GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

33 / 40
またも大変お待たせしました。
スタンド使いボロボロ回の二話目です。
今回はみぽりん視点。

※2017/3/16、23:00頃に一部修正。
仗助のエリカに対する推測が一部舌っ足らずだったのを修正しました。


スタンド使いは引かれ合います!(2)

西住みほ(にしずみ みほ)は、気が気ではなかった。逸見エリカのことはよく知っている。『正しさ』と『誤り』。善と悪。白と黒。味方と敵。これらをハッキリさせて常に『正しい善の白』であろうとする気高さは黒森峰時代に見てきた。その『正しい者』に向ける信頼と忠誠は、姉である西住まほに今も変わらず注がれているようだ。そこに来て、みじめな逃亡者である自分には何を注ぐのか。そして今、そんな自分の同行者に対し、とんだ勘違いが降りかかろうとしてはいないか。

 

「取り急ぎだが、彼女の勘違いのタネを明かす。面倒なことにならねえようにな」

 

承太郎は簡潔に説明する。エコーズACT2で声を届かなくされたエリカは大声でそれを打ち破ることを試みて失敗。自分の呼吸の音すら聞こえないことから、声が出せない原因を『呼吸が封じられたため』と思い込んでしまった。大声を出して息苦しくなったことが、その憶測だけをひたすら後押しした、と。

 

「おいおい承太郎さん、さすがにそりゃあねえですぜッ

 康一のエコーズは、ただ静かにさせただけなのによぉぉー」

「それを知っているのは俺達だけで、彼女には知るよしもないことを忘れるなよ億泰。

 俺も、彼女の能力に少しばかり不覚をとったんでな……」

 

億泰をたしなめながら、承太郎は袖をまくって腕を見せた。全員、息をのむ。血まみれだ。腕に無数の亀裂が走り、破壊されている。

 

「じッ、承太郎さんッ こいつは…

 グレート! ほとんどミンチじゃあないでスか。

 何をどうやったらこんなキズになるんだよ」

「拳に触れることそのものがヤバイ能力らしい。

 スマナイが治してくれ仗助。急いで追うべき奴がいた」

「追うべきヤツ? って、ココはどうするンスか」

「お前に任せる。一通りの説明はできるな?

 現時点で彼女らが敵である可能性はゼロだ」

 

治されるか早いか、承太郎は早足で店を出ていった。残された仗助は目をぱちくりさせている。

 

「西住、ちっと答え合わせに協力してくんねーかな」

「うん」

 

前提がズレた状態で話はできない。まほにもそれがわかってか、黙って見ているつもりのようだ。というよりも、仗助が起こした『奇跡』を目の当たりにして、衝撃を隠せないと言った方が正しいだろうか。なおす能力というのはものすごい。改めてそう思う。

 

「さっきスタンドで攻撃されたのは、

 康一のエコーズを知るわけがねぇコイツが

 『殺される!』ッて勘違いしたからだ。

 そこはわかった」

 

みほは頷く。皆も頷いた。確認して、仗助は続ける。エリカだけは浅く痛々しい呼吸を繰り返しながら、恨みがましい視線を送ってきたが。どうやら殺意や敵意あっての攻撃でないことはわかってくれたようである。

 

「だがよ、承太郎さんが言うにはコイツのスタンド……

 音石明に『矢』で刺されて目覚めたってよ。

 推測するぜ! 何かおかしかったら言えよな」

 

そして仗助は言う。エリカのスタンドはヤバイ。パワーはともかく、スピードではほとんどクレイジー・ダイヤモンドと互角で、今見た限り、殴った相手の防御力をほぼ無視できる能力を持つ。正体まではわからないが、仗助自身も正面切って戦いたくはない相手。

 

「だってのに、エコーズに声を止められた時のあの反応。

 『スタンドで攻撃されてる』ッつーより、

 『ワケわかんねー』ってツラしてたぜ。

 敵本体を探す素振りもなかった……

 スタンドの概念自体をつかんでねえな。

 ルールを知らねえ世界に放り込まれてるぜ!」

「それって、こーいうコトですかぁ?

 例えるなら、この方は『ティーガーに乗った新兵』!

 いくら戦車がスゴくても、戦車のイロハも知らないんじゃあッ」

「もっとひでえぜ秋山。乗ったのはオレだぜ。

 オレが乗せられたみてーなもんだぜッ

 オレと億泰と康一がイキナリ戦車乗っけられたらどうなるよ?

