GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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今回、ちょっと短め。
その割には展開が速い。
後で加筆修正の類があるかもしれません。

みぽりん視点となっております。


透明な赤ちゃんです!(4)

西住みほ(にしずみ みほ)は焦った。

 

(は、走り出しちゃった~~~マズイッ)

 

軽トラックに飛び乗ったまでは良かったが、なんと直後に走り出してしまった。どこに行くかは不明。赤ちゃんをなだめて、早いところ飛び降りなければ。幸い、周りまで透明にしているおかげで、どこにいるかは丸わかり。軽トラックが透明にされている中心に、あの子はいる。しかも現在進行形で泣き声までしているのだ。

 

「痛かったよね、怖かったよね」

 

手を伸ばすと、伸ばした先から透明になっていく。何よりだ。赤ちゃんは間違いなくそこにいる!

触った手ごたえを見つけると、手の平全体で確かめる。そして、腕に抱え込んで抱きしめた。

 

「もう大丈夫だよ。ごめんね」

 

見える光景に、自分の姿がない。手足が見えない。全身、透明にされてしまったのだろう。奇妙な感覚だったが怖くはなかった。怖いというのなら、いきなりさらわれかかって、車に跳ね飛ばされたこの子の方が、よっぽど怖かっただろう。腕の骨が外れたりしているかもしれない。見えないままでは見てあげることもできない。まずは、安心させてあげること。自分自身の急いた気持ちを静めつつ、赤ちゃんをあやす。小さい頃、自分もこんな風に寝かしつけてもらったのだろうか。私は、追い出されたも同然で家を飛び出してきたけれど、遠い昔にお母さんが『こうやってくれた』事実は、変わらないままだろうか。そんな風なことに思いを馳せながら、背を撫で、頭を撫でる。

仮にこの子が『追い出されたのだ』としても、私がこの子を受け入れよう。大洗女子学園のみんなが、私を一人ぼっちにしておかなかったように。腕の中の温もりを感じながら、裸同然のこの子が冷え切ってしまわないように暖める。気がつけば、自分の手足が見えていた。腕の中の赤ちゃんも。みほは思わず、ニヘッ、と笑っていた。

 

「その、はじめまして。えーっと、あのね……

 顔を見るのが初めてだから。だから、はじめまして」

 

例えるなら、キャハァ~、だろうか。赤ちゃん特有の、文字に表しがたい奇妙な声が、喜びを歌っていた。

 

「私は西住みほ。あなたのお母さんにはなってあげられないけど、あなたの味方だよ」

 

見えるようになって、改めて観察する。美人な子だった。将来が楽しみになる。そして、懸念したような、車に撥ね飛ばされたダメージはないようだ。少なくともこの子に関しては、東方仗助にこれ以上の面倒はかけずにすみそうだった。今わかったが、女の子だ。その意味でも、あまり男の子には見せたくなかった。

 

「それじゃ、すぐにここを飛び降りるよ。

 大変な目に遭っちゃってる人がいるから、助けに行くんだ。

 ちょっと怖いけど、大丈夫だよ」

 

不安で周囲を透明にしている。それは確信できた。なら大丈夫だ。また透明になったとしても、私には安心させてあげられる。この子は私を信じてくれた。なら私もこの子を信じるまで。見る限り、軽トラックの透明化も解けている。ということは、そど子の透明化も今頃は解除され、他人の目に見えているはず。自分からわかる範囲では、最悪の事態は脱しただろう。

 

「それにしても、どこだろう、ココ……家がまばらだけど」

 

赤ちゃんをあやしている間に、かなり遠くに来てしまったらしい。後ろに、杜王町の中心部らしいところが見えてはいるが。周囲を観察するに、人の気配がほとんどないのが怖かった。どれもこれも立派な家なのに、人が住んでいる気配がない。

 

「あ、思い出した。戦車道の試合会場だった。

 最近、使えるようになったんだっけ……」

 

