GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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チョット遅くなりました。
今回のエピソードは、仗助VSみほです。
戦車とスタンドが入り乱れる戦いになる予定。
まずはみほ視点でお届け。


戦車戦にチャレンジしよう!(1)

「うわああああああああああ!」

「ヒぎゃああああーーーーーーーッ!」

「グッ、グレート! こいつはやべぇぜッ……」

 

西住みほ(にしずみ みほ)は、まさか悲鳴を上げられるとは思わなかった。

 

「さッ……サバトだ! 『魔女のサバト』だッ!

 こんなおどろおどろしいものがこの世にあっていいのか?」

「とてつもねーぜぇ~ッコイツはよぉ~~~

 『死霊の盆踊り』っつーかよぉー、『宇宙人の壁画』っつーかよぉー

 何をどうやったらマネできるんだか全ッ然わかんねぇー

 オレの親父だってココまでスゴくねぇーぞ」

 

トゥルー・カラーズは、スピードも精密性もなかなかのもの。しかし『色をつける』能力には破壊力が皆無である。ならば、と相談を持ちかけてみたのが、今やおなじみ、杜王町の三人。本来なら自分の方が杜王町に下りていくべきなのだが、彼らにやってきてもらっている。戦車道の全国大会が目前に迫る今、練習時間を短くなどするわけにはいかない。たとえそれが、音石明との戦いに備えるためであってもだ。

 

「おいバカッ康一! 億泰ッ!

 本人目の前にして言うんじゃあねーーッ」

「で、でもよぉー仗助ッ、コイツは『モノホン』すぎるぜぇーーー

 ウマイとかヘタとか圧倒的に超越しちまってんだよコレ」

 

で、彼らが今、指差して騒いでいるのは何かというと。何を隠そう。自分の書いた絵である。仗助は言ってくれたのだ。

 

『スピードもあって、精密に動ける。

 それで能力が、色をつける……だったらよぉぉー

 おめー、すでに答え持ってきてるんじゃあねーのか? 西住よぉー』

 

自分に色を塗りつけて保護色にする。そこまでは発想として持ってきていたが、風景や人物を描いて敵をあざむくのに使うとまでは考えていなかった。言われてみれば確かに出来るのだ。このスピードがあれば数秒とかからない。仗助の提案とは、スタンドに絵を描かせることだったのだ。だから描いた。戦車格納庫の脇の壁一面に、仗助と億泰、康一を。感覚の目を研ぎ澄まして、ありのままを一気呵成に描き出す。花を活けるように、と華がよく言うが、その境地の端っこくらいには達していたと思う。そのくらい集中、没頭しつつも4秒程度で描き上げた傑作だ。スタンドの全力と『私』の全力が乗った作品、だと思ったのだが。

 

「そ、そう、モノホンなんだよ! モノホン!」

 

俯いて眉間にシワを寄せていた仗助が、億泰の言葉を捕まえて顔を上げる。何秒間が本気で考え込んでいるのを、みほも見ていた。

 

「モノホンっつーのはよぉー、そうスグには理解されねーもんだぜ。

 はるか未来を見てるんだぜオレ達……たぶん。二千年くらい」

「は、はいっ! 石器時代の人類に戦車を見せても理解できません!

 それと同じですよぉッ」

「それどころじゃねぇーんだぜ秋山よぉーッ、

 オレ達は『ネアンデルタール人』だぜッ

 コイツを前にしたらよぉぉーーーーッ」

 

アハハハハハハハハハ……

仗助と優花里が仲良く両手の平を打ち合わせて大笑いしている。二人とも冷や汗ビッショリだった。さすがに、コレを見てみほもバカにはなれない。要するに『現在の人類には理解不能』だと言われた。康一も、億泰も、仗助も、優花里までもが異論なしであるらしい。脇を見る。沙織は、アチャー、とばかりに額に手を当てているし、華は何やら眼に哀しみを宿している。ふと目が合った麻子は、サッと目をそむけた。否応無しに気づかされる。今まで自分は無形の優しさに包まれていたのだと。

 

