GIRLS und PANZER with Unbreakable Diamond 作:デクシトロポーパー
ジョジョ第四部とガールズ&パンツァーのクロスオーバー。
田舎のビジネスホテルにあるみたいな、地元のおせんべい試供品をつまむ程度にご賞味いただければ。
「芋けんぴ食べるぅー?」
「いただくッス」
健康優良な男子高校生、東方仗助(ひがしかた じょうすけ)は、眼前の生徒会長が芋けんぴを開封して皿にあけていくのを、しっくりこない表情で見守っている。心なしか、髪の毛のすわりも悪い。思わずクシを取り出すが、そればかりは止められた。
「ちょい待ち、同じ皿つつくんだから、髪触るのはやめてほしいかも」
「あ……そっスね。スイマセンッス」
「心配しないでもキマッてるよーリーゼント。ドンと構えといてー」
そうは言っても落ち着くには無理があった。左に座ってる虹村億泰(にじむら おくやす)はムスッとしながら膝に肘をついているし、右にいる広瀬康一(ひろせ こういち)もまた、ソワソワしながら周囲を絶えず見回している。
ここは女子高。しかも学園艦。大洗女子学園!
全長10km近い、超巨大な女子高生の城に乗り込む日が来るなど、夢にも思わなかった!
女物の水着売り場に長時間たたずんでいるような居心地の悪さはいかんともしがたいが、さりとて遊びに来ているわけでもない。壁際にたたずむ空条承太郎(くうじょう じょうたろう)は、今なお隙を一切見せない。傍らにいる老人、ジョセフ・ジョースターを守るためにだ。
「落ち着かないならさー、ちょっと状況再確認しよっか」
「落ちつくモンかよ。オレぁ今すぐにでもブッ殺しに行きたいんだぜぇー」
生徒会長に億泰が噛み付く。芋けんぴをボリボリ噛み砕きながら。それを見た生徒会長の取り巻きが、カッとなって詰め寄る。
「貴様、会長になんだ、その態度は!」
「別に生徒じゃねェーんだぜ俺はよぉー、『チリ・ペッパーのクソ野郎がここにいる』俺にとっちゃ、それだけだ」
「もォ~さっきからやめてよ億泰君、河嶋さんもッ!」
「黙れ、このチ…」
生徒会長の取り巻き……そう、河嶋桃(かわしま もも)とかいう名前、は、康一に罵声を浴びせかけてやめた。
「……いや、すまん。わかった、やめる」
「我が物顔で座り込んで、すみません。でも今は協力が必要な時なんですよ河嶋さん」
「そ、そんなことはわかっているッ。まったくなんで超能力者の争いになんか」
仗助からしてみても、河嶋桃への印象はハッキリ言って悪い。会った直後、のっけからリーゼントについて何か言いかけていたのに気づかない仗助ではなかった。生徒会長の方がイキナリ拍手して、『イヨッ! 世紀末に蘇ったエルビス・プレスリー!』とかほめ殺して来なければ、今頃どうなっていたかわからない。
「広瀬君いいコだね。下の名前で呼んでいい?」
「あ、ありがとうございます。かまわない、ですけど」
「ヨロシクねェ~康一君ンー、干しイモ食べる?」
康一の裏に回って、馴れ馴れしく背中をパンパン叩く生徒会長に対してか、億泰は足をダンと慣らした。
「カリカリすんなよー、深呼吸深呼吸」
「おちょくってんのかよ、てめえ」
「私ゃー真面目だよ? 虹村君もわかってるっしょ?『釣りは根気が勝負』
力抜いて待つよ、ヒキが来るまではさぁー」
「……チッ!」
無意味なカンシャクだということは自分でよくわかっていたのだろう。少しにらんでから舌打ちした億泰は、皿の芋けんぴを一握り、むしり取るようにかじった。
「とはいえ、電気を操る能力……破壊活動とかされたら私、泣いちゃうかもねぇー」
「それはない。外部と隔絶した学園艦でそれをやれば、奴にとっては自殺でしかないからな」
