救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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さて、いよいよトーナメントですねぇ。
わくわくが止まりませぬ。



第二十三話 覚悟の違い

昼休憩も終わり、いよいよ最終種目の発表がステージでされる時間となった。

予選で落ちてしまった者も、本選を通った者も生徒はみな一様にステージへと集合していく。

予選で落ちてしまった者たちにとっては『予選に落ちたんだから別に集合しなくても…』

といった感じなのだが、最終種目の発表の後、そのまま全員参加のレクリエーションがあるため、それなら最初っから全員集めたほうが時間の都合上何かと効率が良いのだ。

某寝袋先生の言うところの『合理的処置』のようなものだ。

とはいえその処置に理解はできても納得がいくものは少なく、ほとんどの生徒はだるいだの、疲れるなど文句を垂れながらステージへと移動している。

 

 

もちろん、そんな気だるげな生徒の中には、例にも漏れず衝也も入っている。

 

「あ~、怠い…。控室で出番が来るまでゆっくりしてたい…。本戦が始まるまでちょっと何も考えないでいたい。思考放棄したい。」

 

「おーい、だいじょぶかー?しっかりしろよー?」

 

「戦う前から顔が疲れ切ってんなぁお前…。」

 

疲れ切った顔で動きたくないでござる宣言し続ける衝也に瀬呂と上鳴が呆れた顔で目の前で手を振ったりして大丈夫かどうかを確認する。

そんな衝也の横を歩いていた切島はにこやかな笑顔を浮かべて衝也の肩をバシバシと叩いた。

 

「なーに腑抜けたこと言ってんだよ衝也ぁ!せっかくこんな大舞台に立つことができるんだぜ!?こんな機会はめったにないんだ!もっと気合い入れてかなきゃ勝てる相手にも勝てなくなっちまうぞ!俺や瀬呂の分までお前や上鳴には戦ってもらわなきゃならねぇんだからな!」

 

「いや、そういう男同士の熱い友情物語みたいなこと俺にさせようとしないでくんない?俺が戦うのは自分のためであってお前らのためじゃないんですけど?俺切島のそういう部分マジで嫌い。」

 

「つれねぇこと言うなよ!俺はお前なら優勝できると思ってっから言ってんだぜ!?俺のこの熱い思いの分までお前らには頑張ってほしいんだ!」

 

「ま、俺らは騎馬戦で負けちまってるから本戦出れねぇし…。自分の友達が出るんだったらせめてそいつらを応援したいわけよ俺らは。」

 

ますますうんざりした様子の衝也に対して、握りこぶしを作りながら笑顔を見せる切島

その彼の言葉に続くかのように瀬呂が頭を掻きながらどことなく真剣な面持ちで衝也と上鳴の方へと言葉を投げかけた。

 

「つってもなぁ…正直俺は自信がないぞ?今回は運よく轟のチームに入れてもらえたから勝てたけど…本戦でその轟や爆豪とかの才能マンに当たったら俺たぶん瞬殺されるだろうし。」

 

「泣き言言うなこの空っぽ豆電球、お前の場合は戦い方が悪いだけ。個性に関して言えばお前は恵まれてるんだからな。つまりはお前が超絶ド級のバカだから悪い。」

 

「そういう正論をグサグサ心に刺してくんなよ!?俺は切島と違ってメンタル弱いんだからさぁ!!」

 

「頭は空っぽ、身体能力は並み、個性もろくにうまく扱えない。その上メンタルまで弱いって…お前どうして雄英入ったの?ヒーローやめたほうがいいんじゃない?」

 

「…」

 

「ヒーローにおいて最も重要なのってそのメンタル部分なんじゃねぇの?その一番重要な部分が弱かったらもう話になんねぇじゃん。それに、才能がどうとか個性がどうとか自分に言い訳して負ける理由を作ろうとしてる時点でヒーロー失格でしょ?わかる?ヒーローが負けたら救えるものも救えなくなるんだぞ?」

 

「……」

 

「だいたいそうやって」

 

「ストップ!衝也ストップ!もう上鳴のライフ0だから!もうこれ以上ないほどに落ち込んじゃってるから!体育座りして地面にのの字書き始めちゃってるから!」

 

気だるげな表情は変えずに辛辣な言葉を並べてく衝也にフルボッコにされた上鳴を守るために慌てて止めにはいる瀬呂。

そんな上鳴をどこから湧いて出て来たのか峰田が彼の肩に手を置きそっと声をかけた。

 

「同士よ、こんなところでうずくまってるな。お前はあれを見るためにここまで頑張ってきたのだろう?」

 

「っは!!そうだった、俺は、俺はあれを見るためにここまでやってきたんだった!」

 

「そうだ!あれを見るまで、お前もオイラも、下を向いてちゃいけねぇんだ…!下を見るな、前を向け上鳴!お前とオイラの見たかったものが、そこにはある!」

 

「ああ!俺は進むぜ峰田!あれを見るためだったら、俺はどこまでも前を向ける!」

 

「…え、何この茶番、こいつらに一体何が見えてるのか俺にはわからねぇんだが?」

 

「安心しろ衝也、俺もよくわかんねぇ。」

 

峰田に励まされた上鳴が彼と一緒にどこかを見つめ続けているのを見て、呆れた表情を隠せない衝也のつぶやきに切島が返事を返す。

それと同時に、切島は若干不思議そうに衝也のほうへと視線を送った。

 

「それにしても、やけに疲れてんなお前。本当に大丈夫か?」

 