「いいんだよ、ヘタッピって言っても」

「に、西住どのッ……」

「みんなゴメンね。ムリさせてたよね」

 

自覚している。どんよりとした空気が自分の身から噴出しているのを。気づけばその場に体操座りでうずくまってしまっていた。スタンドを解除して、『壁画』も消える。しばらく誰も動き出さない。気まずい沈黙だけが流れた。少しして、沙織が何やら動こうとして止まる。背後から声をかけられた。

 

「『絵』の評論は置いといてよぉー、コイツは戦いには使えねぇ……

 もちっと別の方向性をよ、追ってみようぜ」

「うん……」

 

仗助に促されて、ふらふらと立つ。個人的な感傷で無駄にする時間などないのだ。

 

「つーわけでよ、おめーのトゥルー・カラーズ、

 素でどれだけ強ぇーのか見てみるぜ」

「素の強さ? 能力をヌキにした基本性能のことかな」

「そう、承太郎さんのスター・プラチナとかよ、

 おめーの言う基本性能だったらブッチギリだぜ。

 多分、戦車もバラバラにできるぜ……おめーのスタンドはどうかな」

 

クレイジー・ダイヤモンドを出して構える仗助。突然すぎる。みほの心の準備は出来ていない。

 

「えっ、殴りあうの? 今から?」

「イキナリはやらねぇーぜ。防いでやるから全力で来なよ」

 

トゥルー・カラーズを出して、みほも構えはするものの。殴っていいと言われても、これまたなんともやりにくい。相手がロクデナシでも何でもなく、友達だったらなおさらのこと。

 

「西住、おめーよ。『絵』にコッソリと自信あったろ?」

「うっ……」

「コケにした野郎が目の前にいるぜ。

 ぶつけて来いよ、ムカつきをよぉぉーッ

 それとも何だよ、ダマッて言われっぱなしかよ。

 かかってこいよ! 悔しけりゃあよぉぉーーーーーッ」

 

だがさすがに、ここまで煽られればムッとする。こちらに立てた人差し指でチョイチョイと招くように挑発する仗助に、みほはトゥルー・カラーズを全力で向かわせた。狙うのはボディーブロー。

 

「うぐぅっ、わかってたが速ぇッ!」

 

狙いを外すことなく、トゥルー・カラーズの拳は直撃する。防御に出てきたクレイジー・ダイヤモンドも防ぎきることはできず、鳩尾に入った。思い切り入ってしまったか。みほは少し慌てたが。

 

「だがよぉー、効いてねぇぜ。ヘッピリ腰すぎんだよ西住ッ!」

 

トゥルー・カラーズの腕がガシリと掴まれた。クレイジー・ダイヤモンドはそのまま、トゥルー・カラーズの左肩に拳を打ちつけてくる。同時に襲ってくる、みほの左肩への衝撃。鈍い痛みが遅れてやってきて、咳き込む。

 

「み、みぽりん! 殴んないって言ったじゃない、ウソツキーッ」

「こいつは気合だぜ。あんまりフヌケた攻撃してくっからよぉぉーー

 立ちなよ……オメーその程度かよ。ナメてんじゃあねぇーぞ」

 

引き戻したトゥルー・カラーズをもう一度放つ。今度は肩口を狙った蹴りだ。速さと威力が充分に乗れば、防げまい。だがそれもあっさりと止められた。掴まれた足を振り回されて、トゥルー・カラーズが地面に叩きつけられれば、みほも同時に宙に浮き、背中をしたたかに打ちつけた。

 

「ッゲホ! ゲホッ、ゲホッ」

「攻撃されてるぜ西住! このままじゃやられるぜ。反撃しろよ~

 一発イテーのを叩き込めってコトッスよ」

 

みほは、何度も何度も殴りかかったし、蹴りかかった。それを十数分も繰り返した結果、腕が脱臼した。制服もボロボロになった。結局、仗助は全てに対してキッチリ反撃を浴びせてきたのだ。

 

「免罪符、のつもりだったんだがよぉー、

 あんましコイツがためらってるモンだから、

 『危機』を感じりゃ本気出すと思ってよ」

「なら最初っからそう言いなさいよ!

