GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
あの、みんなで空を指差すシーン。
この作品も、杜王町の皆と大洗女子学園の皆で
同じように空を指差すシーンが想像できるような作品にしたいモンです。
それはともかく、早めのお届けができました。
今回はみぽりん視点ですね。
すでに戦いは始まっている。西住みほ(にしずみ みほ)は、いつものようにキューポラから顔を出そうとし、直後にやめた。少なくとも今は、絶対にできない。
(一番マズイのは、虹村くんに『誘拐』されて、そのまま殺されちゃうこと)
先ほどの作戦会議を回想する。東方チームがとると想定される戦法は、38tによる『ガン逃げ』。作戦目標として戦闘領域外への逃走が必須であり、かつ戦車を一両だけ撃破すればいい彼らが戦車全てを投入して攻勢に出てくることは、考えにくい。数の不利に加えて指揮官の練度で大きく水をあけられており、正面から戦ってもどうしようもないはず。それがわからない仗助では、絶対にないのだ。となれば、必然的にスタンドの使い方で優位を見出す戦いになる。そして、その中でもっとも恐ろしいのは、虹村億泰のザ・ハンドだった。
「顔を出さないで下さい、西住どの」
「うん、わかるんだけど……つい、クセかな」
「しっかし、モノを近くに引き寄せるだけの能力だと思ってたら、
トンデモなかったよねぇー」
「空間ごと何もかも削り取る。戦車の装甲すらまったく意味がない、か」
「実演されなければ、『触られただけで即死』は納得いかないところでした」
死亡判定の説明にあたり、ザ・ハンドだけは明確な特別扱いを受けたのだ。すなわち、『右手で触られたなら即死亡』。それは何故かを説明するために、億泰は廃材の装甲板をひとつ、削り取ったのだ。直後に、何事もなかったかのように復元された装甲板は、しかし妙に短かった。削り取られた部分は、決してたどり着くことのできないどこかへ消し去られてしまったという。あの『ガオン』という独特の音が何を引き起こしているのか理解させられたみほ達はゾッとした。能力の詳細を知らずに戦わされたら、初見殺しもいいところではないか。音石明事件の際にザ・ハンドの真価を発揮しなかったのは、人質である優花里ごと削り取ってしまうからだったのだ!
「だから、虹村くんに貼りつかれたらオシマイ。
『ガオン!』で私達は全員死んじゃう」
「これほどオソロシイ対戦車攻撃はありませんねぇ」
「しかも『空間が閉じて』遠くのものを引き寄せられる……
イカレてるぞ、あのアホめ」
「どう考えても、戦車一両を撃破しなければならない東方チームの『切り札』。
受けて立ちますよ、虹村さん」
全車両、一定の距離を保ちながら開けた場所を走り続ける。東方チームの方角には向かっているが、一直線に目指すのではなく、開けた場所のみを選んでいく。先手は進呈してもよい。だが奇襲は決して許さない。そして彼らとて、いずれは仕掛けざるをえないだろう。戦車一両の撃破は勝利条件なのだ。敵に回った3号突撃砲も、今はどこかに潜み、狙撃の機会を伺っているはず。みほとしては、3号突撃砲を取られることは想定済みであり、その判断の上を行かなくてはならない。
「優花里さん、ムーンライダーズの索敵はどうかな?」
「定時連絡に変化なし。まだ敵を発見してません」
今回はスタンド使い同士の戦いでもある。スタンドは東方チームの専売特許ではない。空前絶後の射程距離を持つというムーンライダーズは、単独で索敵網を構築できる。最大の課題であった、勝手に動いて制御できないという問題は他ならぬ仗助のおかげで克服しているのだ。であれば、この戦場で彼らを存分に苦しめることこそが恩返し。優花里とも、その点で意見は一致している。
「虹村くんは……開けたところには絶対にやってこない。
そんなところで襲い掛かっても、
機銃でやられちゃうことなんてわかりきってるはず」
「ですから、来るのは必ず物陰から。そうやって見ると」
「襲撃のポイントはおのずと絞られる。
この林にいない。索敵でわかった。なら」
「次はこの先の橋でありますね。
いつか4号戦車がみんなに狙い撃ちされたあの場所です」
「予想が当たったと見るべきかな。
優花里さん、ムーンライダーズ全員で偵察に当たらせて」
「了解ッ、コジロー……いえ、ライダーズ1! 全員集合の合図です」
『カシコマッタ!』
みほは考えた。虹村億泰のザ・ハンドをもって戦力の劣勢を覆すにはどうするか。物陰から直接襲い掛かる方法は、それでも充分に有効だが下策である。戦車一両を倒すという目標を達すればまだいいが、失敗した場合、戦車三両から逃げ延びる可能性が限りなくゼロ。唯一と言える逆転の目を、そんな風に無造作な捨て駒にしてしまえるか?
