GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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どうにか日曜夜の更新はできた……深夜だけど。
今回は蝶野さん視点。


戦車戦にチャレンジしよう!(2)

蝶野亜美(ちょうの あみ)は、大洗女子学園の戦車道教官。だがそれ以前に自衛官である。ひとたび有事あらば、その身を剣とし盾とする覚悟は出来ている。そんな彼女にとって、先週末からのここ一週間は面白いものではなかった。

 

(『何か』隠されてる。蚊帳の外に置かれてる)

 

土曜日にあった戦車ジャック事件は、財産目当てに大富豪ジョセフ・ジョースターを狙ったチンピラの仕業であり、容疑者である音石明の顔写真がすでにあちこち貼り出され、ニュースでも報道された。だが、戦車で悪事を働こうとする輩が出ることなど、とうの昔から危機感を持って備えられており、そうしたセキュリティのことごとくを破って侵入してきた者が、ただのチンピラとは思えない。なにしろ、件の男は監視カメラにすら映ることなく、戦車道の格納庫に突如として現れているのだ。

今回の事件にあたり、亜美は戦車の管理不行届きを疑った。戦車道履修者一同に、自分達が何を扱っているのかを思い知らせる方向で、かなりキツく指導するつもりだった。そのために、柄でもないことは承知で、どこにエラーがあったのかを確認するべく事件の全容をひっくり返していたのだが。確認してみると、戦車が奪われたのは戦車道訓練の準備中。戦車に弾薬を運び込んでいる最中、格納庫内が無人になった一瞬を狙われていた。つまり、施錠忘れの類ではなく、戦車道履修者の皆に非はないことになる。むしろそんな隙を伺えるまでに部外者を侵入させ、接近させてしまった学園のセキュリティが問題だろう。そう考え、生徒会にかけあって、当日の監視カメラの映像をすべて見た。穴が空くほど見た。不審者は誰もいない。せいぜい、大富豪ジョセフ・ジョースターその人が、孫その他の付き添いと一緒に生徒会室に入っていっただけだ。風紀委員を中心に聞き込みもした。音石明を見た者は誰もいなかった。

いよいよおかしなことになってきた。これでは、容疑者たりえるのはジョセフ・ジョースター周辺の人間のみ、ということになる!

そして生徒会室の監視カメラのみ、途中から動作不良で映像がブツッと途切れ、最後に映っているのは彼らがお茶を飲んでいる姿。不自然すぎる。これだけ見ると、他ならぬ彼らが容疑者だとしか思えない。だが、時系列を確認すると、戦車が奪取されたのは、彼らの映像が途切れる数分前のこと。彼らのうち誰一人として生徒会室を立ち去っていない以上、彼らの犯行は物理的に不可能だ。それがかえって亜美の不信感を増幅した。この事件、最初から最後までただならぬことしか起こっていないのではないか。映像が途切れた生徒会室で何があったのか、また聞き込みを行うと、おそるべき証言が複数出てきた。

 

『生徒会室に砲弾が直撃して破壊されていた。

 だが次の一瞬で、何事もなかったように元通りになった』

 

一人だったら世迷言で済ませることもできただろう。だが証言者は三人いた。そんなバカな話がと、切って捨てることはできなくなった。確定だ。戦車道履修者の皆と生徒会は、自分に何かを隠してる。それも、常軌を逸した何かを。亜美は、再び生徒会長室に立った。不敵な目をした小娘相手に、調査の成果を叩き付けた。

 

「ココまで一人で調べたんだ……スゴいねー蝶野さん」

「スットボけないでッ!

 私は教官よ。あなたを含め、皆にケガをさせない義務があるッ

 なのに、ワケのわからない隠し事をされちゃあ……

 取れないじゃあないのッ、責任が!」

 

これでもなお、生徒会長の角谷杏が韜晦を繰り返すようなら、本気で外部から専門家を呼んでくるつもりだった。イイカゲン頭痛がイタイ毎日がイヤになっていた。値踏みをするように見ていた角谷杏は、1秒未満だけ真面目な顔になってから、言う。

 

「今日の戦車道の練習、開始三十分前に格納庫へ行ってみてください」

「……何の話?」

「私が直接口で話すより、現物を目で見てもらった方が

 よっぽど説得力があるって話。

 ジョセフ・ジョースターの仲間達が一緒にいますんで、あしからずー」

「ジョセフ・ジョースターの仲間達?

