GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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仕事で死にそうになっている今日この頃ですが、4部アニメでついに出てきた鈴美お姉ちゃんにはテンション上がってます。

今回は、秋山どの視点でお届けです。


透明な赤ちゃんです!(3)

秋山優花里(あきやま ゆかり)は、駅に着くまでが勝負だと思っていた。

 

(冷泉どのの言う通り、『赤ちゃん』はどうしようもないにしても、ですね)

 

スタンドの話を抜きにしても、迷子の赤ちゃんである。大人に預ける以外に何ができるというのか。せめて透明化を解除して、普通の赤ちゃんにしてあげたい気持ちは未だくすぶっているが、自分ひとりで敵の正体を暴き、倒せるなどと考えるのは自惚れだった。空条承太郎にすでに指摘されている。自分のスタンド、ムーンライダーズは防御力が皆無だ。ミニチュアの兵隊である彼らは、パワーの乗った攻撃を食らえば一撃でバラバラに砕け散ってしまう。それを七回繰り返さればあの世行き。いや、おそらく四回目あたりで肉体の損傷から戦闘不能になる。そして敵の正体を暴こうにも、彼らは勝手なことばかりする。超長い射程距離をフル活用して、勝手にヘンなところに行く。まずは、これをどうにかしなければ戦いにならないだろう。だから今は、空条承太郎に無事、透明な赤ちゃんを渡すこと。それがゴール。だが、それまでに。敵の襲撃があれば守り抜かなければ。そうなれば、戦えるのはスタンド使いだけ。つまり、戦えるのは自分だけ……

 

「優花里さん、怖い顔してる」

「……ハッ! な、ナンですかぁーー西住どのッ」

「怖い顔してる、って言ったの。赤ちゃんが不安になっちゃうよ」

 

不覚だった。考え事に熱中しすぎた。というよりも、スタンドに悩みすぎて思考が引きずられている。大好きで尊敬している西住みほの言葉さえ届かないほどに。

 

「スミマセン、西住どの。『敵スタンド』がいるとして!

 そのときマトモに戦えるかと思うと、不安になりまして」

「私も一緒に戦うよ。忘れてない?

 私にもスタンドは見えてるっていうこと」

「戦うって、西住どのは、まだ」

「黙っているつもりはないよ。この子をキズつけに来るっていうのなら」

 

優花里の言葉をさえぎって、みほは言い切った。スタンドの有り無しは無関係に、赤ちゃんを守るためなら戦うと。優花里は自分自身に問うた。西住みほを止めることは出来るのか。出来ないだろう。それはきっと、彼女の『道』を曲げること。

 

「それにね、『敵』を倒すのに、

 『探すこと』『防ぐこと』『攻撃すること』

 全部を一人でやる必要なんかないんだよ?

 優花里さんにならわかると思うけど」

「はい。私達がやるべきは『防ぐこと』です。理解していますよ」

「うん。もうひとつ聞くよ。スタンドを倒すにはどうすればいいかな」

「スタンドを倒すか、本体を倒せばいいですけど」

 

みほが何を言おうとしているか、わかってきた。戦えずとも、スタンドか本体を探すことは出来る。例えるなら、戦車を倒すのに戦車を持ってくる必要はないということ。『歩兵』は『戦車』に対してまったくの無力だろうか?

そんなことはない。地雷や無反動砲など『戦車』に効く武器を持っていれば別だし、あるいは後方に控えている自走砲に砲撃を要請し、何もさせずに『戦車』を倒してしまうかもしれない。

 

「西住どの、もしかして『スタンドか本体を探す』、

 って言ってますかぁ?」

「そうだよ。

 本体はもちろんだけど、スタンドだって探せない訳じゃあない。

 沙織さんや華さん、麻子さんにだって、

 スタンドが使われた『痕跡』くらいはわかるかも」

「で、ですが! お言葉ですが西住どのッ、

 今回のスタンドは『透明にする』能力なんですよぉッ!

