GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
今回の話は丸々、秋山どの視点です!
秋山優花里(あきやま ゆかり)にとって、その日もまた良い日であるはずだった。
大洗女子学園の戦車道復活に立ち会ってから一ヶ月。ひとりぼっちで眺めていた世界を、他の誰かが知ってくれる。暴走するそのたび、周囲にウンザリされてきた話を、みんな聞いてくれる。拒絶を恐れて右往左往していた自分が過去になっていく毎日!
輝く日々というものを、秋山優花里は実感していた。砲弾を『4号戦車』の車内に担ぎ込む、この重さすらも愛おしい。
(や、この愛おしさは元からですけど。みんなのためにガンバれるってのがウレシいんですよぅ)
誰に言うでもない心中の独り言。これだけは直りそうになかった。さあ、今の砲弾で最後だ。練習開始まであと20分。そろそろ他チームも集まってくるだろう。確か他のチームは昨日のうちに詰め込みを済ませていた。自分達『あんこうチーム』だけは、武部沙織(たけべ さおり)の提案で、遅くまで居残り練習をしていたから、その分のしわよせが今に来たのだ。これで全て問題ない。練習開始を待つばかり。みんなを呼んでこよう。その矢先だった。
『ギターを持ったロックンローラーが車内にいきなり入ってきた』
ありのままに記せばこうなる。わけがわからない。驚きすぎて軽く悲鳴が漏れてしまった。が、そうもしていられない。ただひとつわかっている。こいつは部外者だ。
「何ですかあなたは! いきなり乗ってきて何をやってるんですかぁーーッ」
優花里にできる精一杯で、きつい威嚇を投げつける。とはいえ、また一方で、ちょっとした期待の気分もあった。
(戦車好きなロックンローラーさんで、思わず入ってきちゃったのかも知れませんね)
そうだったら仕方ない。穏便に出て行ってもらって、あとで内装の写真をあげよう。ここはもう、『あんこうチーム』みんなの部屋も同然なので、男が土足で踏み込むのは困る。幸せの中にいた優花里には、まったくわからなかった。目の前のロックンローラーが、追い詰められた獣の目、そして悪鬼の目をしていることを。
「う・る・せェェェんだよぉぉ~~ッ」
何が起きたのか、今度こそ理解できなかった。野卑な罵倒と同時に、優花里の全身が勝手にふるえ、跳ねだした。声なんか出している覚えもないのに、よじれた唇から壊れた無線じみた奇声が漏れ出す。目の中を青や赤や緑の斑点が乱舞している。これら全てが途方も無い苦痛と同時にやってきた!
何秒か、何分か。どれだけ経ったかわからないが苦痛が消える。このとき優花里は気絶していたのだが、数瞬後の衝撃ですぐにまた覚醒した。目がチカチカする。手足を動かそうにも感覚がわからない。どうも横になっているようだ。冷たい床に転がされている。
「ンじゃま、パンツァー・フォー、としゃれ込ませてもらうぜぇ~~」
『パンツァー・フォー!!』
聞こえたのは、さっきの男の声だ。もう一人の声は何だろう。ボイスチェンジャーだろうか?それにしても、二人で『4号戦車』を動かすつもりなのか。走るだけがやっとで、戦車らしいことは何もできないだろうのに。
聞きなれたエンジンの咆哮が響く。エンストもさせず一発で動かすとは、どこかで経験してきているに違いない。ということは、何か明確な目的で戦車を鹵獲(ジャック)した?
慣れるほど乗っているのなら、今更興味本位でこんなマネをするわけがない。ということは。ということは……
(主砲で『何か』撃つのが目的)
意識が一気にクリアになった。そうだ。それしか考えられない。戦車でなければ出来ないことなんて、極論すればそれだけなのだ!
野を越え山を越え塹壕を越え!
歩兵を蹴散らして驀進(ばくしん)する戦車の本懐とは、同格の敵を打ち倒すことッ
では、この男の敵とは? 何を撃とうとしている?
