GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
二ヶ月の休載! マジに面目ないッス。
ケータイからの投稿につき、あとで修正するかも……
「ああ、よかった。まだいた」
虹村億泰(にじむら おくやす)が帰路につこうとしたところ、呼び止める誰かがいた。今日さんざん聞いた声なので、さすがに覚えている。エルヴィンだ。
「ン? どうしたよ。
ワリィけど手短にしてくんねーかなぁ~、
腹ペコでよぉ~」
「すまないな、時間はとらせない。
ものを手渡すだけだからな」
頭上にハテナが浮かぶと同時に、エルヴィンはサッと右拳を前に突き出した。つられて真下に両手を出すと、開かれた拳からポロッと何か金属が落ちる。
「こいつは?」
「さっき言っただろう。
勝ったら鉄十字勲章をあげようって」
「アッ、言ってた……
マジだったのかよ、ノリじゃあなくって」
「私も単なる勢いだったけどな。
黒田節を持ち出されては仕方ない……左衛門佐に」
「ハ? ナンのこったよ? 安来節?」
「違うッ ドジョウすくいの何が鉄十字勲章だッ?
と、とにかく!
約束は約束というわけだ。取っておいてくれ」
唇を尖らせたエルヴィンは置いて、億泰は手の中のものを眺める。これは勲章だ。勲章とは何か。足りないことを自覚している頭で少し考えても、しっくり来なかった。
「どうしたんだ」
「いや、その、よぉー。
オレが持つべきじゃあないような気がするぜぇ~、
こいつはよぉー」
「気に入らないか?」
「チゲぇーよッ! だが勲章っつーならよぉ~~ッ
勝利をキメたヤツが持つべきじゃあねーのか?
オレだとは思えねぇーぜ」
「戦車一両を撃破した君にそんなことを……
なら、君にまかせる。
それは君がふさわしいと思うところに持っていけ」
それじゃ、と踵を返して足早に立ち去ったエルヴィンに呼び止めるスキは見当たらなかった。どうも勝手にキレているように見えたが、何が何なのか。戦車一台を倒したのはその通りとはいえ、その後がブザマすぎて勝った気になれない。あれよあれよという間に女どもに組み敷かれて固められ、トドメに脳天一撃。ケンカとしては負けもいい所だった。承太郎は華が狙撃に固執したことを戒めていたが、それを言ったら自分はもっと能力にアグラをかいていたではないか。思えば今までの敗北はほとんど能力を逆用された結果である。要するに。マヌケを卒業しろ。コレだ。
(同じことは出来ねぇ、音石の前じゃあよぉ~)
過ちを繰り返すのなら、今度こそ兄の仇は取れなくなるだろう。そして、あのイケ好かない片メガネの泣きベソ女に、二度目の侮辱を吐かせることになる。自分は責任を取ると言った。この責任すら反故にするなら、キンタマをチョン切るべきだ。
「……ンッ?」
今考えていたことと、手の平の中にあるものを思わず見比べた。オレにふさわしくないであろうコレは、勝利の立役者にこそ渡すべきもの。今回、勝利を拾ったのは誰だ。最後に勝利を叫んだのは。
(アイツっつーコトかよ……ヤンなるぜぇ)
マグレだろうが何だろうが、東方チームが全滅した中、ただ一人生き残って『矢』を領域外に持って行ったのは、あの河嶋桃に他ならなかった。ならば、渡さなければなるまい。この勲章を。
「悪い、待たせちまっ……どうしたよ、億泰」
「何かあったの? イヤそーな顔してるようだけど」
「仗助、康一もよぉ。
ちっとやるコトが出来たからよぉ~。
表で待ってろや。
それと西住。秋山でもいいけどよ」
「えっ?」
「私でも、ですかぁ?
妙な言い回しですねぇ虹村どの」
髪型を整え終わって出てきた仗助だったが、今回の用件の役には立たない。同じように、康一に頼ったってどうにもならない。河嶋桃の居場所に詳しいのは、大洗女子学園戦車道の二人の方であることくらいはわかるのだ。
「河嶋のヤツ、探してるんだがよぉぉ~
アイツの居場所、わかるかよ」
「河嶋さん? たぶんわかるけど、何の用事かな」
「コイツを渡さなきゃあならねぇ。
今回の戦争の勲章をよぉ~」
手の平の中身を示してやると、西住は眉をひそめてゴクンと息を飲む。よくわからない反応だった。戦車に詳しいコイツらなら、これの意味も知っているはず。どうしてそんなビビッた風な顔をされるのか。だが、それもすぐに引っ込む。横にいた秋山が声を上げた。
「鉄十字勲章?