そういって、心配そうに彼を見つめる切島。

いつもの彼だったら、こういう行事の際は上鳴と一緒に馬鹿をやるのが普段通りの彼であり、あそこまで上鳴を罵倒することはあまりやることではない。

上鳴がへこむまで罵倒をするときといえば本当に数えるほどしかなく、彼自身が疲れているか用事があるかで、上鳴の相手をしてる暇がなかったり気分が乗らなかったりした時にしか行わない。

ということは、いま上鳴を、しかもまだバカな事すらやってない状態でへこませたということは、それだけ疲れているということにも言い換えられる。

上鳴からしてみれば疲れた際の八つ当たりとして扱われているような物なので、大変迷惑極まりない行為である。

それがこれまでの付き合いからなんとなくわかっている切島のその言葉を聞いて、衝也は軽く頭を掻いた。

 

「んー、疲れてるわけじゃないんだけどなぁ…ま、あれだ。色々と考えることがあって大変だなぁって…なんか、そういう感じ。」

 

「?なんだそれ?意味わかんねぇぞ?」

 

「意味わかんなくていいんだよ別に。俺自身の…いやまぁ正確には俺だけじゃないけど…とにかく俺だけの問題だから。」

 

「??マジでちょっと意味わかんねぇな…」

 

「あとは単純に恋とあったせいで疲れた。精神的に」

 

「まだ引きずってんのかよ…」

 

「あの後、芦戸と葉隠の追求から逃れるためにどれほど労力を使ったかお前はわかってない…!」

 

「お、おう…そうか。まぁその…あれだ…ど、どんまい。」

 

そういってギリギリと歯ぎしりを立てながら下を向く衝也を見て

(あ、これは聞かないほうがいいな)と本能的に危険を察知した切島はそのことについて深くは追及せず軽くねぎらいの言葉をかける。

そんな切島の言葉を聞いた衝也は「おう、サンキュー」と軽くお礼を言った後、ふいに何を思ったのか切島の顔を見つめ始めた。

 

「…?ど、どうした衝也?俺の顔になんかついてんのか?」

 

「つーか、そういうお前だって大丈夫なのか?…それなりに無理してそうに見えるが…?」

 

「…お前なんでわかんの?」

 

「お前が俺が疲れてるのがわかるんだったら、俺だってお前のことは多少なりともわかるって思わなきゃ。」

 

「…ああ、確かに、言われてみればそうかもな。」

 

自分が相手の体調を見抜くことができるのならば逆もまたしかり、と衝也は言いたいのだろう。

こちらを向いて軽く口角を釣り上げる衝也を見て切島はしばらく、下を向いて拳を握りしめた後、ゆっくりと顔を上げる。

その顔は相変わらず熱苦しい笑顔のままだ。

 

「悔しい気持ちがないわけじゃないけど…今回俺が負けたのは、自分の実力が足りなかったからだ。俺なりに色々考えて、俺が最善と考えて爆豪達と手を組んだ。けど結果は本戦出場ならず…。だったらそれが今の俺の実力だ。運がなかったのもあるかもしれねぇけど、それいったら『運も実力のうち』っていうし。何より、自分が考え、行動した結果がこれなら文句のつけようもねぇ。だから…悔しいけど…後悔はねぇし無理もしてねぇ。お前らを応援したいって気持ちも本当だ。」

 

「……」

 

「それに、ここが限界ってわけじゃねぇ。これから先、頑張れば…本戦に進んだ誰よりも強くなれる可能性だってあるんだ。だったら今、負けた自分ができるのは自分より強い奴と自分の何が違うのかを『観る』ことだ。くよくよなんてしてらんねぇし、してる暇もねぇよ。」

 

そういって切島は衝也の方へとその熱苦しい笑みを向けた。

 

「だから、お前には何が何でも優勝してもらうぞ。強い奴が多く戦えば、それだけ学べることも多い!お前の戦い、しっかりと『観せてもらう』からな!」

 

「…お前、本当に切島か?俺が知ってる切島はそんなに難しいこと考えてないぞ?」

 

「お前ドストレートに言ってくるよなほんと!?こう見えて色々と考え始めてんだよ俺は!」

 

衝也の驚いた表情に心外だ!というように詰め寄っていく切島。

だが、自身に詰め寄ってくる切島の表情とは裏腹に、衝也の顔にはうっすらと笑みを浮かべている。

やはり友人が落ち込む姿を見るより、前へと進もうとしている姿を見るほうが自分にとってはうれしいのだろう。

そんなやり取りの中、ふいにプレゼントマイクがマイク越しに素っ頓狂な声を上げ始めた。

 

『……ん? アリャ? どーしたA組!!?何その恰好!?』

 

マイクの疑問の言葉を聞いた衝也と切島はなんだなんだ、何がおかしいんだ?と不思議そうな表情を浮かべたままきょろきょろとその疑問の元をたどったその瞬間、切島は愕然と、衝也は呆れた様子でその光景を見ることになる。

 

それと同時に、プレゼントマイクが疑問に思うのにも納得がいった。

そう、A組…いや、正確にはA組の女子全員が、場を盛り上げるために連れて来たのであろう本場アメリカのチアガールたちと同じ格好をしていたのだから。

 

白のハイソックスにへそ出しがセクシーなノースリーブと見えそうで見えなさそうな絶対領域のスカート。両手には黄色いポンポン。

どこからどう見てもチアガールと同じ格好である。

違うのは揃いも揃って目が死んでいることくらいだろう。

 

「…何やってんだ?アイツら。」

 

「ま、色々あったんだろ?」

 

「色々あり過ぎじゃねぇ!?何がどうあったらチアガールの恰好することになんの!?」

 