杜王町は江戸時代以前から続く避暑地である。仙台市のベッドタウンになった今もそれは変わらず、サマーシーズンだけ人がやってくる別荘地帯が郊外に広がっている。別荘地帯には、その他のシーズンには、ほぼ人がいないのだ。こんな好条件を、戦車道運営委員会その他が逃すはずもなく、杜王町に積極的なアプローチをかけ、実を結んだのが二年前。かくして、この別荘地帯は戦車道の試合会場となり、練習試合や、サマーシーズン手前に開催される戦車道全国大会では砲弾が降り注ぐようになったのだ。もちろん、破壊された建物は弁償されるし、破壊される側も夏にしか来ない別荘であれば、すぐに弁償されるならダメージはほぼない。むしろ無償で建て直してもらえるようなものだった。らしい。

 

(東方くん達はどう思ってるのかな。聞いてみよっと)

 

そんなどうでもいいことを、今考えてしまったのが運の尽きだったのだろうか。軽トラックが急ブレーキをかけて止まり、みほは荷台から放り出された。とっさに赤ちゃんをかばい、抱きしめたままゴロゴロ転がり、塀にぶつかって止まる。左肩に激痛が走ったが、かまっている場合ではない。慌てて身を起こすと、止まった軽トラックから男が降りてきた。三人。一人は明らかに日本人ではない。ついでに言えば、全員『カタギ』ではなさそうだ。

 

「ネズミガマギレ込ンデルジャネェーカ、コノチンピラ共ガ……」

「た、単なるメスガキじゃねぇーッスか。こんなのが探りに来るはず」

「ソレヲ決メルノハ俺デアッテ、テメージャネェーーーッ

 テメーカラ海ニ捨テテヤローカ?」

「わ、わかった。やるよ……アンタに逆らう気はねぇって!」

 

ノンキに向こうの話を聞いている場合ではない。みほは全速力で逃げた。逃げようとした。相手がただのチンピラであれば、これで逃げ切っただろう。だが、どうやら相手はチンピラどころではなかったようだ。足に焼け付くような痛みが走り、バランスを崩して転げる。男達を見た。日本人ではない男の手に、銃があった。本物か?それは、みほの足に空いた銃創が証明していた。

 

「う、うぐううううッ! こ、こんなッ!」

「オ膳立テハシテヤッタゾ。殺(バラ)セ! ソレデ忘レテヤル」

「ヘヘ! 方法はッ! 何でもいいんでしょうねぇッ?」

「サッサト済マセロ、ソレダケダ」

 

残りの男二人が迫ってくる。それぞれナイフを持っていた。ナメクジが這い回っているような、最悪に卑しい笑みを浮かべながら、来る。その数秒で、みほはすでに手を打った。後ろ手のケータイで、『助けて 戦車道 会場』と戦車道関係者全員宛に一斉送信をかけている。日常的にケータイでメールを送っている女子高生ならではの業である。沙織には及ばないのだが。

 

「お前、その手に何持ってんだァ?」

「えぇっ? その、これはッ」

 

みほはケータイのことを言われたと思い、そのために反応が遅れた。男の狙いは、みほが赤ちゃんを抱えた左腕。またも、みほは取り上げられた。

 

「ああッ! 返してくださいッ!」

「なんだこりゃあ? 生あったけぇ『何か』がいるぜ」

「オイ、フザケテンジャアネーゾ」

「マジですって! 来て下さいよ、触ればわかりますぜッ」

 

こんな状況になったからか、赤ちゃんは再び透明になっていた。そしてこの状況、自分だけ透明になったところで、彼女の気が治まるだろうか。そんなわけがない。怖い人の見本だらけだった。

 

「ひィィッ、ひギャアアアアアぁぁぁーーー!

 なんじゃこりゃあーーーーッ」

 

赤ちゃんを掴んだ男が、頭と両足首を残して透明になった。

誰にでも見えるスタンド!

当然、他の男二人も、その大異変を目の当たりにしている。

 

「What?」

「お、おい、なんだよそれッ」

「わかんねェーよッ、教えてくれよッ」

 

みほはこの一瞬で十数回は考えた。最適解は何か?

男に体当たりをしかけて、赤ちゃんを取り戻すか。駄目だ。赤ちゃんともども射殺される未来しか見えない。では、ボス格の男の銃に石を投げて取り落とさせるか。無理だ。そんなコントロールを自分に期待できない。

ああ、この距離から男の銃を直接殴ることができたなら!