 動かせただけでも拍手だぜッ フツーに考えてよぉぉー」

 

言わんとすることは言いつつも、エリカのことをそれとなく持ち上げている仗助に気づくみほだった。自分のいた頃と変わらないのであれば、ティーガーに乗っているのは他でもない、エリカだ。それだけにだいぶ助かる気遣いである。優花里も仗助も、そんなことは知るよしもないのだが。エリカの顔にはこう書いてある。『あんたらごときと一緒にしないでくれる?』と。

 

「つまり、スタンドに目覚めたのは明らかに昨日今日。

 承太郎さんの言った通りってことだよね。東方くん」

「ああ。このタイミングでスタンド使いになる原因なんか、ひとつっきゃねえぜ。

 そして、コイツの周りにスタンドを教えられるヤツはいねえってことの証明でもある。

 西住、おめーの姉貴も目覚めたばかりだな」

 

話の本筋に移りたかったが、このままではしばらく後に復活したエリカが、少し言い過ぎるかもしれない。ここは仗助にならって、自分からもひとつ持ち上げておくことにしよう。

 

「私だって、死ぬ直前でようやく目覚めた力なんだもんね。

 それまで、表に出すことさえ出来なかった。そう思うと、エリカさんはスゴイのかな」

 

エリカの顔にはこう書いてある。『見えすいたオベッカ使ってんじゃあないわよ』と。とはいえ、噛みつくような怒気は薄れた。今はこれでいいだろう。そう思ったが甘かった。エリカは確かにそれでよかった。だが別の爆弾に火が入った。突然、襟首をつかまれて、みほは自分のうかつさを呪った。

 

「『死ぬ直前』だと?

 どういうことだ、みほ。何があったッ」

「ちょっ、お姉ちゃん。苦し」

「言え! 事と次第によってはこいつらをゆるさん……言えッ!」

 

首をガクガク振り回されては、言えるものも言えたものではない。それでも言わなければ収まらない。頑張って、必死に、言った。誤解がないように、事実のみを端的に。

 

「あ、赤ちゃんを取り戻そうとして、ヤクザに銃で撃たれてッ

 それから、手首を切ってガケから飛び降りたの!」

「……は?」

「それでそれで、えっと。海が真っ赤になったから、透明な赤ちゃんがわかってね。

 それが私のスタンド能力だよ」

「お前が何を言っているのかさっぱりわからない!

 私はおかしくなってしまったのか?」

 

眼球と目蓋を全開にこわばらせた姉は、『ヤクザ? 赤ちゃん? 手首?』と、うわごとのようにキーワードを繰り返し口に出している。安心とは程遠い表情で、赤くなったり青くなったりしている。

 

「心底同情する。こんな電波を聞かされる立場にな」

「全部事実だけどツッコミ所しかない。どうフォローすりゃいいんだか」

 

最後のケーキを平らげる麻子の隣で、沙織が机にヒジをつき額に手を当てうなだれていた。無言の華はなんともいえぬ表情で薄ら笑いを浮かべていたが、やがてキリリと顔を引き締め、進み出てきた。

 

「みほさんのお姉さま。今の話を要約してお伝えします」

「た、頼む。頭が割れそうだ」

「みほさんは、無関係の赤ちゃんを助けるために海に飛び込みました。

 赤ちゃんを助けたい一心で目覚めた力が、みほさんのスタンド。トゥルー・カラーズです」

「……その。ヤクザとかは?」

「たまたま出くわしたならず者どもです。赤ちゃんを海に放り込んだ犯人ですね。

 銃で『口封じ』しようとしたらしいですが、みほさんに返り討ちにされて、全員刑務所です」

 

姉の顔色が次第に戻っていく。眉はまだ引きつったままだが。さすがは華だ。マイナスの印象から入られても、その礼儀と物腰で、ひとまずは話を聞く気にさせてしまうのだから。沙織とはまた違った強みである。気を取り直した姉は咳払いをして、厳しい目つきを作る。

 

「無礼を承知で聞く。あなた方は、そんな窮地に陥った妹を、放っておいたの?」

「NOだぜ、絶対(ぜってー)にNOだ」

 

糾弾じみた問いを、今度は仗助が真正面から切って捨てた。

 

「同じタイミングでオレ達は、交通事故に遭ったダチを助けなきゃならなかった。

 西住は一人で赤んぼを追わざるを得なくなって、オレ達もすぐ全力で追ったぜ!

