救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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この話は本編とは全く関係ない番外編です。
興味のない方は飛ばしてくださってかまいません。
時系列は飯田事件とUSJ事件の間くらいです。
それではどうぞ。


幕間
遊べ騒げぶち壊せ!?開催、1-A親睦会!前編


「親睦会?」

 

飯田の委員長就任が決まったその日の放課後、自分の机で帰り支度をしていた緑谷のつぶやきが1-Aの教室に響いた。

その緑谷のつぶやきを聞いて「そのとーり!」と親指を立てながら叫んだのは教室の黒板の前で立っている上鳴電気である。

さらに、彼の目の前にある教卓にはブドウみたいな頭をした背の低い少年、峰田実が立っていた。

1-Aのクラスメート全員の視線は彼らに注がれており、それを確認した峰田は軽く頷くと、拳を握りしめて演説(?)をし始めた。

 

「いいか!?今回の委員長決めにて、オイラ達1-Aヒーロー科には重大な課題があることが判明した!その課題は!おめぇら、何だと思う!?」

「峰田君!教卓とは立つためにあるものではない!即刻そこから降りたまえ!!」

「真面目ぶってんじゃねぇよ!空気読めや真面眼鏡野郎!!緑谷のコネで委員長になったくせに調子乗ってんなよ!?」

「コネッ…!?ぼ…俺は前委員長である緑谷君から指名によって委員長になったんだ!つまりそれは『俺にならば委員長を任せてもよい』という緑谷君の俺に対する信頼の印でもあるということ!それを裏切らないためにも俺は委員長という責任ある立場に着いたんだ!断じてコネなどではない!!」

 

教卓に立っていることを注意するというごく普通の事をしただけなのに峰田に逆切れされ、挙句自分の委員長就任をコネ扱いされてしまった飯田は異議あり!というように手を上げて峰田に反論する。

そのままギャーギャーと言い争いをし始めた峰田と飯田を横目で見た轟は視線を黒板の前にいる上鳴に移した。

 

「おい、上鳴。お前らの言うその課題ってのを早く話せ。このまま話さないんだったら俺はさっさと帰るぞ。」

「まぁそう慌てんなって轟。峰田に飯田も、とりあえず口喧嘩やめて落ち着こうぜ!今大事なのは口げんかすることじゃねぇだろ?飯田もさ、今回ばかりは目ぇつぶってくれよ、峰田は背が低いから何かに乗ってしゃべらねぇとと教室全体に声が響かないんだ。」

「むぅ、仕方がない。ここは上鳴君に免じて今回は目をつぶろう。」

 

上鳴に説得されてしぶしぶ自分の席に座る飯田。

峰田の方は、背が低いと言われたのが気に食わなかったのか、今度は上鳴に文句を言い始めたが、上鳴に小声で諭された後、大きく咳ばらいをして視線をクラスメートたちへと移した。

 

「オッホン!!少し余計な邪魔が入ってしまったが、改めて今日の委員長決めで判明した課題を発表する!その課題とは…!」

 

そこで言葉を切り、峰田は静かに目を閉じた。

口を開けば己の煩悩の事しか話さないことはこの短い付き合いの中でクラスメートたちも理解している。

その彼が珍しくまじめな雰囲気を醸し出しているため、クラスのみんなもゴクリと唾を飲み込み、緊張した様子で峰田を見つめる。

そして、峰田は不意にカッ!と目を見開いた。

 

「友情フラグイベントだ!!」

「はーいみんな帰ろ帰ろー。」

「バッカ峰田!普通に言うようにしろって言っただろ?あ、待ってみんな!ホントちょっとだけでいいからマジで!!」

 

耳郎の掛け声で各々溜息を吐いたり、首を横に振ったり、呆れたりしながら帰宅しようと動き始める。

それを何とか止めようと上鳴は大声で叫んでいる。

その内容はどこかのナンパ師のようだが、皆よりも先に動き教室の出入り口を防ぐ辺り、彼の本気具合が感じられる。

出入り口をふさがれてはしょうがないので皆しぶしぶといった形で自分の席に戻っていく。

 

