紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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はい。今回でやっと5人目のクローンです。
義経ルートの始まりの部分ですね。


木曽義仲

228

 

 

旭とのお茶会を終えてから次の日。彼女に言われた通り朝テレビを点けるとまさかのニュースが流れていた。

どのテレビ局も同じ内容で緊急特番だ。その内容とは5人目のクローンが公にされたということ。そしてテレビに映っているのは最上幽斎だ。

 

『こんにちは。私の名前は最上幽斎。私は今ここで新たなクローンを発表をする』

 

何故彼がテレビに出ているのか。

 

『新たなクローンの名前は木曾義仲。もしくは源義仲だね』

 

5人目のクローンは木曾義仲。あの源氏の1人であり、平氏を京から追い出したとされている侍大将。

 

『彼女は私の養女として日常生活を送っている。クローンたちが社会での生活を適切に遅れるかどうか前もってチェックしていたんだ』

 

ニュースキャスターは「何故今頃になって5人目の発表を?」と聞くと返ってきた答えは「話題の継続」とのこと。

幽斎は笑顔で「毎日だって世間を賑わせたい」なんて言う始末だ。

 

『発表されたら周囲の人間は驚くだろう。でも同時に、どこか納得するはずだ。彼女は不思議な魅力があったな…と』

 

彼女に養女ということは木曾義仲のクローンは女性。

 

『まずは名前を公開しよう。最上旭。現在、川神学園に在籍している3年生だ』

 

最上旭という名前を聞いて昨日意味を理解する。そもそも幽斎が養女といった時点で察することは出来た。

朝テレビを点けろということは確かに旭の正体を曝け出すことだった。

 

(最上旭さんが木曾義仲)

 

真九郎以外も大和やクリスたち驚いてポカンとしている。それはそうだろう。きっとどの家庭でも口を開けてポカンとしているだろう。

真九郎はすぐに口を閉じた。見っとも無いからではない。旭の正体が分かり、その後ろにいるのが幽斎で九鬼財閥がいることが分かったからだ。

まさか本当に本気で九鬼財閥が調べたのだろうか。それなら真九郎のことを調べられるだろう。

 

『では登場してもらおう。私の養女である最上旭だ』

『こんにちは木曽義仲のクローンの最上旭です』

 

旭が登場してからはニュースキャスターの質問タイムだ。彼女はすべての質問を答えていく。

質問内容はやはり木曽義仲についてばかりだ。質問タイムが終われば武士娘として実力を見せてほしいと試合が組み込まれる。

旭は嫌な顔せずに試合を請け負う。対戦相手はある国の実力者。始まる試合。

武術家なら目を見張るだろう。なんせ木曽義仲の戦いなのだから。

 

(………)

 

真九郎も黙って彼女の戦いを見る。見るしかない。

試合の結果だが旭の一方的な戦いであった。対戦相手を素手だけで追い詰め、最後に抜刀して相手の武器を切断して戦意を喪失させた。

だが最後の抜刀は本当に相手を斬る勢いだった。一部の者は気づいていただろう。真九郎もだ。

だから真九郎は旭が人を斬るのに躊躇いがない人間だと理解した。だからと言って旭は人斬りとは違うだろう。

場合によってというか、試合を死合と思っているだろう。真剣勝負は本気の殺し合い。

 

「すげーな!!」

 

翔一はシンプルに口を開く。それほど旭が強いことを理解できたのだ。彼女が強いことは翔一だけでなくクリスや由紀江も理解した。

彼女の強さは間違いなく壁越えクラスだ。これは刀を持つ由紀江や百代が気になるだろう。さらに同じクローンであり、源氏関連の義経たちはもっと気になっているだろう。

そして真九郎だって気になっている。自分の関わった事件を知り、生い立ちまで知っている。なぜそこまで真九郎に興味をいだいているのか。

 

『みなさん。養女である最上旭をよろしくお願いします』

 

最後に幽斎と旭が笑顔で緊急特番は終わる。最後の最後で2人がテレビ越しで真九郎を見ていたと感じ取ったのはただの意識しすぎかもしれない。

なんせ2人から興味があると言われているのだから意識してしまうのは仕方ないかもしれない。

 

 

ところ変わって九鬼財閥。

 

 

「いやぁ、勢ぞろいのメンバーですね」

「最上幽斎。よく私らの前に顔を出すことができたね」

 

ここには九鬼財閥の中でも重要なメンバーが集まっている。そして今ここで中心というか集まる原因となったのは最上幽斎だ。

集まった原因は朝テレビで放映されたことしかない。あの放映は九鬼財閥でも全くもっていいほど知らされていない情報であり、トップの帝ですら知らなかったのだ。

そう誰も知らなかったのだ。これは全て幽斎の独断で行われたことだ。

 

「こんにちはマープル。貴方は歳をとっても綺麗ですよ」

「んなことは良いから今回のことを帝様に私らに説明するんだ」

「最上幽斎。何故あんなことをしでかしたのか」

「まあ待て紋。本人に問うのは父上に任せるべきであろう」

「あ、すいません兄上。つい気になってしまい!!」

 

紋白はお口をチャック。

 

「ほれ見ろ。紋白は相当お前に言いたい事があるらしいぜ最上。ここに顔を出したってことはもろもろを話すつもりなんだろ?」

「当然だ。私には説明義務がある」

 

幽斎が説明する前に従者部隊のステイシーが今回起こしたことについて「謝罪しろコノヤロー」と言うが彼は「なんのこと?」という顔をする。

 

「謝るとは。謝るくらいならはじめからやらない。私は今日のことをもって警告したい」

 