 そして、オレと、そこの秋山がギリギリで間に合った。

 結局、死ぬような目には遭わせちまったッスけどよぉぉ~」

 

明らかにムッとして、重ねて何かを言おうとした姉は、一度口を開きかけて、やめた。視線を落として逡巡し、しばらくして諦めたように首を横に振った。

 

「正直、怒りがこみ上げる。が……

 私にはあなた方を非難する資格がない」

 

なぜだろう。みほは姉に、そんなことを言わないでほしかった。今そこにある温度が、その実、遠い場所にあることを思い知ってしまう。

 

「ある、と思うぜ。姉妹なんだしよ」

「あなた方は『間に合った』。それだけで沢山だな」

「姉上どの……」

 

川に落ちた時の溝が、そこにはあった。深くて這い上がれない溝が。

 

「この話はやめだ。聞かせてくれるんだろう? 事情をな。

 その音石明という男、私達もおそらく知っている。

 もちろん、テレビのニュースではなく、だ」

 

席に座り直して、姉は催促する。説明を求める相手を仗助に定めたらしい。思えば、最初からその流れだった。仗助も、手元のカプチーノを軽くすすってから、承太郎に託された役目を果たしにかかった。

 

「まずは、『矢』について、から話すッスよ」

 

わかりきった説明については、あえて繰り返すまい。ただ、仗助の説明を聞きながらみほは思う。いつから自分の人生はこんな方向に狂ったんだろう?

もっとも、そうでなければ今ここにいるみんなとは無縁のままだっただろうから、イヤだとは思いたくないところだ。黒森峰での居場所も、決して失いたくはなかったが。

 

「……ふむ。わかった。音石明は戦車道の敵だということがな。

 西住流の末席として、この話、確かに受け取った」

 

姉のこの返事が意味するところは、私は西住流としてこの件に対応する。音石明を西住流に弓引く者とみなす。そういうことだ。もちろん、西住の名前を使うまでのことはしないだろうが、姉個人としては無条件かつ最大限の協力を約束してきた。

 

「西住流ッつうのは知らねえッスけど。

 協力してくれるんならありがたいッス」

「知らない? そうか。ならそれがいいんだろうな」

 

隊長としての無感情な目を一瞬だけこちらに向けて、姉は、今度は姉自身の持つ情報を開陳する。

 

「結論から言う。そちらの推測はすべて正しい。

 逸見の『力』……スタンドは、三日前、音石明の

 レッド・ホット・チリ・ペッパーによってもたらされたものだ」

「お姉さんのは違うってことスか?」

「私のは五日前だ。熱を出して寝込んだら、いつの間にかこうなった」

「同じだ……オレと。西住に引きずられてスタンド使いになったんだ」

 

思わず仗助の方を見る。初めて聞く情報だったからだ。

 

「オレは、四歳のときにこうなりました。

 オレの父親……親父とか、承太郎さんに影響されたらしいんス」

「となると、あの方も『矢』で?」

「違うッス。その、よくは知らねえでスけど。

 『DIO』っつう、遠くで血がつながってた

 ド悪党がなったのに引きずられたらしいんですよね」

「『DIO』という悪党か。覚えてはおこう」

「多分、必要ねえですよ。10年前に死んでますぜ、そいつ」

「……まぁ、いいだろう」

 

脱線しかかった話を打ち切った姉は、三日前を詳細に語り始めた。

三日前、戦車道の練習終了後、一人遅れて更衣室に入ったエリカが突如として何かに刺されたのだという。言うまでもない、『矢』にだ。犯人は音石明のスタンド、レッド・ホット・チリ・ペッパー。『矢』に刺された直後から、『電気を帯びたパキケファロサウルス』の存在を認識したエリカは、『ブザマな西住みほ』の悪評に付け込んで、その姉である西住まほを追い落とす提案をささやかれたという。エリカは間髪入れず断固拒否。痛めつけて言うことを聞かせることにしたチリ・ペッパーの攻撃を、目覚めたばかりの能力で辛うじて防御していたところに、偶然、まほが間に合った。二人がかりで叩かれたチリ・ペッパーは撤退し、そこから先の行方は不明。

 

「これが私たちが遭遇した、今のところの全てだな」

「つ、強ぇぇーッスね、お姉さん達。

 あのチリ・ペッパーを二人で追い返しちまうなんてよ」

「私たち自身が『能力』を知らなかったおかげで、

 それがかえって奇襲になった。次、ああはいかないだろう」

「能力だけバレて逃げられたってわけか。

 本腰入れて殺しにかかられたらやばいですね」

 