「なんだよなんだよ!おめぇらノリが悪いんじゃねぇか!?友情フラグイベントと言えば、エロゲーの重要なイベントの一つだぜ?友情フラグをしっかり立ててから次の段階、つまりは恋愛フラグに行かねーとその先のゴール地点、つまり」

「峰田、お前もう黙れ。俺が説明するから。」

 

峰田の訳の分からないエロゲー知識を披露されそうになり、上鳴がもう擁護しきれない、とでもいうように真顔で教卓から彼を下ろす。

その様子を、女子たちがゴミでも見るかのように見ているが、峰田は「何しやがるんだ上鳴!と騒ぎ立てる。

上鳴はそれを完全に無視して話をし始めた。

 

「えーっと、峰田の言い方が悪かったんで誤解してるかもしれないんで、もう一度課題の方から説明させてもらうんだけど…その課題ってのはさ、簡単に言っちまえば信頼関係ってやつよ!」

「信頼関係?」

 

蛙吹が首を傾げたのを見ると、上鳴は「そ!」と笑顔で言った後さらに話をつづけた。

 

「今日の委員長決めでわかったんだけどよ、俺等って当たり前だけどクラスメートの事なんも知らないだろ?性格とか、何が好きなのかとかさ。」

「そりゃあ、まあな。」

「でもよ、それってどうなの?って話よ!」

「どうでもいいと思いますね。」

「はい衝也君空気読もうなー。てか!お前は俺ら側の人間だろ!?どう考えても!」

「てめぇらのような『バカ』と俺を一緒にするなよ。」

「お前に言われるとなぜかほかのバカな奴に言われるよりも腹が立つな…」

「アンタよりも馬鹿な奴なんてそういないと思うけど?」

「お、おめぇらな…」

 

どや顔の衝也とあきれ顔の耳郎の二人にそう言われて、若干傷ついたような表情をうかべる上鳴。

それをみて、呆れたように溜息を吐いた八百万は仕方がないというようにしょげている上鳴に声をかけた。

 

「上鳴さん、とりあえずお二人の話は少しおいておきましょう。それよりも早く続きをお願いします。」

「お、おう、わりぃなヤオモモ。」

 

八百万の言葉で気持ちを持ち直した上鳴は小さく咳払いをした後、話をつづけた。

 

「えっと、話し続けるけど…さっきも言ったけど、信頼関係ってさ俺たちヒーロー科には結構大事だと思わねぇ?ほら、この前の屋内訓練だって二人一組で授業やったじゃん?そういう風にチームで何かをするときにさ、お互いの事をよく知ってなかったら色々と困ると思うのよ俺らは!それでなくったって三年間ずーっと同じクラスなわけだし…きちんとした信頼関係を築けていなかったら気まずくもなっちまうだろ?そのためにもさ、まずはお互いを深く知るために親睦会みたいなものをやった方がいいと俺らは思うわけよ!!」

「んー、言われてみればそうかも…。」

「確かに、他事務所のヒーローとチームを組む際にはお互いの個性や素性等を明かしたりして信頼関係を築き、チームの連携を取りやすくしている、なんて噂があったりするし、そう言った意味では信頼関係はヒーローにとって大事になってくるのかも!」

 

上鳴の熱弁を聞いて、葉隠が納得したようにそうつぶやくと、緑谷もしばらくぶつぶつと呟いた後、上鳴の意見に賛同する。

その後も、続々と上鳴の意見に賛同するものが増えていく。

 

「確かに、チームを組む上では相手の性格を知るのも大事かもしれねぇな…。中々いい提案じゃねぇか!ダチに歩み寄ろうとするその心構え!気に入ったぜ上鳴!」

「お、おう!なんかよくわかんねぇけどサンキュー切島!」

「ま…確かにまわりの連中の事をこのまま何も知らねぇって訳にもいかねぇしな…。いいんじゃねぇか?」

「轟さんも賛成するなんて…少し意外ですわ。」

 

と、このように意外な人物も上鳴の意見に賛同していく中、一人の少年がうっとうしそうに「チッ!」と舌打ちをし、クラスメートの視線が集中する。

机の上に両足を乗せて、いかにも不良っぽい雰囲気を醸し出している爆豪である。

 