そういっていまだ愕然としている切島とは対照的にため息を吐いた衝也はゆっくりとそのチアガールたちに近寄って行った。

見ると八百万は悔しそうに膝に手を置いて顔を俯かせており、その背中には麗日の手が優しく置かれている。

この時点で犯人は半ば確定しているものの、一応証拠不十分で暴力をふるってしまうのはヒーロー志望としては失格なため、衝也は被害者たちから言質を取ろうと試みる。

 

「へい、そこのチアガールズ。何があったのかは予想できるが、とりあえずどうしてそんな格好してるのか聞いていいか?」

 

「そ、その実は…み」

 

「OK任せろ八百万の神。あのクソブドウの死体をあなたの供物としてささげてあげましょう。」

 

「待て待て待て待て!!まだオイラが犯人って決まッたわけじゃねぇだろうが!?」

 

「何言ってやがる、『み』というその文字が出た瞬間お前はもう有罪だ。」

 

「理不尽すぎる!?」

 

名前の頭文字だけで犯人とされてしまった峰田はそのまま衝也につかまりチョークスリーパーを決められてしまう。

まあ、衝也の推理は一μも外れてはいないので間違った行動でもなんでもないのだが。

そのまま峰田はゆっくりと衝也に落とされ、無残な姿のまま八百万の前へと放り投げられてしまう。

 

「八百万の神、今回はどうかこれでその怒りを収めてくれ。」

 

「あの、五十嵐さん、お気持ちはうれしいのですが、その言葉だとわたくしがまるでどこかに祀られている神様のようになってしまいます…。」

 

「峰田に対するツッコミは何一つねぇんだ…。」

 

衝也の言葉に困ったような表情を浮かべた八百万だが、その言葉の中に峰田に対する言葉は一言もない。

そんな八百万をみて変なところで衝也に毒されているのではないかとひそかに心配になってしまう切島。

 

「んー、でも本戦まで時間空くし、その間空気が張り詰めたらシンドイだろうし…いいんじゃない!やったろ!!ほら、本戦出場した人たちへのご褒美ってことで!」

 

「透ちゃん、好きね。」

 

「おおー!さすが葉隠話が分かる!お前の応援なら元気出まくりだぜ!」

 

「お前はチアガールが応援さえしてくれれば元気出まくりだろ…。」

 

そんな中、一緒にチアガールの姿に峰田によってさせられた葉隠はブンブンとポンポンを振り回してやる気を見せている。

その姿に感心する蛙吹と喜びに満ち溢れた表情を浮かべる上鳴。

そんな上鳴のチャラい発言に瀬呂がツッコミを入れる。

だが、乗り気の葉隠とは対照的にその隣で立っていた耳郎は片方のポンポンを地面へと投げ捨てて、不機嫌な表情を浮かべていた。

 

「言っとくけどウチはやらないからね。こんなアホみたいなことに付き合ってらんないし。」

 

「えー!んなつれないこと言うなよ耳郎!そのチアガール姿結構似合ってるぜ!いやホンとマジで!」

 

乗り気ではない耳郎をおだてて機嫌をよくしようとしたのか、上鳴がチャラ男スマイルを浮かべて褒めはやすが、耳郎はその表情を変えようとはしない。

 

「アンタに言われても嬉しかないっての。」

 

「確かに胸はないけどその分お前にはお前の魅力ってもんが…」

 

「うっさい!」

 

上鳴の発言を最後まで聞かずにポンポンを彼に向って投げつける耳郎。

それを見ていた衝也は上鳴にそっと手を置いて諭すように言葉を投げかけた。

 

「おい、いい加減あきらめろ上鳴。葉隠があそこまで乗り気なのは元来誰かに見られる羞恥心がないやつだからだよ。考えてみろ、人前で全裸になるのが平気な奴がいまさらチアガールで恥ずかしがったりするか?」

 

「あー!そういう言い方はひどいんじゃない五十嵐君!私だって一応羞恥心あるんだよ!この格好だって恥ずかしくないわけじゃないんだから!」

 

「全裸の方がよっぽど恥ずかしいと思うのは俺だけでしょうか?」

 

「何もつけてないと何も見られないけど、こういう服を着ると服の上から身体のラインとかわかるでしょ?そういうのってちょっと恥ずかしかったりするんだよねー。」

 

「うーん、わかるような、わかんねぇような?」

 

衝也の問いかけに対する葉隠の発言に首をかしげる上鳴だったが、そんなことは関係ないとばかりに衝也は肩に手をかけている彼に話をかけた。

 

「それより、上鳴…一つ聞きたいんだがな?」

 

「ん?どした衝也、急に改まって?」

 

「お前と峰田がさっき言ってた『あれ』とかいうやつは、これがそうだという認識でいいんだよな?」

 

「もちろん!これを見るために俺はここまで来たようなもんだぜ!?」

 

「ほーうほう、それじゃあ、お前は

 

 

峰田のたくらみを知ってても止めはしなかったわけだ?」

 

「ッ!?あ、いや…それは」

 

「もしかして…

 

 

 

協力とか…してないよな?」

 

「なななな…なーにをいってるですか衝也さん!?おお、俺がそんな下劣なたくらみに手を貸すような男に見えるんですか!?失礼しちゃいますよほんとにぃ!」

 

「峰田と一緒にウチとヤオモモにチアガールの恰好をするのは相澤先生からの言伝だって教えてきたのは協力に入らないんだ。初めて知ったよ。」

 

「うおおおおい!!じろぉぉぉぉ!?それ今言っちゃいけないやつなんですけどぉぉ!?」

 

「…これより正義を執行する!」

 

そういうが早いが衝也は峰田と同じように上鳴にチョークスリーパーを決め、きっちり上鳴が落ちたのを確認した後、峰田と同じように八百万の方へと放り投げた。

 

