GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
今後は、『GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond』となります。
安直なタイトルですが、『ノリ』と『勢い』で走るならこのくらいが
ふさわしいと思いました。
西住みほ(にしずみ みほ)は、あんこうチームの皆と杜王駅を目指していた。
「たまには息も抜かないとねェ~」
隣でゴキゲンにしているのは今回の仕掛け人、武部沙織である。音石明の事件から、今日で三日が経ち、戦車道の練習も再開している。ムチャクチャに破壊された4号戦車は東方仗助のクレイジーダイヤモンドで直してもらったため、部分的にはむしろ以前より調子がいいくらいだ。全国大会が迫る今、あまり遊んでいるヒマもないのだが、あんな大事件に遭遇してしまったのもあり、士気の低下がやや否めない状態なのも事実。そこで、沙織は町に出ることを提案。杜王町には大して馴染みもないが、事件で知り合った彼らに是非、案内してもらおう、というわけだった。
「電話したとき、チョット焦ってたけど。
もしかして意識されちゃったかなぁ~」
「聞き飽きた。広瀬康一だろう?
そもそもお前は意識してるのか」
「ソコはまだワカンない。
でも、将来性ならコレ以上ないサイッコーと思うんだよねー彼ッ」
今回の沙織にはチョッピリ迷惑かけられた。彼女いわく『包囲作戦』だとかで、彼女自身は広瀬康一に電話をし、華には虹村億泰に電話をさせ、そして、みほには東方仗助に電話をさせたのだった。無理そうであれば優花里にお願いする、とのことではあったが、先方の親御さん相手に戦車トークを暴走させる姿を想像してしまったみほは、内心でため息をつきつつも二つ返事で引き受けてしまった。ちなみに、東方仗助の母は、話し方が明るくもやや攻撃的で、ちょっと怖かった。思い出すだけで、電話の声が脳内に再生される。
『チョット聞くけど!
ウチの仗助が無断外泊したのって、もしかしてアナタのトコ?』
いいえ、と三回も連呼してしまった。事情を知っているだけに、うかつに口に出せない。東方仗助が代わってからは心底ホッと安心したものだ。
『案内? 構わねぇーけど。億泰に康一もか……
とは言ってもよぉー、サ店とゲーセン、
あとはウマいレストランくらいしか案内できねぇーッスよ』
マジメに応対してくれたので、みほもみほで希望は伝えた。具体的にはぬいぐるみを扱ってるトコロ。あんまし期待すんなよな、とは言っていたが、それなりに楽しみだったりする。
「ンーッ ナンダカンダ言いながら!
みぽりんも楽しそうじゃないのー」
ニンマリしていたのを見られた。鎖骨のあたりを指でツンツンされる。
「なんだったらぁー、途中で別行動でも構わないんだよ。みぽりんッ」
冷やかすように言ってはくるが、正直、そんなこと言われてもなー、である。この『恋愛脳』さえどうにかなれば、沙織もパーフェクトなのだろうが。苦笑いでごまかしつつも、みほは別のことを思い出し、気にしていた。電話で、ついでとばかりに聞いたのだ。自分のスタンドについて。
『そーだな。スタンドの発現はキッカケだからよ。
わかんねーものは仕方ねぇーぜ。
だが、オレと康一は見てたぜ。おめーからスタンドの気配っつーか、
エネルギーが立ち上ったのをよぉー。
そいつが音石への怒りでもハッキリと形にならねぇーっつーんなら……
なんか、引き金があるはずだぜ。おめーだけの引き金が。
そいつを探すんだ』
自分の手を見る。重なって見えるような『何か』は無いし、感覚も変わらない。優花里のように遠くに行ってしまうケースも考えられるが、なんにせよ確信は得られなかった。そこで、ふと優花里に目をやって、意識を今に戻す。何やら慌てていたからだ。
「い、いない……点呼! もう一度点呼しますよぉ!」
『イチ!』
『ニー!』
『サン!』
『ゴー!』
『ロク!』
『シチ!』
「いない! やっぱり4がいない!
