GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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秋山どのは生きてます。大丈夫です!
今回の話は丸々、秋山どの視点です!


音石明が大洗女子学園に忍び込んだようです(3)

秋山優花里(あきやま ゆかり)にとって、その日もまた良い日であるはずだった。

 

大洗女子学園の戦車道復活に立ち会ってから一ヶ月。ひとりぼっちで眺めていた世界を、他の誰かが知ってくれる。暴走するそのたび、周囲にウンザリされてきた話を、みんな聞いてくれる。拒絶を恐れて右往左往していた自分が過去になっていく毎日!

輝く日々というものを、秋山優花里は実感していた。砲弾を『4号戦車』の車内に担ぎ込む、この重さすらも愛おしい。

 

(や、この愛おしさは元からですけど。みんなのためにガンバれるってのがウレシいんですよぅ)

 

誰に言うでもない心中の独り言。これだけは直りそうになかった。さあ、今の砲弾で最後だ。練習開始まであと20分。そろそろ他チームも集まってくるだろう。確か他のチームは昨日のうちに詰め込みを済ませていた。自分達『あんこうチーム』だけは、武部沙織(たけべ さおり)の提案で、遅くまで居残り練習をしていたから、その分のしわよせが今に来たのだ。これで全て問題ない。練習開始を待つばかり。みんなを呼んでこよう。その矢先だった。

『ギターを持ったロックンローラーが車内にいきなり入ってきた』

ありのままに記せばこうなる。わけがわからない。驚きすぎて軽く悲鳴が漏れてしまった。が、そうもしていられない。ただひとつわかっている。こいつは部外者だ。

 

「何ですかあなたは! いきなり乗ってきて何をやってるんですかぁーーッ」

 

優花里にできる精一杯で、きつい威嚇を投げつける。とはいえ、また一方で、ちょっとした期待の気分もあった。

 

(戦車好きなロックンローラーさんで、思わず入ってきちゃったのかも知れませんね)

 

そうだったら仕方ない。穏便に出て行ってもらって、あとで内装の写真をあげよう。ここはもう、『あんこうチーム』みんなの部屋も同然なので、男が土足で踏み込むのは困る。幸せの中にいた優花里には、まったくわからなかった。目の前のロックンローラーが、追い詰められた獣の目、そして悪鬼の目をしていることを。

 

「う・る・せェェェんだよぉぉ~~ッ」

 

何が起きたのか、今度こそ理解できなかった。野卑な罵倒と同時に、優花里の全身が勝手にふるえ、跳ねだした。声なんか出している覚えもないのに、よじれた唇から壊れた無線じみた奇声が漏れ出す。目の中を青や赤や緑の斑点が乱舞している。これら全てが途方も無い苦痛と同時にやってきた!

何秒か、何分か。どれだけ経ったかわからないが苦痛が消える。このとき優花里は気絶していたのだが、数瞬後の衝撃ですぐにまた覚醒した。目がチカチカする。手足を動かそうにも感覚がわからない。どうも横になっているようだ。冷たい床に転がされている。

 

「ンじゃま、パンツァー・フォー、としゃれ込ませてもらうぜぇ~~」

『パンツァー・フォー!!』

 

聞こえたのは、さっきの男の声だ。もう一人の声は何だろう。ボイスチェンジャーだろうか?それにしても、二人で『4号戦車』を動かすつもりなのか。走るだけがやっとで、戦車らしいことは何もできないだろうのに。

聞きなれたエンジンの咆哮が響く。エンストもさせず一発で動かすとは、どこかで経験してきているに違いない。ということは、何か明確な目的で戦車を鹵獲(ジャック)した?

慣れるほど乗っているのなら、今更興味本位でこんなマネをするわけがない。ということは。ということは……

 

(主砲で『何か』撃つのが目的)

 

意識が一気にクリアになった。そうだ。それしか考えられない。戦車でなければ出来ないことなんて、極論すればそれだけなのだ!

野を越え山を越え塹壕を越え!