「信頼関係なんざ必要ねぇよ。そんなのは実力のねぇてめぇらザコモブ共だけが徒党組んで育んでいけばいい。俺には関係ねぇ。」

「おい!ノリが悪いぞ才能マン!!」

「そうだ!ちょっと強いからって調子乗んなよ!」

「うるせぇよカス。文句は俺に勝ってから言えよ殺すぞ。」

 

そう言って上鳴の意見を真っ向から反発するTHE・反抗期の爆豪。

それを聞いた峰田と上鳴がブーブー文句を言い、ちょっとした口論に発展した

そんな爆豪を傍から見ていた衝也は唇の端を吊り上げ、意地の悪そうな笑みを浮かべた

 

「ま、その性格じゃ友達できねぇもんな?さすがにクラスメート全員の中でボッチになるのは堪えるよな。」

「ボッチになんてなるか殺すぞコラァ!!」

「友達も作れないのに?」

「んだとコラ、作れるわ!!」

 

衝也の煽り言葉に怒りをあらわにした爆豪は「行って証明して見せるわ殺すぞ!!」と若干壊れたしゃべり方で上鳴の意見に賛同(?)し、何とか満場一致で親睦会をやることが決定した。

全員が賛同したのを確認した上鳴は小さくガッツポーズをして教卓の下にいる峰田にハイタッチをした。

 

「いよぉぉし!全員参加決定だなぁ!!んじゃ、今度の休みはみんな予定開けといてくれよ!!1-A親睦会だ!集合場所は県内最大のショッピングモール、木椰区ショッピングモールの3Fにあるゲームセンターの前な!!」

「よぉぉぉし!てめぇら!高校生活初のクラスイベントだ!気合い入れて来いよぉぉ!女子は肩だしワンピースとか露出度高めの服で来いよぉぉ!気合い入れるってそういうことだぞ!?」

 

上鳴と峰田の妙に暑苦しいテンションに若干引いてしまう者もいたものの、1-A親睦会が開催されることが正式に決定した。

周りの生徒たちが当日の服装や交通手段の相談をしている中、先ほど爆豪をあおりまくっていた衝也はまるで世界の終わりのような顔をしながらボソリと呟いた。

 

「「お金……どうしよう。」」

 

呟いた後、衝也は自分と同じ言葉を呟いたその人物の方に視線をバッ!と素早く向けた。

その人物もまた、彼と同じように視線を衝也の方に向けた。

その人物とは

緑谷曰くとっても優しくてかわいい女子、麗日お茶子だった。

二人はしばらくそのまま視線を合わせ続けた後

がっしりと固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

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「うーむ、9:15か…早く着き過ぎたな。」

 

木椰区ショッピングモール

人によって千差万別な個性、それによって変化してしまう形態や要望に応えるために最先端の店舗や技術を使用し、どんな個性のお客にも対応できるよう工夫を施してある県内最大のショッピングモール。

機能性だけでなく、幅広い層をターゲットにしたデザインや店舗を用意してあるこのショッピングモールにはまだ9:00過ぎだというのにすでに多くの客が行き交っていた。

個性の発現により、こうした個性に合わせたの多様化に対応する店というのは多くあるが、その中でも特に人気かつ規模の大きいショッピングモールがここ、木椰区ショッピングモールである。

その木椰区ショッピングモールのA入口付近で、困ったように腕時計を見ている一人の少年が居た。

前面に『弱肉強食!』、背面に『弱肉定食?』とプリントされているTシャツを着た五十嵐衝也である。

何とも独特なデザインのTシャツを身に着けている衝也は腕時計から視線を外すと、右手で数回ポリポリと頭を搔いた。

 

「集合時間は確か10:00…まだ45分もあるなー。どうしよ?」

 

1-A親睦会の開催が決定し、後日それぞれにLINEで集合時間が伝達されてきたのだが、その集合時間はAM10:00。

対して今の時刻はAM9:15。

遅刻したりして文句を言われないように、と少し早めに家を出たのが逆に裏目に出てしまったのである。

 