ここで初めて承太郎が口を開いた。生徒会長に協力を願ったのは、他ならぬ彼である。
「杜王町、まだ停電してるんだっけ」
「復旧は最短で明朝5時。それまで奴は、まずここを動けない」
「本体の場所、わかってるからねぇ~。おじいちゃん、もう一枚とって」
「人使い荒いのォォ~~、わかったよ」
老人、ジョセフ・ジョースターはぶつくさ言いながらデジカメのシャッターを切る。その手からは紫色の茨がほとばしっているのだが、生徒会長にも河嶋桃にも見えていないのだろう。
「つか、濡れネズミだったジジイをよくもまぁーコキ使えるモンッスね」
「立ってるモノは親でも使うし、もらえるモノは病気以外もらっちゃうよー、この角谷杏(かどたに あんず)さんはねェ~」
「グレート……超がつく大物だぜ、こいつはァ」
イヤミを言ったら平然とふんぞり返られ、仗助は感心するしかなかった。ジョセフから受け取ったカメラを操作していた生徒会長、こと角谷杏は、にやけ顔を少ししかめる。
「表層に出てきた。学園のすぐ近く……すると狙いはヘリか飛行機かなぁー」
「使うとしたら、その場で離陸できるヘリだろうがな……ヘリは『武装』しているか?」
「してるワケないない。自衛隊じゃないんだから」
「音石は……ここにジョセフ・ジョースターがいる限り、決して逃げることはしない。
ジジイがいる限り、奴の居場所は常に筒抜けだからだ」
「つまり、何? 乗り物を奪うとしても、攻撃のためだって……」
そこで、杏の顔から完全ににやけが消えた。
「どうしたんスか?」
「いや、そのね……スゴ~く不愉快な可能性に気がついちゃったかなぁ~」
「どういうことですか、会長」
「……音石は、トラフィック号に『女子高から盗んだ無反動砲を使った』」
きょとんとしている桃を前に、承太郎が説明を引き継ぐ。
「俺達は、奴のスタンドがここに姿を現し、
室内全員の皆殺しを図る前提で待ち伏せていた。
そしてその瞬間、学園のブレーカーを落とすことで完封するつもりだった」
「そ、そりゃそうですよ。学園艦の巨大なパワープラントだったら、
チリ・ペッパーのパワーはとんでもないことになるッ!
そしてそれがヤツの最大の弱点なんですよね?
電力に依存するって弱点をつくんですよね?」
「それが盲点なんだよ康一君。所詮は手段でしかない……
奴の目的は最初から最後まで、ただひとつ」
「ワシの、死じゃな。言ってること、わかってきたよ承太郎……逃げていい?」
ジョセフが涙目になってきたところで、桃と億泰が業を煮やした。
「わかるように! はっきり! 結論を言えーーーーッ!」
「俺、頭悪いんだからよォォーーーッ 謎かけしてんじゃあねェーーぜッ!」
そして、仗助もわかった。わかってしまった。ピンと来た。
「か、会長さん。オレさ、大洗女子学園が杜王港に寄港したときに地方版で読んだんだけどよォォ~~」
「確かめる必要ないよ東方君、答えがすでにキミの中にあるならさぁー、どうしようマジで」
「『大洗女子学園、戦車道復活!』……つまりィィ~」
お盆が落ちて、湯のみが残らず全て割れた。生徒会長の取り巻きその二。確か、小山柚子(こやま ゆず)だったか……も、ついに気がついたらしい。続いて、康一の顔が、ムンクの叫びかホーム・アローンのように引きつった。さらに数秒後、桃がおそるおそる杏にすがるように聞く。
「あの、もしかして、つまり……こう言ってます? 『生徒会室が戦車で撃たれる』」
「おいおいおい、B級映画じゃねぇーんだからよォォー、ンな爆発オチみてーな」
次の瞬間、生徒会室の右半分が吹っ飛んだ。書類や何かの破片が大爆発し、続いて響く巨大爆音。何もかもモミクチャになって、床が割れて砕け散っていく!