 あの不良だか何なんだかワカラナイ奴らが?

 部外者を学園に入れてるっていうの?

 あのリーゼントを見といて、風紀委員は何やってんの?」

 

襲撃されて沈没した『トラフィック号』からジョセフ・ジョースターが救助された当日ならばいざ知らず、今日に至るまであの独創的な不良どもが学園内を出入りしているというのなら、風紀委員の仕事ぶりは怠慢以前の問題だ。杏はそれを聞いてプッと吹き出し、吹き出した笑顔のまま先を続けた。

 

「部外者じゃあなくって、仲間です。

 彼らを引き込めて安心してるんです、生徒会長としてはね……

 彼らなしで音石明と戦うなんて、

 生身で戦車にケンカを売るようなモノだもんねぇーホント」

「何を言ってるのかサッ……パリわかんないけど、

 格納庫にあるというのね。その答えが」

「ありのままに受け入れてくださいねー蝶野さん。

 彼らの話にウソやトリックは一切ない。

 ここまで調べたあなたならわかるはず」

 

こいつがここまで言うのだ。何も言わずに信じよう。自分はこいつを知っている。『背後の事情』を知っている。こんなクダラナイことで、信頼を失うバカげたマネをするわけがない。

そして待った。放課後を!

大股でズカズカ廊下を進み、格納庫近くまでやってきてみれば、謎の地響き、衝撃音!

明らかに戦車のものではない。重機の類でもない。だのにこのパワーは何だ。音が響いてくるのは格納庫の裏。辿っていけば、あんこうチームの姿が見えた。この異常事態にもかかわらず、なにやら談笑している。その中に、よく見ると男が一人。チビッコの少年……思い出した。ジョセフの仲間のうち一人だ。聞き耳を立ててみると、武部沙織にこの騒ぎを止めろと言われ、無理だと返答している様子。内容の割に危機感がまったく見られないが、すぐそばに騒ぎの元凶があるのは間違いない。もっと近づいてみると、ますます意味不明になった。奥にはさらに男が二人。あれは『独創的な不良』二人。リーゼントと、顔面の堀が野球ボールみたいな奴。どちらもジョセフの仲間だったはずだが、今は向かい合って何か怒鳴りあっている。そこまではいい。理解できないのは、そいつらの間で発生している何かなのだ。猛烈な打撃音が無数に響き渡っており、壁や地面にきしみを上げさせる何かが、そこで起こっている。見てもさっぱりわからない。何も見えないのだ。なのに空中で何かが殴り合っているような音だけが聞こえる。その少し手前にいるのは、秋山優花里と、西住みほ。彼女らは一体、何を目で追っているのだ?

常識と非常識を脇に打っちゃって考えていると、みほが何やら腹を決めたように男達の方へ歩を進める。よくわからないが、それは自殺行為だ。もう黙って見ているのは無理。

 

「何をしているの、あなたたち」

 

場に入り込んでいくと、言葉を発する前にみほが気づき、それから全員の視線が一気にこちらへ集まった。二名を除いて。

 

「というより……何よ、アレ?」

 

口ゲンカに並行して進む『何か』に夢中になっている不良二人を指差し、皆に問う。それ以外にどうしようもなかったのだが、なんとも間の抜けた空気になってしまう。全員の視線が、右に左にと泳ぎまくっている。五十鈴華だけは、首元に指を当てて考え込む仕草をとったが。

 

「ンッ? オイ億泰ッ! ここまでだぜッ」

「ナニがココまでナンだよォォォーーーッ

 ンなムシのイイ話、聞くかっつー」

「ヤベェんだよッ! 無関係のヤツに見られてるぜ!

 多分もうごまかすのは無理だぜ!」

「おぉッ? アッ! 誰だ、あのネーチャン!

 戦車が動くってのにこんなトコによぉ~~、アブねーぜぇ」

 

不良二人がケンカをやめたのはいいが、野球ボール顔が人様のことを指さしてきた。しかも一から百までコッチのセリフなことをのたまった。

 

「誰だと言われりゃ答えるわ。

 陸上自衛隊、富士教導団戦車教導隊所属。蝶野亜美一尉!