「しくったなー。こんだけ早いと、ほかの奴らもまだ来てないだろーし…。このままだとこの多くの客がいるショッピングモールで一人でいることになっちまう。そんなことになったら爆豪の事も笑えねぇ…。」

 

爆豪の事をボッチと馬鹿にしていた罰がここで来たのか、この広いショッピングモールでクラスメートが来るまでボッチでいなければならなくなったことに軽く絶望し、顔をうつむかせた衝也。

しかし、彼のボッチタイムは意外と早く終わりを迎えることとなった。

 

(もう無口な口田でもいいから誰か来てくんねぇかなぁ…)

「おや、そこにいるのは…五十嵐君かい?」

「!早速来たー!!」

 

思わぬ救世主の登場に大きな声を上げながら声のした方向に顔を向ける。

そこには

「おはよう!五十嵐君!」とビシィッ!と姿勢よく片手を真上にあげて挨拶をする飯田天哉だった。

 

「よりにもよって!よりにもよってお前かよ!!」

「?どうした五十嵐君、床に膝をつけて拳を打ち付けたりして?」

 

悲痛な叫びをあげながら、床に膝をつけてダン!ダン!と床を殴りつける衝也を不思議そうに見つめる飯田は直角に首を傾げた。

衝也がなぜここまで悲痛な叫びをあげているのか。

それは単純に飯田の事が苦手だからである。

真面目が服を着てコートを羽織り、さらには帽子とマフラーまでしているような飯田はまさに真面目の権化のような男であり、その真面目っぷりに時々まわりもドン引きしたり、鬱陶しく感じたりしている。

衝也としては、規律をしっかりと守る姿勢や、大勢をまとめ上げる能力に長けている部分は素直に評価しているし、別に嫌いというわけでもないのだが、彼の固すぎる雰囲気や真面目過ぎて融通が利きづらい部分が少しばかり苦手なのだ。

 

(まさか絶対に二人っきりでは居たくないやつBEST3の中のNo2といきなり二人っきりになる羽目になるとは…。神よ、俺が何をした…。)

「五十嵐君、いつまでそうしているんだい?まさか、どこか体の調子でも悪いのか!?それならばすぐに救急車を」

「やめろやめろ!?そんな大事にするな!ダイジョブだから!もうピンピンしてるから!超元気だから!なんなら今からフルマラソンやることだってできるから!」

「む、そうか。ならばよいのだが…。しかし、その靴でフルマラソンをやるのはどうかと思うぞ。そのような靴でフルマラソンなどしては靴が壊れてろくに走れなくなってしまう。やはりフルマラソンをするならばきちんとスポーツ用のランニングシューズ、高記録を狙うなら長距離用のスパイクをにしなければ!まぁ、スパイクの方は高いから買えないかもしれないが…」

「俺やっぱお前嫌いだわ」

「!?」

 

突然の嫌い宣言に困惑の表情を浮かべる飯田を横目でみた衝也は膝に着いたホコリを軽く払いながら立ち上がり、かったるそうに首を何回か回した。

そして一度溜息を吐いた後、気を取り直すように飯田に視線を向けた。

 

「しっかし、お前も随分と早く来たんだな。まだ45分前だぜ?」

「うむ、クラスの皆が集まる親睦会!クラスをまとめるべき委員長がその親睦会に遅れるわけには行かないからな。時間に十分なゆとりを持って来させてもらったんだ!」

「うわー、さすが眼鏡なだけはあるなー。真面目の塊見てぇな奴だ。」

「?眼鏡は視力を矯正するものであって性格にかかわるようなものではないぞ?」

「いやいや、眼鏡をしてるやつに真面目じゃねぇ奴なんていないって。眼鏡をした不良なんて見たことあるか?眼鏡してうんこ座りして頭にフランスパンのっけて『何見てんじゃコラァ!?』ってガン飛ばしてるやつ。」

「む、そう言われると確かに見たことがないな。もしかしたら眼鏡には視力だけでなく性格も矯正する効力があるのかも…」

「え、じゃあ爆豪とかも眼鏡かけたりしたらお前みたいになるのか?」

「いや、眼鏡をかけたからと言って俺みたいになるわけではないと思うぞ。外見的要素はまるで違うから、容姿は眼鏡をしたとしても似たりはしない。俺はあんなに髪が尖ったりはしないからな。」