「ぎゃあああああああああああすッ!!」
「うぎゃーーーーッ! うぎゃああーーーーッ! 嘘だ、ウソだぁぁーーーッ!!」
「桃ちゃん落ち着いて、落ち着いてェェェーーーーーーーッ」
「これはヒドいねぇぇーー、ちょっと助けて。落ちる…マジヤバい」
「ひどすぎるッ! 今までで一番ヒドいぞぉぉ~~ッこの仕打ち!!」
「OH MY GAHHHHHHHHHHHH!!」
思い思いの悲鳴を上げて、みんな瓦礫の中に落ちて呑み込まれていく。普通ならば、助かったとしても大怪我は確実!
同じように真っ逆さまに落ちる承太郎が、軽く仗助の肩をどついた。
「やれやれだ……仗助、出番だぜ」
「アイアイサー、っスよ」
電気を操る能力だの何だのは、世迷言でも何でもない。似たような能力を仗助も持っていて、それをスタンドと呼ぶのだ。仗助に戦車のような破壊力は無い。が、誰にも成しえない奇跡を起こせる。
「クレイジー・ダイヤモンド! 生徒会室を、なおす!」
仗助から飛び出した、変身ヒーローのようなハート型甲冑の戦士が周囲の瓦礫を猛烈に殴る。すると、逆再生のビデオのように崩れた瓦礫が戻り、数秒も経たずに元の生徒会室になっていく。落っこちた億泰に康一、他の皆も同じ位置にきれいに戻った。
「イヤだぁぁぁーーーーっ死にたくない! まだ会長と、みんなとぉぉ……は?」
「何? どうなってるの、これ……」
「た、助かったぁ~ッ、仗助君サマサマだよぉ~」
「エヘン、種も仕掛けもねぇーっスよ!」
スタンドを使える面々とは違い、桃と柚子は状況についてこられないようだったが、グズグズもしていられないので、仗助は杏に向き直る。
「しかし、どーするんスか? このままここにいたら狙い撃ちだぜ~」
「ン?……あぁ。当初のプランは破綻したけど、逃げられないのはこっちも一緒だねぇー」
「っつーと?」
「戦車道の戦車が使われてるってことは、たぶん誰か敵の手に落ちてる。
そうでなかったとしても、西住ちゃん……ウチの隊長が、こんな暴挙を放っておくはずがない。
そうなったら、一般人対スタンド使いの戦いになっちゃう」
「グレート! 一刻の猶予もねーって事かよォー」
スタンドは一般人には見えないし聞こえない。能力が発動している最中ならともかく、スタンドの存在を直視することは一般人には不可能。一般人がスタンド使いと戦うというなら、透明な超常のモンスターとの戦いを強いられることになる。ほとんどの場合、勝負にならないと言っていい。しかも今回のスタンドは電気を操るレッド・ホット・チリ・ペッパーだ。ヤバい状態を把握した仗助に、杏は居住まいを正し、深々と頭を下げる。少し戸惑ったものの、仗助はその真剣さを受け取った。
「生徒会長としてお願いします。敵スタンドを倒して下さい」
「頼まれたぜ、先輩」
「ありがと。私達は別の場所から応援するよ。
一緒に行っても多分、足手まといになるからねぇー」
「でも仗助君、どうするの?」
康一が後ろから不安そうに聞いてくる。ジョセフをおぶった承太郎はすでに歩き出しており、
億泰が間にいる形で立ち止まっていた。
「どうするって?」
「チリ・ペッパーが戦車を使ってるんだよ? 正確に精密に狙い打たれたら、
いくらクレイジー・ダイヤモンドだってキツイよ!」
「もっともだぜ康一! だがそこはひとつ考えがあってだな……会長さん」
「えー?」
仗助は、ひしゃげた砲弾を差し出した。
「コレを撃った戦車さんはよぉー、ドコのドイツかわかるッスかね?」
To Be Continued ⇒
ここまで読んでくれてありがとうございました。
この短編、「根拠なんていつも後付け」の神経で、
大人じみた予防線を乗り越えるッ! つもりなので……
それでもよろしければ、お付き合いいただければ。