GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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小話回です。
今回は登場人物をかなり絞ってます。
仗助視点でのお送りとなります。


Inter Inter Mission 『ボコられグマをもらったッス!』

「あ、そうそう。ミヤゲがあったぜ……」

 

東方仗助(ひがしかた じょうすけ)は、クマちゃんのヌイグルミを差し出した。差し出した先にいるのは、西住みほ。

 

「え? これは?」

「おめーよ、前回の赤ちゃん騒動でよ、

 フンだりケッたりだったじゃあねぇーかよ。

 ヤクザに絡まれたり、銃に撃たれたりよ……

 ちょっとくらいイイ目を見てもバチ当たらねーと思ってよ。

 買ってきたぜ」

 

普通の人間だったら人生が終わっているような不運だった。ギリギリのところでスタンドに目覚めなかったら、西住も実際にそうなっていたわけで、自分の身に置き換えて考えてみると『本気で戦慄する』(マジにブルッちまう)と言わざるを得なかったところだ。電話で、ヌイグルミの店に行くのをとても楽しみにしていたのはわかっているので、お見舞いにフルーツの盛り合わせを買っていくくらいのつもりで持ってきたのがこのクマちゃんのヌイグルミである。店主に聞くところによると、百年以上も前から通信販売されていたという、その割には何の変哲もないカワイイクマちゃんなのだが。

 

「ごていねいに男の子と女の子があってよぉー、

 とりあえず女の子の方を買ったぜ。

 両方合わせてワンセットかも知れねーけど、

 オレもあんましフトコロに余裕あるワケじゃあねえからな」

 

バリーのクツは安くない。いまだに仗助の財布は軽いままで、このクマちゃん一匹のためにパチンコ一回くらいはあきらめた。

 

「い、いいの?」

「いいんスよ。

 つーか、しばらく降りてくることもままならねーっつーんじゃあな。

 おめー自身で選んでなんか買いたかったんだろうけどよ、無理だろ?」

 

戦車道全国大会を控えて、放課後をフルに使って遊べる最後の機会があの日だったらしい。それがまとめてぶち壊しになった。あんな騒動の後では遊ぶどころの話ではなく、なし崩し的にその場で解散になってしまった。楽しみにしていたヌイグルミ屋に行くチャンスも今後まずない。ある意味でスタンド使いの宿命とはいえ、帰宅部の自分とは違って、部長みたいなものである西住にはたまったものじゃあない。埋め合わせくらいはあってもいいと思った。だから、スタンドでの戦いを教えるついでに、持ってきた。

 

「取っとけよ。

 リーゼントの不良がよぉぉー、コレ下さいって買ってきたんだぜ?

 イヤだって言われたら立場ねぇーッスよマジで」

「あ、あはは……でも嬉しいな。ありがとう」

 

買う姿を想像したのか、複雑な苦笑いを浮かべた西住だったが、クマちゃんを受け取ってニッコリと微笑んだ。受け取ってくれて安心はする。『いくらなんでも悪い、受け取れない』と言われる可能性が半々くらいだと踏んでいたので、そうであっても想定の範囲内ではあるのだが、不良の部屋に鎮座するクマちゃんのヌイグルミという事態はできれば避けたかったのだ。しばらく、手の中のクマちゃんをいじったり、持ち上げたりしていた西住は、出し抜けにこんなことを聞いてくる。

 

「でも、クマ……クマってことは。

 東方くん。すぐ近くにボコいなかった? 『ボコられグマのボコ』」

「なんスかソレ。

 なんかのマンガとかだったらよぉー、オレはちょっとわからねぇ……

 『パーマン』知らねーって最近バカにされたしよぉー」

「『パーマン』?

 あっ、知ってる……小さい頃、テレビでやってたかな。

 多分、東方くんも見れば『あぁ、これか』って思うよ」

「ま、べっつに知らなくてもいいんだけどよぉ~」

「『ボコられグマのボコ』も、見ればわかると思うんだよね。

 見たことないかな、包帯でグルグル巻きのクマのぬいぐるみ」

 

西住の説明を聞いて、ピンと来たものがひとつ。確かアレは、結構昔からある……

 

「わかったぜ。多分知ってるぜ。

 オモチャ屋とかにある、ズタボロなクマのヌイグルミだよな」

「あっ、知ってた……」

「オレよ、アレ、キライなんスよ」

「えっ」

 

言ってしまったところで、西住の顔が凍りついた。

しまった。地雷を踏み抜いたらしい!

