GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
今回は承太郎視点。ケータイの『う』の予測変換に『承り』が居座っとる。
それと、活動報告でアンケートをお願いしています。
『ガルパン×ジョジョについてちょっとしたアンケート、それと懸念』
ってヤツですね。気が向けばご協力いただきたく。
「警察を呼びますよ」
空条承太郎(くうじょう じょうたろう)は、ごもっともな反応を返されていた。
(やることは何も変わらないがな)
戦車喫茶『ルクレール』にて、店内に入ってくるなり引き返した奴がいた。アッシュブロンドの長髪をツーテールにまとめたそいつは、アンツィオ高校戦車道の隊長。現在集まった情報を確認する限り、もっとも音石明が乗っ取りを画策しやすい戦車道チーム。その代表者が、『スタンドを目で追った』。一刻の猶予もない緊急事態というべきだ。だから承太郎は追った。そして追いつくなり名前で呼びかけ、率直に語った。
『安斎千代美(あんざい ちよみ)だな。
話がある。君の生命に関わる話だ』
結果、彼女はふるえだして立ちすくんでしまった。不穏な言葉を聞かされたから、では断じてなかろう。この反応は間違いない。スタンドについて、何か知っている。詳しいことを聞き出そうと距離を詰めると、警戒心をあらわにした金髪の女学生が大股で立ち塞がった。そして今に至る。
「やんのかテメ~~ッ 受けて立つかんな」
遅れて、黒い短髪の少年じみた奴……当然と言うべきか、女学生だ……も、隊長をかばって前に出た。右拳を左掌で打ち鳴らす。
「やっ、やめろ! 危ないことはやめろよ!
逃げるぞ、関わるな!」
立ち直ったかの隊長は、前に立つ二人の腕を引く。そちらに振り向いた二人は互いを見つめて頷き、走り出そうとしていた。こうなることも想定している。承太郎は早々にカードを切った。
「『角谷杏』。知っているな、彼女を」
走り始めた隊長がビクリと止まった。恐怖に満ちた目が向けられる。
「な、何だよぉ。アイツがどうか、したのか?」
「どうもしない。まずは話を聞いてもらいたい」
「アイツに何をしたんだよぉッ」
「どうもしないし、何もしてねえ。
とにかく一旦黙れ。俺は最初からすべて話すつもりだ」
打って変わり、食ってかかる彼女をやや強い調子でなだめる承太郎は思った。10年前だったらキレて怒鳴りつけていたのではなかろうか、と。観念したようにヘナヘナとしおれた彼女を、まずは安心させねばならない。
「まず、角谷杏には許可をもらっただけだ。
名前を出す許可をな。疑わしければ電話しろ」
「……そうします。で、あなたの名前を聞きたいんですが」
「空条承太郎」
隅によって電話を取り出し、たどたどしい手つきでボタンを押す彼女に代わり、ムスッとした顔で突っかかってきたのは黒髪だった。
「何なんスかアンタ。
姐さんキズつけたりしたらさぁー、許さねぇーッスよ」
「むしろキズをつけないために来たんだがな。
君たちもその中に含んでいる」
確認はすぐに終わったらしく、電話をしまった隊長、こと安斎千代美が戻ってくる。恐怖は多少薄れたようだが、うさんくさげな顔でこちらを見ている。
「あのォォ~、ついていけばわかるよ、とか言われたんですけど……
音石明、ってアレですよね? 変質者の戦車ドロ」
「その通りだ。だが、それが全てではない。
そして、奴の目的のために、君たちアンツィオ高校戦車道が狙われる可能性がかなり高い。
初戦の相手が大洗女子学園になって、さらに危険になった」
スタンドを目で追い、しかもこちらを見た途端に逃げたことから、もう遅い可能性すらあると判断した承太郎は、だからこうして追ってきたのだが、それは今言うべきことではない。それにこの反応を見るに、音石明とは現在まったく接触がないのは明らか。ということは、そこまで焦る状況ではなくなった。知らずスタンド使いにされていたとしても、守ることは可能。
「わかりました。お話を伺います」
「ドゥーチェ、それは」
「行くしかないだろ。知らないことで、みんなが危険になるのなら」
さほど考え込むこともなく、ほぼ即答した彼女だが、警戒は保っているようだ。角谷杏が悪党の手に落ちている可能性を、一応想定していると見える。彼女からしてみれば、この空条承太郎こそが音石明の手先である、ということすらもありえるだろう。賢明だ。
「英国式喫茶『チャレンジャー』。話はそこでする」
「アンツィオ生つかまえてイギリス式とはイイ度胸ッスねぇーアンタ」
「主賓がそこを指名してきた。俺達が決めたんじゃあない」
挑みかかるように睨めつける黒髪の相手は面倒くさかったが、信用を得るには好都合でもある。案の定、ピンと来たらしい安斎千代美は聞いてきた。
「主賓が英国? グロリアーナですか」
「ああ。大洗女子と聖グロリアーナの戦車道、隊長周辺の数名が来る。
そこに俺達、音石明を追う四人が参加する」
「俺達四人。当然、私たちじゃあないから……あなたの関係者があと三人か」
「理解が早くて助かるな。さっそく来てもらおう」
うなずいて、安斎千代美はついてくる。うさんくさげな眼つきがだいぶ薄れた。
「いいんですか姐さん、こんなガチのマフィオーゾみたいなヤツに。
ゴッドファーザーのテーマキコエてキソーッスよ!」
「多分、この人はウソを言ってないぞ、ペパロニ。
今、ここで私がさらに聖グロに連絡をとれば、ウソが破たんするだろ?