だがその思考とは別に、優花里のもつれた舌は勝手に動いた。
「や……やめてください」
「ああン?」
「何をやってるのかわかってるんですか?
『4号戦車』は『戦車道』で戦うための戦車なのに。
人を撃ったら人殺しじゃないですか」
「ごあいにくだねェェェ~~~オレぁ人を殺してぇんだよ。
ジョセフ・ジョースターのくそジジイをなぁー」
優花里は戦慄した。ちょっと前に冷泉麻子(れいぜい まこ)が言っていたことを思い出さざるを得なかった。彼女の言う通り、不動産王ジョセフ・ジョースターは狙われていたのだ。杜王港で仕損じた殺し屋(ヒットマン)は、この大洗女子学園まで執念深くも追ってきたのだ。すると、無反動砲を持ち出したのも、当然こいつ!
正真正銘の人殺しだ。真っ当な社会観念で説得できる相手じゃあない。そして、聞いてもいないことをしゃべっているこいつは、私を生かして返すつもりが100%ないということ。用済みになったら、ゴミのように殺されて捨てられる!
では、なぜ私を生かしている? 用済みになるというなら、用とは何だ?
縛り上げられていることに今更気づきながら、優花里は必死で思考するが。
『優花里さん、何やってるの? 一人で発進するなんてッ』
いつも聞いている声が外から聞こえた瞬間、すべてがわかった。
西住どのがッ! 西住みほが追ってきている!
「チッ、思ったより格段に早ェな……
ひい、ふう、みい……戦車が全部出てきてんじゃねェーか。
邪魔が入る前にさっさと撃つかね」
『4号戦車』が急ブレーキをかけて止まる。砲塔が回る。ひとりでに。ロックンローラー男は車長席に座ったまま動いていない。優花里は異常に気がついた。
「『4号戦車』ッ いつの間にか全自動になっている!」
「今頃気づいたのか? ちょっとした手品があってねぇ~
位置よし、仰角よし……」
『優花里さん……何する気なの?
砲を校舎に向けて、何をするつもりなのッ!?』
外から聞こえるみほの声が、張り詰まったものに変わった。
「『校舎』……だって?
やめて、やめてください! それだけはッ!」
「イヤだね!」
『……全チーム、4号戦車を撃って下さい。
撃破判定を出して止めます。やむをえませんッ!』
みほは『4号戦車』の撃破を命じた。優花里は救われたような気分になる。さすがは西住どの。だが、それがダメなのだ。そのための私なのだ。ロックンローラーの男はしたり顔でギターをかき鳴らした。
『ウツナ~ヨォォ~~ヒトジチヲ~トッテ~イルゥ』
『ッ、人質? 動かしてるのは、優花里さんじゃない?』
(なんて奴ですか、ギターを喋らせてるッ)
さっきのボイスチェンジャーは、これだったのか。この男、少なくともギターテクは一級品らしい。例のごとく全自動で外部スピーカーもオンにしたらしく、みほも動きを止めてしまったようだ。
「よし、撃つ! 目標、生徒会室!
チリ・ペッパーの要撃管制つきだ、逃げられねェぜ~~」
「うあああああァァァァーーーーーーーッ!!」
「FIRE!!」
優花里の悲痛な叫びは当然のように無視され、発射された撤甲弾は宣言通り、大洗女子学園の生徒会室に直撃。優花里からは見ようがなかったが、西住みほが思わず漏らした一言から、どうなったかは手に取るようにわかった。
『……あ、あそこは確か、生徒会室……』
「へ、へへへへへ……やったぜ!
ジョセフ・ジョースターも空条承太郎も!
東方仗助も、虹村億泰も、広瀬康一も、皆殺しになった!
