GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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皆さんからいただいた感想と、『戦車戦にチャレンジしよう!』の
(4)以降を読み直して、説明不足の部分が浮き彫りになりました。

・試合開始時に『矢』を持っているのは東方チームである

これがドコを読んでもわからない状態にありました。お詫び申し上げます。
(4)にあった承太郎の説明を加筆修正しています。

今回は仗助視点。しかし時間的にはむしろ(5)の前になっています。


戦車戦にチャレンジしよう!(6)

「東方くんの考えはわかったよ。

 ウン、よくデキてる、ナカナカデキてる」

 

東方仗助(ひがしかた じょうすけ)は、チームの皆を集め、地図を見て考えた作戦を語ってみた。この中でもっとも頼りにしている角谷杏は、それを聞いて満足そうに頷くものの、表情と言葉のニュアンスは、決してGOサインではない。確実にこう言っている。『これでは勝てない』と。身を乗り出す仗助。これをこそ期待したのだ。そこに手を挙げて、発言の許可を求めてきたのはエルヴィン。

 

「つまり、東方の作戦は『水際作戦』ということだな。

 川を防御陣地とし、3号突撃砲で支援しながらザ・ハンドで敵主力を拘束。

 そこに合流したクレイジー・ダイヤモンドが、

 エコーズの支援の下で奇襲を仕掛ける。

 そのタイミングで38tが橋を渡り、残存戦力を1両ずつ集中攻撃して殲滅」

 

説明した内容を地図を指差しながらおさらいしてから、エルヴィンもまた称賛してくる。

 

「天然の防御陣地は予備とし、その先に主力を置いて戦線を構築。

 そうやって陣前消耗を強いているところに、

 戦車の入れない林の中から奇襲をしかけ、最終的に包囲殲滅。

 ここまでの作戦を、この短時間で立てたのは見事だと思う。

 ここに来るまでにいくつか戦術をすでに考えてきていたんだろうが」

「ハッキリ言っていいんだぜ、エルヴィンよぉ~

 むしろオレとしちゃあ、そいつを言ってもらいたいからよ」

 

言葉の途中でさえぎられ、口ごもったエルヴィンは、咳払いをひとつしてから気を取り直し、仗助の希望を聞き入れた。

 

「わかった。はっきり言う。このやり方では勝てない。

 西住隊長はおそらく、最初からスタンド使いの迎撃を

 最優先にした戦術を取ってくる。

 それがわかっているから、君も38tを戦力に組み込んだんだろう?」

「ああ……西住率いる戦車三台と戦うのに、

 こっちの戦車を一台『運び屋』に使っちまったら

 ますます勝ち目がねぇーってのが一番大きいがな」

 

仗助が答えたところで、カエサルが手を挙げ、エルヴィンの後を引き継ぐ。

 

「距離と装甲を無意味にするザ・ハンドが積極的に攻めてこない時点で、

 まず確実に伏兵を疑うな。そしてこの状況、この陣容で

 伏兵として機能するのは東方と広瀬だけ。

 音を操るエコーズである程度だますにしても、

 向こうには七体のミニチュア騎兵……ムーンライダーズがいる。

 これに見つかった時点で、万全の態勢で迎撃される。そうなってしまえば」

「ザ・ハンドは単独で敵中に孤立。後は各個撃破、だぜよ」

「さながら長篠の戦い。

 戦力の中核を失って、勝ち目のない消化試合に……ウウッ」

 

おりょうと左衛門佐がオチまで言ってくれたところで、仗助は腕を組んで首を傾けた。

 

「ザ・ハンドの恐ろしさを知ったからこそ、

 ムーンライダーズは防御に集中すると踏んだんだがよぉ~」

「そう、逆だよ!

 恐ろしい威力を前面に出してこないからこそ、そのタイミングでバレる。

 そして、バレた時点で歩兵の強みは消滅するんだよ。東方」

 

反論はできない。エルヴィンにも、カエサルにも。戦車の機銃、三台分に同時に襲われて無事でいられると考えるほど楽天的には、仗助とてなれない。苦し紛れに杏にも意見を求めてみると、モッチャモッチャと干し芋を頬張りながらも応じてはくれた。

 

「会長さんも同意見ッスか? 様子見てる限りだとよぉー」

「ソコまで深く考えてないよ?