エルヴィンどののモノじゃあないですかコレ?
私の記憶が正しければ、ですけど。
カバンにくっつけてた気がします」
「……だってよ、億泰くん。
届ける相手が違うんじゃあないかなぁー」
「落とし物じゃあねぇーんだぜ、康一に秋山よぉ。
もらったんだよ! 今さっきなぁー」
「話が見えないよ? 最初から聞かせてほしいかな。
順を追ってね」
全員、首をかしげまくっていたため、西住の提案に素直に従う。最初から話す。エルヴィンに呼び止められたところから。そして、河嶋桃に渡すべきだとの考えを口に出すなり。
「ほ、ホンキで言ってるの? ないッ! それはない!
バッカじゃあないの?」
康一がどやしつけてきた。
「な、何ッ? なんで?」
「贈り物を、その日のうちに別の人に横流しだよ?
ケンカ売ってるとしか思えないぞッ」
「でもよぉ~康一、エルヴィンが言ったんだぜ?
ふさわしいところに持っていけってよぉ~」
ハァ~ッ。
深いため息をついた康一は、噛んで含めるように説明を始める。
「あのさぁ~~~『たとえ話』をするよ?
まず、億泰くんが華さんに贈り物をしました。
何を贈るのか、スッゴク考えるでしょ?
するとしたら!」
「お、おう。
そりゃあ~ダッセェモンは渡せねぇよなぁ~」
「すごくすごく考えた億泰くんの、
気合の入ったプレゼントでした!
ここまでは想像した?」
「したぜ。気合を入れて渡したゼッ
考えうる最高のモンをよォ~」
「そして翌日」
なかなか先を続けない。ひたすら溜めを作り続ける康一に、億泰はシビレを切らしそうになるが、他の連中はそうでもない。何を言うのか、すでにわかっているとでもいうのか。
「オイッ何だよ、早く続き言えよッ」
「億泰くんのプレゼントを、
なぜか仗助くんが持っていました」
「おいおいおいおい、
なんでソコでオレに振るんだよ康一ィィィーーーッ」
「だって適任がいないでしょ?
ぼくじゃあ説得力ゼロだよね?」
思わず仗助を見た。殺意が沸いた。が、そこはひとつ呑み込んだ。康一を見る。
「どういうこったよ」
「さあね? 捨てられたのを拾ったのかも知れないし、
貰ったそのまま仗助くんにあげちゃったのかも」
「そっ、そんなこと、するはずがねえ!
ンな性悪なマネをするくらいなら、最初から断るぜ!
華さんだったらよぉぉ~~」
「キミがやろうとしてるのは『それ』だよ、億泰くん。
たとえ『困ったら捨ててもいい』って前置きしても、
される気分は変わらないと思うけど?」
「あ……ウググ」
グウの音も出なかった。念入りに追われると、いちいちごもっともだった。
「アブないところでしたねぇ。
一気に関係コジれるところでしたよ」
「もうコジれてるかも知れねぇーぜ、秋山。
あのエルヴィンも今回の戦い、
勝ったとは思ってなかったようだしよ。
せめて手柄立てたヤツにはごホービを持ってったのに、
『オレにはふさわしくねー』で辞退だもんなぁー。
この場合、アイツにしてみれば、
うまく指揮を取れたとは思ってないところが問題でよ。
多分こう思うぜ、『じゃあ私は何なんだ』ってよ……」
秋山が口ごもる。西住も、康一も、気まずい顔で黙りこくってしまう。なんということだ。飾りモノたったひとつの行方がそんなに問題だというのか。
「ん、ンなオオゴトにするつもりはよぉぉーーッ」
「そりゃーそうだろうよ。
だがこれ以上はしくじれねぇぜ億泰」
億泰は考える。
(メンドくせぇぇぇーーーーッ
ンなコト、グダグダ気にしてんじゃあねぇーぜッ
女の腐ったみてぇによぉ~)
これが本音の四割を占めるところだったが、音石明を倒すまでは少なくとも一緒にやっていく奴らなのだ。放置だけはダメだ。第一、女の腐ったみたいなも何も、そもそも女である。億泰にとっては未知の存在。うかつなことはできないと思った。それに、ここでヒドい対応をすれば、華さんだって口もきいてくれるまい。
「ど、どうりゃあいいってんだよ……」
「腹案はあるけどよぉー、これはダメだぜ。
おめー自身が考えて動かねーと、
多分もっとイラつかれるぜ」