そんなマヌケをやる人ではないみたいだからな」
「そして、聖グロのダージリンまで屈服させるような悪党だったら、
こんな風に回りくどく声をかけてくる意味がない。ですよね、ドゥーチェ」
「杏のヤツもダージリンも口八丁でたぶらかされたって線も残るけどな。
だとしたらそんなヤツ、私には勝てん! まな板の上のコイだな、スデに」
人をヤクザ呼ばわりしているのは置いておくとして、頭の回転を見るに、黙って騙されるような奴らではないようだ。結構である。それだけ守りやすい。
「大洗女子……男、先生、風格……」
金髪が、こちらを見ながら何か呟きだした。何事かと思っているのは他の二人も同じらしい。やがて黒髪の方が声をかけようとしたところで、金髪はポンと手を叩いた。
「あなた、もしかして。大洗女子の戦車道で最近審判をやったっていう」
「確かに、模擬戦を一度手伝ったがな。なぜ知っている。昨日の今日だが」
「向こうに、知り合いがいます」
「そうか」
どうやら、知っていた情報が今、現実と一致したらしい。金髪の表情から疑いが消えた。
「男で、戦車道の審判?
自衛隊の関係者ですか、もしかして」
「いいや。俺はただの海洋生物研究家だな。
手伝ったのには少し訳がある」
「それも、音石明の関係で?」
安斎千代美にうなずき返して少しして、横断歩道の向こう側にリーゼントが見えた。その後ろには、大洗女子の制服の一団。無事に合流できた。黒森峰の二人と揉めたような様子もない。
「あッ、承太郎さん!
あとチッとで電話するとこだったッスよ」
「すまなかったな、仗助。こっちの用も済んだ」
「承太郎さんが、あんなに急ぐ用事って……
ンッ? その制服はッ、そして、その髪はッ」
仗助の後ろにいた秋山が、まずアンツィオの三人に気づいた。戦車道オタクだけに、他校の情報が頭に定着しきっている。
「アンツィオ高校戦車道のリーダーがいてな。
追いつけて一安心というところだ」
後ろの連中が横断歩道を渡る。分かれていた人数が一塊になると、仗助の正面に安斎千代美が立つ形になった。別に図ったわけではなく、たまたまだろうが。互いが互いの前で、ピタリと止まって数秒間。
「スゴイ頭……」
声がキレイに重なった。そして仗助の目が座った。
「おい、今、オレの頭のことなんつった?」
「お、怒るのかソコで? オマエもスゴイ呼ばわりしただろ! 私の頭」
「う、ウグッ……てめぇ」
見つめ合う二人の間に、目に見えない火花が散った。アッシュブロンドのツーテールと言えば単純だが、ツーテールの先端部分はそれぞれ縦ロール。いわば古典的な少女マンガの具現化であり、ある意味、仗助以上に時代錯誤な髪型の安斎千代美だった。髪型の悪口を言われた仗助だが、自分も相手の髪型に難癖つけた手前、キレるにキレられないと見える。結果、無言のにらみ合いだけが続いた。
「おおっ、姐さんがリーゼントの不良とメンチの切り合いに」
「この場合はなんとかキレないですむのか……
で、でも仗助くん、下がる気配が全然ないなぁ~」
「目と目が合うなりガンのツケ合いとか。
ボーイミーツガールだったらモットやりようあるでしょーに」
「アホらしい」
しかし仗助もギリギリでこらえているだけ。一触即発なので手も出しにくい。時間を止める用意だけして見守ると、先に安斎千代美が折れた。
「ごめんなさい」
「ン、だと?」
「髪型を悪く言ってごめんなさい。こだわりがあるんだよな、多分」
「お……ウン、まぁな」
「奇遇だな、私もなんだ」
自分の縦ロールを指先で巻き取りながら、なにやらふんぞり返る安斎。意図をつかみかねていた仗助は、少し遅れてハッとなり、直立して腰を90度折った。
「オレの方こそゴメンナサイッしたァ!」
「うん。お互い次は無しにしような。
私はアンチョビ。アンツィオ戦車道の隊長をやってる。
お前は空条さんの関係者だよな」
「アンチョ、ビ……? あ、いや。
東方仗助ッス。承太郎さんとは一応、親戚ですね」
「あの、西住みほですっ、大洗女子学園戦車道の隊長です」
「うえッ、西住? なんで西住?