 スタンドや本体だって透明になっているかも知れない。

 そうなったら、どうやって」

「見えてるんだよ。優花里さん」

「えっ?」

 

透明が見えるとはこれ如何に。優花里は素のまま聞き返してしまった。みほは、両腕をすっと差し出した。中にいる透明の赤ちゃんをあやすことも忘れず。キャッキャと笑う声だけが聞こえた。丸裸はどうかということで、応急処置的にハンカチだけが巻いてある。だが、それだけだ。ハンカチが巻かれた透明な何かであることは変わらない。

 

「どういうことですか西住どの、透明ですよ? 見えないですよね」

「見えないよね。スタンド使いにも、一般人にも見えないんだよね。

 ほら、『見えないことが見えている』。

 これは『見える』スタンドなんだよ」

「そ、それ、ヘリクツじゃあないですかぁー?」

「理屈だよ、優花里さん。だからもう沙織さんに頼んである。

 折り紙とか、そういう色つきの紙をたくさん買ってきて、って。

 『駅前まで紙吹雪をバラまいて歩くから』って」

 

今度こそ、優花里は理解した。みほの目論見を。

 

「……見える! 確かに見えます!

 巻いてあるハンカチが見えているなら、それで見えないわけがないッ!

 少なくとも、透明な物体が近づいてきたら、それでわかるッ」

「何事もなく駅前に到着して、承太郎さんに赤ちゃんを渡す。

 そのための手段としては、これで充分だと思う」

 

紙吹雪をバラまけば、透明な物体に引っかかる。紙吹雪自体はスタンドでも何でもないから、誰が見てもわかる。仮に透明な物体がスタンドの本体だとして、紙吹雪を透明にされたとしても、一部分で不自然に透明になる空間がハッキリと現れる。駅前までの安全確保という目的は、達成できる!

 

「問題は、紙を撒くのがご近所に超メーワクだってことですが」

「そこは東方くんを頼るよ。

 クレイジー・ダイヤモンドで紙を直せば、お掃除はすぐに終わるよね」

「さすがは西住どのッ!」

 

今頃クシャミしているんだろーなー東方どの。そんなことを思いつつ、不安がキレイに拭い去られたことに気がつく優花里。この作戦なら、スタンド能力に依存する部分がまったくない。本体が現れたなら『防ぐ』のは、当初の想定通りだから問題なかった。倒す必要はない。本体が現れたなら、ムーンライダーズで威嚇射撃して逃げるのだ。追って来られたとしても、逃げた先の駅前には、戦い慣れたスタンド使いが四人もいる。透明にするだけの能力だったなら、よってたかって叩きのめされ、それでオシマイだろう。偵察用ジープが主力戦車4台に囲まれるよりヒドイ戦力差に違いない。

 

「安心してね。コワイ人は、私達が近づけないから」

 

みほは、腕の中を軽くゆすり、右手で赤ちゃんの顔らしき場所をなでた。

アゥー、とか、そんな声が聞こえる。不快だとか、泣きそうな声ではない。

 

「承太郎さんに届け終わっても、それでサヨナラなんかしないよ。

 お母さんが見つかるまでは、私もあなたを守るから」

 

手に負えないと、冷泉どのも言っていたのに、この人は。でも、これが西住みほの『戦車道』であるのなら。私も同じ道を歩きたい。たどりつく先を見てみたい。優花里の心は、ジーンと熱くなっていた。そろそろ買い物も終わるだろう。明日からは、この赤ちゃんの様子も毎日見に行くようになるのだろうから、それを補える密度で戦車戦の練習をしなければならない。皆と相談しなければ。

 

「西住さん……何やってるんです?」

 

いきなり呼びかけてきた誰かがいた。振り返る。オカッパ頭で同じ制服。優花里も何度か見た事のある顔だ。風紀委員。これは間違いない。確か名前は。

 

「そ、そど子どの?」

「そど子じゃないッ! 園みどり子(その みどりこ)ッ!

 アナタも冷泉さんに吹き込まれたクチ?