 けどさ、どれも西住ちゃんの想定通りに収まっちゃうと思うんだよね。

 落ち着いてひとつずつ対処されてさぁー、

 そのままジリ貧になっちゃうんじゃない?」

「グレート。そこまでなのかよ、隊長としてのアイツは」

 

近距離パワー型のスタンドに目覚めながら、相手を殴ることに躊躇する西住の顔を思い出す。あの引っ込み思案のお人よしが、そこまでの圧力を持って攻めてくるというのが今ひとつ想像できない。などと思った自分の頬を、両手でパチンとひっぱたいた。

 

(バカヤロ~~~思い出せよオレ!

 アイツは『やる』と決めたら『やる』ヤツなんだぜ~

 しかも今回は『戦車道』! 誇りを持ってる専門分野!

 透明な赤んぼを助けたときの、ある意味、手段を選ばねーやり方が

 一切の気兼ねナシに向かってくるって事だぜ!)

 

音石明との戦いでも、戦車に戻るなり一瞬で効果的な援護をしてきたのだ。あそこでキャタピラを破壊できなければ、戦いが少し長引いていただろう。秋山は、ジョセフの奇跡を持ってしても間に合わず、そのまま帰らぬ人となっていたかもしれない。西住は『死の運命』を変えた。秋山にしても、赤ん坊にしても。そう考えた途端、にわかに闘志が沸いてきた。

 

「ん、どしたの? スゴ味が出たねぇーイキナリ」

「いや、別に。思い出しただけッスよ。

 聞くまでもなく、アイツはすげぇってことをよ……」

 

不意に、カバさんチームの視線が一斉に集まる。見てくるだけで、何か言ってくるわけではない。仗助も、とくに気にしないことにする。

 

「だがよ、負ける気はねぇーんだぜ。

 想定通りじゃ勝てねーってんならよ、ドギモを抜くまでだぜ」

 

億泰が手を挙げた。ハイ、ハーイと声を出しながら。

 

「だったらよぉー、川の手前で全員ぶつかっちまおうぜ!

 メンドクセーこと全部ヌキで、ココで叩き潰しちまうんだよッ」

「アホかーーーッ!」

 

得意げに地図を指差して、指先と指先をぶつけてみせた億泰に、桃がいきり立って38tの装甲板をバーンと叩く。叩いてからジワジワと涙目になり、手を必死でフーフー吹いている。

 

「ンだよてめーッ 文句あんのかよ」

「大アリだ、このドマヌケッ!

 何のために川に陣取ると思ってるんだッ

 こんなトコロで襲い掛かれば、単に後がなくなるダケだろーが!」

「おーよ、後なんかネーだろが!

 ツブすか! ツブされるか! そんだけでよぉぉーーーッ

 肝心なのは最初の一撃なんだぜぇーッ、そいつでブッ倒しちまえばよぉ~、

 後はマウントとってボコす!」

「言うのは簡単だなぁ~~~ッ、やってみろ! あの西住に対してッ」

 

ギャンギャンギャンギャン。

いい加減に飽きないのかこいつら。顔を合わせるたび、口を開くたびに罵り合いしやがって。無言のまま、仗助は額に手を当て、杏は何を思ってかニヒヒと笑う。背後から、康一が億泰を、柚子が桃を羽交い絞めにした。

 

「ホーラ億泰くん、どうどうどうどう」

「桃ちゃんイイ子、イイ子だから止まって、ね」

「ウマかよオレは! わかったよ、ダマるぜぇー」

「桃ちゃん言うなッ! ぐぬぬぬぬ……」

 

羽交い絞めされながらもにらみ合いはしばらく続き、

 

「ケッ!」

「フン!」

 

二人とも、同時にプイと顔を背けて終わった。コイツら、三十分しかない作戦会議のうち、実に六分の一を無駄にしてくれている。残り時間は、あと十分に満たない。そんな中、エルヴィンがまた進み出て、頑張って総括してくれた。

 

「河嶋先輩の指摘している通り、

 指揮官の能力差と場所の拙さから実現不可能ではあるが。

 虹村の作戦は、つまり『急襲』だな。

 出会い頭にイキナリ防ぎきれない規模と速度の攻撃をぶつけて

 敵陣を叩き割るわけだ。

 私としては、先の東方案と折衷すればいいと思う」

 

そこから先は、このエルヴィンの快挙とも言うべき作戦案だった。東方案そのままに川を防御陣地とし、川の手前にてザ・ハンドで敵を拘束。このとき、ザ・ハンドはあえて直接攻撃をせず、観測員となって3号突撃砲の砲撃位置を指示する。この時点で西住チームは、こちらの目的が戦線への拘束であることに気がつくだろう。その間、仗助と康一の乗った38tはひとつ先の別の橋から迂回し背後に回り、そして合図と同時に。

 

「『急襲』する!」

「なるほど! 虹村の『床(とこ)』に東方の『鉄(かな)』ッ!