どこでハグレたんですかぁーーーーーッ」
優花里は、みほとはまったく逆のことに悩まされていた。スタンドが発現したのはいいが、本体が知らない間にスタンドがどこかに行ってしまう。ために、こうしてマメに点呼をとらざるを得なくなってしまった。あの空条承太郎が言うには、スタンドに慣れておらず、制御しきれていないから、とのことだが。嘘か真か、承太郎のスタンド、スタープラチナは発現したての頃、暴力事件やら窃盗やらを繰り返しまくったそうで、それに比べればかなりマシだとも言われてしまった。
『そいつらは君だ。君自身であることを認識しろ。
そして手足を動かすように、疑問を持たずに動かすのだ。
信じる、と言い換えてもいいかもしれん。
そうすれば、ムーンライダーズは君のものとなるはずだ』
真摯なアドバイスではあったが、それをすぐものにできるかと言うと話は別。優花里も、何かキッカケを必要としているのかも知れなかった。
「すみません、皆さん。私のスタンドがまたハグレました。
先に行って下さい。探してきます」
「待って優花里ちゃん。まだ時間に余裕あるし、付き合うよ。
スタンド見えないけど」
「ですが困りますね、これは……優花里さんの負担が大きすぎます」
「これではそのうち授業もサボるな」
みほのみならず、全員、優花里を心配している。スタンドが行方不明になるたび、優花里自身が回収に出向くしかない。ムーンライダーズ達に探させると、探しに行った彼ら自身が行方不明になるからだ。これではもう、常にかくれんぼのオニを強要されているに等しい。放っておくことは絶対にできない。知らないところで敵スタンドに遭遇して勝手に戦いを始めれば、優花里が突然ケガをするのだ。
『授業中、いきなり血を吹き出してガックリと机に伏せ、救急車で運ばれる』
こんなことがホントに起こりかねない。
「皆さん、ありがとうございます。
ちょっと心当たりを聞いてみますね……
みんな、4の行き先に心当たりはありますか?」
『空腹ヲ訴エテイタナ。
杜王港ノアタリデ屋台ヲモノ欲シソーニ見テイタゾ!』
「空腹? ご飯は、他人丼をみんなで……おかげで一食分食費が多い」
『2ト5ノセイダッ! 4ヲ押シノケテ近ヅケナカッタジャネーカッ』
『ソレハダナ、新兵ニハ飯ノ量ヲアエテ少ナク!
足リナイ分ハ現地調達トイウ教エガアッテダナ』
優花里が眉をピクピクさせていた。この三日間、こんな表情ばかりをしている。
「よくわかりました。全員、晩御飯ヌキ。2と5は明日の朝御飯もヌキ」
『エェ~~~ッ』
「黙って見ていたなら同罪です。騎馬隊の仲間なんでしょう?
大事にできないとは言わせませんからねッ。
もう一度聞きますけど1、杜王港前の屋台ですね?
4の行き先はそこで間違いないですか?」
『杜王港ダト断言ハ出来ナイ。
ダガ焼キ鳥カ、フランクフルトヲ当タレバ見ツカルダロウ。
4ハ肉ヲ欲シガッテイタ』
「無銭飲食ですか、はぁ~~~」
スタンドは一般人には見えないし聞こえない。ゆえにスタンドが勝手に飲み食いをやるならば、必然、そうなる。
「みぽりん、なんだって?」
「一人だけ、オナカ空かせて何か食べに行っちゃったみたい。
屋台の、焼き鳥かフランクフルトが怪しいって。
肉を欲しがってたから、だって」
「把握した。すると杜王港前しかないな」
「私達のような『学園艦組』を相手にしてる、あの屋台ですね」
学園艦が寄港すれば、下船してくる学生や関係者を相手にした屋台がやってくる。これは別に杜王町に限った話ではなく、どこでもそうなので皆すぐにわかった。
「戻るなら、私もひとつ買いますね。食べたかったんです、牛タン味噌漬けのクシ焼き」
「華、さっき笹カマボコ食べてたんじゃ……いや、何も言うまい」
全員で来た道を引き返す。幸いと言うべきか、華にとっては不幸と言うべきか。杜王港手前の川あたりに来たところで、目的の相手をみほが見つけた。橋の隅っこでへたばっている。
「ど、どうしたの?」
『ハ、腹減ッタ……動ケネェ~』
優花里も、すぐに駆け寄ってきた。
「どうしたんですか4、しっかりしてください」
『シ、司令~、メシ、飯クレー』
「……? 『何も』食べてないんですかぁ?