 確か、秋山さん……いや、それは置いといて」

 

みほの前まで歩み寄ってくる、そど子。優花里は頭の中で謝った。

 

(ゴメンナサイ、『そど子』で固定されてます。

 せめて口には出しません)

 

だが、かなり面倒くさいことになったかもしれない。杜王町への停泊が長期になるとわかるなり、風紀委員では下船先での非行に目を光らせるようになった。そのため、こうして杜王町内をパトロールしているのだが、こんなドンピシャリのタイミングで捕まるとは思わなかった。

 

「西住さん、アナタは何をやっているんですか?

 さっきから見ていれば、わけがわからない……

 腕の中の『それ』は何?」

「えっ、それって、それは、その」

 

ちょっと前から見ていたらしい。ワケがわからないのも道理だった。そど子から見えるのは、何やらハンカチが巻かれた、透明で怪奇な物体だろう。

 

「ちょっと貸しなさい。これが何なのか、わかれば返すッ」

「ま、待って、ちょっと用意をさせて!」

「用意って何の話?

 風紀委員としてハイと言うわけにはいきません。ホラァッ!」

「やめて下さい、園どのッ! そんなことをしたらッ!」

 

優花里が止めても間に合わないし、みほが抵抗しても聞く耳を持たなかった。こともあろうにそど子は、みほの手から赤ちゃんを無理矢理取り上げた。手荒くふんだくったのだ。これが生き物だなどと、認識していない。さっきまでニコニコしていたであろう赤ちゃんのあたりから、大泣きが聞こえ出した。

 

「何これ? 生暖かくて、やわらかい?

 この泣き声は何? 一体どこから、どういう仕掛け?」

「赤ちゃんです! 透明な赤ちゃんです!

 今スグ返してくださいッ!」

「あ、赤ちゃんンン~ッ? 透明?」

 

みほが怒鳴った。今まで見たことがない、モノスゴイ剣幕だ。手中にあるものを『もの』だと思っていたら、知らず知らずのうちに殺してしまいかねない。赤ちゃんの未来が失われる瀬戸際かもしれなかった。

 

「あ、赤ちゃんだとして、だとしたらますます、これは何?

 アナタは一体ドコでナニをやってきたの?

 しかも透明って意味不明すぎるッ」

「まず返してくださいッ、話はそれからです!」

 

後ろの自動ドアがやっと開く。待ちに待ったというやつだった。こうなっては、頼れるものはあの人だけだろう。

 

「あのオヤジ、スキあらばモノ売りつけようとして。もォ~」

「親切が行き過ぎた感はありましたね」

 

ベビーグッズの雑貨店から、ようやく出てきた華と沙織。ここで頼るのは、もちろん沙織だ。

 

「武部どのッ、助けてください」

「えっ? 優花里ちゃんが私を見るなり飛びついてくるとは……

 もしかして私の時代、来てる?」

「それはチョット後にして下さい。マズイんですッ」

 

しかし、結論から言えば、遅かった。こうなる可能性は、想定してしかるべきだったのかもしれない。だが、敵スタンドから攻撃されるのを最も恐れたがために、結果的にほとんど無警戒となった。

 

「手、手がッ、手がァァァーーーーッ!」

 

そど子の二の腕から先が消えた。端から見ると、切り取られてしまったかのようだ。

 

「園さんッ、赤ちゃんをすぐ渡してくださいッ、私に!」

「何これ、何よこれ、手が消え、腕が、

 あっ、スカート……足ぃぃぃーーーッ!」

 

そど子が完全に消えた。空間から丸ごとえぐり取られたかのようにいなくなった。

 

「ス、スタンドは……スタンド使いは、赤ちゃんだったッ!

 そど子どのが消されたァァァーーーーーッ」

「何これ? 頼られたけど、どうすりゃいいのよ私?」

「この状況!

 とにかく、園さんを動かないように説得するのが第一だと」

 

華が、あと数秒早くこれを言い出していれば、これもまた違ったのだろう。現実は、誰一人として有効な行動を起こせないままだった。華が最後まで言い切るよりも先に、形容しがたい衝突音が響き渡った。音がした方角は大通り。ほんのわずかに間が空いて、ドチャッ、という聞きたくもない音がした。そして、十字路で右折待ちをしていた軽トラックの荷台が、唐突にえぐり取られて消えた。

 

「優花里さん、華さん、沙織さん! 東方くんをすぐに呼んで!

