GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

13 / 40
この話を投下してから、メインタイトルを変更します。
今後は、『GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond』となります。
安直なタイトルですが、『ノリ』と『勢い』で走るならこのくらいが
ふさわしいと思いました。


透明な赤ちゃんです!(1)

西住みほ(にしずみ みほ)は、あんこうチームの皆と杜王駅を目指していた。

 

「たまには息も抜かないとねェ~」

 

隣でゴキゲンにしているのは今回の仕掛け人、武部沙織である。音石明の事件から、今日で三日が経ち、戦車道の練習も再開している。ムチャクチャに破壊された4号戦車は東方仗助のクレイジーダイヤモンドで直してもらったため、部分的にはむしろ以前より調子がいいくらいだ。全国大会が迫る今、あまり遊んでいるヒマもないのだが、あんな大事件に遭遇してしまったのもあり、士気の低下がやや否めない状態なのも事実。そこで、沙織は町に出ることを提案。杜王町には大して馴染みもないが、事件で知り合った彼らに是非、案内してもらおう、というわけだった。

 

「電話したとき、チョット焦ってたけど。

 もしかして意識されちゃったかなぁ~」

「聞き飽きた。広瀬康一だろう?

 そもそもお前は意識してるのか」

「ソコはまだワカンない。

 でも、将来性ならコレ以上ないサイッコーと思うんだよねー彼ッ」

 

今回の沙織にはチョッピリ迷惑かけられた。彼女いわく『包囲作戦』だとかで、彼女自身は広瀬康一に電話をし、華には虹村億泰に電話をさせ、そして、みほには東方仗助に電話をさせたのだった。無理そうであれば優花里にお願いする、とのことではあったが、先方の親御さん相手に戦車トークを暴走させる姿を想像してしまったみほは、内心でため息をつきつつも二つ返事で引き受けてしまった。ちなみに、東方仗助の母は、話し方が明るくもやや攻撃的で、ちょっと怖かった。思い出すだけで、電話の声が脳内に再生される。

 

『チョット聞くけど!

 ウチの仗助が無断外泊したのって、もしかしてアナタのトコ?』

 

いいえ、と三回も連呼してしまった。事情を知っているだけに、うかつに口に出せない。東方仗助が代わってからは心底ホッと安心したものだ。

 

『案内? 構わねぇーけど。億泰に康一もか……

 とは言ってもよぉー、サ店とゲーセン、

 あとはウマいレストランくらいしか案内できねぇーッスよ』

 

マジメに応対してくれたので、みほもみほで希望は伝えた。具体的にはぬいぐるみを扱ってるトコロ。あんまし期待すんなよな、とは言っていたが、それなりに楽しみだったりする。

 

「ンーッ ナンダカンダ言いながら!

 みぽりんも楽しそうじゃないのー」

 

ニンマリしていたのを見られた。鎖骨のあたりを指でツンツンされる。

 

「なんだったらぁー、途中で別行動でも構わないんだよ。みぽりんッ」

 

冷やかすように言ってはくるが、正直、そんなこと言われてもなー、である。この『恋愛脳』さえどうにかなれば、沙織もパーフェクトなのだろうが。苦笑いでごまかしつつも、みほは別のことを思い出し、気にしていた。電話で、ついでとばかりに聞いたのだ。自分のスタンドについて。

 

『そーだな。スタンドの発現はキッカケだからよ。

 わかんねーものは仕方ねぇーぜ。

 だが、オレと康一は見てたぜ。おめーからスタンドの気配っつーか、

 エネルギーが立ち上ったのをよぉー。

 そいつが音石への怒りでもハッキリと形にならねぇーっつーんなら……

 なんか、引き金があるはずだぜ。おめーだけの引き金が。

 そいつを探すんだ』

 

自分の手を見る。重なって見えるような『何か』は無いし、感覚も変わらない。優花里のように遠くに行ってしまうケースも考えられるが、なんにせよ確信は得られなかった。そこで、ふと優花里に目をやって、意識を今に戻す。何やら慌てていたからだ。

 

「い、いない……点呼! もう一度点呼しますよぉ!」

『イチ!』

『ニー!』

『サン!』

『ゴー!』

『ロク!』

『シチ!』

「いない! やっぱり4がいない!

