GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
多分、あと億泰視点、仗助視点とやって決着。
「全車に通達! 敵の狙いは挟み撃ちにあります!
これより、陣形を保ったまま前方の川へ進みます。あえて、です!」
西住みほ(にしずみ みほ)はインカムから通達する。きわどい勝負になるのだ。誤解が少しでもあれば、それで終わり。
「前方の川に陣取るザ・ハンドと3号突撃砲は、
戦線を固定するための『見せ札』ッ
本命は38tと、クレイジー・ダイヤモンド!
38tの装甲で守られたクレイジー・ダイヤモンドが
突っ込んでくるってことです!
私達がまず撃つのは、これです。
全車前進、ザ・ハンドを迎え撃つ!……『フリ』をします!」
戦車三両、縦隊隊形(タテ一直線)で前進する。先頭はM3リーのウサギさんチーム。真ん中に自分達4号戦車のあんこうチーム。殿が89式中戦車のアヒルさんチームだ。ザ・ハンドに備えるなら楔(くさび)隊形が望ましいのだが、林に阻まれて戦車二台を横並びに展開するのは無理。よって、今のままで38tに追いつかれてしまえば、89式中戦車だけが一方的に撃たれまくり、こちらは数の利を生かせない最悪の状態。ここまで来た時点で、もう突き進むしかない。進む先は敵の顎(あぎと)。ザ・ハンドのみを警戒しすぎて、特別狭い道に前後から押し込まれようとしている。
(『だからいい』んだけどね。東方くんの術中にハマッた状態、『だからいい』)
おそらく、仗助はさらにもう一工夫重ねてくるだろう。予想が正しければ、それはエコーズ。音を操るエコーズであるはず。スタンド使いを二人まとめて投入してくる以上、直接戦闘に向かないエコーズだけを川向こうに置いたままだとは考えにくいのだ。みほが知っているエコーズは『Act2』らしく、『尻尾文字』は生身の人間にしか効果がない。戦車に乗り込んでいる限り、これを恐れる必要はないということ。となれば、使ってくるのは『Act1』。音を操る能力とはいうものの、見たこともないし、未経験である。これで何をやってくるのか。だがエコーズの射程は50m。生身の人間を基準とすればかなり長いが、戦車戦では至近距離。使えるポイントは相当限られてくる。仕掛けてくるとすれば、川の手前、道が広くなる直前にある、急カーブコース。『いろは坂』状に道が蛇行しているここくらいしかないのだ。射程50mで意味のある『何か』を仕掛けられるのは。
『38t発見しました! 後ろから全速力で追跡してきてます!』
アヒルさんチームから、ついに来た。38tの最高速度は時速42km。こちら側の3両いずれも、振り切ることは不可能。ましてや89式中戦車の最高速度は25kmで、陣形を保つ以上、これ以上の速度は決して出せない。なるほど。攻めあぐねている間にこれが突っ込んできたら、そこで事実上の試合終了だっただろう。38tは撃破した89式中戦車を盾にし、仗助はその支援を受けながらやってくる。同時に億泰も瞬間移動で飛んでくるという寸法だ。二方向、下手をすれば三方向を相手せざるをえなくなり、その間に二人の近距離パワー型が戦車に取り付いて、おしまい。
「西住どのッ、定時外連絡! ザ・ハンドが来ますよぉッ」
「ムーンライダーズは、4号戦車の直衛4騎を残して、
残り3騎でザ・ハンドを牽制。15秒、足止めしてください。
ここが勝負の分かれ目です。お願い、優花里さん」
「了解ですッ、まかせてください西住どの」
「アヒルさんチームは、砲を真後ろに向けてください。
撃つ必要はありません。後ろに向けるだけです」
ムーンライダーズの足止めがうまくいかなければ、ザ・ハンドはM3リーをいともたやすく撃破してしまうだろう。そうなった場合は、もはやみほ自身がスタンド使いとして戦うしかない。当初、想定していた『ホイホイ作戦』は、みほ自身の姿を億泰の前にあえてさらすことで大将首を取れるものと誤認させ、ザ・ハンドで引き寄せられた瞬間、顔面にトゥルー・カラーズのペンキをぶちまけて視界をふさぎ、撃破するものだった。この状況では、もう使えない。億泰を倒したところで、すぐに仗助がやってくることになる。後ろに38tを従えて、だ。『いろは坂』の急カーブを曲がる。エコーズの攻撃があるとすれば、今。
『に、西住隊長……林の中からエンジン音が聞こえますッ、
コッチ来てます!』
ウサギさんチームからの報告は、みほの予想を完全に裏付けるものだった。坂を曲がり、38tの姿が完全に見えなくなるタイミングを狙ってきた。
「無視してください。それはエコーズ。音を操るエコーズのニセモノです」