ザ・ハンドの能力は削り取るだけではなく、遠くのものを引き寄せることもできる。もし、それが戦車ほどの質量であっても可能だというのなら。
ザ・ハンドが戦車を相手に最大の攻撃力を発揮できる地形は、ずばり川だ。仗助は、そこに戦線を引いてくる!
3号突撃砲も、川の向こうから一方的にこちらを撃てることになる!
「いいですか、ライダーズ!
探すべきは虹村どのだけじゃあないんですよぉ!
3号突撃砲の観測員をやっている誰かがいるかもしれません。
確認次第、即刻報告ですッ」
『アイサーッ!』
『撃タセテクレヨォーッ司令官!』
「ダ・メ・ですッ! 私達の任務は偵察と4号戦車の直衛!
それ以外は絶対に禁止ですよ!
わかったら、GO! GO! GO!」
優花里がムーンライダーズに指示を出し終わったのを確認すると、みほも全車一斉に指示を出す。
「全車両、ゆるやかに後退してください。
安全を確認するまで、川には近づきません」
この川は、橋から水面まで5~6メートルはある上に水深も深い。シュノーケルつきの戦車が自分から入った場合ならともかく、上から真っ逆さまに落ちてしまえば、おそらく一発で撃破判定が出てしまう。
(トラウマえぐってくるなぁ、東方くんも……)
彼にそんなつもりはないだろう。そもそも、あの事件自体、彼は知るまい。わかっていても、気分はどんより曇り空になる。だが今は、それにこそ感謝せねばなるまい。ザ・ハンドを使って戦車を川に引きずり込む。この可能性に気づいたのは、あの経験あってこそなのだから。そして、考え方を変えてみればいい。逆に考えればいい。自分が、仗助にボコを治させたように。今、あの時を『なおす』機会を仗助がくれているのだと。ならば自分にできることは、さしずめ『塗り替える』こと。たとえ中身は変えられなくとも、彩りを変えることくらいはできるはず。
(ウン、燃えてきたかな。負けないよ)
みほは知らず知らず、拳をグッと握った。なるほど、巧妙な落とし穴だ。だが、わかったからには付き合う義理はないし、考えすぎなら、なおラッキーだ。
「優花里さん、定時連絡は?」
「変化ありません。やりますか?」
「もちろん、やるよ。
全車両停止。通達したポイントに一発撃ちこんでください!」
これは当てずっぽうに等しい。想定されうる狙撃ポイントのうちひとつを狙い撃ちにするだけだ。だが、敵がいるならこれで動く。動かないというなら、順繰りで次の狙撃ポイントに撃ちこんで行くのみ。
「動きはないようですね。みほさん」
「なら、次だよね。
全車両、前進……停止! 次のポイントを撃ちます!」
別にかまわないのだ。こちらが敵の位置をつかんでいないことがバレようと。想定通り、ここに戦線を引いているならば、狙撃ポイントがある程度限られる以上、いずれは命中することになる。敵側からなんらかの形で動きを見せざるを得ない。逆に、ここ以外で待ち構えているならば……願ってもないことだ。つまり、最も恐ろしいザ・ハンドの脅威はガタ落ちということ!