「確かに、爆豪が眼鏡して性格変わるとか想像つかねぇわ。」

「真面目な爆豪君か…彼には申し訳ないが俺もそんな姿は想像できないな…。」

「……」

「……」

「あれ?俺等何の話してたっけ?眼鏡の話?」

「確か、集合時間についての話していたような気がするが…」

「そう言えば集合時間って10:00だっけ?今まだ9:20だぜ?なんでこんな早く来たんだよ。」

「何を言うんだ五十嵐君!俺は1-Aのクラス委員長だぞ?クラス全員が集まるこの行事で委員長が遅れるなんてもってのほかだ!確実に遅刻を防ぐためにも、時間にはゆとりを持って行動しなければ!」

「うわーさすが飯田だなー。真面目の塊見てぇだな。」

「ん?この話、さっきもしなかったか?」

「そうだっけか?覚えてねぇな…。」

 

そう言ってお互いに首を傾げる衝也と飯田。

真面目で冗談が通じにくい飯田と頭が良いけどバカな衝也。

衝也は少しばかり堅物な飯田が苦手なようだが、案外二人は仲の良い友人同士なのである。

問題があるとすれば、二人が話しをし出すとどういうわけか話がどんどん横にそれていくことである。

しかも、時々話がループすることもある。

冗談が通じない飯田のまじめすぎる性格と、頭は良いけどとにかくバカな衝也の性格とが化学反応を起こすと、こういうことがたまに起こるのである。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「集合が遅すぎんぞてめぇら!!一体どこで油売っていやがったんだ!?」

 

ショッピングモール3Fのゲームセンター前。

1-A親睦会の集合場所にも指定されているその場所には1-Aの生徒20名がワイワイおしゃべりをしながら集合していた。

そんな中、この親睦会の提案者、峰田実がとある生徒たちに向かって怒号を飛ばしていた。

その生徒とは

45分前にこのショッピングモールに来ていたはずの五十嵐衝也と飯田天哉であった。

二人は神妙な面持ちで峰田の説教を聞き入れている。

 

「集合時間は10:00だって話だったろ!?なんでおめぇらはその30分過ぎにのこのこと集合してるんだよ!!」

「すまねぇ峰田…。今回は全面的に俺が悪い。本当にすまん。」

「クッ!クラス委員長たる俺がクラスの親睦会の集合に遅刻するなんて…!本当に、本当に申し訳ないみんな!クラスをまとめるべき人間としてあるまじき失態だ!!どう罵倒されようとも仕方がない!!」

 

そう叫んだ飯田は床に頭をこすりつけ、土下座をしながら謝罪の叫びを響かせる。

衝也もさすがに土下座とまではいかないが真剣な表情で頭を下げていた。

それを見ていた緑谷がおずおずといった様子で峰田に話しかける。

 

「ま、まぁ、五十嵐君に飯田君も悪気はなかったんだろうし、こうして謝ってるから許してあげようよ。」

「あめぇよ緑谷!!30分だぞ!?5分とか10分とかだったらいいにしても、30分だぞ?そこらの女の化粧時間よりも長いぞ30分なんて!」

「まぁまぁ、二人も反省してるんだし、これで手打ちとしようじゃねぇか!あんまグチグチ言い過ぎるのは男らしくねぇぞ峰田。」

「そうだぜ峰田。クラスの親交を深めるための親睦会なのにいつまでも怒ってたらつまんねぇーじゃん?それに、こうして説教してる時間だってもったいないしよ」

 

緑谷に切島、さらにはもう一人の主催者である上鳴の三人に説得された峰田はしぶしぶといった様子で説教を中止する。

衝也と飯田はトボトボとクラスメートたちの輪の中へと合流する。

そんな、すっかり意気消沈している二人を見て、蛙吹は少しばかり首を傾げた。

 

「それにしても、五十嵐ちゃんはともかく、飯田ちゃんが遅刻するなんて思わなかったわ。」

「あ、それ俺も思った。飯田ってめちゃくちゃきっちりしてるからてっきり集合時間の30分前くらいにはもうここにいると思ってたわ。」

「クッ!みんなの期待にすら応えられないとは…委員長失格だ。」

「いや、そんな仰々しいものじゃねぇんだけど…。」

 