断言する。絶対に偽者だ。もしこのコースを通ろうとするなら、仗助が車外に出てクレイジー・ダイヤモンドで木を倒さなければならない。スタンドは、車内から直接外には出せない。スタンドは壁をすり抜けたりできない。自分で試したからわかる。外になど出ていては、38tに乗り込んだ意味もないのである。機銃で撃たれて退場になるだけ。ありえない。そして向こうの企みもハッキリとわかった。38tが追いつく直前で別方向から『音』を近づけ、迎撃の方向を絞らせないことに、エコーズの目的はある。これで3方向に注意が分散。まばらになった迎撃をくぐり抜けて、仗助と億泰は来るのだ。38tも高確率で健在。さらに言うなら、そうまでなれば3号突撃砲は完全にフリー。大手を振って橋を渡り、戦闘に参加してくるだろう。恐ろしい作戦だ。これほどまでの難敵だったのか、東方仗助は。戦力に劣った状態から、この『鉄床戦術』じみた挟撃を立案し、実行に移してくるとは。
(……違うよね。東方くんだけとは思えないかな)
彼の作戦にしては、形が手堅く整いすぎているところに違和感があった。向こうには会長さんもいるし、歴史大好きなカバさんチームだっている。彼女達を味方につければ、こんな作戦だって考えてもくるだろう。
(すごいなぁ。声かけられるのを待ってただけの私とは違うね……
でも、勝つのは私)
カードは全て出揃った。クレイジー・ダイヤモンドは装甲に守られて強襲をかけてくる。ザ・ハンドはこちらを釘付けにするための布石であり、かつ総仕上げ。エコーズは、クレイジー・ダイヤモンドの突入支援。のち援護。38tはクレイジー・ダイヤモンドとエコーズを乗せる兵員輸送車で、同時に歩兵支援もやってくる。3号突撃砲は、前半は自走砲。後半は文字通りの突撃砲。よくここまで練り上げた。みほもそう思う。しかし、この作戦は緻密すぎる。緻密な作戦は、一箇所の破綻が全体に波及するものだ。その針の一穴、今、開けてみせよう。固唾を呑んで、数秒後の反撃を待っていると。
「うぐぅ!」
突然、優花里がうめき声を上げて伏せった。頭から出血している。制服に血がにじんだ。
『ライダーズ7、行動不能と判定。再起不能(リタイア)』
承太郎の無感情なアナウンスが流れ、何が起こったかを理解する。今、他のスタンドから攻撃を受ける状態にあるライダーズは3騎のみ。さっき行かせた3騎のうち、1騎がやられた。当然、ザ・ハンドに。今回ばかりは瞬く間に理解したらしい沙織が、床にこぼれた血を見て憤怒した。
「ゆかりん! あ、あいつ……よくも!
ただの練習試合じゃない! それなのに、こんなひどいキズをッ
オンナのコにッ!」
「グ……私だって、ライダーズに銃を撃たせてるんですよぉ~~武部どのッ
急所は外させてますけど、当たれば当然、痛いです。
虹村どのがやってきたのも、それなんですよ。お互い様なんです」
身体を起こした優花里は、用意していたらしい大きめの頭巾をササッと頭に巻きつけ、ガッツポーズをとってみせ、微笑んだ。
「大丈夫ですよぉ、こらえてみせますッ
それと、西住どの」
「うん。ありがとう優花里さん。15秒、キッチリ稼いでくれて。
ウサギさんチーム、道が開けたら左折して角で停止。
砲を今出てきた出口に向けてください。
アヒルさんチームはそのまま直進です。砲もそのまま!」
キューポラからそっと顔を出すと、眼前でM3リーが左折を始めるのが見えた。その向こうには億泰。周囲をムーンライダーズ2騎が旋回しながら、間断なく射撃を続けているのがわかる。まっすぐ飛んでいった弾丸は、ザ・ハンドが殴って弾く。ダメージを与えることはできないようだ。
だが充分だ。つまり億泰は防御行動を必要としている。騎兵銃が命中したらダメージになることを、行動で証明しているのだ。
「優花里さん、もう充分です。ライダーズを下がらせてください」
「や、15秒稼いだら下がれって指示してるんですけどねぇ。
集合の合図出しますね」
「麻子さん、右折! 華さん、38tが顔を出した瞬間、お願いします」
右折し、4号戦車が急停車すると、すぐ背後を89式中戦車が通り過ぎていく音がした。彼我の距離はわかっている。敵は全速力。なら、飛び出してくるタイミングは。
「今です!」
全車、同時に砲を放った。現れた38tは、クロスファイヤーポイントに自ら突っ込んだ形となる。三方向から一斉砲火を浴びせられた38tがまんべんなくピンクの塗料まみれとなり、しばらく惰性で走ってから白旗が上がった。
『東方チーム、38t、行動不能!』
『38t、敵弾貫通により乗員殺傷判定。
角谷杏、即死。小山柚子、即死。広瀬康一、重傷。
以上三名、再起不能(リタイア)』
蝶野教官と承太郎のアナウンスにより、戦果がはっきりする。心中、まったく穏やかではない。補足も何も入らない。アナウンスはこれで終わり。
「さ、さすがです、西住どのッ!