戦車三両の密集陣形をとっているだけで対処できてしまう。戦車一両を引き寄せたところで、残り二両の車載機銃でペイントまみれにしてやるだけである。なお、今回、戦車砲に装填されているのもペイント弾だ。直撃しても人は死なない。むろん、水が満タンに入ったバケツを顔面に全力で叩きつけられる程度の覚悟は必要になるが。
「!! この銃声、定時外連絡ありです!
敵発見! 主目標、つまり虹村どの!」
「来たッ……『ホイホイ作戦』、開始です!」
全車両、狙い撃つ目標が変わる。川をはさむガケ付近に次々と着弾するピンクのペイント弾。当然、狙いは億泰だ。岸壁に穴を掘って潜んでいた億泰を、砲撃でいぶり出す。撃ちながらも全車両、少しずつ後退していく。
東方チームからすれば、億泰だけが狙い撃たれる格好だ。億泰がここで発見された以上、3号突撃砲が橋向こうに潜んでいるのも確定である。さもなければ、戦力を無意味に逐次投入する悪手を仗助がとっていることになる。彼は、そこまでたやすい相手か?
あの音石明を、ザ・ハンドの一手で完全に無力化した彼が?
戦車砲で撃たれること、それ自体を丸ごと攻撃に転用してしまった彼が?
絶対に違う。だから、3号突撃砲は確実にいる!
「ライダース3、伝令ですかッ」
『出タゼッ、ターゲットガ耐エカネテ飛ビ出シタゼ!
コッチに向カッテイル!』
「でかしましたッ ライダーズ1、全員集合の合図!
4号戦車の上で方陣です。 虹村どのを迎撃しますよッ!」
「全車両、微速前進です。ザ・ハンドが来ます。
『引き寄せ』を警戒してください!」
敵の配置はわかった。向こうにザ・ハンドがあるなら、こちらにはムーンライダーズがあるのだ。あとは、トゥルー・カラーズ。『ホイホイ作戦』の成否は、自分のスタンドにこそかかっている。だが、直後。想定外の報告がやってきた。
『司令官ッ、ターゲットヲ見失ッタゾ!
空間ヲ削ッテカラ、コツゼント消エヤガッタ~!』
「なッ……空間を削って、虹村どの自身が消えた?」
「やられたな」
慌てる優花里の声を受け、麻子が忌々しげにつぶやく。
「麻子、どういうこと?」
「『削った空間が閉じる』……
多分、これを『引き寄せ』とは逆に使ったんだろ」
「逆に……ということは、虹村さんご自身を『飛ばした』?」
「ただのアホだと思いすぎた。訂正が必要だな。
ブッ飛んだドアホウだアレは」
「そ、それは置いといて! な、なにそれ?
つまり、アイツは『テレポート』し放題の『アポート』し放題ってこと?
オマケに戦車を『右手』一振りで壊せる?
どどどどうすりゃいいのよォ~~ッ!」
ここ数日、超能力関係の本を買いあさって自分なりに研究していたという沙織だったが、それをもってしてもここまでの事態は想像を超えていたらしい。みほもそうだし、麻子ですらそのようだ。
「これがスタンド使いの戦い。
敵に回って、改めてその恐ろしさがわかる気がします」
「まだ砲すら交えてないんですよぉ~五十鈴どのッ
スゴさをホメるのは勝ってからにしましょうよ! イギリスみたいに」
「その通りです、優花里さん。
今、重要なのは、虹村さんがどこに行ったか、ですね」
おもむろに頭上のハッチを空け、わずかに顔を出す華。その仕草に、誰も疑問を覚えない。4号戦車には、乗員各々が顔を出せるハッチが存在しているが、まさかこんな形で有利に働くとはみほも思っていなかった。においで索敵するなんて、戦車道ではありえない。
「……少なくとも、至近距離にはいませんね」
「アイツのにおいなんか覚えてんのー? 華ぁー」
「覚えていますよ? 戦車道メンバーのにおいは全員覚えました。
ある程度近づけばにおいでわかります」
「ウワァァー、私の友達の人間離れが加速していくぅぅーッ」
身悶える沙織に、みほは、ただ苦笑である。スタンド使いになった時点で、自分とて少なくともタダの人間じゃあないのだ。さりとて、人間をやめた覚えもとくになく、この場の全員、それは同じである。
「でも、おかげで負ける気はしなくなった! どうしよっか?」
「もう一度、対岸の狙撃ポイントを狙いに行きます」
「それはいいけど、虹村くんどうすんの?」
「襲ってくるなら『ホイホイ』するだけ。だけど問題は、来なかった場合」
「来なかった場合?