 『鉄床(かなとこ)戦術』ッ! アレキサンダー大王の十八番ッ!」

「ま、待ってよ! 考えてることはわかった!

 つまり、仗助くんを装甲で守りながら

 敵のド真ん中に突っ込ませるってことだよね?

 けど……これじゃあ気づかれた瞬間に結局一網打尽だぞッ、

 ぼくも、仗助くんも、38tも!」

「あッ、わかったぜエルヴィン! だから康一も乗っけるんだな?」

「そうだ、エコーズで『だます』ッ!」

 

急襲と同時にエコーズを射程ギリギリに展開、38tの走行音を響かせて突き進ませる。地形的に、林の中から不自然な音が響いてしまう形になるが、それでもなお西住チームは注意せざるをえない。無視した場合、もしそれが本命だったなら、ろくな備えも出来ないまま接近と攻撃を許してしまうからだ。

 

「そしてこの突入と同時にザ・ハンドも直接攻撃に移る。

 西住チームはこれで三つの正面を抱えることになり、

 虹村と東方、どちらを撃ち漏らしても致命傷!

 そこに私達、3号突撃砲が橋を渡れば」

「フクロ叩き、っつーわけかよ! イイじゃあねーかッ、気にいったぜぇー

 アッタマいいなーオメーよぉー!」

「ウ……ウン、認めるにやぶさかでないぞ、私は!

 イイ作戦だ……と思う」

 

手の平に拳をブツケて喜んだ億泰に一歩遅れて、桃も『仕方なく認めるんだぞ!』みたいに賛同する。『私も』ではなく『私は』であるところに、またツマラナイ意地を感じないでもないが。このポンコツ先輩にもだいぶ慣れてきた。

 

「どうだろう、東方。東方隊長!」

「グレートだぜ、エルヴィン。言うことねぇーぜ。

 『仕切り』もおめーに頼みてぇーんだが、いいかよ?」

「……『仕切り』? 私が『指揮』をしろと?」

「殴り合いに出ちまうんだぜ? オレはよぉぉー、指揮なんかとれるワケがねぇ!

 すると、こん中で一番、戦場全体を眺めていられる立場にいんのはよぉー、

 川向こうの3号突撃砲だよな。

 ケータイなんて便利なモンもあるしよ、全ての情報は3号突撃砲に集めるぜ。

 そいつを使って指示を出すのは、作戦を組み立てたおめーがいい!

 オレはそう思うんだがよ」

「んん……わかった、引き受けよう。

 エルヴィンの名乗りに恥じない采配、やってみせる!」

 

当初、指揮は杏に振るつもりだったが、杏もまた38tで突っ込むのだ。指揮よりも戦闘の方に忙しくなってしまうだろう。それに、この歴史オタクどもがここまで頼れるとは思わなかった。いや、さすがは歴史オタクと言うべきか。自分と億泰のシロウト作戦を、使える形にまで落とし込んでくれた。3号突撃砲を西住に渡したくないという消極的な理由から選んだコイツらだったが、むしろ3号突撃砲よりもよっぽどの拾い物だったと言える。恐ろしいのは戦車じゃあない。戦車を操る搭乗者だ。スタンドと同じことである。

 

「そんでよー、このグレートな作戦をより完ペキにするために、

 もう一個ばかし小細工を提案するぜ」

 

だからこそ、これは絶対に必要だ。

 

「……つまり、『斬首戦略』か。

 決まれば、西住チームは立て直しも効かなくなる。

 そしてこのタイミングなら、機銃で『撃ち落とされる』リスクも限りなく低い」

「アイツによぉー、考えるヒマは与えねえ。

 ドギモを抜いたら、そのままスタンド使いの土俵に引きずり込む!」

 

…………………………

 

『今、虹村が出た。壁を掘り始めたところだ。38tはどうだ?』

「今、橋を渡ったぜ……敵影なし!

