GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond   作:デクシトロポーパー

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『ガールズ&パンツァー』を主たる原作に指定しつつも、
現状この作品では、どっちかというとジョジョの方が強めの感じ。
次回は、みほを事件の主軸に置いて
ガルパンサイドのキャラを強めに書きたいところ。

今回は、秋山どの視点でお送りします。


音石明が大洗女子学園に忍び込んだようです(11)

秋山優花里(あきやま ゆかり)は、乗り合いのバスを待っていた。

 

(ドコ、なんでしょうか? ココ)

 

車などが異様に古い。建物の形を見る限り、イタリアのように見える。向こうに見えるのが『コロッセオ』なら、ここはローマか。それも、ファシストが幅を利かせていた頃。第二次世界大戦前夜の景色に見える。戦車が大好きで色々集めていると、歴史にも多少詳しくはなる。いろんな白黒写真で見たことのある景色に、目の前が重なるのだ。周りを行きかう人はあまり見えないが、生活感だけは漂ってくる。そんな奇妙な町並みを見回していると、カフェから唐突に声をかけられた。

 

「一人かい、シニョリーナ」

 

優花里は、自分に声をかけられていると認識しなかった。他の誰かを呼んだのだと思って周囲の観察を続けていると、同じ声が、少し弱ったように苦笑した。

 

「無視をするとは、思ったよりも高嶺の花じゃあないか。

 じらすテクニックを心得ているのかい?」

 

振り向いてから気づく。想像を絶する美男だ。戦車にばかり首ッタケの優花里でさえもそう思う。どこかフテくされたような目つきの悪さも、この男にとってはプラスにしか働いていない。イタリア人だろうか?

明らかに日本人とは分野が違う。体温を持った、やわらかい彫刻とでも言おうか!

優花里は、トンデモなくテンパッた。

 

「……え、えぇッ? まさか、まさかの私ですかぁ?

 ナンパなんですかぁーっ?」

「何が『まさか』かわからないな。かわいらしい人。

 きみは自分の美しさをよく知っておくべきだな。

 このぼくが教えてあげるよ。手取り足取り」

「え、あ、そのォ、あ、あ、う」

 

優花里の頭脳は超信地旋回しまくってオーバーヒートした。イギリスのサウナ戦車、カヴェナンターもかくやの有様だった。

 

「と、言いたいところなんだがなぁ~~~、オレは人を待っている!

 人を待たせることを『ヘ』とも思わねぇくそったれ野郎をな!」

「え、そ、そうですか……じゃあ何の用だったんです?」

 

いきなり変わった雰囲気で、優花里も正気には戻ったが、今のままではおちょくられた感じしかしない。少しジト目になる。

 

「見たところ、きみはここまでバスに乗り付けてやってきたようだ。

 ぼくは、きみと同じバスに乗って来るはずの男を待っていてね……

 だが、どうやら『また』スッポカされたようだな」

「『また』って。スッポカしの常習犯ですかぁ?

 そんなヒトのトモダチ、よく続けられますねー」

「まったくだね! イイカゲンが呼吸して歩いてるような男だぜッ!

 いちいち迎えに来るオレもオレだが、

 その都度、『こっち来んなボケ!』とも思っているよ」

「男の友情ってやつですかぁー? 複雑ですねぇ」

 

形無しだ、とばかりに男はクックッと笑った。その声に、深い絆を優花里は感じた。悪態をつきながらも、彼はずっと待ち続けるのだろう。いつ来るとも知れない『くそったれ野郎』を。

 

「ン、バスが来たな。珍しい。『戻り』のバスじゃないか」

「『戻り』? どこ行きですか? アンツィオとか、シシリーです?」

「ドコに戻ろうと言うんだ、きみは。どれ!

 読みにくいな、ありゃあ。なんだって……『大洗女子学園』」

 

聞いた途端、ガツン、と頭を殴られたような衝撃が走った。今の今までなぜか忘れていた、自分の帰る場所の名前。帰らない私は、一体どこに行くつもりだったのか。ここから、どこ行きのバスに乗ろうとしていたのだ?