蛙吹の言葉にうんうんと頷きながら同意をする瀬呂。

蛙吹と瀬呂の言葉を聞いた飯田は悔しそうな表情を浮かべながら拳を震わせていた。

その様子を見て思わず瀬呂はフォローを入れていた。

 

「いや、まぁ俺も飯田もさ?一応集合時間の45分前にはもうショッピングモールには着いてたのよ、ガチでさ。」

「?そんなに早く着いてたんなら、どうして遅刻なんてしちまったんだよ?」

 

衝也の言葉にそう疑問を投げかける砂藤だったが、その疑問を聞いた瞬間、衝也と飯田の顔に暗い影が落とされた。

それを見てまわりのクラスメートが砂藤を小突き、『何やってんだよ!』と目で訴える。

それを見て砂藤は慌てたように取り繕った。

 

「あ、いや…別に攻めてるわけじゃなくて、だな…。」

「いいんだ砂藤君!!いくら早くに来ていたとはいえ、遅刻してしまったのは事実!その遅刻により迷惑をかけてしまった君たちには本来真っ先に遅刻した理由を話すべきだった!!それなのに、それなのに僕は…!!本当にすまないみんな!!」

「い、飯田君、気にし過ぎだって!」

「そ、そうだよ飯田君!別に遅刻したくらいでそんな謝らなくたって大丈夫だって!」「そうよ、飯田ちゃん。一回の遅刻でそれだけ謝っていたら、五十嵐ちゃんなんて今頃おでこの皮が擦り剥けちゃっているわ。」

「…そうだな、今の俺は学習も何もしてねぇただの阿呆だ。」

「…こっちも重症ね。」

 

おもわず本来の一人称が出てしまっている飯田を何とか慰めようと声をかける緑谷と麗日。

蛙吹も衝也を引き合いに出して飯田を慰めようとしたが、てっきり怒ってくるかと思っていた衝也の反応が予想とだいぶ違っていたため思わぬ被害者を増やしてしまう形になってしまった。

蛙吹の言葉に反撃もせずに顔をうつむかせていた衝也はまるで罪を自白する犯罪者のような面持ちでポツリ、ポツリと語り始めた。

 

「俺たちはさ、お互いに45分前にショッピングモールについてよ。とりあえずかち合った場所で数分くらい二人でしゃべってたんだが、『時間はまだあるしどうせならいろいろな店を回っていこう』って俺が提案したんだ。それに飯田も賛成してくれてよぉ、二人でスポーツ用品とか洋服とか色々な店を観て回ってたんだ。その後、そろそろ時間だからゲームセンターに行こうってなって、ゲームセンターに向かったんだ。なのに、なのに!」

 

そこで衝也は顔をうつむかせ、唇をかみしめた。

そして、衝也の代わりに飯田が、顔を手で覆い隠しながら言葉をつなげた。

 

「俺たちがたどり着いたのは…3Fフードコートだったんだ!!」

『なんでだよ!?』

 

予想外の言葉にクラスメートのほとんどがほぼ同時にツッコミを入れてしまった。

それを見た衝也は悔しそうに拳を握りしめた。

 

「飯田は悪くねぇんだ!俺のせいなんだ!俺が、俺がきちんとマップを見ながら誘導をしていれば、こんなことには!!」

「何を言うんだ五十嵐君!君の『だいじょぶだいじょぶ!さっき俺マップ見たし、このまま3Fをブラブラ歩いていればいずれは着くって!』という言葉を鵜呑みにしてしまった俺にだって責任はある!!一人で背負わないでくれ!」

「飯田…お前!!」

 

拳を握りしめながら叫ぶ飯田を目にして衝也は思わず飯田の方へと視線を向ける。

飯田はそんな衝也を見てグッ!と拳を作り、ゆっくりと親指を立てた。

 

「罪を背負うときは俺も背負う!だって俺たちは、友達じゃないか!」

「飯田ぁ!!」

「五十嵐君!」

 