「八百万の神、これで首謀者はきっちり処罰しておいたぜ。」

 

「五十嵐さん、お気持ちはうれしいのですが、さすがにこれはやりすぎなのでは…?」

 

「上鳴の時はちゃんとツッコむんだな八百万…。」

 

気まずそうに衝也へとそういう八百万にまたもやツッコミを入れる切島。

そんな中、衝也はしばらくペコペコと八百万に頭を下げたあといまだ不機嫌そうな顔をしている耳郎に声をかけた。

 

「いやぁ、それにしても女子たちはとんだ災難にあったもんだな…。」

 

「ほんとだっての。ったく、なんでウチがこんな恰好しなきゃならないんだか…。あとで峰田の心臓潰してやる。」

 

「個人的には賛成だけど、ヒーロー志望がしていいことじゃないから、軽くにしとけよ。」

 

あくまでやること自体を止めようとはしないあたり衝也も大概だよなぁ、などと考えながら耳郎はなんとはなしに衝也の方を向く。

すると、彼にほんの少しある違和感を感じた。

 

目を合わせようとしていない。

いつもの彼は基本的に相手と話すときはきちんと目を見て話す。

まぁ、それは人として当然のことだから別段特筆すべきことではないのだが、今の彼は視線をわずかに横にそらし、極力耳郎から目をそらすようにしている。

これはいつもの彼とはだいぶ違う反応だ。

その反応に、思わず耳郎は首をかしげてしまう。

 

「…衝也?」

 

「ん?どうかしたか耳郎。」

 

「…なんで目ぇ逸らしてんの?」

 

「ブッ!?いや…別に深い意味はないというかだな…。」

 

その問いかけに思わず吹き出してしまう衝也。

そして、さっき以上に目をあちらこちらへと泳がせ始めた。

 

(…あからさまに動揺してる。)

 

普段との彼の反応の違いに若干驚く耳郎だったが、こうまで動揺しているとそれがなぜなのか知りたくなってしまう。

耳郎は衝也が視線を泳がせている方向へと身体を持っていき、何とかして視線を合わせようと試みるが

 

「…!?」

 

耳郎が右に来れば視線を左に、左に行けば右に、といった具合に頑なに視線を逸らし続ける。

 

「アンタ、ほんとにどうしたの?さっきから一回も目ぇ合ってないんだけど…」

 

「いや、なんでもないってほんとに。もうほんとマジでなんでもないから。」

 

「何でもないなら目を合わせればいいじゃん。」

 

「それは断固拒否する。」

 

「…なんで?」

 

「……」

 

「……」

 

耳郎の問いかけに無言で返答をする衝也だったが、耳郎は一度気になったら結構追求していくタイプの女子だ。

さすがに相手のデリケートな部分になると手を引くが、そうじゃないとしたら、多少なりとも追及はする。

じーっと衝也へと視線で『なんで?』と語り続ける耳郎に、だんだんと追い詰められていく衝也。

やがて、ゆっくりと口を開き始めた。

 

 

「いや、その…なんていうか…」

 

「なんていうか?」

 

「直視できないと言いますか…」

 

「?」

 

「その、視線のやり場に困るというか…。へ、へそとか出てるし。」

 

そういった後、ますます視線を遠くにやる衝也。

その頬は彼にしては珍しく真っ赤に染まっていた。

それをみた耳郎は一瞬目をぱちくりした後

 

「…ぶッ!アハハハハ!!」

 

盛大に笑い始めた。

 

「うおおおおい!わらうんじゃねぇ!!こっちは結構必死なんだよぉ!!」

 

「いや、だって…!こっちの予想外すぎる返答で…!『視線のやり場に困る』って…『へ、へそとか出てるし』って…!マせた小学生じゃないんだからさぁ…!アハハハハ!あー、ダメ、おなか割れそう!!あ、涙出てきた。」

 

「お前…ほんといい加減にしとけよこの野郎…!」

 

ひーひー言いながら出てきた涙を指でふき取る耳郎と、そんな彼女を見て、不機嫌そうな表情を浮かべる衝也。

そんな彼を尻目に、耳郎は大きく三度深呼吸した後、ようやく落ち着いたように彼へと視線をもどした。

 

「はー、笑った笑った。なんか久しぶりにここまで笑ったかも…。」

 

「へいへい、そうでございますか。俺をネタにそこまで笑えるとはいい性格しとりますな耳郎はよ。」

 

「ごめんごめん、悪気はなかったんだって。っていうか、ウチにですら目のやり場に困るとか…それならヤオモモとか芦戸とか見たら心臓止まっちゃうんじゃない?」

 

そういって笑いながら彼女らの方を指さす耳郎だったが、それとは対照的に衝也は一瞬だけ耳郎の方へと視線を向けたあと、再び視線を逸らしてから口を開いた。

 

「いや、前も言ったけど耳郎はかわいいと思うぞ…その服もちゃんと似合ってるし。」

 

「…ッ!?」

 

「そういう風にあんま自分を卑下にすんなって病院で言ったろ?もっと自信もっていいと俺は思うぞ、うん。その…脚とか細くてきれいだし…。」

 

「……」

 

頬を若干赤く染めつつも耳郎にそう言う衝也。

その言葉に耳郎は一瞬フリーズしたように動かなくなってしまう。

それから数秒後、耳郎はいきなり手に持っていたポンポンを衝也の方へとぶん投げた

 

「…っ!い、いきなり何言ってんのこのアホ!て、ていうか!視線のやり場に困るとか言ってばっちり見てんじゃんこの変態!し、しかもよりにもよって脚って…!」

 