 

「どうしたんだい、シニョリーナ」

「すみません。『大洗女子学園』……帰らないと」

「それがいいさ。帰りなよ、きみの家へ。

 待っている人がたくさんいるんだろう?」

「はいッ。お待たせなんて、できませんよッ」

 

思わず陸軍式の敬礼をした優花里に、男はプッと吹き出してから、バスを指差して行くように促した。どうやら、そう長い間は待ってくれないらしい。

 

「じゃあ、さよならです。アリーヴェ・デルチ、でしたっけ」

「アリーヴェ・デルチ。

 次に会うとすればきっと、ずっと未来だろうよ!」

 

………………

 

「……という、夢だったんです!」

「アハハ、笑えない。シャレになってないよぉー優花里さん」

「間一髪で三途の川を免れたようにしか聞こえないんですが」

 

昨日の事件からすでに丸一日が経過し、今日は日曜日。さすがに戦車道の練習は出来ず、丸一日のお休みとなっている。今は74(セブンティーフォー)アイスに、あんこうチームの全員が集まっていた。話題は、優花里の臨死体験。その間に見ていた夢。

 

「ムムム、なんか色気づいてる。

 あの戦車にしかキョーミない優花里ちゃんが。

 イケメンイタリア人にお持ち帰りされかける夢を見るなんて」

「沙織と一緒にしてやるな」

「でも麻子ぉー、『次に会うとすればきっと、ずっと未来』だなんて!

 これはきっと王子さまだって思っちゃうワケよ、優花里ちゃんのー」

 

きゃいきゃい騒ぐ沙織を見て、やっぱりこの人、ブレないなと思う優花里。確かにナンパされてドギマギしたし、それでいて嫌悪感も感じなかったが。それでも、王子さまだけはありえない。

 

「多分ですけど、あの人。ずっと過去の人だと思います。

 それと、あの人が待っていたのは……ジョースターさんですよ。根拠ないですけど」

 

全員のテンションが目に見えて下がった。ジョセフ・ジョースターの名前は、今はあまり思い出したくないのもわかる。あの老人は今、昏睡状態でこの学園艦に留まっているのだ。麻子などは、当初はほとんど敵扱いしていたものの、優花里のために文字通り生命を差し出してしまった彼と、彼の息子であるという東方仗助が、病院に向かう戦車の中で『おふくろを悲しませるな』と呼びかけ続けているのを見て、もう、厄介者扱いするような気持ちは失せ果ててしまったらしい。今もジョセフの名を聞いて、疫病神呼ばわりした罪悪感が復活したのか、麻子の視線がスッと下に降りた。

 

「そそ、そーいえばッ!

 優花里ちゃんも『スタンド』ってやつが使えるんだよね? どういうヤツだったの?

 イキナリ漫画の主人公みたくなっちゃってぇー、もー」

 

そんな空気を粉みじんに破壊するのは、いつだって沙織である。優花里は、おどけた彼女に心の中で、チョッピリ謝った。

 

「あ、はい。

 昨日皆さんが帰った後で、西住どのと広瀬どの、それと承太郎さんに

 立ち会ってもらって、色々確かめましたよ」

 

昨日はたまげた。スタンドのダメージが本体に帰ってくることを知らなかったら、何がどうなっているのかサッパリわかりようがなかった。そんな状態を放置し続けたら自分は遠からずまた死ぬだろう。なので素直に教えを乞うた。杜王町の面々から隊長であるかのように扱われていた、空条承太郎に。

 

「カンタンに説明しますね。

 私のスタンドは、ミニチュアの騎兵隊です。全部で7人いますよ。

 というか、今もソコにいます。パフェ、ムサボリ食ってますよコイツら」

「あっ……」

「優花里ちゃん、パフェふたつもどうするのかと思ったら」

 

優花里が、メニューなどでどうにか作った物陰を指差す。みほ以外には、ふたつのパフェが削れて、ひとりでに消滅していくようにしか見えないだろう。

 

『バクッ、ガツッガツッ、ンマッ、ンマーーッ! ゴクッ』

『司令ッ、甘味モ大事ダガ! モット油コイ糧食ヲ要求スルゾ!