幽斎は語り始める。

最近の九鬼財閥は企業として世界で独走態勢に入っている。それは凄いことだ。ライバルとなる企業が無いわけではないが九鳳院や麒麟塚、皇牙宮とはそういう関係にはなれない。

だからこそまったくもって九鬼財閥はライバルにはいない。敵対企業がいない巨大組織ほど危うく、腐りやすいものはないのだと言う。

今回の一件は九鬼財閥への警告だ。内部でこうして好き放題に動く輩がいても巨大すぎるゆえに存外バレないもの。

外敵があまりいないからこそ内部に気をつけた方が良い。統一を目前とした織田信長のような結果にしたくないはずだと幽斎は言う。

本当に今回のことは全て幽斎の独断だ。

 

「動機はみんなへの愛だよ。愛しているから分かって欲しいんだ。まあ、私自身楽しんでいるから無償の愛とは言えないけどね」

「楽しむというと?」

「私はね人に試練を与えて、その人が与えられた試練を打ち勝ち成長する姿を見るのが楽しいんだよ」

 

笑顔の幽斎。今回彼が仕出かしたことを、何で知っている星の図書館と言われるマープルは気付けなかったことに対して顔から火が出る思いだと言うが幽斎は彼女にたいして「弘法も筆を誤る」という。

これを糧にすれば成長し、より素晴らしい図書館になると言った。

九鬼の上層部で内緒でもう1人のクローンを作り出した幽斎の凄さを帝たちは再認識する。九鬼財閥の中でこんなことができる人間なんて有りないのだ。

帝やマープル、ヒュームですら気付かせないで実行させた幽斎。それだけでも彼が異常と言っていいほど凄い人材だ。

 

「質問は終わっちゃいないよ」

「なにかなマープル?」

「何故、クローンに源義仲を選んだ」

 

義経のクローン計画を聞いた時、幽斎は生まれてくる義経の心配をした。それは同じ境遇の立場である存在がいなければ歴史通りのポテンシャルを発揮できないかもしれない。だからこそ競争相手を木曾義仲を選んだ。

これは義経のためにだ。

 

「養女扱いしている分、親の欲目も入っていると思うが、義仲は優秀だよ。歴史上では義経側に軍配があがったけど現代じゃ分からない。義経自身にとっていい試練になると思うよ」

「また試練か。いつ誰がお前に試練を与えてくれと頼んだ」

「世界は私に優しくしてくれた。その恩返しだよ。私を恨むかもしれないが私はそれでも構わない。愛すべき人が成長さえすれば、それこそが私の喜びだ」

(こいつ、ガチのアレじゃねえか?)

(はい。本気で自分の行いを善行だと思ってます)

 

ステイシーにシェイラは背筋に寒気を感じた。

 

「なるほどな。全ては九鬼のためにやったことだと…面白くなってきたじゃねえか最上幽斎」

「貴方ならそう言ってくれると思った。私は逃げも隠れもしないよ。いつでも呼んでくれて構わない」

「いかなる処分も受けるってことか?」

「貴方たちが成長するならば、その過程で討たれるのもまた嬉しいことだよ。それではこれにて」

 

最上幽斎は笑顔で堂々とその場所を後にした。

そんな幽斎が部屋を出て行ったあと紋白は帝に「彼が何を言っているか理解できません」と言ってしまう。

 

「自分が試練を与える側の人間だと本気で思っているのさ。神様視点で俺たちを慈しんでくれているのさ。そりゃあ理解出来なくて当然だ紋」

「またえらい人材をスカウトされましたな父上」

「いると面白いと思ったケド、ここまで引っ掻き回すとは思わなかったぜ」

 

帝は飄々としているが心情はそうではない。まさか九鬼内部であんな男が暗躍しているとなると心から笑えない。

九鬼財閥が宇宙だ深海だに行く前に内部を綺麗にしなければならない。

 

「学園側も注目だな。木曾義仲対源義経だってよ。ああも発表されちゃ受け入れるしかないわな」

(それにしても最上幽斎か。全くもってよくわからないやつだ)

 

紋白は人を見る目はあるが幽斎だけはよく分からない。彼は普通の人間ではない気がする。いや、普通の人間ではないだろう。

 

 

229

 

 

川神学園に登校する前に銀子から封筒を渡される。

 

「真九郎。はいこれ」

「これってもしかして」

「あんたが今依頼を受けている行方不明の子の情報資料よ」

「もう見つかったのか流石銀子だな」

 

流石は凄腕の情報屋だ。こういう探しものに関しては銀子の方が上手だ。というか真九郎が敵うはずもないだろう。

真九郎の力が発揮されるのはやはり揉め事で力を任す時くらいだ。

さっそく封筒を開けて情報を見る。やはり事細やかに情報が記載されている。とても読みやすいし、分かりやすい。

行方不明の子が今までの行動していた場所やルートも書かれている。そして真九郎が分からなかった最後に行方不明の居場所が記載されていた。

 

「川神裏闘技場?」

「最近非公式で開催された裏闘技場よ。まあ青空闘技場の延長線上のような場所ね」

「物騒な場所だろ」

「物騒な場所ね。で、ここでその行方不明の子が働いているらしいわよ」

「なるほど、そういうことか」

 

真九郎もまた川神裏闘技場の情報を得る。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

さて、今回でついに最上旭が木曽義仲のクローンと発表されました。
それは最上幽斎が本格的に動いたということです。
川神では二つの事件が起きそうです。

表は幽斎が起こす祭り。裏はオークション。
川神では表も裏も何かが起こります。

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