「ブフッ!いや、一瞬!見たのほんの一瞬だけだから!ほんと、わずか数秒足らずしか見てない!これほんと!まじほんと!」

 

「うっさいバカ!いい!?次ジロジロ見たらもうアンタにおかずはわけないから!金輪際一切何もやんないから!」

 

「ちょ、それは困る!?俺の貴重な昼食が!?ていうかそんなジロジロ耳郎のことは見てないって、ちょ、聞いてます耳郎さん!」

 

「だからうっさい!今は話しかけんな!」

 

そういって衝也から視線を勢いよく逸らしてしまう耳郎と、どうにかして彼女をなだめようとする衝也。

そんな二人の様子を見ていた八百万たち女子組は、

 

「耳郎さん…顔が真っ赤ですわ。」

 

「心なしか顔が物凄くにやけていますねー。」

 

「ええなぁ!ええなぁ!!青春やん!」

 

「八百万ちゃん、芦戸ちゃん、お茶子ちゃん…そういうのは感心しないわ。」

 

「梅雨ちゃんはわかってないよ!女子高生の楽しみって言ったらこれくらいしかないじゃん!」

 

蛙吹に注意されるまでニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、二人の様子を見つめていた。

だが、蛙吹の注意にお構いなしという風に葉隠は自身の個性をふるか

そんな中、彼女たちに見られてることに気づきもしない二人は相変わらず同じやり取りを繰り返してる。

両人とも、その頬を赤く染めながら。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

A組のチアガール事件があったものの、無事行われることとなった雄英高校体育祭の最終種目。

その内容はいたってシンプル。

勝ち残った四チーム、つまりは16名でのトーナメント形式のガチンコバトルをやるといった内容だ。

 

「う、なんかこうして立ってみると改めて緊張してきた…」

 

「大丈夫耳郎ちゃん?深呼吸をすると楽になるわよ?」

 

「うん、ありがとう梅雨ちゃん、頑張る。」

 

蛙吹に言われて大きく深呼吸をして心を落ち着かせる耳郎。

そんな中、衝也はカリカリと首筋を掻きながら誰に聞くでもなくつぶやきを漏らす。

 

「…ガチンコのトーナメント…か。」

 

「形式じゃ違ったりするけど毎年サシでバトるよな、確か去年は…スポーツチャンバラだったはず」

 

「ほへぇー…。」

 

瀬呂の言葉に感心したような声を上げる芦戸。

だが、そんな彼らとは対照的に衝也は何かを考え込むように顎へと手を添えた。

 

(…そう、瀬呂が言った通り、例年この最終種目は相手と一対一でやるようなものが多かったが…『ガチ』のバトルってのは初めてだ…。つまり裏を返せば『より実践に近い』状態の戦いとなる。)

 

「なるほどね…『あの襲撃以来』色々と考えてくれてるわけだ学校側も。」

 

つまるところ、生徒たちをより実践という場に慣れさせようとしているわけだ。

先日の突然のヴィランの襲撃。

いきなり名門と名高い、おまけにオールマイトという正義の象徴がいるこの雄英を狙ってきたことを考えると、今後さらにそのヴィランの攻撃が多くなると考えられる。

だとしたら、生徒にも被害が出ることになる。

そのもしもの時にそなえ、より身につく学習を行っていこうとしている…のかもしれない。

所詮は一介の高校生が考える推論のため断定はできないが、おおむねの筋書きはあっている確率が高い。

出なければ、こんな怪我人がでそうなシンプルルールをいきなり実行したりはしないだろう。

 

「じゃあ早速くじ引きで組み合わせを決めちゃうわよ。組が決まったらレクレーションを挟んで開始になります!レクには出場者は自由参加よ、温存したい人も息抜きしたい人もいるだろうしね」

 

衝也が考えを巡らせる中、主審のミッドナイトがくじ引きの箱を用意し、さっそくトーナメントの順番を決めようとする。

 

「さぁて、それじゃあ早速1位のチームから…」

 

そこまでミッドナイトが口にしたその瞬間、とある少年の手が震えながらも上げられた。

 

「すいません、あの!おれ…辞退します!」

 

そう言い放つ少年の言葉に、会場の全員の視線が集中する。

その少年とは、

 

(尾白…)

 

1ーAきっての武闘派、尾白猿夫だった。

衝也はそんな彼の姿を見ながら、USJの時の彼の言葉を思い出してた。

彼の口から出たのは、この世にいる欲にまみれたヴィランや役職だけのプロヒーローたちに聞かせてやりたいほど素晴らしい彼自身の信念と、彼が思い描くヒーロー像。

衝也自身は、彼の言葉を否定こそしなかったものの、肯定もしなかった。

それどころか、多少ひどいことを言ってしまったという自覚もある。

だが、そんな彼の言葉を正しくないと思っているかというと、答えはNOだ。

彼の考えは、おそらく『自分の』考えの何十倍も正しいものだ。

およそヒーローの描くべき理想の信念として教科書に乗せてもいいほどの正論。

咥えて、あれだけのことを言った衝也とも、色々思うことはあってもいつもと変わらずに他愛もない話やトレーニングメニュー考案を手伝ってくれたりしてくれている。

そう、いつもと変わらずに『友人』として彼は自分と接してくれたのだ。

そういう内面的な面も実力的な面でも、衝也は彼がヒーローになった暁にはぜひ彼のヒーロー名を教科書に乗せるよう教育委員会に直訴したいと思えるほどには好印象を持っている。

まぁ、本人は嫌がりそうだが。

それを直に聞いた衝也だからこそ、彼がこうして辞退を宣言したことに驚いていた。

 

 

