GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
引き続き、億泰視点。
※今回は、『音石明が大洗女子学園に忍び込んだようです(9)』と
ほぼ同時に投稿しております。
「アレ? なんか展開飛んでね?」と思われたのなら、
『音石明が大洗女子学園に忍び込んだようです(9)』を先に
お読みいただくようお願いします。
虹村億泰(にじむら おくやす)は、戦車に乗って問題なく病院に到着した。
(ちょっとばかしシェイクされて、
康一のヤツが女どもにモミクチャにされたけどよぉー)
まあ、そんなことは最初から問題ではない。たった今、ジョセフは担架に乗せられて病室に運ばれていった。当然、仗助はその後についていこうとしたが、そこに連絡が入った。仗助の持っている『柚子ケータイ』に、承太郎から。『ケータイ』で話してもいい待合室まで全員で戻ると、仗助はすぐに承太郎へ折り返す。
「何スって? 音石が逃げ切った?」
全員の顔色が、サッと変わった。座って一息ついていた康一も、足音を立てて立った。そして、しばらく相槌をうっていた仗助が『ケータイ』を切る。
「どういうことだ、仗助ェ~ッ」
「わからねぇ。承太郎さんが言うにはよぉ~~
『パトカーを乗り捨てた所から、忽然と姿を消した』、
『本体自身が電流になって逃げたとしか思えない』、らしいんだがよ」
「力を隠してやがったのか、ヤロォ~~」
「い、いや! 違うと思うよ億泰くん……スタンドは成長する!
ぼくのエコーズAct.2みたいに!
やつは成長したんだよ、この土壇場でッ」
「あ、あのっ……」
男三人が殺気立っている中に、秋山がおそるおそる手を上げた。三人の視線が一気に向いた瞬間、腰が目に見えて引けてしまったが。
「すみませんッ、その」
「無理すんな、ゆっくり話しなよ」
「はい……『チリ・ペッパー』は、電気を操っていて、
物体を電気に変えて持ち運べる。
でも、操っている『音石明』自身を電気に変えることはできない。
コレ、合ってます?」
「ああ、合ってるぜ」
「でも、今回で成長したから、『音石明』自身も電気になって、
電気が通ればどこにでも行けるようになった……
コレも、合ってます?」
「合ってるぜ~、こいつはヤバイぜ実際よぉーー。
承太郎さんの言う通り、日本全国どこにでも一瞬で逃げられちまう」
「ち、違います! 日本どころか、『世界』ですッ」
「『世界』ッ?」
秋山優花里の言いたいことは、ここかららしい。次第にどもりが抜けてきた。
「ウチ、お父さんに頼んでインターネット回線を引いてもらってます。
だからわかるんです。
インターネットは『ワールドワイドウェッブ』なんですよッ、
世界中どこのホームページにでもつながるッ」
「その、よぉ~、『インターネット』が、どうした?」
「インターネットは『電気信号』です!
電話回線をそのまま使ってる『テレホ』ってやつもあるんですよぉ!」
「なっ……」
絶句した仗助の後を、康一が引き継ぐ。
「やばい……想像を絶して、やばいぞッ!
いまどき、『ウィンドウズ』とか何とかで、
『パソコン通信』なんかどこででもやっているッ!
『ネット回線』がつながっている所すべてに、
音石自身が一瞬で逃げられるんだったら……
逃走経路の追跡だとか、先回りだなんて不可能だッ!
ジョースターさんの『ハーミット・パープル』も役に立たないッ!」
億泰は、ひとまず『パソコン』があれば世界中どこにでも『チリ・ペッパー』と音石明が一瞬にして現れるのだと理解した。確かにこいつはヤバすぎる。そして今、ここで何が一番ヤバいかと言えば。
「おい、つまり、それだとよぉ~……こうなるよな?