歩兵を蹴散らして驀進(ばくしん)する戦車の本懐とは、同格の敵を打ち倒すことッ

では、この男の敵とは? 何を撃とうとしている?

だがその思考とは別に、優花里のもつれた舌は勝手に動いた。

 

「や……やめてください」

「ああン?」

「何をやってるのかわかってるんですか?

 『4号戦車』は『戦車道』で戦うための戦車なのに。

 人を撃ったら人殺しじゃないですか」

「ごあいにくだねェェェ~~~オレぁ人を殺してぇんだよ。

 ジョセフ・ジョースターのくそジジイをなぁー」

 

優花里は戦慄した。ちょっと前に冷泉麻子(れいぜい まこ)が言っていたことを思い出さざるを得なかった。彼女の言う通り、不動産王ジョセフ・ジョースターは狙われていたのだ。杜王港で仕損じた殺し屋(ヒットマン)は、この大洗女子学園まで執念深くも追ってきたのだ。すると、無反動砲を持ち出したのも、当然こいつ!

正真正銘の人殺しだ。真っ当な社会観念で説得できる相手じゃあない。そして、聞いてもいないことをしゃべっているこいつは、私を生かして返すつもりが100%ないということ。用済みになったら、ゴミのように殺されて捨てられる!

では、なぜ私を生かしている? 用済みになるというなら、用とは何だ?

縛り上げられていることに今更気づきながら、優花里は必死で思考するが。

 

『優花里さん、何やってるの? 一人で発進するなんてッ』

 

いつも聞いている声が外から聞こえた瞬間、すべてがわかった。

西住どのがッ! 西住みほが追ってきている!

 

「チッ、思ったより格段に早ェな……

 ひい、ふう、みい……戦車が全部出てきてんじゃねェーか。

 邪魔が入る前にさっさと撃つかね」

 

『4号戦車』が急ブレーキをかけて止まる。砲塔が回る。ひとりでに。ロックンローラー男は車長席に座ったまま動いていない。優花里は異常に気がついた。

 

「『4号戦車』ッ いつの間にか全自動になっている!」

「今頃気づいたのか? ちょっとした手品があってねぇ~

 位置よし、仰角よし……」

 

『優花里さん……何する気なの?

 砲を校舎に向けて、何をするつもりなのッ!?』

 

外から聞こえるみほの声が、張り詰まったものに変わった。

 

「『校舎』……だって?

 やめて、やめてください! それだけはッ!」

「イヤだね!」

 

『……全チーム、4号戦車を撃って下さい。

 撃破判定を出して止めます。やむをえませんッ!』

 

みほは『4号戦車』の撃破を命じた。優花里は救われたような気分になる。さすがは西住どの。だが、それがダメなのだ。そのための私なのだ。ロックンローラーの男はしたり顔でギターをかき鳴らした。

 

『ウツナ~ヨォォ~~ヒトジチヲ~トッテ~イルゥ』

『ッ、人質? 動かしてるのは、優花里さんじゃない?』

 

(なんて奴ですか、ギターを喋らせてるッ)

 

さっきのボイスチェンジャーは、これだったのか。この男、少なくともギターテクは一級品らしい。例のごとく全自動で外部スピーカーもオンにしたらしく、みほも動きを止めてしまったようだ。

 

「よし、撃つ! 目標、生徒会室!

 チリ・ペッパーの要撃管制つきだ、逃げられねェぜ~~」

「うあああああァァァァーーーーーーーッ!!」

「FIRE!!」

 

優花里の悲痛な叫びは当然のように無視され、発射された撤甲弾は宣言通り、大洗女子学園の生徒会室に直撃。優花里からは見ようがなかったが、西住みほが思わず漏らした一言から、どうなったかは手に取るようにわかった。

 

『……あ、あそこは確か、生徒会室……』

「へ、へへへへへ……やったぜ!

 ジョセフ・ジョースターも空条承太郎も!

 東方仗助も、虹村億泰も、広瀬康一も、皆殺しになった!