 結局みぽりんイジメてたダケじゃないッ」

「悪かったッス……」

 

沙織は怒り心頭である。最後まで黙って見ていたが、みほの腕が外れるなり仗助に直接殴りかかっていった。我慢の限界だったようである。クレイジー・ダイヤモンドを使わずにそれをいなした仗助は平謝りの一手だった。

 

「だがよ仗助、こりゃ無理じゃあねぇーか?

 ブン殴っても最後までコブシを振りぬけねぇーんじゃあよォォーー

 ケンカしたくてもデキねぇーぜぇ~」

「西住さんとしては本気だったのかもしれないけど、

 攻撃が当たった瞬間にひるんじゃってたからなぁー……

 でも、ぼくだって思いっきり振りぬけないよ。

 仗助くん相手にはさぁ~」

 

戦いが終わったのを見て、億泰と康一もやってくる。やはりスタンド使いとしては先輩というだけあって、よく見られていたらしい。当たったと確信した瞬間に、動揺を努めて抑えていたのだが。

 

「おめーはいいんだよ康一。オレ達とは根本的に戦い方が違うんだからよ。

 やっぱし近距離パワー型の基本は殴り合いだと思うからよぉ~、

 ソコ練習してーんだよなぁ~」

「だからっつって出来ねーことやらせるかよ仗助ェ~~ッ

 殴れねーっつーんならよ、それこそ康一のエコーズみてーによ、

 能力で戦った方がいいんじゃあねーのか?」

「ウーン……そいつもひとつの考えかもな」

 

仗助がツカツカと歩み寄ってくる。クレイジー・ダイヤモンドを出して、その手がみほの額にピタリと当てられた。ウンと頷くと、治す波動がやってくる。脱臼した腕も、あちこちの擦り傷も、少し破れた制服もたちまち元通りになっていく。

 

「そこはおめー次第だぜ、西住。

 殴り合いが出来ねーなら、オレ達がそこをカバーする!

 おめー自身がチリ・ペッパーの野郎と殴り合える力を望むかどうかだぜ」

「……望むよ。望むから来てもらったんだよ?

 でも、人を殴るって、想像以上にツライね」

 

精神と危機感との両方をあれだけ煽られまくってもなお、みほの拳は相手を打ち抜くのに抵抗を覚えてしまっていた。無理に意識から外さなければならなかった程度には。相手の嫌がる攻撃を瞬時に判断し、実行に移せる。だからこそ、相手の痛みを感じてしまい、最後の瞬間、威力が鈍る。生身同士の戦いであるために、みほは想像しなかった苦難を強いられた。赤ちゃんを奪ったヤクザたち相手には、まるで考えてもいなかったことだ。あのときはスゴく必死だったのもあるかもしれないが。

 

「フツーだったらよ、おめーのその感覚!

 恥じるトコはドコにもねぇーんだがよ……

 ま、その辺を認識できただけでもイイ練習だったかもな。

 今日はよ、ここまでにしようぜ。やるんだろ? 戦車道をよ」

「おっ、始めんのかよ?

 実はよぉー、一度くらいは間近で見てみたかったんだよなぁー」

「バカ野郎、帰んだよオレ達はッ!

 部外者が女子高に入り込んでんだぜ~ッ

 そど子が見ないフリしてくれてっからイイけどよぉー、

 限度があるだろうがよ」

「そ、そっか! 考えてみりゃオレタチ、相当オイシイ……

 殴るこたねーだろ、チキショオ~ッ!」

 

園みどり子が前回の一件でスタンドのことを知り、音石明事件をも知った今ではほぼ完全に味方についてくれ、渋々ながら仗助達の校内侵入を手引きしている。彼女達のためにも、スタンド戦闘訓練の三十分は無駄にできなかったのだが。

 

「強くなれるのかなぁ~、こんなことで」

 

億泰の耳を引っ張りながら帰る仗助と、それを追いながら手を振る康一とを見送りながら、弱気が口から漏れてしまった。

 

「今回は褒められませんよ。みほさん。

 技を教えようとしてくれている師匠を、侮ったようなものです」

 

華が、ややきつめに諌めてくる。

 

「華さん、ホントにスタンド見えてないの?」

「ええ、見えませんよ。でも、腰が引けていたのはよく見えました。

 迷った攻撃は効きません。みほさんもよくご存知のはず」

 

まったく、かなわない。みほは苦笑しつつも、軽くため息をついた。華も、それ以上責める気は無いらしく、いつものやさしい笑顔に戻る。

 

「武道だと思えばいいんですよ。戦車道ならぬ、スタンド道!