病院なんか、間違いなく『パソコン』が入ってて情報を通信してるぜ。
『レッド・ホット・チリペッパーは、
ジョセフ・ジョースターをいつでも殺せる状態にある』」
「いいえ。ジョースターさんは安全ですよ。
考えられる限り、学園艦が一番安全です」
ズッコケかかる仗助。億泰は話についていくことをあきらめて結論待ちである。
「なんでだよ、矛盾してねぇか。
お前んチに『インターネット回線』があってよ、それがヤバいんだろ」
「学園艦は『艦』ですから。
電線だとかネット回線は、陸と直接つながってません。
だから、インターネットの通信には『人工衛星』が中継に入ります。
で、学園艦と『人工衛星』の間でやりとりされる信号は『電波』なんですよ。
『チリ・ペッパー』が『電波』にならない限り、学園艦は安全ってことです。
ジョースターさんを学園艦から絶対に出さないことですよ。それで守れます」
「なるほど……筋が通ってる、ぜ。キレッキレだなオメーよぉ」
「あっ、いえ。恐縮です」
少しテレて、うつむきながら小さく笑う秋山。しかし、億泰は気になった。ムズカシー話はよくわからなかったが。
「ちょっと待てよ、仗助に秋山よォー。
音石のヤロォがもうトンズラこいて、
どっか行っちまったみてーに話してるけどよぉ、
スグ戻ってきてジョースターさん殺すってのは、ねぇーのか?」
「あの、私の考え、言ってもいいかな。虹村くん」
「お、おう。西住っつったよな……言ってみろよ」
コホン、と小さく咳払いの真似事をしてから、西住は考えを披露してみる。
「まず、虹村くんの言ったみたいなことをする可能性は低いと思う。
戦いに負けてボロボロな上に、承太郎さんに追われてて
新しい作戦の仕込みなんかも出来るわけがない。
こんな状態で懲りずに再戦をしかけても、
負けて倒される以外の未来はないよ。私が音石明ならそう思う」
「おう、だから逃げて、力を蓄えるっつーのかあ?」
「うん。私でもそうする。でも」
「でも?」
「戦力をわずかでも削ぐために『暗殺』の機会を伺うくらいなら、
やる価値はあると思うかな。
このとき一番狙いやすいのは、やっぱりジョースターさん……」
西住の話は、それ以上続かなかった。病院の奥から破壊音。さっき、ジョセフが運ばれていった先のあたりから。全員が振り向く。銃声らしきものまで聞こえた。
「皆さん、まさか、これはッ」
「まさか、だろうぜ華さんよぉー、
『チリ・ペッパー』の野郎しかいねぇー」
ヤマトナデシコの名前は華と言うらしい。華は、少し目を閉じると、鼻先をわずかにヒクつかせた。においを嗅いでいるようだ。
「起こったのは破壊だけのようですね。
人が焼けた臭いだとか、血の臭いはしません」
「におい、って、嗅いだだけでわかんのかよ? こっからよォ~」
「グレート! 戦車道にはスゲェー奴しかいねぇ~ぜ」
「ただ、病院には強いにおいが多くって……
参考程度ですね。急いだ方がいいと思います」
非戦闘員がついていくつもりはないらしく、華は他の戦車道一同と一緒に
引き返すような動きを見せる。それが賢明だと億泰も思い、仗助を追おうとする。しかし、今度はまさにこの場所で、異常な事態が発生した。
「ブッ! うぐぅ!」
秋山の額や腕がいきなり弾けて出血が始まった!
まるで、殴られたり潰されたりしたかのように。
「ゆっ、優花里さーんッ!」
「み、見えなかった。秋山さんが攻撃された瞬間が!
全然、まったく! 見えなかったぞッ!
ぼくのエコーズは結構早い方なのに、それでも見えない攻撃なんて」
待合室を飛び出そうとしていた仗助が、ひとっ跳びで戻ってきた。すかさずクレイジー・ダイヤモンドで秋山をなおす。
「何をされやがった、秋山ッ」
「わ、わかりません。いきなり身体に衝撃が走って……ぐぶぇぇッ!」
今度は血を吐いた。見ていてわかる。目に見えない何かに殴られた衝撃を受けている。だが、至近距離にいる仗助に、まったく何も影響がないのだ。すぐになおしながら、仗助は当然の疑問を口にした。
「なんで、秋山だけが攻撃を受けてるんだ?」
「た、玉美(たまみ)さんみたいな、
ハマッたら攻撃が始まるタイプのスタンドに襲われているとかッ」
「音石の仲間か。ありえねえ!
だったら最初からそいつと一緒に襲ってくるぜ」
「じょっ、仗助よォ!」
思い当たったらスデに声を上げている。億泰は、やはり、思ったことをそのまま口に出すのみだ。
「オレにはよォ~、秋山のそのやられ方。
スタンド『が』やられてるように見えるぜぇー」
「……ああ、だろうな。
問題は、どういうスタンド『に』やられてるかっつーことだがよ」
「違ェよ仗助ッ!
やられてんのは秋山『の』スタンドだっつってんだよッ、ボゲッ!」
二秒くらい黙られたのは不本意だった。仗助と康一が、そろって『えっ!?』とリアクションしてきたのがさらにムカついた。そんなマヌケなやり取りも、ここまでだった。待合室の扉を突き破って、チリ・ペッパーが現れたのだ!
