よ、おめーの兄貴の話がカケラも出てねー状態で

 突然キレられて、あいつどうすりゃいいんだよ。カワイソーによ」

 

そう。みほが話したのは、あくまでみほの経験に沿っての話。『矢』の出所うんぬんについては触れていない。億泰の兄が持っていたということ以外、ろくすっぽ知らないので話しようもない。知りもしないものを愚弄できるはずもない。怒ってどうする。

 

「……悪い。ちっとばかしよぉ~

 そのへんで頭冷やしてくるぜ」

 

気が付いたところで後の祭り。こいつ自身がよくわかっているのだろう。いたたまれなくなってその場を出て行ったのが誰の目にも伝わった。

 

「すまねぇ。お騒がせしたッス」

「こんな格言をご存じ?

 『水の価値は、井戸が枯れるまでわからない』」

「……。何スッて?」

「なんでもありませんわ。お話を続けましょう」

 

呼吸するように当たり前の仕草でティーカップを直す仗助。室外から、イテテテ、とか聞こえて砂みたいな破片がやってくる。何事もなかったように元通りになったティーカップに、ダージリンは茶を注がなかった。

 

「お、お言葉なんですけどねぇっ」

 

ちょっと無理にしかめっ面をした優花里が、腕を組んでふんぞり返った。

 

「電気で焼かれたりしてさんざんな目に遭ったのに

 他人事みたいな物言いされて、

 だいぶイラッとしてますよぉー私だって! プンプンッ」

「ううっ、すまなかった。私も言い方が悪かったんだよな」

「……まだ『水』はたくさんあるようですわね。

 それとも、あの方の『井戸』が深いのか」

 

オレンジペコが、次のポットを持ってきていた。その辟易した顔を麻子は見逃さなかった。さぞかし面倒くさいだろう。こんなのと毎日。

 

「お話、続けてください。

 まだ、先がありますよね?」

「おっ、そうだよ。

 何も私だって場違いなヒューマニズム、いきなりウタッたりはしないぞ。

 要はだなぁーっ 今この状況がスデに音石明の良心で成り立ってるのがミソでな」

 

みほに促されて先を続けたアンチョビの提案は、なるほど確かに聞く価値のあるものだった。ある意味で『人質』として機能する。だが部屋から去ったあいつには説明が必要だ。誤解のない説明が。

 

(もしも……もし、音石明に殺されたのが、おばあだったなら)

 

自分の腕力では、どう頑張ってもティーカップは潰せないようだった。だが、この仮定が事実だったならどうか。この細腕が狂人じみた力を発揮することになるのか……麻子には、わからなかった。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒

 




仗助は謝りまくる日。
アンチョビは地雷を踏みまくる日。
億泰は……ちょっとした試練の日ですかね。

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