GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
今回は、麻子視点。
冷泉麻子(れいぜい まこ)は、またも襲い来た面倒ごとに頭を抱えた。
「状況を整理するぞ」
なんで自分が仕切りに入っているのか。『透明な赤ちゃん』などという、想像なんかするわけがない事態に皆パニックになりかけたからだ。沙織は、ケーサツ呼ぼう、などと言い出すし、華も華で、お母さんを探しましょう、と言い出した。みほと優花里は、ひとまず東方くん(どの)と合流しましょう、と顔を見合わせて言った。
「まず、ここにいるのは『透明な赤ちゃん』だ。
どんな事情かはさておいて、みほの腕の中に、事実、いる」
みほは腕をゆすりながら、他の面子もウンウンと頷いた。
「沙織、警察を呼んだら、どうなる?」
「あっ……相手にしてくれるワケ、ない。
で、でも! 最後の手段としては、そうするしかないと思うよ」
その通りではあるので、麻子も頷いて返す。話を続ける。今度は華に。
「どうやってお母さんを探す?」
「ええ。手段がありませんね。この透明をどうにかしない限り」
目標は、それでいいと思う。しかしそこに向かう手段がない。華もそれは、わかってはいたようだ。
「そして、このまま東方達と合流するのか?」
「は、はい! この状況、確実にスタンドの仕業じゃあないですかッ」
「うん。それに、地元の人の協力がないとツライと思う。
場合によっては、赤ちゃんを預かってもらうことも考えないと……」
赤ちゃんのことを第一に考えているのは、やはりコイツだと思える美点だ。それはいい。だが、致命的な見落としがあることに、西住みほは気づいているのか。麻子は、みほの正面に回って、目をじっとにらんだ。
「例えば、だ。想像しろ。
東方の家に『赤ちゃん』を持っていくんだ。お前がだ」
みほは考え込んでいる。ピンと来ていない。先に、沙織が青ざめた。
「死ぬわ、それ。社会的に死ぬ。
ゼッタイにウワサされるわ、『デキちゃった』って。
しかもあいつら不良ッ ヘンなトコロで信憑性バツグンッ!」
「……えっ、えぇ~~~~~ッ!?」
ようやく理解したみほが、素っ頓狂な悲鳴を上げる。さすがに、たまったものではないだろう。赤ちゃんを抱えたまま、ワタワタと取り乱しまくっている。
「ちょっと待って、ナンデそんな……いや、そもそも!
ムリだよ! 物理的に不可能だよッ!
出会って何日だと思ってるのッ?」
「無責任なウワサをする方はそんなこと知らん。
とにかく、その手は最悪だ。それはわかったな」
みほは、ショボンと頷いた。だが、優花里の方がまだ納得していない。
「冷泉どの、それはわかりました。
ですけどッ、合流して対策を話し合うのなら、
そこまで危険はないと思うんですがッ」
「集まったところで、出来ることはたかが知れている」
優花里がムッと、不快感を表情に出した。東方達をバカにされたように感じたのだろう。違うのだ。能力の問題ではない。社会的地位の問題だ。
「私の考えを言う。この赤ちゃんは、空条承太郎に丸投げする」
「丸投げって……」
何か、みほが反対意見を言おうとしたところで、優花里が反応する。こいつは戦車バカではあっても、バカ者ではないのだ。
「何を言っているのかわかりましたよ、冷泉どの。
スピードワゴン財団を頼るってことですね」
「あっ、問題ほとんど解決する、それ!