「ヤロォ、チリ・ペッパー!」
「時間切れか。やっぱり反省が足りてねぇな、オレはよ……
可能なら、ジョセフ・ジョースターだけでも
殺そうと思って病院に先回りして待ったがな。
まさか、もうスタンドが発現するとは……
ことごとく邪魔しやがるなぁー、秋山優花里よ」
チリ・ペッパーに視線を向けられた秋山は、ダメージから立ち直りきってはいないものの、それでも毅然と向き直った。
「わかりません……なんの、話ですか?」
「そうかい、無意識だったのか。まあいい。
お前達から、オレも学ばせてもらったよ。
面白おかしく生きようにも、乗り越えるべき壁っつー
『試練』は襲ってくるって事をなぁー
お前達がその『試練』だというのなら、
ブッ壊して先に進ませてもらうぜ」
「させねェんだよォーーッ!」
億泰はザ・ハンドを出し、空間をけずってチリ・ペッパーを引き寄せようとしたが、向こうもそんな動きは読んでいたようで、近くのコンセントに入り込んで見えなくなった。
「オレはこれから力を蓄える。
力を蓄え終わったなら、招待状を送ってやるぜ。お前達によォー
その時がラスト・ライブだ。お前達か、もしくはオレのな……」
それっきり、声も聞こえなくなる。確信する億泰。今度こそ完全に逃げ切られた!
「く、くそ~~~ッ、二度もおちょくられちまった。
完全にオレ一人のせいで負けちまったじゃねーかよォォ~」
立膝をつく。地面を殴る。そうせずにはいられなかった。億泰は一度、杜王町の草原地帯でチリ・ペッパーと立会い、最後の最後で逆転負けをしている。それを今、またここで繰り返してしまった。しかも今度は、全員が協力して追い詰めた後で、だ。全員の頑張りを無にしたこの結果は、あまりにもミジメ。億泰の精神はしたたかに叩きのめされた。気づかってか、後ろから華が声をかけてきてくれたが。女の子に声をかけてもらえてウレシイなどと思える状態では、やはりない。
「虹村さん。その雪辱、私にも分けてください。
次こそは倒しましょう。あの音石明を」
「……き、気持ちだけ、受け取っとくぜぇ~。
一般人がよォ、戦うべきじゃあねぇーぜ。あんなのとよォ。
それに、よぉ~~~」
「それに?」
「音石明は、兄貴のカタキだからよ。
こいつを誰かにゆずっちまうなんてのはよォ、無理ってもんだぜ」
「そうですか」
それきり華は、何も言ってこなかった。そうやって後ろにずっと立っていられると、悔しがっているのもだんだんミットモナクなってくる。華はスタンド使いではない。さっき目の前で起こったことも、透明な何かが暴れまわっているとしか見えなかっただろうのに。何を言っていたのかも、まったく聞こえなかっただろうのに。仕方なく億泰は立った。そこには、康一もいた。
「ぼくに『戦うな』なんて、まさか言わないよね。億泰くん」
「言わねーよ。タフな野郎だぜ、オメーはよ!」
その後、仗助はジョセフの病室に向かい、その晩は泊まることになった。億泰を始めとした残りの面子は、戦車を格納庫に帰すついでに生徒会室へ今回の顛末を報告しに行く。億泰にとっては、ある意味でもっとも気が重い義務だった。生徒会室に入ると、承太郎がすでにいた。誰かが口を開く前に、億泰は足を早めて河嶋桃の前に立ち。そして、頭を下げた。
「すまねぇ。『ケータイ』を盗られた。
盗られた上に、音石明を逃がしちまった。
オレ以外の誰も悪くねぇ。オレの責任だ。オレだけの責任だ」
桃は、手を震わせながら、片眼鏡を机に下ろした。ギリギリギリと歯を食いしばり、まぶたもピクピクしている。
「どう、責任を取ってくれるんだ?」
「次こそは倒す。倒して『ケータイ』を取り返してくるぜ」
「アレにはなぁーーーッ!」
両手で思い切り机をブッ叩く桃。後ろで何人かがたじろいだのを億泰も感じる。
「アレにはなぁ、電話番号が入っているんだよ……ウチの電話番号が。
タウンページを見たら住所が特定できるぞ?
どうしてくれるんだ。私の家族が『チリ・ペッパー』に狙われたら。
電話かける程度の手間で人を殺せる能力なんだろ」
「すまねぇ」
「他にも番号は入ってる! 会長の番号も、柚子の番号もだ。
ふたりとも実家の番号まで入っているぞ。帰省時でも連絡が取れるようにな。
人質候補だぞ、お前のせいで」
「すまねぇ」
ひたすらに頭を下げている億泰。こいつの怒りはもっともだ。返す言葉など『すまねぇ』しかない。だが、それが桃の怒りにさらに油を注いでいるようだ。桃からすれば、とにかく怒りをぶつけずにはいられないのか。それでも、次の言葉には、億泰も思わずつかみかかりそうになった。
「兄貴のカタキをブッ殺すとか言っておいて、コレとはなッ!