 オレの面白おかしい人生を邪魔する奴らは、

 もうこの世にいねぇーーーッ!」

 

ひとしきり喜んだロックンローラー男は、クルゥリと優花里に向き直った。毒ヘビすらも裸足で逃げ出すような、下劣な目つきだ。

 

「これで大洗女子学園戦車道も用なしだなァァーーーッ

 チリ・ペッパーのフルパワーで全員、こんがり焼けてもらうぜ。

 オレの正体につながる奴はッ!

 一人たりとも生かしちゃおけねぇからなぁ~」

「こんがり焼く、戦車を操る、シビレる……まさかっ!」

 

ここに来て優花里は、突拍子もない発想に至った。そうでもなければ、こんな状況、ありえないから。

 

「あなたは……『電気を操っている』『電気を自在に操れる』!」

「ご名答ォォォーーーッ

 どっちみちこの場で即死するけどなァァーーーッ!!

 お疲れさんンーーーーッ 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』……」

 

『あれはッ、なんか、おかしい!?』

 

男が優花里を殺しにかかったところで、みほの素っ頓狂な声が響いた。男の動きも即座に止まる。

 

『砲弾が直撃して崩れたのが見えたのに……全然! 崩れてないッ!

 気のせいって言うには、いくらなんでも……』

 

男は少し考え込むように目を閉じ、2秒ほどして怒りだした。

 

「クレイジー・ダイヤモンドだと!? 生徒会室が直っちまってる!

 ありえねぇッ! あのコースなら確かに即死のはず……い、いや!」

 

怒りだして、さらに勝手に一人で冷や汗をかきはじめた。

どうやら、何かの手段ではるか遠くを見ているようだ。

 

「気づきやがったな承太郎ォォォ~~~ッ

 『時間を止めて』砲弾をそらしやがった!!

 『戦車道の戦車で狙い撃つ』

 そっくりそのままバレてやがったのかよォォ~~~ッ」

 

ひとまず、いろんなことがわかった。このロックンローラー男みたいな超能力を持っている人間が不動産王ジョセフ・ジョースターの周りには何人かいて、『壊れたものを直す』『時間を止める』能力を少なくとも持っている。中学二年の妄想ノートみたいだが、今は奇妙な現実として受け入れよう。

 

「いたな、ジョセフ・ジョースター!

 しかし承太郎も一緒じゃあチリ・ペッパーでの攻撃は無理ッ

 『4号戦車』で追うしかねぇな……」

 

秋山優花里は『戦車道』に置き換えて考える。このロックンローラー男にとって、敵フラッグ車は老朽の旧式車『ジョセフ・ジョースター』。だが、フラッグ車を直接攻撃しようにも、護衛の『空条承太郎』に阻まれるのが確実だという。それを突破しうる火力がこの『4号戦車』。つまり『4号戦車』が撃破されれば、フラッグ車を仕留める手段がなくなり負けが確定する。『ジョセフ・ジョースター』チームの『戦車』は、さっきの話でわかる限り、あと『3台』。性能まではわからないが、数だけ見れば、まず確実に逆撃を仕掛ける状況!

 

「そして来やがったか、東方仗助……広瀬康一もいるな?

 虹村億泰はいないようだが、分かれて来るなら逆に好都合だぜ」

 

『2台』が迎撃に来て、『1台』が伏兵。この場合、伏兵に最大の攻撃力を当てて、一撃で仕留めるのが良策と感じるが……

しかし、ロックンローラー男の『電気を操る能力』というのがどれほどのものか。体験している限り、電線から拝借できる範囲の電力を使っているようだが、それ以上がわからない。そして何より。私、秋山優花里は今なお囚われの身だ。

 

「やはり、てめーを倒さねーと先には進めねぇようだな、仗助。

 ならばそろそろ役に立ってもらうぜ『メスガキ』」

 

大洗女子学園戦車道チームは今、この男のコマに限りなく近かった。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




ここから先は、リアルの都合上、ちょっとペースが落ちるかも知れません。
とはいえ重視するのは『ノリ』と『勢い』。
心の赴くままに書きなぐり、そして投げます。

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