 バクッ、バクッ、ジャリッ!』

『我ラハ戦士ダ、腹ガ減ッテハ戦エン! 愚策ダゾッ! ンガググッ』

『ヒヒーン! ヒヒーン! ガリッ、ガリッ ガリッ』

 

フルプレートをガチガチに着込んだミニチュアのデフォルメ兵どもがパフェに群がり、どこから持ち出してきたのか、それぞれがスプーンを持って突き崩し、崩した山に顔を突っ込んでいる。特撮ヒーローのようなレンズ状の目をしているからか、痛がる素振りも見せやしない。そして、騎兵なので馬もいる。馬がパフェに顔面から突っ込んで、パフェの中を掘り進んでいる。あまりにも大惨事すぎる光景だ。

 

「う、うるさーいッ 私が司令官だっていうなら、

 無断で冷蔵庫の肉、全滅させないで下さいよーッ

 おかげでナマ肉を丸カジリする女子高生にされてしまったッ!

 お母さんに本気で心配されたッ!」

「はぁ、その、なんというか」

「モノスゴク苦労してることはイタイほどわかった」

 

華はかける言葉に困り、麻子には本気で同情された。スタンドは見えていないだろうが、やりとりが見えてしまったらしい。

 

「あはは、でもこの子達なんだよね。

 ジョースターさんを守り抜いたのって」

「ハァー、オホン。はい、西住どの。

 彼らの姿はランス突撃していた頃の騎馬兵ですけど、

 実際に使うのは騎兵銃(カービン)ですよ。

 承太郎さんも言ってましたけど、ミニチュアでも威力は本物だから、

 充分脅威になりますね」

「昨日、私が病院で聞いた銃声は、それだよね」

「はい」

 

そして、そうでなければ優花里は、昨日あの場所で死んでいただろう。運が良かったのは、まず、戦闘した場所が屋内の閉所であったこと。次に、スタンドがミニチュアサイズで、かつ複数体であったこと。最後に、攻撃手段が飛び道具で、しかも全員バラバラに攻撃を仕掛けたこと。だから『チリ・ペッパー』は場当たり的な迎撃に終始した。敵の全貌が見えないからだ。そうしているうちに時間切れになったのだろう。これが空条承太郎の推測だった。もちろん、もっとも運が良かったのは、なんでもなおせる東方仗助が傍にいたことだったが。

 

「彼らが言うには『私の命令に忠実に従った』ってことらしいんですけど」

「優花里さん、思い当たるようなこと、ないの?」

「うーん、無いでもないんですよ。

 『音石が逃げ切った』って、電話が来たときですけど。

 ジョースターさんが病室に運ばれていったばっかりでしたから。

 『私が守る方法はないのか』って、グルグル考え続けてました」

「それが『無意識』にスタンドを動かしたんだよ。

 ジョースターさんは優花里さんが守った。すごいよ」

「うん、そう言ってもらえると……えへへ、ウレシイです」

 

ウレシイ感覚で決まりが悪く、まとまりの悪いクセッ毛を押さえながら身じろぎしてしまう。このムズカユさをスッと素直に受け入れられれば、もっとカッコいい自分になれる気がする。華と沙織がそんな自分を見て微笑んでいるが、そこに麻子が軽く手を上げた。

 

「他に、条件や制約はないか?

 場合によっては一緒に戦うんだ。わからないとツライ」

「あ、そうですね。それは」

「その前に名前を教えてください。

 『スタンド』の名前です。とても大切なことですよ」

 

割り込みをかけたことを麻子に会釈で謝りながら、華が言う。これはもう決まっているので、困ることは何も無い。

 

「『ムーンライダーズ』です。彼ら自身がそう名乗ってます」

「『ムーンライダーズ』……

 『月騎士団』ですか。風雅な、良い名前だと思います」

 

華の言葉に、今度は素直にうなずいた。こうなったからには、名前負けするような情けないスタンド使いになるつもりはない。もちろん最優先は戦車道だが、音石明とは、これで戦ってみせる。正直、『チリ・ペッパー』と正面切って戦うのは自殺行為な能力なのだが、そこは戦術と腕。空条承太郎に今後も指導を仰いでみるし、あの東方仗助にもまだまだ話を聞いてみたい。というか、東方仗助には、スタンド云々を抜きにしても『ゼッタイに言わなければならないことがある』!