「なんで?」
「筋が通らなくなるからだよね。
考え方の筋が、虹村くんと違っちゃう」
おずおずと西住が言ったことは、この言い方なら億泰の腑に落ちた。筋が通らないヤツは確かに信用できない。自分の筋を通すためには、自分で決めなければ。グヌヌヌヌ、とうなりながら頭の中身を必死で回す。今回は、自分が負けたと思ってるエルヴィンが、億泰をホメてくれようとしてるのをムゲにしたからヤバい。だが、筋を通すというのなら、億泰としては、他に勲章をやるべきヤツがいると思っている。だったら、どうする。
「億泰よぉ~~」
「じ、仗助ぇ~」
「あんま深く考えねぇでよ、
おめーの筋をただ通すのもいいかも知んねぇぜ」
「……!」
腹が決まったのを感じた。抱えた頭から手を放し、背をピンと伸ばす。
「秋山よぉ、ちィと付き合えや」
「は、ハイッ?」
「コイツの出所をよぉぉー、
てめえなら知っていると見たぜぇ~このオレは」
「あッ、ハイ。知ってます、ねぇ」
「なら話は早ぇ。行くぜ」
「……ハイ。了解であります」
コイツは戦車マニアだ。だったら戦車に関する勲章とかだって知っているだろう。それを手にいれる。ふたつだ。筋を通すためには、これがふたつ必要だ。
「ち、ちょい待て億泰!
地図とかもらえばいいじゃあねぇーかッ
おめーも止めろよ、西住ッ」
「うーん、戦車の片付けが残ってるけど、
事情も事情だし。いいよ」
「なら、園センパイに電話してくんねーか?
許可がねえ場所に行くだろうしよ」
「あ、そうだね。ちょっと待って……はい」
仗助が後ろで西住のケータイを耳に当ててヘコヘコするにも構わず、億泰は行く。秋山はオドオドしながら舎弟みたいについてきている。康一はまた溜め息をついていた。そして。
「どうした。何か用か?」
二時間後に再び見たエルヴィンは、やはり不機嫌なままだった。周りのカエサル、おりょう、左衛門佐は、少し目を丸くしたままこっちを見ている。
「まず、だ。コイツは受け取った。
手放すようなことはしねえ」
手の中に、受け取った鉄十字勲章を示す。だから何だ、と言いたげに、エルヴィンの目が細まる。
「それで?」
「それで、これよ!」
もう片方の手に握っていたもうひとつを目前に差し出す。まったく同じ鉄十時勲章である。
「ん……これは?」
「てめーもひとつ持つべきだからよ。
言っとくとよぉぉー、河嶋にもこいつをやったぜ」
受け取れと言うのなら、もらってやる!
ぶっきらぼうに言い捨てて、河嶋桃はそれを分捕っていったのだ。
「オレは頭悪いからよぉぉ~~、
心の中に思ったこと、それだけをする!
これで、持つべきヤツはみんな持ったぜ。勲章をよ」
少しぼんやりしたように、手渡された勲章を見ていたエルヴィンは、やがて顔を上げると、フッと顔を和らげた。
「なかなか……『粋』じゃあないか。虹村」
「ちっと怒られちまってよ、考え直しただけだぜ」
「おい、そこは黙っておくべきだろう? 台無しだぞ」
そうは言われても、そこも含めて筋だと思った億泰である。エルヴィンも、呆れてはいても咎めた風はなかった。
「君がどういう奴なのか、少しわかった気がするよ。
ありがとう。鉄十字勲章、確かに受け取った」
自らの軍服じみたジャケットに、新たな鉄十時勲章を取り付ける彼女の姿。それを見届けてから億泰は踵を返して立ち去った。内心、胸を撫で下ろしながら。
(カンタンにゃあサワれねぇーなぁ、
オンナってのはよぉぉぉ~。
クワバラ、クワバラ……怖ぇぇーーッ)
To Be Continued ⇒
虹村億泰 ―― 悩んだ結果、もらった鉄十字勲章は
ひとまず自宅の貴重品用金庫に入れた。
エルヴィン ― 直後に冷やかされまくり、
鉄十字勲章を取り外した。
結局、カバンに落ち着いたようである。
河嶋桃 ―― ムスッとしながら、
おニューのケータイに鉄十字勲章を吊るした。
東方仗助 ―― 気がつけば五時だった。
メシを食いそびれ、後で億泰をシメた。
次回は戦車道全国大会の抽選会の予定……
なるはやでお届けしたい。