GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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事実上の隔週号になってる今日この頃……面目ないッス。
今回は承太郎視点。ケータイの『う』の予測変換に『承り』が居座っとる。

それと、活動報告でアンケートをお願いしています。
『ガルパン×ジョジョについてちょっとしたアンケート、それと懸念』
ってヤツですね。気が向けばご協力いただきたく。


スタンド使いは引かれ合います!(3)

「警察を呼びますよ」

 

空条承太郎(くうじょう じょうたろう)は、ごもっともな反応を返されていた。

 

(やることは何も変わらないがな)

 

戦車喫茶『ルクレール』にて、店内に入ってくるなり引き返した奴がいた。アッシュブロンドの長髪をツーテールにまとめたそいつは、アンツィオ高校戦車道の隊長。現在集まった情報を確認する限り、もっとも音石明が乗っ取りを画策しやすい戦車道チーム。その代表者が、『スタンドを目で追った』。一刻の猶予もない緊急事態というべきだ。だから承太郎は追った。そして追いつくなり名前で呼びかけ、率直に語った。

 

『安斎千代美(あんざい ちよみ)だな。

 話がある。君の生命に関わる話だ』

 

結果、彼女はふるえだして立ちすくんでしまった。不穏な言葉を聞かされたから、では断じてなかろう。この反応は間違いない。スタンドについて、何か知っている。詳しいことを聞き出そうと距離を詰めると、警戒心をあらわにした金髪の女学生が大股で立ち塞がった。そして今に至る。

 

「やんのかテメ~~ッ 受けて立つかんな」

 

遅れて、黒い短髪の少年じみた奴……当然と言うべきか、女学生だ……も、隊長をかばって前に出た。右拳を左掌で打ち鳴らす。

 

「やっ、やめろ! 危ないことはやめろよ!

 逃げるぞ、関わるな!」

 

立ち直ったかの隊長は、前に立つ二人の腕を引く。そちらに振り向いた二人は互いを見つめて頷き、走り出そうとしていた。こうなることも想定している。承太郎は早々にカードを切った。

 

「『角谷杏』。知っているな、彼女を」

 

走り始めた隊長がビクリと止まった。恐怖に満ちた目が向けられる。

 

「な、何だよぉ。アイツがどうか、したのか?」

「どうもしない。まずは話を聞いてもらいたい」

「アイツに何をしたんだよぉッ」

「どうもしないし、何もしてねえ。

 とにかく一旦黙れ。俺は最初からすべて話すつもりだ」

 

打って変わり、食ってかかる彼女をやや強い調子でなだめる承太郎は思った。10年前だったらキレて怒鳴りつけていたのではなかろうか、と。観念したようにヘナヘナとしおれた彼女を、まずは安心させねばならない。

 

「まず、角谷杏には許可をもらっただけだ。

 名前を出す許可をな。疑わしければ電話しろ」

「……そうします。で、あなたの名前を聞きたいんですが」

「空条承太郎」

 

隅によって電話を取り出し、たどたどしい手つきでボタンを押す彼女に代わり、ムスッとした顔で突っかかってきたのは黒髪だった。

 

「何なんスかアンタ。

 姐さんキズつけたりしたらさぁー、許さねぇーッスよ」

「むしろキズをつけないために来たんだがな。

 君たちもその中に含んでいる」

 

確認はすぐに終わったらしく、電話をしまった隊長、こと安斎千代美が戻ってくる。恐怖は多少薄れたようだが、うさんくさげな顔でこちらを見ている。

 

「あのォォ~、ついていけばわかるよ、とか言われたんですけど……

 音石明、ってアレですよね? 変質者の戦車ドロ」

「その通りだ。だが、それが全てではない。

 そして、奴の目的のために、君たちアンツィオ高校戦車道が狙われる可能性がかなり高い。

 初戦の相手が大洗女子学園になって、さらに危険になった」

 

スタンドを目で追い、しかもこちらを見た途端に逃げたことから、もう遅い可能性すらあると判断した承太郎は、だからこうして追ってきたのだが、それは今言うべきことではない。それにこの反応を見るに、音石明とは現在まったく接触がないのは明らか。ということは、そこまで焦る状況ではなくなった。知らずスタンド使いにされていたとしても、守ることは可能。

 

「わかりました。お話を伺います」

「ドゥーチェ、それは」

「行くしかないだろ。知らないことで、みんなが危険になるのなら」

 

さほど考え込むこともなく、ほぼ即答した彼女だが、警戒は保っているようだ。角谷杏が悪党の手に落ちている可能性を、一応想定していると見える。彼女からしてみれば、この空条承太郎こそが音石明の手先である、ということすらもありえるだろう。賢明だ。

 

「英国式喫茶『チャレンジャー』。話はそこでする」

「アンツィオ生つかまえてイギリス式とはイイ度胸ッスねぇーアンタ」

「主賓がそこを指名してきた。俺達が決めたんじゃあない」

 

挑みかかるように睨めつける黒髪の相手は面倒くさかったが、信用を得るには好都合でもある。案の定、ピンと来たらしい安斎千代美は聞いてきた。

 