 そういうあなたは一体ドコの誰ッ 答えなさいッ!」

「じっ、自衛隊ィィ~ッ? マジもんの軍人さんかよォ~~」

「質問に質問を返そうモンなら殴るわよ。

 名乗りなさいッ、不審者としてボコられたくなかったらね」

「怖ぇぇ~~ッ! このネーチャン超怖ぇぇ~ぜぇ~~ッ!」

「イイカゲンにしとけ、このボケッ! このままじゃ、まじに殴られるぜ」

 

正直、『ブン殴ッちゃってもいいや』とか思いかけたが、リーゼントの方が居住まいを正して向かい合ってきたので我慢する。少し遅れて、野球ボール顔も起立の姿勢になった。

 

「ぶどうが丘高校1年、東方仗助ッス!」

「ぶ、ぶどうが丘高校1年、虹村億泰でェェーッス!」

 

そこに、おそるおそるもう一人が加わってきた。あんこうチーム側に混じっていたチビッコ少年だ。

 

「あの。仗助くん達と同じ、ぶどうが丘高校1年の、広瀬康一、です」

「フゥ、よろしい。

 言われる前に自分から出てきたのはグッドよ。広瀬康一くん」

「あ、ありがとうございます……ウレシーです」

 

ササクレた心が癒されたので、思わず彼の頭をナデそうになったが自重した。自分自身に置き換えて考えれば、やられてもまずウレシくあるまい。

 

「さて、ソコの悪ガキ二人に聞くけど。

 『音石明』の戦車ジャック事件。わかってること全部話しなさい」

「は、はいっス……でも、ひとつだけ確認させてくださいよ」

 

リーゼント、東方仗助が指を一本立てつつ聞いてくる。虹村億泰と広瀬康一とが何か言いかけていたが、二人ともそれでやめた。言うまでもないことだが、悪ガキ二人とは東方仗助と虹村億泰のことである……

 

「『音石明』について、会長さん……生徒会長の角谷杏さんに聞きましたか?」

「聞いたわ。そこで、戦車道練習開始三十分前に格納庫に行けと言われた」

「わかったッスよ、蝶野さん。なら話します」

 

どうやら、当事者以外にはできうる限り知らせたくないのは彼らも同じであるようだ。情報を知っていい相手かどうか確認を取ってきたのは、大変よろしい。強いて言えば、生徒会長その人の同席を求めてくれば満点だったが、そこまでは言うまい。そして、一部始終を聞く。

『矢』に選ばれた人間に発現する超能力、一般人には見えず聞こえない『スタンド』。虹村億泰の兄を殺害して『矢』を奪い取り、勝手気ままな暴力に手を染めたギタリスト、『音石明』。『音石明』のスタンドは、電気を操る『レッド・ホット・チリ・ペッパー』。『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の本体を探せるスタンドを持つジョセフ・ジョースターは、そのために来日した。自分の正体にたどり着けるスタンド使いの存在を知った音石明は杜王港でジョセフの殺害を図り、仗助達に阻止される。だが音石明は諦め悪く、ジョセフを救助した大洗女子学園に乗り込み、今度は戦車砲での爆殺をたくらんだ。その過程で西住みほと秋山優花里の二名が『矢』に選ばれてスタンド使いとなる。秋山優花里は、音石明に人質にされた。仲間達が言いなりにされることに耐えられなかった秋山優花里は『矢』で自殺を図ったが、ジョセフの『仙道』により生命力を与えられ、辛うじて生き延びた。最終的に、東方仗助達と大洗女子学園戦車道を前に音石明は敗北するが、スタンド能力を強力に成長させて逃げ延びてしまった……

亜美は、これらを事実であると信じた。信じるための材料はすでに揃いすぎていた。信じた彼女に、次に襲ってきた感情は、抑え切れない怒りだった。音石明に対する怒りはもちろんだが、それ以上に。脇の石壁を殴った。手加減などない。拳が破れて血がこびりつく。

 

「事情は、まぁ、わかった。ところで、他に『矢』はあるの?」

「ちょ、蝶野さんッ、あったとして! それで一体何をッ?」

「選手交代、私が戦う! これ以上ない屈辱よ……

 かわいい教え子達が、マセて生意気な年頃の子供達が

 殺されそうだっていうのに。

 それどころかマジに死にかかったっていうのに!