来なかったら、川をはさんでにらみ合いになるだけ……」
「みほさん、あなたはこう言っているんです?
『虹村さんのザ・ハンドも囮』、そう言っているんですか?」
「断言はできないよ。だから『試す』」
全車両、またも前進し、狙撃ポイントの狙い撃ちに入る。だが、今度はそうはいかなかった。対岸から砲声が響き渡る。一斉に散開したところへ、狙い済ました一撃が着弾した。ぶちまけられるスカイブルーのペイント。
「撃ってきた、撃ってきましたね西住どのッ! しかもこの正確さ……
間違いありません、虹村どのが観測員をやっています!
観測員は虹村どのです!」
「ザ・ハンドも囮、って、まさかこのこと?
本人は『テレポート』でアッチコッチ動きながら、
こっちの場所だけデバガメし続けて3号突撃砲に報告してるっていうの?
いッ、イヤラし~~~~ッ そんなの対処できないじゃない!」
3号突撃砲とザ・ハンドの合わせ技。今、沙織が言っているような使われ方で攻められることも、みほは可能性のひとつとしては考えていた。3号突撃砲の最大射程は6km。観測員つきでバカスカ撃たれると、こちらとしては手が出ない。しかし、この戦法は決め手を欠く。当然ながら、離れれば離れるほど標的への命中は困難になるし、なにより3号突撃砲の保有する弾薬にだって限りがある。ただの一両で撃ち続けられるわけもなく、弾切れすれば、もはや丸裸である。これだけに頼るのは相当にリスキーだ。
「だとすれば、こんなシチメンドクサイ方法。よく虹村が納得したな」
「言われてみれば確かにですねぇ冷泉どの。
『ウダラァ、メンドくせぇーーーッ!』って言いそうですよね。
虹村どのだったら」
「プッ! 似てる、それスッゴイ似てるよゆかりん!
笑い事じゃあないけど」
そして、今の麻子と優花里の会話で、みほの心中にあった懸念は確信に変わった。億泰は、今この決め手のない状況に、何も疑問を持っていないのだ!
「わかったよ。東方くんの作戦が」
「え……さすが西住どのッ! で、その全貌とはッ?」
「ザ・ハンドと3号突撃砲、それと川で作った戦線は、単なる『仕込み』!
ただ私達を『ここにいさせる』ことが目的だよ」
「そ、それって、つまり……アッ!」
「……恐ろしいものですね。『まさかやらないでしょう』をあえてやってくる。
気づかなければ一網打尽にされていたかも」
「『矢』を二の次にするのか。だが理にかなっているな」
「ど、どゆこと? ねぇ、サミシイんだけど」
優花里は理解した。華と麻子も遅れて理解したようだ。沙織だけは追いついてきていないが、すぐにわかることだろう。
「この状況、逆用します。
『ホイホイ作戦』改め、『もっとホイホイ作戦』です!」
To Be Continued ⇒
次回は、仗助サイドからコレを描くと思われます。
しかし書いてみればザ・ハンドをひたすら怖がる話になってしまった感。