そして仗助が語るのは、蝶野教官が懸念した最悪の可能性。それぞれの家族が次々襲撃されること。おそらくほとんど全てのスタンドが、何をどうあがいても対処できない恐怖の攻撃。深刻に受け止めた姉は、存外あっさり伝家の宝刀に手をかけた。

 

「西住の名を使うしかない……母に持ち掛けます。

 戦車道どころじゃあない。家族が殺されては」

「ま、『そうなる』としたら、オレ達がやられちまった後ッスね。

 ヤツはオレ達を戦車道で倒すつもりらしいッスから。あくまで意地の問題でよ」

「……なら決戦に私を呼べ。と言ってしまうが。ダメだろうな」

「ダメでしょうね。『戦車道でオレ達と勝負』の土俵を投げ捨てちまったら、

 音石明も意地を捨てちまう。家族襲撃をやらねえ意味もなくなるってことだぜ」

「はがゆいな。力を得ても蚊帳の外とは」

 

情報交換はそこで終わった。ようやく話せるまでに回復したエリカが30分の経過を知らせたのだ。康一をにらみつけた彼女は、吐き捨てるように言った。

 

「この屈辱、忘れないわよ」

「はあ……そんなこと言われても。

 だいいち、ケンカ売るようなこと言わなきゃいいじゃあないか。自業自得だよ!」

 

グググと言葉に詰まったエリカの隣で、姉は席を立つ。

 

「さて、私はあなた方の能力を一方的に知ってしまった。

 話の上で避けて通れなかっただけに、このままでは私達の貰いすぎだ」

「ッ、隊長、こいつらにそんな必要は」

「私のスタンド、ブラック・パレードについてだが。

 まだ全てがわかったわけではない。

 『触った物体の時間を止める』それだけがわかっている」

 

エリカが止める間もなく、姉は一息に言い切っていた。能力を知られることは弱点を知られること。これがわからない二人ではない。

 

「隊長、なんてことを」

「彼らは同盟者よ。戦車道の敵に対する、ね。

 信義には信義で応じたい。おかしいかしら」

 

唇を噛んだエリカは、姉を押しのけるように前に出る。

 

「……ガンマ・レイ。私のスタンドよ。

 殴ったものをガラス状に変える能力らしいわね。

 隊長、行きましょう。時間がありません」

 

言うだけ言って、ふてくされたようにエリカは去った。姉もそれに続く素振りを見せたが、足を踏み出すよりも前に、みほにそっと手招きをした。

 

「大洗女子学園の戦車道に身を置いているお前は、

 黒森峰、そして西住流に対する背信行為を働いている。

 この件については母の耳に入れさせてもらう。当然、覚悟の上だな?」

「うん……決めたのは、私」

「ならばいい。ただ……どうしようもなくなったとき。

 助けを求めるしかなくなったとき、私への連絡をためらわないで。

 私は、あなたの姉よ」

 

耳元へのささやきを残して、今度こそ姉は去る。残された体温を感じたみほは、思わず耳元に手を当てていた。

 

「ステキな姉上どのでした。テレビで見たよりも、ずーっと」

「優花里さん。その、『知っている』……んだよね。私のことも」

「ハイ、『知っています』」

 

なんだか現実味がない。優花里に対して、そうなんだ、としか返せず、微妙な沈黙が訪れた。幸い、優花里以外は店を出る用意に入っていて、今の会話は聞き取られていない。

 

「あ、あぁーーーーーッ

 なんかおかしいと思ったらッ!」

 

いきなり康一が叫んだのにビクリとした。今の話が話だっただけに。まさか彼も『知っていた』のか。そんな恐れを向けてみれば。

 

「あの人、お金払ってない!

 払わずに帰っちゃってるぞ」

「な、なぁにィ~~ッ

 セコイ! セコイぜ姉貴!

 オレは出さねぇーぜぇー」

 

同時に、店の扉が開いた。

 

「……お勘定、お願いします。

 すみません、忘れてました」

 

微妙な沈黙は、店全体に及んだ。顔から火が出そうな姉は、そそくさと支払いを済ませて出て行った。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




終わってみれば、まほと仗助がひたすらくっちゃべり続けた回だった。
能力に言及はしたけど、何らかの形で実際に活用するのは
本気でかなり後でしょうね……
次回は、承太郎が追いかけてった相手に関わる予定。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。