そして、懊悩が成果を結ぶことはなかった。

 

「あっ、足首も消えるゥゥーーーーッ」

「放り投げろッ、そいつを放り投げろッ」

「ひ、ヒィィィィィーーーーーッ!」

 

男が、赤ちゃんを全力で遠くに放り投げたのだ。投げた方角は、崖。崖の先は海。数秒して、ボチャーン、という音がかすかに聞こえた。赤ちゃんが、海に落ちた。透明な赤ちゃんが、透明な水の中に。こんなもの、華の助けを借りても探せるかどうか。絶望が、みほの精神を席巻した。立ち上がろうとして、立ち上がれず、這って進む。あの子を助けなければ。

 

「おい、こんガキャ……投げ捨てても戻らねぇーじゃあねーかッ、

 どうしてくれんだよ、アァ~~ッ?」

 

全身のほとんどが透明になった男が、みほの進路をふさぐ。

 

「どいてください」

「どう落とし前つけんだって聞いてんだぞッラァッ」

「あなたなんかに構ってるヒマ無いッ!」

 

みほは立ち上がり、持ちうる全力でブン殴ろうとした。実際には立ち上がることもできず、拳を振り上げてもまるで届かなかったのだが。みほは、殴ったイメージを全力で叩きつけていた。それが現実であるかのように。そして、これが。これこそが。

 

「ごぶげぇッ!?」

「引っ込んでッ!」

 

スタンドの使い方だった。ある日、自転車の補助輪がいらなくなるかのように。ある日、逆上がりのやり方を感覚で理解するかのように。西住みほは、自身のスタンドを唐突に掴んだ。自分の身体から飛び出した人型は、クレイジー・ダイヤモンドと同じ近距離パワー型。全身ムートン素材で、目はボタン、耳はファー。アチコチ絆創膏だらけで今ひとつ強そうに見えないが、戦車砲すら防ぐ系譜のスタンド。拳銃なんか、脅威にならない!

 

「何ダ、何シヤガッタ!」

 

ボス格の男がすぐさま銃を撃とうとしてくるが、感覚で理解している。撃たれるよりはるかに前に、銃を持つ手を殴りつけ、蹴り飛ばせる。果たしてその通りになった。5m先にいても、こちらの方がよほど速い。安物だったのだろう銃はバラバラに壊れ、男もまた脚に首を狩られて起き上がらなくなった。

 

「う、うわ、うわァァァ~~~」

 

最後に残った男が踵を返して逃げようとするが、逃がさない。ここで助けを呼ばれたりしたら、今度こそ自分は詰む。突進する感覚を男にぶつけて、スタンドで殴り飛ばした。敵までの距離、およそ7m。ここがギリギリのラインのようだ。それ以上遠くには行けないことだけを確認し、みほはスタンドを引っ込める。

 

「射程、7m……これを使えば、助けられるかも。助けてみせる」

 

這いずって進む。崖に向かって。どこに向かって投げられて、どこに向かって落ちていったかは見ているのだ。赤ちゃんと同じルートを行けば、おのずと見つかる。余計な回り道をしている時間はない。

 

「近くの住所を確認。そして」

 

スタンドを使って回収してきた、男のナイフを手にとり、自分の後ろ髪をザックリ切った。それをスタンドに渡し、先に確認した住所の家のポストに突っ込む。

 

「で、みんなに住所を送る。ポストを見て、って。

 これで、出来ることは全部やった。あとは」

 

スタンドを呼び戻しながら、みほは自身の手首にナイフを当て。そのまま脈の付近をかき切った!

 

「色を、つけなきゃ……私は、華さんじゃあないから。

 こうでもしなきゃ、探せない」

 

崖の淵に到達したみほは、手首から血をしたたらせながら、ためらうことなく身を空中に躍らせた。

 

「絶対に助ける。だから、死なないで」

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




次回は、みほの行方を追う人たちの視点です。
もしかしたら、今後しばらく、定期的な更新が厳しくなるかも……
『ノリ』と『勢い』ある限り、続けることだけは確かですけど。

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