 どこでハグレたんですかぁーーーーーッ」

 

優花里は、みほとはまったく逆のことに悩まされていた。スタンドが発現したのはいいが、本体が知らない間にスタンドがどこかに行ってしまう。ために、こうしてマメに点呼をとらざるを得なくなってしまった。あの空条承太郎が言うには、スタンドに慣れておらず、制御しきれていないから、とのことだが。嘘か真か、承太郎のスタンド、スタープラチナは発現したての頃、暴力事件やら窃盗やらを繰り返しまくったそうで、それに比べればかなりマシだとも言われてしまった。

 

『そいつらは君だ。君自身であることを認識しろ。

 そして手足を動かすように、疑問を持たずに動かすのだ。

 信じる、と言い換えてもいいかもしれん。

 そうすれば、ムーンライダーズは君のものとなるはずだ』

 

真摯なアドバイスではあったが、それをすぐものにできるかと言うと話は別。優花里も、何かキッカケを必要としているのかも知れなかった。

 

「すみません、皆さん。私のスタンドがまたハグレました。

 先に行って下さい。探してきます」

「待って優花里ちゃん。まだ時間に余裕あるし、付き合うよ。

 スタンド見えないけど」

「ですが困りますね、これは……優花里さんの負担が大きすぎます」

「これではそのうち授業もサボるな」

 

みほのみならず、全員、優花里を心配している。スタンドが行方不明になるたび、優花里自身が回収に出向くしかない。ムーンライダーズ達に探させると、探しに行った彼ら自身が行方不明になるからだ。これではもう、常にかくれんぼのオニを強要されているに等しい。放っておくことは絶対にできない。知らないところで敵スタンドに遭遇して勝手に戦いを始めれば、優花里が突然ケガをするのだ。

『授業中、いきなり血を吹き出してガックリと机に伏せ、救急車で運ばれる』

こんなことがホントに起こりかねない。

 

「皆さん、ありがとうございます。

 ちょっと心当たりを聞いてみますね……

 みんな、4の行き先に心当たりはありますか?」

『空腹ヲ訴エテイタナ。

 杜王港ノアタリデ屋台ヲモノ欲シソーニ見テイタゾ!』

「空腹? ご飯は、他人丼をみんなで……おかげで一食分食費が多い」

『2ト5ノセイダッ! 4ヲ押シノケテ近ヅケナカッタジャネーカッ』

『ソレハダナ、新兵ニハ飯ノ量ヲアエテ少ナク!

 足リナイ分ハ現地調達トイウ教エガアッテダナ』

 

優花里が眉をピクピクさせていた。この三日間、こんな表情ばかりをしている。

 

「よくわかりました。全員、晩御飯ヌキ。2と5は明日の朝御飯もヌキ」

『エェ~~~ッ』

「黙って見ていたなら同罪です。騎馬隊の仲間なんでしょう?

 大事にできないとは言わせませんからねッ。

 もう一度聞きますけど1、杜王港前の屋台ですね?

 4の行き先はそこで間違いないですか?」

『杜王港ダト断言ハ出来ナイ。

 ダガ焼キ鳥カ、フランクフルトヲ当タレバ見ツカルダロウ。

 4ハ肉ヲ欲シガッテイタ』

「無銭飲食ですか、はぁ~~~」

 

スタンドは一般人には見えないし聞こえない。ゆえにスタンドが勝手に飲み食いをやるならば、必然、そうなる。

 

「みぽりん、なんだって?」

「一人だけ、オナカ空かせて何か食べに行っちゃったみたい。

 屋台の、焼き鳥かフランクフルトが怪しいって。

 肉を欲しがってたから、だって」

「把握した。すると杜王港前しかないな」

「私達のような『学園艦組』を相手にしてる、あの屋台ですね」

 

学園艦が寄港すれば、下船してくる学生や関係者を相手にした屋台がやってくる。これは別に杜王町に限った話ではなく、どこでもそうなので皆すぐにわかった。

 

「戻るなら、私もひとつ買いますね。食べたかったんです、牛タン味噌漬けのクシ焼き」

「華、さっき笹カマボコ食べてたんじゃ……いや、何も言うまい」

 

全員で来た道を引き返す。幸いと言うべきか、華にとっては不幸と言うべきか。杜王港手前の川あたりに来たところで、目的の相手をみほが見つけた。橋の隅っこでへたばっている。

 

「ど、どうしたの?」

『ハ、腹減ッタ……動ケネェ~』

 

優花里も、すぐに駆け寄ってきた。

 

「どうしたんですか4、しっかりしてください」

『シ、司令~、メシ、飯クレー』

「……? 『何も』食べてないんですかぁ?