 私だけが! 他ならぬ私だけが知らされもしなかったッ!」

 

拳がひしゃげた痛みすらも感じない。亜美は自身が極度の興奮状態にあることを自覚した。言葉を飾らずに言うならば、腹ワタが煮えくり返って止まらない。

 

「蝶野さん……無理ですよ、そいつは。

 『矢』は億泰のところにあった一本きりしか知らねぇーッスからなぁー」

「そう。じゃあスタンドとやらは頼れないのね。なら銃しかない……

 あなた達は帰りなさい。あとは私がどうにかするわ」

「どうにかって、どうするっていうんですか教官ッ!

 銃ごときでどうにかなる相手じゃあないんですよぉッ

 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』はッ!」

「子供が出しゃばるんじゃあないッ!

 命がけの戦いなんか、あなた達には必要ないのよ!」

 

かなり素直で従順な部類に入る優花里にまで反論され、さらにヒートアップ。こんな子が悪漢に痛めつけられ、一度は自殺を決意した。それを思うと、理性すらもこの怒りを肯定してくる。肯定してくれた理性の言葉を、そのまま吐き出す。

 

「私は……教官よ。みんなを守る。

 そして、自衛官よ。守るために戦う!

 そのお仕事で御飯を食べてる。税金で養われてる。

 だから、あなた達は日常に戻りなさい。

 それは、あなた達が受けて当然のサービスだわ」

 

そのまま踵を返し、立ち去る。すぐさま生徒会長に掛け合って、監視を付けなければならない。無茶な行動をさせないように、もしくは殺人者を近づけないように。学園艦内が安全だというなら、出さないようにするしかあるまい。殺人者との間に因縁を持ってしまっている男子三人も、どうにかして一時的に学園艦に編入しなくては。そんな考えは中断された。進める足が広瀬康一にぶつかったのだ。

 

「ごめんね。どいてくれない?」

「……シツレーですけど。全部お断りします。

 蝶野さんの言ってるコト、全部です」

「だからねぇ」

「億泰くんのお兄さんは、音石明に電線で焼き殺された!

 仗助くんのお母さんは、殺人予告されてる!」

 

そこまで大きい声ではなかった。スゴイ剣幕というわけでもない。だが、亜美は彼を押しのけて進めなかった。見た目通りの小さな身体に、まるで『重さ』が凝縮しているようだ。

 

「じゃあ、ぼくは誰なんだッ? お父さんか? お母さんか?

 お姉ちゃんかも知れないッ

 ぼくの大切な人たちがおそろしい目に遭うかも知れないのに、

 それをホッポッて日常に戻れだって? ふざけるなよッ!

 ぼくは戦いをやめないぞ。絶対にやめませんからねッ」

 

どうやら彼らを軽く見ていたらしい。というよりも、自分自身の怒りにかまけて、彼らを省みなかったというわけか。持論を曲げるつもりはないが、すぐに反論できなかった。彼の言葉とファイトに、思わず感銘を受けてしまったからだ。

 

「私も、広瀬くんと同じ気持ちです」

 

みほが、広瀬康一の隣に立つ。麻子がそれに続いた。優花里が、沙織が、それに続いていく。

 

「広瀬に同意する」

「私だって守りたいんですよッ、お父さんもお母さんも」

「マジメな話、今更、傍観者には戻れないよね」

 

東方仗助と虹村億泰もやってきて、同じように進路をふさいだ。

 

「カァァーッ、康一まで女の前でニクイコトやるとはよぉぉーッ

 だが、ありがとよ。オレだって兄貴の仇は誰にもゆずれねぇからよ」

「グレート。やっぱり康一はよ、康一だよな。ヘヘッ」

 

最後まで考え込む仕草を保っていた華は、ひとつ頷いてから、やはり前に立ちはだかった。

 

「感情的な部分は皆さんに譲りますが、

 それを置いても、私達にはもう戦う以外の道はありませんね。

 引けばただ、無抵抗のまま殺されるだけですもの」

 

結局、全員が教官の意向に従わないわけだ。不良は改造制服の二人だけだと思っていたが、いやはや、これは。亜美は内心で苦笑しつつも、悩みの方向性が別方面にシフトしたのを感じ取った。一緒に戦おう。代わりに戦うのではなく、あくまで皆の傍に立とう。そのためにも、このくらいのわがままは許してもらう。

 

「……それなら、私を納得させてちょうだい。戦車道でね」

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




なんか怒りっぽい蝶野さんになってしまいましたが、
実際怒ると思います。やっぱり。
次回以降から、ようやく戦車戦になる見込み。

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