 そど子さんをお願いしますッ」

 

0.5秒ほどで正気に戻ったみほが、すぐに指示を飛ばす。自分自身は軽トラックに向かって走り出しながら。沙織も沙織で、買い物袋の中にあった色紙を、バリバリとちぎり始めた。

『透明人間の交通事故』!

そんなものに対策しているのは、世界広しと言えども自分達だけだろう。

 

「わかった、引き受けたよ! みぽりんは?」

「赤ちゃんを連れ戻しますッ」

「気をつけてね。

 チョットスミマセェェーン! ごめんなさァァーーーイ!

 通行止め、通行止めでェェェーーーーッす!」

 

軽トラックの荷台に飛び乗ろうとするみほを尻目に、沙織は作ったばかりの紙吹雪をバラまきながら路上にいろんなものを運び出し、車の往来を妨害しまくった。

 

「ナンだよコラッ! ザケてんじゃあねーぞ」

「仕事なんだよ、邪魔すんなよアバズレがッ」

 

当然ながら、次から次に飛ぶ罵声。だが車は止まった。誰がどう見ても普段通りではない程度に。これだけあれば充分だ。救急車の類も、いない。

 

「ムーンライダーズッ!

 今ここに止まってる車のタイヤ、

 全部狙い撃ちしてパンクさせてくださいッ」

『ヒャホホーイッ』

『腕ガ鳴ルゼェェーー』

『単ナル的当テデハナイカ。ダガ、ゴ命令トアラバ!』

「目的は、この道路で車両の通行を不可能にすることですッ、

 それ以上の破壊は許しませんよ! GO、GO、GO!」

 

ムーンライダーズがようやく活躍した。馬を走らせながら次から次に撃ってはリロードし、目的を達するまで一分もかからなかった。沙織に止められていた車のタイヤ全てがいきなりパンクし、動きようもなくなる。

 

「そして、こーなると!

 一番恐れるべきは、武部どのに怒りをぶつけられるコト。

 そんなコトを考えるヒマなんか与えないのが一番ですね。

 ライダーズ! 今撃った車の運転手を銃撃で脅して下さい!

 気絶するか、車から降りて逃げていくまで!

 キズをつけることは、一切禁止しますッ」

『アイサーッ』

『イエェェェス、マムッ』

 

二人一組、リーダー一人で作戦は遂行された。リーダーには、ライダーズの1を任命。周囲で連続して発生する謎の破壊に追い立てられ、ほうほうの体で車から這い出して逃げていく運転手達。

 

「なんだナンだよ何ナンだよぉぉぉーー」

「襲われてる。よくわかんねェーけど襲われてるよォォー

 助けてェェーーーッ」

 

運転手だけでなく、付近にいた人々も異変を察知して逃げていく。副次的な効果だったが、幸いだ。これで、そど子を探す邪魔になるものは無い。ムーンライダーズを引っ込めた優花里は、誰もいないとわかりつつ、口に出して謝った。

 

「ゴメンナサイ、ホントにゴメンナサイ。

 ヒトの生命がかかってるんですよぉー」

 

そして、それから30秒程度で、華がそど子を発見する。においだけではなく、紙吹雪が引っかかって、違和感からすぐに発見できたようだった。

 

「出血はそれほどでもない……脈も打っている。

 でも、それ以上のことがわかりませんね」

「あっ、麻子から電話来てた。これで東方くん達呼ぶね」

 

こちらはどうやら収拾できそうだ。フウッと一安心して、十字路を見やる。自分が銃撃を命じる前に、あの軽トラックはすでにいなくなっていたはずだが、みほは無事に赤ちゃんを回収しているのだろうか。

 

(……まさか。

 荷台に乗ったまま出発されちゃったんじゃあないでしょうねぇ)

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




ジョセフ相手に売りつけまくったあのオヤジの大攻勢は、
沙織には通じませんでした。大金星。
しかし、婚活戦士という弱点を露呈したら大敗確実でした。きわどい勝負です。

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