お前の兄貴とやらも、さぞかしマヌ」
だが、最後まで言い切る前に、風船が割れたような音が響いた。いつの間にか近くに来た生徒会長が、桃の頬を張っていた。
「うっ……かっ」
「言わせないよ。河嶋。
そこから先を口に出したら、サイテーになるよ私達」
「会長、でも、ふ、ウゥゥッ……」
堰を切ったように泣き出した桃を押しやって、生徒会長が億泰の肩をポンと叩いた。
「謝罪は受け入れたよ。虹村くん。
その上で、生徒会長として回答します。
気にすんな、コレからもよろしく、以上」
「……あ? コレからも、って」
「承太郎さんよろしくー」
手を振られた承太郎は小さく嘆息すると、バツ印がいくつかついた学園艦の地図を持って説明を始める。
「音石明は、この大洗女子学園から逃げていった。
だが、ついでの復讐とばかりに学園艦の動力伝達系を破壊していったようだ。
少なくとも、出航が不可能な程度にはな」
「そ、そんな」
「何てことを……」
「音石明、許せませんッ」
当然、学園艦で生活している女子高生達が大きく反応している。杜王町で生活している億泰にとっては、杜王港の方角に山のような巨艦が鎮座している期間がしばらく長くなるだけの話なのだが。
「ああ、戦車道の試合には影響ないからねー。
スピードワゴン財団の人たちが、戦車を会場まで送ってくれるってさ」
「スピードワゴン財団。また、おかしなビッグネームが」
チビジャリ……麻子が、不信感もあらわに目を吊り上げた。忘れかかっていたが、ジョセフ・ジョースターも不動産王だったと思い出す億泰。不信感の払拭は、またも承太郎に丸投げされる。
「スピードワゴン財団は、超常現象を扱う研究部門を持っていてな。
スタンド使いに関する事件の保障を昔からやっているのだ。
表舞台には出ないがな。俺も、その一員だと考えてくれていい」
「疑っても無益か」
「そういうものだって思った方が良さそうだよ、麻子」
麻子の目つきが元に戻り、場も静まったのを見計らい、生徒会長が再び場を仕切る。
「ま、そーいうワケでね。しばらく私達、杜王町の一員になるからさぁー。
コレからもよろしく、ってのはそういうこと。お隣さんになるってことだねー
改めてよろしくー、虹村くーん。コレ、お近づきの印の干し芋ね」
「オ、オウよ……」
「雰囲気なんか知ったコトかだよなぁーこの人。
あまり見習いたくないけどスゴイなぁー」
康一もすでに干し芋をもらっていた。言われてみて雰囲気を気にしてみると、少し奥で、まだ桃がぐずぐず泣いている。場からフェードアウトしていた小山柚子が、頭をなでて慰めていた。思わず、頭をポリポリと掻いて、億泰はそちらに大股で歩み寄った。
「桃が、ひどいことを言いました。すいません。私からも」
「小山さんよ、そいつはオメーが気にすることじゃあねぇーぜ。
こいつに話すことがあるからよ、ちょっとどいてくれや。
キズつけたりはしねーよ、誓うぜ」
かなり悩みながら、柚子は桃を放し、五歩くらい下がった。入れ替わりに億泰が前に立つ。
「なっ、なんだ。グスッ、お前なんか怖く、なッ、グスッ」
「『お前の兄貴とやらも、さぞかしマヌケだったんだろうよ』、
で合ってるかよ? オメーが言いかけたセリフのことだぜ、コラ」
「うぅぅッ、グズッ、ふぅぅ……うあああ~」
泣き方がひどくなった。柚子の目つきが鋭くなり、桃を抱きしめて億泰を視線で威嚇する。反応でわかった。セリフはこれで合っている。そのセリフを左手で握り締め、鳩尾あたりに音を立てて叩き込んだ。
「刻んだぜ、そのセリフ。オレは決して忘れねぇー」
「何が、キズつけない、ですか。帰ってください」
「そして、二度とテメーに同じセリフを言わせねぇー。
これが『責任』だ。オレの『責任』の取り方だ」
『帰れ』と言われては仕方ないので踵を返す。不良はツライ。キズつけるつもりがなくても、相手が勝手にビビッてしまう。なら、やめろよ、と言われればゴモットモだが、生き様はカンタンに変わらないのだ。
「この答えで納得いかねーならよぉー。
いつでも難癖つけに来な。受けて立ってやるぜぇー」
ポケットに手を突っ込み、億泰は足早に生徒会室を出て行った。女が泣いているのは、やっぱりいたたまれない。しかしコレでは、まるで逃げたみたいでカッコ悪かったか。ふとそう思ったのは、大洗女子学園の校庭から、杜王町の夕焼け空を見上げた時だった。いつも通りのオレンジ色の空だった。
To Be Continued ⇒
二連発、完了。
風呂から上がったら、『オリジナルスタンド』のタグをつけよう。
しかし秋山どの、流血しすぎ。