スタンドを知ってるから、ちゃんと相手にもしてくれる」
「お母さんを探すにしても、私達よりもはるかに確実ですね」
自分達が音石明の事件に巻き込まれてから、空条承太郎は学園艦に滞在しており、彼のケータイ番号は戦車道履修者の全員が預かっている。こんな時に頼らずして、どうするのか。優花里も先ほど言っていたが、これは明らかにスタンドの事件だ。向こうとしても、断る理由はないはず。三人が賛同する中、腕の中でダァダァ言っている赤ちゃんを見下ろすみほは、罪悪感のような表情を浮かべている。
「赤ちゃんだぞ。私達の手に余る。わかるだろ」
「……うん」
…………………………
「使えないヤツめ」
麻子は思わず吐き捨てた。承太郎のケータイにかけたところ、結果は留守電。透明な赤ちゃんを拾ったので至急折り返して下さい、とだけ残し、かけ直してくるのを待つしかなくなってしまった。
「もしかして、留守電ですかぁ?」
「ああ、いつかけ直してくるか、わからん」
「困りましたね」
最短で引渡しに行く目は、これで途絶えた。折り返しが来るまで、どうにか面倒を見なければならない。みほが、おずおずと『何もない』腕の中を差し出してくる。
「この子……ハダカんぼだよ。何か、着せてあげないと」
「それもそうだし、その。ウンチぬぐってあげないとね」
「メンドー見るなら、買い物しなきゃ始まりませんねぇ」
財布を取り出しながら、優花里の目つきが少し鋭くなった。
「並行して、私がスタンドの本体を探します。
見つけ次第トッちめて、『透明化』を解除させれば解決ですからね」
「それこそ東方達と合流してからだな。
音石以上のヤバいスタンドだったらどうする」
「うッ、確かに」
麻子から見て、ここの所、優花里は少し危うい。スタンドなどという異能をいきなり持たされてしまったがために、負わなくてもいい責任を勝手に感じているフシがある。来るなら迎え撃つ、くらいでいいだろうに。承太郎の『おじい』……ジョセフ・ジョースターのことは、やはり少し恨んでしまう。
「あの、それですけど」
華がおそるおそるといった感じで進み出た。
「承太郎さんは言っていました。スタンドには射程距離があるって。
そうであるなら、『敵』から離れれば解除されます。
一度、思い切って遠くに行ってみるのも手かもしれません」
検討に値する話ではある。このまま承太郎と会う見込みが立たない場合であるなら。
「『敵』を刺激するな、それは。
やるなら戦う準備が整ってからだろうな」
「そう、ですね。今、戦えるのは優花里さんだけです」
「麻子さん、華さん、優花里さん、私、思うんだけど」
さらに、みほが話に割り込んでくる。赤ちゃんは機嫌がいいようで、エヘエヘと笑い声がしていた。
「私ね、この子自身がスタンド使いじゃないかって思うの。
お母さんと離れちゃってさ、この子、不安だよね?
だから、怖い人を近づけないために、
こうやって透明になってるんじゃないかって」
「なるほどな。ありえる」
みほの説なら、自分達が今、敵スタンドに攻撃されていない理由について説明がつく。『敵』からすれば、『敵』なるものがいるとすれば、今まさに攻撃を邪魔されているのに、その邪魔者に対し攻撃をしないという妙な状態なのだ。敵など最初からいない。ありえる。
「麻子さん。一足先に杜王駅に向かって、
東方くん達に事情の説明、お願いします」
「どうして私が」
「スタンドと戦えるのは優花里さんだけ。
赤ちゃんがはぐれた時に探せるのは華さんだけ。
それと、買い物で事情をごまかしきれるのは沙織さんだけです。
だから、行くのは私か、麻子さんです」
「仕方ない。行こう」
「み、みぽりん、サラリとヘビーな役目を……やるけどさぁ」
ここで断れば、赤ちゃんの世話が自分の役目になる。面倒くさがる気はないが、どう見てもみほの方が向いている。しかし、東方達もケータイを持ってさえいれば。そう考えてしまうが、陸では学園艦ほどケータイが普及しきっていないのだ。学園艦では下船時の連絡手段などで事実上の必須アイテムなので、少なくとも学生はみんな持っている。だが陸では、ケータイを忌避する学校が未だ一定数存在するし、持っていない学生も別に珍しくない。東方達は、別に持つ理由のない学生達のうち一人であるということだろう。こういう時は、それが恨めしくなってしまうが。放課後というのもあって、比較的体調がいいのは救いだった。みほ達から離れてツカツカと杜王駅まで足を進めている最中、電話が鳴った。承太郎からの折り返し電話だった。
『透明な赤ん坊、ということだったが』
「はい、透明です。おそらくスタンドです。
私達の手に負えないと判断しました」
『賢明だな。遅くなってスマナかったが、俺はどこに行けばいい?