(あれだけ強い思いがあるのなら、なおのことここに立ちたいはずなのに…)

 

思わずそう考えずにはいられない衝也だったが、次の尾白の言葉を聞いてその考えを改めさせられる。

 

「騎馬戦の記憶、俺ほとんど覚えてないんだ。ほんとに、終盤ギリギリのことまでしか覚えてない。たぶん、奴の個性で…」

 

そういって尾白は悔しそうに拳を震わせる。

その表情は苦悶がありありと浮かんでる。

たぶん、本人も悩みに悩んだ末の辞退なのだろうことがうかがえる。

 

「チャンスの場だってことは分かってる。それをフイにするなんて愚かな事だってのも……!けど全員が力を出し合い、争ってきた場なんだ。こんな……こんな訳わかんないまま、そこに並ぶなんて……俺は出来ない。できるはずがない!」

 

その言葉に、葉隠や芦戸が気にすることはないと口々に彼を励ますが、外野の意見で揺れ動くほど、彼の信念は安いものではなかった。

 

「違うんだ……! 俺のプライドの話さ…。他の誰でもない、俺が嫌なんだ。あとなんで君ら、チアの格好してるんだ…!」

 

(信念どうこうのまえに語り掛ける奴の服装にも問題があったか…。)

 

チアガールが誰かを励ますその絵は確かにその意図通りなのだろうが、今この場においてその服装は単なるおふざけとしか尾白には映らないだろう。

それで揺れ動いたらそれはそれで尾白の性癖に問題があると考えてしまうだろう。

 

そして、そんな彼に続き、同じチームの庄田という男子と、障子も続けて声を上げた。

 

「ならば、僕も同じ理由で辞退したい!実力如何以前に、何もしていない者が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

 

「俺も同感だ。俺は、ヒーローになりたいからここに立っているのではなく、それ以前に、誰かを…友を救えるような者になりたいからここに立っている。自分の力でここまでこれず、あまつさえそれに甘んじるというのは、俺のその意思に反している!」

 

続けざまに辞退を宣言する三人。

彼らの言葉を聞いて衝也は少なくとも納得はいった。

彼らは、心のうちに大きな信念があるからこそ、彼らは自分の力で立てなかったこの場に立ちたくない、立つべきではないと判断したのだろう。

切島の言葉を借りるなら、すがすがしいまでに『男らしい』理由での辞退だ。

衝也としては、彼らのその信念を尊重したい。

だが、この辞退をのむかどうかは、衝也でもなく尾白でもなく、主審であるミッドナイトが決めること。

彼女が出ろと言えば、尾白は自分の信念を押し曲げてでも出なければいけない。

そこまで考えて、衝也はちらりとミッドナイトを見る。

すると、彼女のその顔は、普段よりも迫力のある真剣な面持ちをしており、そのあとに口にされる言葉が容易に想像がつくような表情をしていた。

 

「そういう青臭い話はさ…」

 

「っ!ミッドナイト先…!」

 

「好みっ!!」

 

(好みなのっ!?)

 

彼女の迫力に思わず尾白を擁護しようと声を張り上げた衝也だったが、その次に放たれた言葉に思わず盛大に肩透かしをしてしまう。

その様子に、ミッドナイトが目ざとく気づいて彼に声をかける。

 

「?五十嵐君、今私の名前よんだ?」

 

「いえ、何でもないです…」

 

「?そう、ならいいわ!とにかく!尾白、庄田、障子の棄権を認めます!」

 

「ミッドナイト先生…好みで決めちゃったわ。」

 

「衝也…今」

 

「何も言わないで耳郎ちゃん、ホント、今だけはそっとしといて?」

 

蛙吹が好みで決めてしまったミッドナイトに少し驚き、耳郎があきれた様子で恥ずかしそうにしている衝也を見つめる。

 

『へいへい!ミッドナイトぉ!好みで決めんのは勝手だがよぉ!繰り上がりのチームはどうすんの!?』

 

「んー、そうよねぇ、そこが問題よね…」

 

突然のマイクの声に困ったように返答するミッドナイト。

そう、三人が棄権する以上繰り上がるべき選手が三名繰り上がりになるのだが、なんと困ったことに、その下の5位は全員同列なのである。

そのP数は0。

実は、騎馬戦の時、五十嵐チームは漁夫の利を狙った作戦のため、時間を持て余してた時があり、その時に時間を有効活用するためほかのチームのハチマキを根こそぎ奪っていたのだ。

蛙吹と耳郎は漁夫の利作戦の要なので動かせなかったので、代わりに峰田の個性を使ったのだが、これが面白いようにあたり、気づけばほとんどのチームのハチマキを奪い取ってしまっていたのだ。

そのうえ轟と上鳴のコンビネーション凍結により複数のチームのハチマキが奪われているわ、3位の心躁チームがいつの間にか大量にハチマキを持っているわで、ほかのチームは全くPをとることができていなかったのだ。

まぁ、簡単にいうと、1位2位3位でハチマキ総取りしちゃったわけなのだ。

 

「まったくもー、五十嵐君、あなたあれだけハチマキ持ってたんだから一千万なんて見逃してよかったじゃなーい。おかげでこっちは大迷惑よ?」

 

「いや、いくらハチマキとったってやっぱ一千万はとりたいですよ。先生は小魚ばっかつって満足します?どうせならでかい魚釣りたいでしょ?」

 

「私小魚を暇つぶしで釣ったりはしないわよ?狙うなら大物一択でいくもの。」

 

「俺は小魚を釣りつつ大物を狙うタイプなんで。」

 

ミッドナイトの文句をのらりくらりとかわしていく衝也。

そんな中、繰り上がりのチームをどうしようか悩んでいたミッドナイトだったが、やがていい案が出たのかポンと手を嬉しそうにたたいた。

 

「そうだ、じゃあ、失格にはなったけど最後までずっとハチマキを持ってた爆豪チームにしましょうか!誰が出るかはくじ引きで決めて!赤い紐をとった人が本戦出場よ!」

 

『!!』

 

ミッドナイトのその発言を聞いた瞬間、1-Aの皆の空気が一瞬で凍り付いた。

 

 

それはだめだ!キレるぞあいつが!