 武道を修めるのに、殴る蹴る撃つは当然でしょう。

 胸を借りて、思い切り打ちかかることが先達への信頼と尊敬だと、

 私は思います」

「うん……わかるよ」

「みほさん。明日は一本取りましょう。東方さんから」

「そう、だよね。うん、頑張る」

 

わかっていてなお、殴るのをためらってしまったのが今回なのだが。華のくれた言葉は、それでもいくらか気を楽にしてくれる。明日はキチンと相対しよう。戦車道を歩む人間として、そう決心した。

……だが、しかし。翌日はノッケからスタンドラッシュの応酬で始まった。みほではない。仗助と億泰が、衝撃を撒き散らしながらハデに殴り合っていた。

 

「億泰てめーッ 逆ギレかよコラァァーーーッ!」

「ウルセェウルセェウルセェんだよォォーーーー

 テメェにオレのナニがワカるってんだよッ、ウダラァァァァァーーーーッ!」

 

発端は、みほが仗助に『ボコられグマのボコ』をプレゼントしたこと。昨日もらったクマちゃんのお返しと、古い傷跡をほじくり返してしまったお詫びを込めてだったのだが、どうやら、億泰にはそれ以上の意味に受け取られてしまったらしい……『オレもモテたい』だとか何とか。みほとしては、こんな場に居合わせても頭をポリポリ掻くことくらいしかできない。

 

「あらあら」

「虹村どのッ……ウウウッ 見てて涙がチョチョギレますゥッ」

「よく見とけ、反面教師だ」

「うぐっ、スゴク反論したいのに。うぐっ……」

 

イタズラッ子を見守るように微笑んでいる華を除けば、皆がそろって微妙な顔をしている。優花里に至っては、とても残念な顔で泣いていた。さすがに誰かケガをしそうなのでそろそろ止めたいのだが、とても割って入れない。動くに動けずいるのに飽きたのか、沙織がクルッと後ろを向く。

 

「広瀬くーん」

「うぇぇッ! ボクぅ?」

「止めて。アレ」

「ムリムリムリムリ! どうしろってのさッ!

 ハサまれてペシャンコになるダケだよぉーーッ

 というかさ、ほっときゃいいよ!

 いつものことだよ、ワリとね……」

「いつものこと、ねぇ。男の子って、やっぱりバカなの?」

「どうかな。女の子だって、時にはとんでもないバカになるじゃあないか」

「……えっ、何その含蓄のあるセリフ。恋愛経験アリ?」

「え、いや。アレは特殊すぎるダケ、かも……」

「オネーサンに聞かせて聞かせて」

 

そして、止めさせようとしたはずが、ものの見事に脱線。恋バナのにおいを嗅ぎつけた沙織はイソイソと康一に詰め寄っていく。麻子も、くだらない殴り合いよりはマシかとばかりに沙織に続き、やがて華もそちらを向いた。佳境に入ったラッシュ合戦を、今は優花里だけが手に汗を握って見ている。これはもう仕方がない。あまりやりたくはなかったが、トゥルー・カラーズで止めよう。決心してスタンドの拳を前方に突き出す。だが、その一撃が放たれることはなかった。

 

「何をしているの、あなたたち。というより……何よ、アレ?」

 

いつの間にか現れたその人は、戦車道の教官。蝶野亜美(ちょうの あみ)だった。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




みんなが寝静まった夜の投稿、すみませェん。
まずは導入から。キッカケと必要がなきゃ戦車なんぞ乗るワケない。

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