「主賓が英国? グロリアーナですか」

「ああ。大洗女子と聖グロリアーナの戦車道、隊長周辺の数名が来る。

 そこに俺達、音石明を追う四人が参加する」

「俺達四人。当然、私たちじゃあないから……あなたの関係者があと三人か」

「理解が早くて助かるな。さっそく来てもらおう」

 

うなずいて、安斎千代美はついてくる。うさんくさげな眼つきがだいぶ薄れた。

 

「いいんですか姐さん、こんなガチのマフィオーゾみたいなヤツに。

 ゴッドファーザーのテーマキコエてキソーッスよ!」

「多分、この人はウソを言ってないぞ、ペパロニ。

 今、ここで私がさらに聖グロに連絡をとれば、ウソが破たんするだろ?

 そんなマヌケをやる人ではないみたいだからな」

「そして、聖グロのダージリンまで屈服させるような悪党だったら、

 こんな風に回りくどく声をかけてくる意味がない。ですよね、ドゥーチェ」

「杏のヤツもダージリンも口八丁でたぶらかされたって線も残るけどな。

 だとしたらそんなヤツ、私には勝てん! まな板の上のコイだな、スデに」

 

人をヤクザ呼ばわりしているのは置いておくとして、頭の回転を見るに、黙って騙されるような奴らではないようだ。結構である。それだけ守りやすい。

 

「大洗女子……男、先生、風格……」

 

金髪が、こちらを見ながら何か呟きだした。何事かと思っているのは他の二人も同じらしい。やがて黒髪の方が声をかけようとしたところで、金髪はポンと手を叩いた。

 

「あなた、もしかして。大洗女子の戦車道で最近審判をやったっていう」

「確かに、模擬戦を一度手伝ったがな。なぜ知っている。昨日の今日だが」

「向こうに、知り合いがいます」

「そうか」

 

どうやら、知っていた情報が今、現実と一致したらしい。金髪の表情から疑いが消えた。

 

「男で、戦車道の審判?

 自衛隊の関係者ですか、もしかして」

「いいや。俺はただの海洋生物研究家だな。

 手伝ったのには少し訳がある」

「それも、音石明の関係で?」

 

安斎千代美にうなずき返して少しして、横断歩道の向こう側にリーゼントが見えた。その後ろには、大洗女子の制服の一団。無事に合流できた。黒森峰の二人と揉めたような様子もない。

 

「あッ、承太郎さん!

 あとチッとで電話するとこだったッスよ」

「すまなかったな、仗助。こっちの用も済んだ」

「承太郎さんが、あんなに急ぐ用事って……

 ンッ? その制服はッ、そして、その髪はッ」

 

仗助の後ろにいた秋山が、まずアンツィオの三人に気づいた。戦車道オタクだけに、他校の情報が頭に定着しきっている。

 

「アンツィオ高校戦車道のリーダーがいてな。

 追いつけて一安心というところだ」

 

後ろの連中が横断歩道を渡る。分かれていた人数が一塊になると、仗助の正面に安斎千代美が立つ形になった。別に図ったわけではなく、たまたまだろうが。互いが互いの前で、ピタリと止まって数秒間。

 

「スゴイ頭……」

 

声がキレイに重なった。そして仗助の目が座った。

 

「おい、今、オレの頭のことなんつった?」

「お、怒るのかソコで? オマエもスゴイ呼ばわりしただろ! 私の頭」

「う、ウグッ……てめぇ」

 

見つめ合う二人の間に、目に見えない火花が散った。アッシュブロンドのツーテールと言えば単純だが、ツーテールの先端部分はそれぞれ縦ロール。いわば古典的な少女マンガの具現化であり、ある意味、仗助以上に時代錯誤な髪型の安斎千代美だった。髪型の悪口を言われた仗助だが、自分も相手の髪型に難癖つけた手前、キレるにキレられないと見える。結果、無言のにらみ合いだけが続いた。

 

「おおっ、姐さんがリーゼントの不良とメンチの切り合いに」

「この場合はなんとかキレないですむのか……

 で、でも仗助くん、下がる気配が全然ないなぁ~」

「目と目が合うなりガンのツケ合いとか。

 ボーイミーツガールだったらモットやりようあるでしょーに」

「アホらしい」

 

しかし仗助もギリギリでこらえているだけ。一触即発なので手も出しにくい。時間を止める用意だけして見守ると、先に安斎千代美が折れた。

 

「ごめんなさい」

「ン、だと?」

「髪型を悪く言ってごめんなさい。こだわりがあるんだよな、多分」

「お……ウン、まぁな」

「奇遇だな、私もなんだ」

 

自分の縦ロールを指先で巻き取りながら、なにやらふんぞり返る安斎。意図をつかみかねていた仗助は、少し遅れてハッとなり、直立して腰を90度折った。

 

「オレの方こそゴメンナサイッしたァ!」

「うん。お互い次は無しにしような。

 私はアンチョビ。アンツィオ戦車道の隊長をやってる。

 お前は空条さんの関係者だよな」

「アンチョ、ビ……? あ、いや。

 東方仗助ッス。承太郎さんとは一応、親戚ですね」

「あの、西住みほですっ、大洗女子学園戦車道の隊長です」

「うえッ、西住? なんで西住?