 

と全員の心の中の叫び声が一致する。

こんな展開で選ばれたならば、まず何よりそれを許さない者がいる。

そう、爆豪勝己である。

クソを下水で煮込んだような性格の彼は、非常に厄介な性格をしており、自分が何が何でも一番でなければ気が済まない人間なのだ。

しかもそれが相手のすべての力をねじ伏せて手に入れる完璧な一番でないとすぐさま怒り出す器の小ささと比例するプライドの高さを持つ男。

もしそんな爆豪がこんな流れで本戦に出るとなれば

 

『ふっざけんじゃねぇぞこのクソカスババァ!!こんなお情けみてぇな勝ち上がり方望んじゃいねぇんだよボケ!クソみたいなこと言ってっと爆殺すんぞごらぁぁぁ!』

 

と言ってたちまちこの会場を爆発の嵐にしてしまいかねない。

ついでに年齢に触れられたミッドナイトがブチ切れかねない。

誰もが、自然と唾をのみこんで表情を硬くする。

そんな中、瀬呂と切島が顔を見合わせて、話をし始める。

 

(お、おいどうするよこれ!?俺としてはありがたい展開だけど…こんなことしたらこの歩くニトログソセリンが暴発しちゃうんじゃねぇ!?)

 

(と、とりあえず爆豪が怒らないうちに断ったほうが…)

 

二人でヒソヒソとそう相談をしていると、

 

「…ケッ!」

 

めんどくさそうに爆豪がつかつかとミッドナイトの方へと歩いて行った。

 

「あ、おい爆豪!?」

 

それに驚いた切島が慌てた様子で彼を止めるが、爆豪はそんなことは関係ないとばかりに、ずんずんとミッドナイトとの距離を詰めていく。

そして、ミッドナイトの目の前へと来た彼は

 

「……」

 

ごそごそと彼女の持ったくじを引き始めた。

 

『…え?』

 

おもわず1-Aの皆の目が点になる。

特に上鳴や切島なんかは口をあんぐり開けて驚愕している。

そして

 

「…赤だ。これで本戦出場、なんだろミッドナイト。」

 

「ええ!これで爆豪君は本戦出場ね!おめでとう!」

 

さっさと赤い紐を引き、その紐を乱暴に捨てて元の場所へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰だおまえはぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!』

 

その瞬間、会場に1-Aの皆の轟音が鳴り響いた。

 

「誰だお前は!?どこだ!本物の爆豪をどこへやった!」

 

「返答次第じゃただじゃ置かねぇぞこの偽物野郎!」

 

「きっと相手と同じ姿になるような個性を持った方ですわ!本物の爆豪さんはどこですの!?ここには多くのプロヒーローもいます、隠してもすぐ見つかりますわよ!」

 

「っんだてめぇらはぶっ殺すぞごらぁ!!?」

 

上鳴、切島、八百万の3人が口々にそういいながら戻ってきた爆豪を瞬時に取り囲む。

その動きは非常に俊敏で、先日のヴィラン襲撃の経験が生かされているのだろう。

 

「うわ!言葉遣いまでそっくり!こりゃそうとう完成度高いよ、私らじゃなきゃ見逃しちゃうね。」

 

「まさかよりにもよって爆豪に変身とは…趣味が悪いぜお前!」

 

「いやでもここまで性格の完成度高ぇとか、こいつ結構すげぇ奴だぞ?」

 

「やっぱこの人襲撃に来たヴィランなのかな!?だとしたら私らが慌ててる隙にほかのところに襲撃とかあるかも…!?」

 

葉隠や瀬呂も焦ったような表情で爆豪を取り囲み、麗日は慌てたようにあたりを見渡している。

そんなクラスメートたちの反応を見た爆豪(?)はいつもの数倍不機嫌そうな表情を浮かべた

 

「よぉぉぉし…上等だてめぇら…全員爆殺されてぇって言う風にとらえていいんだよなぁ…!!」

 

そういって両手から小規模爆発を連続で発生させる爆豪。

それを見て、爆豪を囲んでいる生徒たちの顔がまたしても驚愕に包まれる。

 

「な…!?うそだろ、あれは…爆豪の!?」

 

「じゃ、じゃあ…あれは本物?」

 

「うっそだろおい!あそこで普通にくじを引きに行くような素直ちゃんじゃねぇだろあいつ!」

 

「黙れこのアホ面!」

 

「……」

 

切島と芦戸の言葉を否定する上鳴だったが、爆豪のたった一言であえなく地面に座り込む。

そんな中、じっと爆豪の方を見ていた八百万が、ごくりと唾を飲み込み、

 

「まさか、自分と他人の身体を入れ替える…」

 

「んなわけねぇだろぶっ飛ばすぞポニーテール!俺はどこかの特戦隊隊長かゴラァァ!!」

 

そういってぬがぁぁぁぁと雄たけびを上げて左手の平へと思いっきり右拳を打ち付けた。

その瞬間ボォォンン!という派手な爆発音が彼の手のひらで発生した。

その様子に思わず彼を囲んでいた全員がびくりと肩を跳ね上げた。

 