もう少し、コイツの表情を見ながら言葉を選ぶべきだったか。だがもう遅い。うかつに足を離した瞬間、爆発は不可避だ。

 

「理由、聞いていいかな。

 見たことあるんだよね、テレビとかで」

「い、いや、知らねえ。見たこともねえ」

「それじゃあもっと納得いかないよ。

 見もしないで嫌うなんてヒドイよ」

 

西住の周りの空気が地鳴りのような音を立てているのを、仗助は確かに感じた。ヤバイ、こいつはヤバイ。一触即発、まさにそれ。

 

(ひぇぇぇぇ~~~ッ

 目がッ 目がニゴッてるぜ西住ィィィーーーーッ

 ニゴりすぎて底がわからねードブ川っつーか!

 落ちたら二度と這い上がれねー北極のバリバリ裂けたクレバスっつーか!

 触れちゃあならねーモノに触れちまったのかオレはァァ~~)

 

ちょっと気づかってみただけなのに、なんでこんな目に遭わなくてはいけないのか。だが、こいつに小手先のごまかしは通用しない。しばらく冷や汗をタラタラと流すだけだった仗助は、ハァ~ッとため息をひとつついて、しどろもどろに話し始めた。

 

「まずはよぉ、西住。オレのスタンド能力はわかるよな」

「クレイジー・ダイヤモンド。

 壊れたものをなおす能力。それがどうかしたの?」

「治そうとしたんだよ、オレは。ガキの頃によぉ~」

 

あまり話したいことではない。子供の頃の恥の話だから。それでも、話さないことには西住も収まってくれないだろう。マジメに話していることが伝わったのか、西住のニゴッた瞳が元に戻った。

 

「その頃のオレはスタンド能力を身につけたてでよ。

 能力を全然疑ってなかったぜ。

 なおせないモノはねーって本気で思ってたよな」

「もしかして……」

「オモチャ屋に飾られた包帯まみれのクマどもを見てよぉー

 ボコボコでよう、ボロボロでよう、カワイソーだと思っちまってよ。

 『オレなら治してやれるな』って思ったワケだ……

 で、どうなったと思うよ?」

「……治らないよね。『元からあの形』だもん。『ボコのぬいぐるみ』は」

 

やっぱりこいつは理解が早い。今の時点でオチも把握されてるんじゃあないだろうな、と思いつつ、話を続ける仗助。

 

「そう。元からあの形だからよ。なおしたってなおりようがない……

 だがガキのオレは物分かりが悪くてよぉ~~、

 必死こいて、それでもムリヤリ治そうとしちまった!

 その結果よ……『原材料まで戻った』」

 

どういう光景になったかを想像したのだろう。西住は顔をしかめながら視線をそむけた。おそらくそれは間違っていない。ムートンのシートその他とワタに変換されたヌイグルミは、元の形がわかっているだけに猟奇殺人じみた雰囲気を発したのだ。

 

「治すどころか逆にバラバラにしちまった。その上、店の品物だぜ?

 どうしようもなくなって逃げた。で! あっという間にじいちゃんにバレた」

「えっ、知られてたの? 能力が?」

「隠すなんて無理だぜ。ガキの時分じゃあよぉー

 ブン殴られたぜ! 自分から言わなかった。

 てめーのやったことに責任取ろうとしなかったってなぁー

 ヌイグルミを原材料に復元するなんざ不可能犯罪すぎるからよ、

 話はそれで終わりになったがな……」

 

これが理由だ。理由としては充分だと思う。食べ物だって、一番最初にマズイやつを食ったばかりに、死ぬまで『キライ』になってしまうこともある。『ボコられグマのボコ』は、仗助にとってはそれだった。それだけの話。

 

「ま、そーいうことで! あのクマは別に悪かねーけど、

 オレが個人的にキライなのは多分変わらねぇーな。

 なんとか理由をつけてみるんならよー、敗北感っつーか無力感だろーよ。

 クレイジー・ダイヤモンドでもどうにもならなかった

 最初の相手ッスからなぁー」

 

神妙な顔になっていた西住は、そっか、とだけ言って頷いた。そこで、『スタンド戦闘訓練』の準備をしてきた秋山と、飲み物を買いに行っていた億泰と康一が戻ってきた。見学に来たらしい沙織と華、麻子もヒョッコリ顔を出したので、話は途切れ、それっきりになった。

 

「つーかよ、おめーはさっきから物カゲにいたよな。沙織よぉ~」

「ビクッ! な、なんの話カナ~?」

「ワザトらしー口笛吹いてるんじゃあねぇーぜ! まぁいいけどよ」

 