お互いの名前を叫びながらがっしりと固い友情の握手をする二人を苦笑いしながら見つめるクラスメートたち。

そんな中、常闇だけが極めて冷静に、皆がたどり着いていた結論を淡々と言葉にした。

 

「なるほど、つまりは迷子になっていたというわけか…。」

「何言ってやがる常闇!迷子っていうのは『自分の所在が分からなくなり、目的地に到達することが困難な状況に陥った状態の事』を指すんだ!俺たちは飯田のおかげで自分の所在地『だけ』はわかってたからな!断じて迷子になったわけじゃない!」

「うわぁ、何か言ってることが頭良さそうでむかつく…」

「要するに屁理屈ですわね…」

「頭が良いんだかバカなんだか…」

 

芦戸や八百万、そして轟すらも衝也の言葉に呆れていた。

そんな彼らの様子を見ていた上鳴「はーい!みんなちゅうもーく!!」と叫んだあと、大きく二回ほど手を叩いて、クラスメートの意識を自分へと集中させた

上鳴の声を聴いてクラスメートたちの視線は上鳴へと向けられた。

それを見た上鳴は満足そうにうなずくと、そのまま言葉をつづけた。

 

「よーし!それじゃあみんな集まったことだし、これから親睦会を始めるぞ!!今回の目的はあくまで生徒同士のことをよく知って絆を深めるのが目的だ!そこで、今回用意したのがこいつよ!!」

 

そう言って上鳴が懐から取り出したのは、20本の木の棒だった。

それを見てクラスメートたちが怪訝そうな顔をするが、上鳴は特に気にすることなく話を進めていく。

 

「これは俺が今日のために作ったくじ引きだ!みんなにはこれを引いて、4人チームに分かれてもらいたい!」

「四人チーム?」

 

葉隠のつぶやきに上鳴は「そのとーり!」と答えた後、さらに説明を続けていく。

 

「さすがに20人全員でゲームセンターで遊ぶのは無理があるし、ほかのゲームで遊びたい奴が遊べなかったりするかもしれないだろ?何よりコミュニケーションがとりにくいしな!でも4人なら動きやすいし、コミュニケーションだって取りやすいからお互いのことをより深く知ることもできる!」

「ですが、その4人以外の方達の事はどうするんですの?」

「ふふん、その質問はすでに予想済みだぜヤオモモさん!同じチームで行動する時間は1時間!その後はまた入口に戻ってチーム決め!万が一また同じ人とチームになっても、主催者であるオイラと上鳴が誰とチームになったかを記録しておくから、それを見てチームを決めなおさせてもらうから全員と1回ずつ遊ぶことができるって訳よ!」

 

八百万の質問にどや顔でそう答えた峰田。

その後、上鳴が「ほかに質問あるやつはー?」とクラスメートたちの顔を見回す。

 

「別に、特に問題はなさそうじゃね?」

「四人で行動かー!一体誰とチームになるんだろー?」

「なんだかちょっと楽しみになってきたかも!!」

 

特に反対の意見もなさそうなのを確認した上鳴は満足そうに何度も頷いた後、「よっしゃー!!」と大きな声で叫んだ。

その声の大きさに思わずクラスメートの何人かはビクリ!と肩を動かした。

そして、耳郎が忌々しそうに上鳴をにらみつけた。

 

「ちょっと上鳴!いきなり大声出さないでよ。」

「あはは、わりぃわりぃ。ま、とにかくだ!今回はせっかくクラス全員で集まったわけだし!目いっぱい遊んで!騒いで!クラスの絆を深めていこうぜ!!それじゃあみんな!1-Aクラス親睦会、開催だぁ!!」

『おおー!!』

「お客様、大変申し訳ありませんがほかのお客様のご迷惑となりますので、もう少し声を落として盛り上がってくださいますか?」

『……すいません』

 

申し訳なさそうな表情を浮かべた店員による注意から始まってしまった1-A親睦会。

開催からして不穏な空気が漂っていることに、一抹の不安を覚える生徒達であった。




ものすごく長くなってしまったのでここでカットします。
後編の文字数がかなり減ってしまいそうな予感しかしませんが



カットします(真顔)

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