「次だれかがもういっぺんふざけたことぬかしやがったら…顔面の形変わるまでぶん殴り続けて最後に爆破させてぶっ飛ばす…!それでもいいなら、かかってこいやぁ…本戦の前にぶち殺してやんよ!」

 

「ああ、うん…あの顔は間違いなく爆豪だわ。間違いない。」

 

「いつもの数倍顔が怖くなってるわね爆豪ちゃん…眉間の皺も数倍ね。」

 

少しだけ後ずさりしながらしきりにうなずき続ける瀬呂と冷静に眉間の皺の数を数える蛙吹。

そんな中、切島はみんなを擁護するかのように爆豪へと話しかけた。

 

「いや、でもよ…みんなが偽物と思うのも無理はないって!だってまさかお前があんなに素直にくじ引きに行くなんて誰も思わねぇだろ?いつもなら

『ふっざけんじゃねぇぞこのクソカスババァ!!こんなお情けみてぇな勝ち上がり方望んじゃいねぇんだよボケ!クソみたいなこと言ってっと爆殺すんぞごらぁぁぁ!』って言いそうじゃねぇか…。お前今日はほんとにどうしたんだよ…。」

 

「るせぇ黙れくそ髪殺すぞ。つーか似てねぇんだよ俺はそんな声じゃねぇ。別にどうもしてねぇ。」

 

切島の言葉に即座に返答した後、爆豪は切島の方は向かずに、ある少年の方へと誰にもばれないように一瞬だけ目を向けた。

 

「……」

 

「…?」

 

それに気づいたその少年は、わけがわからなそうに首を傾げた。

その様子を見た爆豪はほんのすこしだけ歯ぎしりをした後、「っち!」と舌打ちをして、元の位置へと戻っていった。

そんな彼に視線を送られた少年、五十嵐衝也の隣にいた耳郎は不思議そうにしている衝也の方へと声をかけた。

 

「…爆豪、今アンタのこと見てたよな。」

 

「ああ、チラ見してきたな、こっちのこと。」

 

「そのあと舌打もしたね。」

 

「…嫌われてるなぁ…俺としては仲良くとまではいかなくても、せめて突っかかれないほどには仲良くしたいのに…」

 

「…アンタがあいつに負けるかでもしないと無理でしょ?」

 

「いやだよ、俺マゾじゃないし、殴られるのも爆破させられんのもごめんだ。」

 

はぁー、と悲しそうにため息を吐く衝也だったが、ふと何かに気づいたのか、一瞬目を見開いた。

 

(…あれ?そういえば俺、USJ以降爆豪に絡まれてなくないか…?)

 

USJの前まではそれこそ、ちょっと視線を送っただけで『何見てんだぶっ殺すぞこら!』と理不尽に怒られていたのだが、いまは時々ああいう風に舌打ちをされるのみで理不尽に怒鳴られることはほとんどないに等しくなっていた。

 

(お世辞にも反省するような柄のやつじゃねぇし…どうしたんだアイツ?)

 

ついつい怒られやしないかとひやひやしながらもその爆豪に視線を送る衝也。

しかし、爆豪はこちらの視線に気づくことはなく、視線をくじを引きに行く瀬呂や切島や芦戸へとむけていた。

 

そして、爆豪チームは公平なるくじ引きの結果

 

「まさかの本戦進出か…なんつーか、尾白の言葉を聞いた後だとちょっと気まずいっつーかなんというか…」

 

「…マジか。」

 

「……」

 

気まずそうな雰囲気を浮かべる瀬呂と小さくではあるものの少し驚いたような表情を浮かべる切島、そして相変わらず不機嫌そうな爆豪が本戦に出場することになった。

 

「うーん、ちょっと悔しいけど、私は何もできなかったし…これでよかったのかもなぁ。」

 

「大丈夫よ芦戸ちゃん。またこれから強くなっていけばいいのよ。」

 

少し悔しそうに、でも納得したような、ちょっと複雑な心境のまま困った笑顔を浮かべる芦戸の肩に手を置いて励ます蛙吹。

そして、さらにそこからくじ引きが行われ、

ついにトーナメントの組み合わせが発表される。

 

「さて!それじゃあ爆豪、切島、瀬呂が繰り上がって16名!組み合わせはー!!

 

 

こうなりましたぁ!」

 

その組み合わせが、目の前の電子板に映し出されたその瞬間、それをみた衝也の顔が一気に引き締まった。

 

「まじ…か」

 

思わずこぼれてしまう言葉は静かな会場に響いて消えていく。

 

その言葉が聞こえたか聞こえなかったのかはさだかではないが、そのつぶやきが消えたとほぼ同時に会場にいた本戦出場者の全員が、衝也ともう一人に視線を送る。

 

「まさかこことはな…普通もっと後じゃねぇの…?」

 

衝也の苦笑と共に呟かれた疑問に答える者はいない。

ただ、その彼の隣にいた耳郎は、

彼のその複雑な表情をいつまでも見続けていた。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




耳郎ちゃんも衝也君も変なところで純情です。
ちなみに私が1-Aのみんなの中で一番好きな男子は尾白と瀬呂です。
切島は五位くらいです。出番は多いのにね。
いずれ尾白君と衝也君のからみも書きたい。
あ、あと今回ちょっとある言葉の一文字をちょこっと普通と変えてます。
気づいた人は良く読んでらっしゃいますよ。

そして、結局爆豪参加という。
私の構想力では爆豪のいない体育祭トーナメントをつくることができませんでした。
期待に応えられなくて本当に申し訳ございません。
こんな駄文ですが、これからも読んでくださるとそれに勝る喜びはありません。
これからもよろしくお願いいたします。

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