オレの面白おかしい人生を邪魔する奴らは、
もうこの世にいねぇーーーッ!」
ひとしきり喜んだロックンローラー男は、クルゥリと優花里に向き直った。毒ヘビすらも裸足で逃げ出すような、下劣な目つきだ。
「これで大洗女子学園戦車道も用なしだなァァーーーッ
チリ・ペッパーのフルパワーで全員、こんがり焼けてもらうぜ。
オレの正体につながる奴はッ!
一人たりとも生かしちゃおけねぇからなぁ~」
「こんがり焼く、戦車を操る、シビレる……まさかっ!」
ここに来て優花里は、突拍子もない発想に至った。そうでもなければ、こんな状況、ありえないから。
「あなたは……『電気を操っている』『電気を自在に操れる』!」
「ご名答ォォォーーーッ
どっちみちこの場で即死するけどなァァーーーッ!!
お疲れさんンーーーーッ 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』……」
『あれはッ、なんか、おかしい!?』
男が優花里を殺しにかかったところで、みほの素っ頓狂な声が響いた。男の動きも即座に止まる。
『砲弾が直撃して崩れたのが見えたのに……全然! 崩れてないッ!
気のせいって言うには、いくらなんでも……』
男は少し考え込むように目を閉じ、2秒ほどして怒りだした。
「クレイジー・ダイヤモンドだと!? 生徒会室が直っちまってる!
ありえねぇッ! あのコースなら確かに即死のはず……い、いや!」
怒りだして、さらに勝手に一人で冷や汗をかきはじめた。
どうやら、何かの手段ではるか遠くを見ているようだ。
「気づきやがったな承太郎ォォォ~~~ッ
『時間を止めて』砲弾をそらしやがった!!
『戦車道の戦車で狙い撃つ』
そっくりそのままバレてやがったのかよォォ~~~ッ」
ひとまず、いろんなことがわかった。このロックンローラー男みたいな超能力を持っている人間が不動産王ジョセフ・ジョースターの周りには何人かいて、『壊れたものを直す』『時間を止める』能力を少なくとも持っている。中学二年の妄想ノートみたいだが、今は奇妙な現実として受け入れよう。
「いたな、ジョセフ・ジョースター!
しかし承太郎も一緒じゃあチリ・ペッパーでの攻撃は無理ッ
『4号戦車』で追うしかねぇな……」
秋山優花里は『戦車道』に置き換えて考える。このロックンローラー男にとって、敵フラッグ車は老朽の旧式車『ジョセフ・ジョースター』。だが、フラッグ車を直接攻撃しようにも、護衛の『空条承太郎』に阻まれるのが確実だという。それを突破しうる火力がこの『4号戦車』。つまり『4号戦車』が撃破されれば、フラッグ車を仕留める手段がなくなり負けが確定する。『ジョセフ・ジョースター』チームの『戦車』は、さっきの話でわかる限り、あと『3台』。性能まではわからないが、数だけ見れば、まず確実に逆撃を仕掛ける状況!
「そして来やがったか、東方仗助……広瀬康一もいるな?
虹村億泰はいないようだが、分かれて来るなら逆に好都合だぜ」
『2台』が迎撃に来て、『1台』が伏兵。この場合、伏兵に最大の攻撃力を当てて、一撃で仕留めるのが良策と感じるが……
しかし、ロックンローラー男の『電気を操る能力』というのがどれほどのものか。体験している限り、電線から拝借できる範囲の電力を使っているようだが、それ以上がわからない。そして何より。私、秋山優花里は今なお囚われの身だ。
「やはり、てめーを倒さねーと先には進めねぇようだな、仗助。
ならばそろそろ役に立ってもらうぜ『メスガキ』」
大洗女子学園戦車道チームは今、この男のコマに限りなく近かった。
To Be Continued ⇒
ここから先は、リアルの都合上、ちょっとペースが落ちるかも知れません。
とはいえ重視するのは『ノリ』と『勢い』。
心の赴くままに書きなぐり、そして投げます。