 敵に発見されないように、ここからしばらく速度を落とすぜ」

『了解だ。作戦に変更なし。そのまま進め』

「38t、了解ッスよ」

 

ピッ。柚子ケータイ(また借りた)の通話を切った仗助は、改めて車内を見回した。あの時のようなギッシリ状態ではない。自分の膝に康一が座ってはいるが。すぐ左にはポンコツ先輩、桃がいて、正面にいるのは運転手、もとい操縦手の柚子。『矢』を持っているのは、この柚子だ。『矢』とはいっても、今年の干支『卯』の、単なる破魔矢なのだが。そしてその隣には会長さん、杏。やっぱり干し芋をムシャムシャ食ってるだけ!

 

(足投げ出してんじゃあねェーッスよぉぉー、なんつーカッコしてやがる!

 もうちょいと『慎み』ってヤツを知って欲しいよなぁー、仗助さんとしては!)

 

とか思っていると、杏の首がクルッと回ってコッチを見た。ニヤッと笑って一言。

 

「スケベ」

 

ガタッ!

音を立てて桃が立つ。ビシッと人差し指を突きつけてきた。

 

「オイ東方ッ、会長によこしまな視線を投げてるんじゃあないぞッ!」

「ウ、ウルセーッスよ!

 ンなコト言うんならよぉー、足下ろせよ会長さんッ」

「アッハハー、ゴメンゴメン!

 つい、こーいうのにダラシなくなっちゃうんだよねぇー、

 女所帯だとさぁー」

「カンベンして下さいッスよォー」

 

コイツ、確実にからかいに来ている。だが、からかい返しなんかをしようものなら、さらなる地雷原に足を突っ込むのが見えていた。コイツはそれをわかってやっている。なんてイヤラシーヤツだ。いつか鼻ツマんで泣かす!

心の中で密かに決意するが、そこへいきなり脈絡の無い話が飛んできた。

 

「ザ・ハンドで戦車を川に落とす。えげつないよねぇー」

「は? そりゃあオレだってそう思うッスよ。

 だけどよ、戦車に乗った西住が相手なら、

 接近戦に持ち込むだけでも一苦労だろうしよー」

「だねぇー。西住ちゃんが相手じゃあ、ねぇー」

 

仗助は、これを会心の策だと思っている。これを思いついたからこそ、ザ・ハンド単独で川を防御陣地に見立てることができるのだ。不用意に近づいた戦車がいれば、ガオン、そして、ドボン、だ。だが、杏はおそらく、これを褒め称えているわけではない。表情も口調もとくには変わらない。だが『何かある』。

 

「東方くんさ、『あのこと』知ってんの?」

「『あのこと』? 何かあったのかよ、西住によぉー」

「……知らないなら、イイや。むしろ安心したね!」

 

そして、今の質問は『答え』でしかなかった。『戦車が川に落ちる』、西住はそういう事件だか事故に巻き込まれたことがある!

今ここでそんな戦法を提案した自分に、『それ』を知っているか確かめてくる理由があるとしたら。

 

「会長さんよぉー」

「ンー? なぁに?」

「今までの時間はムダになっちまうがよぉー、

 今からでも億泰案の『急襲』に作戦変更するっつーのもアリだと思うぜ」

 

真顔になった杏は、数秒間、目玉をぱちくりさせた。それから、イタズラッ子のような……だが、少し穏やかな笑みに戻る。

 

「フフン、甘いね東方くん。

 西住ちゃんはねぇー、あの橋の上で十字砲火くらったんだよー練習試合で!

 ギシギシ揺れて4号戦車が落ちそーだってのに、

 全然、取り乱したりなんかしなかったんだよねー

 『川ごときを怖がったりはしない』よ、西住ちゃんはさぁーーッ

 だから私達としちゃ、もっと怖がってもらわないとねーー」

「なるほどよ。了解だぜ会長さん。作戦変更、なし!」

 

ひとつ頷いてから、杏はまた干し芋を袋から引っ張り出す。少ししてケータイが鳴り出した。エルヴィンからだ。

 

『東方だな? 虹村が敵を発見した。

 虹村もムーンライダーズに発見されている!

 敵に後退の様子なし』

「ンじゃあよぉー、始めんのか?」

『ああ。ミョルニル作戦、発動だ!』

「38t、ミョルニル作戦開始、了解したぜ」

 

『鉄床戦術』で『神話の戦い』だからミョルニル作戦、らしいが。仗助には何のことやらサッパリである。歴史オタクどもはウレシそうだったので、それで良しとした。ともかく、作戦は始まっている。あとは西住をぶちのめすだけだ!

38tの機関がうなりを上げ、最大速度に突入したことがイヤでもわかった。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




次回はまた、みほ視点でお届けの予定です。
次はちゃんと時間も進みますので……

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