 今まで、どこに行ってたんです?」

『飯、現地調達シヨート思ッタケド、

 宣戦布告モシテネー相手カラ略奪ナンカ出来ナカッタ。

 ソンナ事シタラ戦士ジャナクテ盗賊ニナッチマウゥゥ~~~』

 

馬ともども横倒しになっている4に、優花里の表情が柔らかくなった。彼らとて、他人を困らせるのに血道を上げているわけではない。優花里の友達であるみほが、それはよくわかっている。なにしろ、彼らは優花里自身なのだから。

 

「わかりました。事情は聞いてます。昼御飯は改めて出しますよ。

 行軍する必要はないから、私の中に引っ込んで休んでて下さいね」

『シ、司令ィィ~~』

「ただし、無断で部隊から離れたのも事実ですから。

 他のライダーズと同じく晩御飯ヌキですよ! 覚えといて下さい」

『……クスン』

 

どうやら一件落着だ。しかし、やり取りを見て、みほにも思うところはある。

 

「優花里さん」

「西住どの、何ですか?」

「その、番号じゃあなくって。名前、つけてあげない?

 このままじゃ、なんだか無理がある気がして」

 

口に出しては言わないが、まるで刑務所で囚人を扱っているように見えるのだ。懲罰的な台詞ばかり口にする羽目になっているから、なおさら。優花里は別に何も悪くないのだが。提案をされた優花里は、珍しく逡巡する素振りを見せた。

 

「……はい、実はイイ名前、考え中なんですよぅ~」

「そっか。名前がついたら、教えてね」

「名前ですけど、西住どのにチョットお願いがあるかもしれません。

 そのときは、相談に乗ってくれると助かります」

「相談? いいよ、いつでも来てほしいな」

 

話が終わり、よそに視線を向けたフリをして、優花里の様子を伺う。やはり、悩んでいる。スタンドとの付き合い方について。ライダーズ4を回収しながら、物憂げな目をしていた。

 

「戻る必要は無くなったようだな」

「だって。牛タンはまた今度ね、華」

「迷子が見つかったのなら何よりです。無銭飲食もなかったようですし」

 

ともあれ、これで元の予定に復帰できる。皆で駅に向かい、イロイロ案内してもらおう。元々、出てきた理由は気晴らしなのだから。自分達あんこうチームだけが出てきたわけではない。例えば、カバさんチームは『仙台城』に行くとか言っていた気がする。歴史大好きなあの人たちなら納得だ。私達も楽しもう。だが、気分を入れ替えた甲斐は、あまりなかった。

 

「……ンッ?」

 

華が、どこかのにおいを嗅ぎ始めた。そちらに向かって歩いていくようだ。

 

「どうしたの、華。そっちは駅じゃあないけど」

「その。『人糞』のにおいです。近くに突然、現れました」

「ジンプン?……ええと、その。『大きい方』のこと言ってんの?」

「はい。そして、ありえません。

 こんなに近くで『したら』、私達に見えていないはずがないんです」

 

聞き耳だけは立てていた優花里が、華の前に飛び出してきて、かばう姿勢をとる。同時に、ムーンライダーズが全員展開され、方陣を形成した。

 

「用心しましょう、五十鈴どの。スタンドの攻撃かもしれません」

「そうでしょうね。私もそれを警戒しています。

 目には見えず、においだけがある……正体は、何?」

 

神経を研ぎ澄ます華の眼は、みほを含めた全員が知っている。見えなくては手の出しようもない。華を守りつつ、ゆらりと歩く華の後に続く。

 

「これは。においはふたつあるッ!

 片方は移動している……遅い。這いずり回っているように」

「フツーに考えて。『した』方よね、そいつ」

「『ウンコをして、這い回る』。もしかしてそいつは小さくないか?」

 

ド直球で言うことを言った麻子に、沙織は思い切り顔をしかめた。が、何を言おうとしているのかがわかって、表情が驚きに切り替わる。みほにも、わかった。

 

「『赤ちゃん』がいるって、言ってるの?……麻子」

「それも見えないヤツがな。わからない、触って確かめないことには」

 

その次の瞬間に決定打がきた。

 

「エゥー、ダァ……ダァ」

 

言葉になっていない、意味をなしていない声。動物じみてはいるが、絶対に動物のものではない声。確信と同時に、みほは声に向かった。

 

「き、キケンですよ西住どのッ! まだ謎だらけなのにッ」

 

止める優花里の声を、みほは無視する。そのキケンな謎の中から、今の声はしているのだ。放っておけるわけがなかった。四つんばいになり、手を振り回して探す。そして、中指の先っちょに、何か触れた。手の平をあててつかむ。はっきりと形がわかる。抱き上げた。生命の重さが、そこにはある。

 

「み、みぽりん。もしかして……『いた』の?」

「うん、いたよ。暖かいし、生きてる。

 『透明な赤ちゃん』だよッ」

 

とんでもないものを発見してしまった。

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




今回の話は多分、みほと優花里が中心で回ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。