 

「優花里さん、ちょっと……これは?」

 

頭の中で決意表明をしていたら、みほに肩をボンボン叩かれる。いつになく乱暴で、非常事態が起きたと判断して振り返ると。

 

『ウグ、ウググ……』

『毒デ、一網打尽トハ! 騎士道ッテモンガネェ~ノカァ~~ッ』

『敵ダ、恐ルベキ敵ガイタ』

『我ラハスデニ、敵ノ術中ダッタァ~』

 

自分のスタンド、ムーンライダーズ一同が腹を押さえてひっくり返っている。穏やかではない台詞を連発しながら。

 

「毒? 毒って何ですか? 何を言ってるんですかぁー?」

『毒ヲ盛ラレタノダ、司令ッ! 我ラノ糧食ニ、毒ガアッタ!』

「毒って、昨日のナマ肉以来、何も食べてないじゃないですかぁ。

 このパフェに毒があるなんて、ありえませんし」

「あ、あのー、優花里さん。ちょっと聞いてみるんだけど」

 

さすがは西住どの、何か可能性に思い当たったのか。表情を少し明るくしながら、何を言うのかと注目するが、彼女の顔色は悪く、その目には不安が渦巻いている。一体、どんな恐るべきことが。

 

「優花里さん、もしかして軍の備品とか集めてない?」

「え? はい、集めてますけど。払い下げのジャケットとか、背嚢とかですね。

 第二次大戦中とか、カナリ年季入ったコレクションもあるんですよぉ」

 

思わず自慢げに話してしまうのは、実際、誰かに自慢したい気持ちがあったから。

しかし、今のみほには、それは脇に置いておくべき話であったようで。

 

「その中にレーションは、あったりする?」

「当然ですねぇ。手に入れるのに苦労したのが……あ?」

「買ったのは、コレクション用だよね?

 食べ物としては、とっくにダメになってるよね?」

 

みほが何を言っているのか、優花里は理解した。理解したくなかった。

おそるおそる、うなされながら転がっているスタンドの方に聞き耳を立てる。

 

『頑丈ナ包装ガサレテルカラ、

 毒ナンカ入ルワケガナイッテ言ッテタダロ、オマエッ』

『ソウ言エバ、スッパカッタリ! 苦カッタリ!

 変ナ味バカリダッタヨナァ~』

 

そして優花里は思い出す。スタンドの鉄則を。

 

「スタンドのダメージは……」

「本体に跳ね返る」

 

愚かしい問いを、みほに投げ。みほは、模範的に正答を返してくれた。

おそろしい腹痛が始まった。顔面が蒼白になり冷や汗が噴出する。体内から『致命的な濁流』が、一斉に外を目指しているのを認識したッ!

死は目前だった。主に社会的な死が。女の子として、いや、人間として何もかもが終わる直前だ!

 

「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁ! うわああああああああああ!

 ひどすぎる! あァんまりだぁぁぁぁぁ!

 最後までこんなんバッカリですかぁーーー私ッ!」

「優花里ちゃん、こっち! トイレこっち!」

「並大抵ではないのですね。『力』を得るって」

「前途多難だな」

 

みほと沙織に引きずられながら、誰とも知れぬ何者かに優花里は叫んだ。

 

「どんだけイジメりゃ気がすむんですかぁーーーッ

 ウワァァァーーーン!」

 

 

 

 

To Be Continued ⇒




なんでここまでヒドイ扱いになるのか、作者自身が知りたかった。
とはいえ、ゆかりんがスタンドに抱えている課題が、これです。
スタンドを統率できなければ、自分が危機に陥るばかりです。

そして、『音石明が大洗女子学園に忍び込んだようです』は、これにて終了です。
小話など以外で次の話を投稿するときは、作品タイトルを改めて、
『短編』ではなく『長編』に変えると思われます。
『ノリ』と『勢い』の続く限りは、よろしければ、お付き合い下さい。



スタンド名―ムーンライダーズ
本体―秋山優花里

破壊力―B
スピード―C
射程距離―A(およそ1km)
持続力―D
精密動作性―C
成長性―C
(A―超スゴイ B―スゴイ C―人間並 D―ニガテ E―超ニガテ)

7名からなるミニチュア騎兵隊のスタンド。それぞれ騎兵銃(カービン)を持っており、小さくても威力は本物。一体一体がある程度独立した意思を持っており、本体の指示が届かない状況でも自立して行動する。ケタ外れの射程距離はこれによるものだが、テンションが高く好戦的で向こう見ずな性格のため、任せきってしまうのはあまりに危険。本体はスタンドと視聴覚を共有できず、声が届かない場合は指示を出すことすらできない。また、意思を持っているだけに怒ったり泣いたりもするし、もの扱いなどしようものなら反乱を起こすだろう。



スタンド名がノッケから邦楽とはいい度胸だった。

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