その赤ん坊を引き取ればいいんだな』
「杜王駅でお願いします。東方くん達と待ち合わせています。
私以外のあんこうチームも、赤ちゃんの服やオシメを買い次第、
合流します」
『わかった。今すぐ向かおう。三十分後には到着する』
学園艦には当然、下船に伴う手続きもある。それを踏まえると、最短の線を承太郎は引いてくれたことになる。使えないヤツ呼ばわりは後で取り消すことにして、麻子も足を速める。そして、駅前の噴水広場で、彼らを見つけた。
「お? オメー、麻子じゃねぇーか。オメーだけかよ?」
このアホ面は一目見れば忘れるまい。虹村億泰だ。東方仗助に、広瀬康一も、後ろについてきている。くだらないやりとりをしているヒマはないので、本題を提示する。
「スタンド使いに遭った。私だけ先に来た……連絡のためにな」
「スタンドだと? まさか、チリ」
「違う。おそらく無関係だ。
透明にするスタンドだ。赤ちゃんが透明になっている」
「赤ちゃんンンンーーー? なんだってそんなコトをよぉぉーーーッ」
私が知るか、と吐き捨ててやりたかった。コイツでは話が進まない。後ろの二人の方に視線をチラチラ投げる。東方仗助が、前に出てくれた。
「ソコはわかったけどよぉーー、他のヤツらは、今何やってんだ?」
「赤ちゃんの服やオシメを買いに行っている。丸裸だったからな。
これから電話して、赤ちゃんを連れて来させる。
承太郎さんもここに来る」
「ちょ、チョット待って、冷泉さん。
赤ちゃんが攻撃されているの?
それとも、赤ちゃんがスタンド使いなの?」
広瀬康一も、東方仗助に続くように聞いてくる。将来性どうこう、はともかく、頭の回転は速いようだ。
「どっちなのかわからない。
ひとつだけ言えるのは、赤ちゃんは私達の手に負えない。
だから、承太郎さんを呼んだ」
「なるほどな。そりゃ、そうなるッスよねェェ~~。
グレート! オレでも途方に暮れるぜ」
「ン? どういうこと? 仗助くん」
「バカ、康一よぉ~考えてもみろ!
ジョシコーセーが赤んぼ抱えて悩んでる!
そいつを見てよぉ~、どういうウワサ想像するよ?
オメーならよぉー」
「……た、確かにマズイね。
承太郎さんに助けてもらうべきだなぁーーッ」
麻子は密かに眉をひそめた。前回の戦いでも見てはいたが。なるほど、こいつらはなかなかスゴイ。答えを最初に提示したとはいえ、そこにたどり着くまでの過程をほとんど埋めてしまった。
「そういうことだ。今から電話する」
「おう。アソビに行くのは赤んぼ渡してからッスねー」
ケータイを取り出す、電話をかける先は、沙織。時間的に、そろそろ買い物は終わった頃合だと思われる。店の場所はケータイで調べてすぐにわかったし、そんなに遠くもなかった。みほ達から離れる直前に、そこだけは聞いて押さえてある。しかし、なかなか出ない。コール音が10を超えた。留守番電話サービスに応対されてしまう……切る。
「どーしたよ?」
「電話に出てこないだけだ。もう一度かける」
虹村億泰に怪訝な目を投げられてイラッとしつつ、再度、沙織に電話をかける。コール音、8つ目。通じた。これで、全員合流して終わりだ。一件落着の気分で用件を伝えようとしたが、それより先に電話口でまくし立てられた凶報が、一瞬でそれを打ち砕いた。
「何だと? 風紀委員……そど子か? そど子がどうしたッ」
To Be Continued ⇒
どうでもいい余談ですが、ガルパンキャラをジョジョ絵に脳内変換しながら話を考えたり、書いたりしています。主に、第四部後半~第五部前半の絵柄で。なぜか秋山どのは断トツで脳内変換がラク。ドゥーチェとかダー様、カチューシャもスゴク想像しやすいけど、出番あってもはるか先。