 ……そっか、転校してたか。思わぬ伏兵もあったもんだな」

 

西住に続くように皆集まり、往来の真ん中で自己紹介の流れが出来つつあったので、それとなく腕でさえぎり、阻止する。あとで時間はいくらでもあるのだ。

 

「集合場所は、このあたりのはずだが」

「お店の名前をお聞きしても?」

「英国式喫茶『チャレンジャー』。半地下の店らしいな。

 コーヒーではなく紅茶の店だな……

 軽食もあるが、パスタの類は出していない。主にサンドイッチだ」

 

五十鈴は、ただちに地下への階段を発見した。十字路を右折し、次の細道をさらに右折した先にあったものを、だ。今の彼女であれば、他人の生活臭の詳細すら嗅ぎ分けてしまうだろう。ヘタなスタンドより強力な技能といえた。

 

「かーッ パスタなしかよぉ~

 腹持ち悪そうだよなぁー、サ店のサンドイッチとかよぉー

 なんかガッツリ食っとくんだったぜぇ」

「ほほーぉ、だけど、そりゃアンツィオじゃ間違いだ。

 四百円ありゃ大満足で腹いっぱい」

「ンならよぉー、そいつをすぐココに持ってこい!

 今! 腹すいてんのオレはッ」

「わ、わりぃ……いつものノリで売り子やっちまった。

 もっと売りたくてさぁー鉄板ナポリタン。

 タマゴも肉もオリーブオイルもケチケチしてないかんなー

 ジュウジュウ焼けてぇー、アッ、ンまッ!」

「腹すく話すんじゃねぇっつーの!

 イヤがらせかコラァ!

 でもレシピは気になる」

「なんだいニーチャン。あたしらのヒミツをカギまわろーってかぁ?

 アンタ長生きできないねぇー」

「メシがマズかったらよぉぉ~、それこそ明日がねェーだろがッ」

 

アホ同士が騒がしくなる前に入店することにした。別に悪くは思っていないが、うっとうしい。『貸切』の看板を押しのけて中に入る。こじんまりとした店だが、奥行きが以外なほどあった。そして薄暗い。電気がついておらず、外から採光しているだけ。店主とおぼしき女が進み出てくる。

 

「いらっしゃいませ。どのような知らせをお持ちですか」

「大失敗が大成功に変わる知らせだ」

「かしこまりました。こちらです」

 

女の後に続き、奥の部屋へと向かう。ワクワクした顔で秋山が聞いてきた。

 

「承太郎さん、今のっていわゆる……符牒ですかぁ?」

「そうだ。念を入れているようだな」

「いや、あいつのことだから。

 メンドくさいコダワリをやってみたかっただけだと思うぞぉー多分」

「お知り合いなんですかー、アンチョビどの」

「何回かお茶しただけだけどな」

 

最奥にあった扉を開くと、嘘のように明るい室内が現れた。電気は使わず、構造に工夫をこらして光量を確保している。調度品はほどよく高級。下品にならないよう配慮されていた。そんな中に、彼女はいた。

 

「ようこそ、おいでくださいました。

 さ、かけて下さいませ。上下(かみしも)はありませんわ」

 

なるほど、いかにも面倒くさそうなことが好きそうなツラだった。写真などでは高貴な金髪少女でしかない。こいつの発する妙な雰囲気は実物を見るまでわからなかった。奥にあと二人、同じ制服を着た奴がいる。片方はオレンジがかった金髪のこじんまりした奴。もう片方は、紅茶のような赤毛をした、得意げな顔の奴。

 

「あら、アンチョビさん。あなたもいらしたのね。

 飛び入りも歓迎でしてよ」

「よくわからんが、ヤバそうだったんで来た。

 そういう話をするんだよな、これから」

「ええ。飾らず言えば、ドロボー注意!

 の、話ですわね……聞くところによると、

 ドロボーの狙いは『戦車道チーム丸ごと』」

 

ごくりと息を呑んだ安斎、自称アンチョビ。後ろの二人にも緊張が走る。それに構わず、彼女はポットに手をかけた。

 

「こんな格言を知っている?

 『一杯のお茶を飲めれば、世界なんて破滅したっていい』

 だとしても、皆で飲むお茶でありたいものね」

 

唐突に始まるドストエフスキーの引用に対し、承太郎の脳内はただの一文で埋め尽くされた。

 

(メンドくせぇ)

 

「お茶を注がせていただきますわ。

 申し遅れました。私はダージリン……

 聖グロリアーナ女学院の戦車道、隊長を務めております。

 初めてお会いした方は、以後お見知りおきを」

 

手に取られたポットから、プシュンプシュンと湯気が吹いていた。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




英国式喫茶『チャレンジャー』は、杜王町のヌイグルミ屋同様の捏造物件です。
ガルパン原作にはありません。
承太郎さん頭イイだけに、彼視点になるとうかつなことが書きづらい。
慣れの問題かもしれませんが。

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