今まで、どこに行ってたんです?」
『飯、現地調達シヨート思ッタケド、
宣戦布告モシテネー相手カラ略奪ナンカ出来ナカッタ。
ソンナ事シタラ戦士ジャナクテ盗賊ニナッチマウゥゥ~~~』
馬ともども横倒しになっている4に、優花里の表情が柔らかくなった。彼らとて、他人を困らせるのに血道を上げているわけではない。優花里の友達であるみほが、それはよくわかっている。なにしろ、彼らは優花里自身なのだから。
「わかりました。事情は聞いてます。昼御飯は改めて出しますよ。
行軍する必要はないから、私の中に引っ込んで休んでて下さいね」
『シ、司令ィィ~~』
「ただし、無断で部隊から離れたのも事実ですから。
他のライダーズと同じく晩御飯ヌキですよ! 覚えといて下さい」
『……クスン』
どうやら一件落着だ。しかし、やり取りを見て、みほにも思うところはある。
「優花里さん」
「西住どの、何ですか?」
「その、番号じゃあなくって。名前、つけてあげない?
このままじゃ、なんだか無理がある気がして」
口に出しては言わないが、まるで刑務所で囚人を扱っているように見えるのだ。懲罰的な台詞ばかり口にする羽目になっているから、なおさら。優花里は別に何も悪くないのだが。提案をされた優花里は、珍しく逡巡する素振りを見せた。
「……はい、実はイイ名前、考え中なんですよぅ~」
「そっか。名前がついたら、教えてね」
「名前ですけど、西住どのにチョットお願いがあるかもしれません。
そのときは、相談に乗ってくれると助かります」
「相談? いいよ、いつでも来てほしいな」
話が終わり、よそに視線を向けたフリをして、優花里の様子を伺う。やはり、悩んでいる。スタンドとの付き合い方について。ライダーズ4を回収しながら、物憂げな目をしていた。
「戻る必要は無くなったようだな」
「だって。牛タンはまた今度ね、華」
「迷子が見つかったのなら何よりです。無銭飲食もなかったようですし」
ともあれ、これで元の予定に復帰できる。皆で駅に向かい、イロイロ案内してもらおう。元々、出てきた理由は気晴らしなのだから。自分達あんこうチームだけが出てきたわけではない。例えば、カバさんチームは『仙台城』に行くとか言っていた気がする。歴史大好きなあの人たちなら納得だ。私達も楽しもう。だが、気分を入れ替えた甲斐は、あまりなかった。
「……ンッ?」
華が、どこかのにおいを嗅ぎ始めた。そちらに向かって歩いていくようだ。
「どうしたの、華。そっちは駅じゃあないけど」
「その。『人糞』のにおいです。近くに突然、現れました」
「ジンプン?……ええと、その。『大きい方』のこと言ってんの?」
「はい。そして、ありえません。
こんなに近くで『したら』、私達に見えていないはずがないんです」
聞き耳だけは立てていた優花里が、華の前に飛び出してきて、かばう姿勢をとる。同時に、ムーンライダーズが全員展開され、方陣を形成した。
「用心しましょう、五十鈴どの。スタンドの攻撃かもしれません」
「そうでしょうね。私もそれを警戒しています。
目には見えず、においだけがある……正体は、何?」
神経を研ぎ澄ます華の眼は、みほを含めた全員が知っている。見えなくては手の出しようもない。華を守りつつ、ゆらりと歩く華の後に続く。
「これは。においはふたつあるッ!
片方は移動している……遅い。這いずり回っているように」
「フツーに考えて。『した』方よね、そいつ」
「『ウンコをして、這い回る』。もしかしてそいつは小さくないか?」
ド直球で言うことを言った麻子に、沙織は思い切り顔をしかめた。が、何を言おうとしているのかがわかって、表情が驚きに切り替わる。みほにも、わかった。
「『赤ちゃん』がいるって、言ってるの?……麻子」
「それも見えないヤツがな。わからない、触って確かめないことには」
その次の瞬間に決定打がきた。
「エゥー、ダァ……ダァ」
言葉になっていない、意味をなしていない声。動物じみてはいるが、絶対に動物のものではない声。確信と同時に、みほは声に向かった。
「き、キケンですよ西住どのッ! まだ謎だらけなのにッ」
止める優花里の声を、みほは無視する。そのキケンな謎の中から、今の声はしているのだ。放っておけるわけがなかった。四つんばいになり、手を振り回して探す。そして、中指の先っちょに、何か触れた。手の平をあててつかむ。はっきりと形がわかる。抱き上げた。生命の重さが、そこにはある。
「み、みぽりん。もしかして……『いた』の?」
「うん、いたよ。暖かいし、生きてる。
『透明な赤ちゃん』だよッ」
とんでもないものを発見してしまった。
To Be Continued ⇒
今回の話は多分、みほと優花里が中心で回ります。