だが、時間は飛んで、翌日。西住が出会い頭早々にヌイグルミを差し出してきた。昨日、キライだと言ったばかりの『ボコ』だった。

 

「おい、西住……」

「なおしてみて! クレイジー・ダイヤモンドで!」

 

言われるがままに、クレイジー・ダイヤモンドを使ってみる。『手ごたえ』があった。『ボコ』の包帯や絆創膏の下で、何か直っていた。手をかざすのをやめると、西住が『ボコ』の包帯をスルスルほどく。絆創膏まで取ってしまうと、タダのクマのヌイグルミになった『ボコ』がいた。クルクルと回してそれを確認した西住は、改めて『ボコ』を両手で差し出す。

 

「あげる! 大事にしてくれると嬉しいかな」

「お、おう」

 

断れないまま、もらってしまった。不良の部屋にクマのヌイグルミが鎮座する事態は、結局避けられなかったらしい。引っ込み思案かと思いきや、たまに思わず従ってしまうような強気を西住は見せてくる。複雑な顔をしていると、億泰が詰め寄ってきた。

 

「仗助ェェ~~~ッ 何プレゼントもらってンだよぉぉ~~ッ

 ヒトのことサンザン叱っといてよぉぉー、

 テメーだけモテる気かよチキショオッ」

「いや、コイツはちっとワケありで……

 オイ、泣くな! 泣くほどのコトかっての」

「イイ気になってんじゃあねぇーーぞ仗助ェェェーーーッ

 最近はコッソリ呼び出しとか、ラブレターとか、

 メッキリ見なくなったと思ったらよォォーー

 こんなトコで見せつけやがって!

 ウウウッ、オレだって、オレだってよぉぉぉ~~~」

「おいバカ、話を飛躍させてんじゃあねーッ」

「オレだってよ、モテてェんだよォォ~~、オロロォォ~~~ン!」

 

マジ泣きしている億泰は気づいていない。あんこうチームがすでに勢ぞろいしていて、生暖かい目でこっちを見ていることに。秋山までアキレた顔をしている。それを教えてやったら、近距離パワー型スタンド同士のラッシュ合戦になった。迫力のバトルなのに、視線がもっと生暖かくなって、いたたまれない気分だった。

それから色々あったが、その話は後に回すとして、その夜。

仗助は、自室のクローゼット内に『ボコ』をポンと置いた。表に出しておいたら、母に見られたときに何を言われるやら、である。西住がどういうつもりでコイツをよこしてきたのかというと、多分、『ボコ』がキライな理由を取り除くためだろう。秋山の『戦車』と同じくらい入れ込んでいるようだったから、口に出してハッキリ『キライ』と言われたのがショックだったのかもしれない。

 

(かと言ってよォォー、『キライ』じゃなくなったところで、

 コイツを『好き』になるかは、また別問題だよなぁー)

 

だが、小さい頃の治せないキズを、コイツを通してちょっとでも治せたのは確かだった。それについては感謝だな、と素直に思う。このために、わざわざ既製品の『ボコ』ではなく、『なおる』ように作られた『ボコ』を……

 

(アレッ? つーコトはよ、これってまさか)

 

この『ボコ』には元の形があって、それに西住が『手を加えて』から包帯を巻いた。だから、自分のクレイジー・ダイヤモンドで直せた。つまり。

 

「手作(てづく)……」

 

無傷のクマにハサミやらカッターやらで切れ目を入れていくニゴッた瞳の西住が、仗助の脳内にデカデカと映し出された。

 

(『女の子の手作り』ッ!

 この甘美な文句からよぉぉー、

 これほどオゾマシイ想像をしちまうとは……)

 

仗助は着替えもせず、電気もつけたままで布団にくるまった。

 

「か、考えんのや~めたっと。オヤスミー」

 

『ボコ』は黙して語らなかった。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒

 

 

 

 

東方仗助 ―― この後、『チャイルドプレイ』みたいな悪夢にうなされた。

西住みほ ―― ボコを嫌う人を一人減らせた達成感を胸に、

        グニャグニャしたスキップで自室に駆け込み、ホクホク顔で寝た。

虹村億泰 ―― 学園艦で買った『モテる男の料理道・一巻』を

        顔にかぶせたまま寝た。

武部沙織 ―― ヒドイ反面教師を見た気がしたので、寝る前にチョッピリ

        自分を見つめ直そうと思い、結局そのまま寝た。




キズだらけのデザインのヌイグルミとクレイジー・ダイヤモンド。
出会った時にどうなるかをふと考えたらこの話ができました。
次回は戦車戦の予定。敵味方ともにスタンド使いがいる模擬戦です。

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