策にハマッたと見せかけて、敵の分力を逆に包囲ッ
これが、『もっとホイホイ作戦』……」
「静かに、優花里さん!」
「えっ?」
「再起不能(リタイア)に、東方くんが入ってない!
38tに乗っていて生き残ったのなら、ここで確実に倒さないと。
華さん、機銃の用意。出てきた瞬間、叩き込みますッ」
「……みほさん、警戒するべきは38tなんでしょうか?」
照準器から目を離すことなく、華が静かに聞いてきた。少し頭に血がのぼりかかっていることを自覚したみほは、小さく、深く息を吐く。今の自分が気づいていない可能性を華が掴んだというのなら、聞かない手はない。
「続けて、華さん」
「音石明との戦いで、東方さんは砲弾をなおしました。
なおした砲弾は飛んで戻ってきましたけど……
もし、それに『ぶら下がる』ことが出来たとしたら」
ガン! ガン!
頭上から鉄板を蹴りつける音が響いたのは、直後だった。経験でわかる。人間の体重が、砲塔に飛び乗ってきたことが。この状況でこんな風に乗って来るのは誰なのか。もう言うまでもないことだ。
「『空も飛べるはず』……か。マズイぞッ……密着された」
「そんな、38tまで囮だったの?」
指揮官が動揺を口に出すのは厳禁である。呆然としたみほは、その禁を破ってしまった。それを恥じつつも、みほの脳は全速力で猛回転している。完全にやられた。おそらく仗助は、川にかかった橋の部品をあらかじめ持っていたのだ。それをなおして飛んできた。38tに全ての注意が向く、その瞬間を狙って。
「で、でもでも!
クレイジー・ダイヤモンドのパワーじゃあ4号戦車は壊せなかったよね?」
「武部どの……甘いです。多分、東方どのは勉強してきてます。
車体後部のラジエーターなら、クレイジー・ダイヤモンドで
ラクラク壊せちゃうんですよぅ」
「そうでなくても、砲に石を詰められたり、履帯をチギられたりしたら終わり。
……ン? M3リーがこっちを向く? 東方を機銃で仕留める気か」
我に返ったみほは、インカムに叫ぶ。ウサギさんチームの行動は、自殺行為でしかない!
「ウサギさんチーム、ザ・ハンドに集中してください! でないと」
「遅かったな。ザ・ハンドがM3リーに取り付いた。
機銃が今、破壊され……たが、89式がフォローに入った。
虹村は飛びのいて逃げたぞ」
ホッと胸をなでおろす。最悪の事態は回避できたようだ。だが、4号戦車の危機は去っていない。砲塔に張り付いた何かが、次第に後ろに向かっている。クレイジー・ダイヤモンドの腕力で張り付いているとしたら、速度を上げて振り回したところで無意味だろう。腹を決めねばならない時だ。唾を飲み込み、全車に通達する。
「これより、トゥルー・カラーズ出撃します。
繰り返します。トゥルー・カラーズ出撃ですッ、
西住みほ、出ます!」
「に、西住どのッ?」
「クレイジー・ダイヤモンドを遠ざけないと、
あんこうチームはこの場で全員退場です。
今しかありません。ムーンライダーズと連携して、東方くんを倒します!
ウサギさんチームはザ・ハンドの牽制に集中。
アヒルさんチームは、私……西住みほを見て、適宜援護をお願いします。
以降、しばらく指揮は取れません。華さんが代行します。以上です」
インカムを外し、手を伸ばしてきた華に預ける。これも事前に話し合って決めていたことだ。みほ自身が指揮を取れなくなる状況に陥る可能性は、スタンド同士の戦闘がありえる時点で想定した。
「みほさん、ご武運を」
「ウウウッ、みぽりんがさぁ~~、なんでこんな痛いことばっかり」
「あはは……勝ってきます!」
キューポラは使わない。そこから這い出した途端、モグラ叩きよろしくブン殴られるだろうから。沙織のそばまで行き、沙織頭上のハッチから勢いよく身を乗り出す。見えた、仗助だ!
同時にトゥルー・カラーズを発現、砲塔に張り付いて背を向けている彼の尻を蹴り飛ばしにかかる。物音がした瞬間に気づいていたのだろう、クレイジー・ダイヤモンドが現れ、即座にブロックされた。
「ケツ狙うのかよ、よりにもよってよぉぉ~~」
「初対面でね、おシリ蹴ッ飛ばされたよね……お返し」
「そう言われると返す言葉もねェ~ッスけど。
わかってるよな……出てきたからにはよぉーーーー」
「負けないよ。それだけ」
二人して、戦車の上に仁王立ち。トゥルー・カラーズとクレイジー・ダイヤモンドもまた、互いをにらみ合っていた。
To Be Continued ⇒
みぽりんが周りに連絡してから戦いに出るのはいいものの、
まるでロボットアニメみたいになってしまった。