……そっか、転校してたか。思わぬ伏兵もあったもんだな」
西住に続くように皆集まり、往来の真ん中で自己紹介の流れが出来つつあったので、それとなく腕でさえぎり、阻止する。あとで時間はいくらでもあるのだ。
「集合場所は、このあたりのはずだが」
「お店の名前をお聞きしても?」
「英国式喫茶『チャレンジャー』。半地下の店らしいな。
コーヒーではなく紅茶の店だな……
軽食もあるが、パスタの類は出していない。主にサンドイッチだ」
五十鈴は、ただちに地下への階段を発見した。十字路を右折し、次の細道をさらに右折した先にあったものを、だ。今の彼女であれば、他人の生活臭の詳細すら嗅ぎ分けてしまうだろう。ヘタなスタンドより強力な技能といえた。
「かーッ パスタなしかよぉ~
腹持ち悪そうだよなぁー、サ店のサンドイッチとかよぉー
なんかガッツリ食っとくんだったぜぇ」
「ほほーぉ、だけど、そりゃアンツィオじゃ間違いだ。
四百円ありゃ大満足で腹いっぱい」
「ンならよぉー、そいつをすぐココに持ってこい!
今! 腹すいてんのオレはッ」
「わ、わりぃ……いつものノリで売り子やっちまった。
もっと売りたくてさぁー鉄板ナポリタン。
タマゴも肉もオリーブオイルもケチケチしてないかんなー
ジュウジュウ焼けてぇー、アッ、ンまッ!」
「腹すく話すんじゃねぇっつーの!
イヤがらせかコラァ!
でもレシピは気になる」
「なんだいニーチャン。あたしらのヒミツをカギまわろーってかぁ?
アンタ長生きできないねぇー」
「メシがマズかったらよぉぉ~、それこそ明日がねェーだろがッ」
アホ同士が騒がしくなる前に入店することにした。別に悪くは思っていないが、うっとうしい。『貸切』の看板を押しのけて中に入る。こじんまりとした店だが、奥行きが以外なほどあった。そして薄暗い。電気がついておらず、外から採光しているだけ。店主とおぼしき女が進み出てくる。
「いらっしゃいませ。どのような知らせをお持ちですか」
「大失敗が大成功に変わる知らせだ」
「かしこまりました。こちらです」
女の後に続き、奥の部屋へと向かう。ワクワクした顔で秋山が聞いてきた。
「承太郎さん、今のっていわゆる……符牒ですかぁ?」
「そうだ。念を入れているようだな」
「いや、あいつのことだから。
メンドくさいコダワリをやってみたかっただけだと思うぞぉー多分」
「お知り合いなんですかー、アンチョビどの」
「何回かお茶しただけだけどな」
最奥にあった扉を開くと、嘘のように明るい室内が現れた。電気は使わず、構造に工夫をこらして光量を確保している。調度品はほどよく高級。下品にならないよう配慮されていた。そんな中に、彼女はいた。
「ようこそ、おいでくださいました。
さ、かけて下さいませ。上下(かみしも)はありませんわ」
なるほど、いかにも面倒くさそうなことが好きそうなツラだった。写真などでは高貴な金髪少女でしかない。こいつの発する妙な雰囲気は実物を見るまでわからなかった。奥にあと二人、同じ制服を着た奴がいる。片方はオレンジがかった金髪のこじんまりした奴。もう片方は、紅茶のような赤毛をした、得意げな顔の奴。
「あら、アンチョビさん。あなたもいらしたのね。
飛び入りも歓迎でしてよ」
「よくわからんが、ヤバそうだったんで来た。
そういう話をするんだよな、これから」
「ええ。飾らず言えば、ドロボー注意!
の、話ですわね……聞くところによると、
ドロボーの狙いは『戦車道チーム丸ごと』」
ごくりと息を呑んだ安斎、自称アンチョビ。後ろの二人にも緊張が走る。それに構わず、彼女はポットに手をかけた。
「こんな格言を知っている?
『一杯のお茶を飲めれば、世界なんて破滅したっていい』
だとしても、皆で飲むお茶でありたいものね」
唐突に始まるドストエフスキーの引用に対し、承太郎の脳内はただの一文で埋め尽くされた。
(メンドくせぇ)
「お茶を注がせていただきますわ。
申し遅れました。私はダージリン……
聖グロリアーナ女学院の戦車道、隊長を務めております。
初めてお会いした方は、以後お見知りおきを」
手に取られたポットから、プシュンプシュンと湯気が吹いていた。
To Be Continued ⇒
英国式喫茶『チャレンジャー』は、杜王町のヌイグルミ屋同様の捏造物件です。
ガルパン原作にはありません。
承太郎さん頭イイだけに、彼視点になるとうかつなことが書きづらい。
慣れの問題かもしれませんが。