紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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こんにちわ。
今回の話はついに紫と切彦が川神学園に来た話です。
そして、やはりと言うか・・・準と接触しますよ。

では、始まります。


九鳳院

019

 

 

紫と切彦は川神学園に到着していた。学園の大きさにまあまあ驚く。そう、まあまあだ。

九鳳院財閥の娘である紫にとって大きな建物は見慣れた光景だからだ。今まで見た学園の中で大きいからまあまあ驚いただけである。

 

「大きいな切彦」

「はい。大きいです」

 

2人は普通に川神学園に入っていく。彼女たちの侵入は周囲の学生から丸分かりだが、気にしないのが川神学園の学生だ。

なぜなら様々な人物がいる学園だからと言う弊害かもしれない。それに誰かの関係者だと思って報告もしない。

 

「真九郎はどこにいるのだろうな?」

 

取りあえず川神学園の中を探検する。まず最初は食堂に辿り着き、次は体育館、剣道場、保健室、パソコン室。

校内を探検しまくる2人であった。そして探検していれば誰かに出会うのは当たり前。というよりも紫が誰かにぶつかる。その誰かとは準であった。

 

「おお、済まない。紫がよそ見していた」

「いや、だいじょ・・・うおお!?」

 

準は紫を見た瞬間にフリーズする。

 

「おや。これは可愛らしい子ですね」

「だれー?」

 

冬馬と小雪が紫たちと接触する。彼女たちを見て一瞬で誰かを探しているのだと理解する冬馬。

そんな中、準はフリーズから解かれた。そして紫をマジマジと見る。

 

「こ、このお嬢ちゃんは・・・なんと圧倒的なカリスマ!!」

 

準は本物のロリを見てしまった。これには雷に撃たれた衝撃が走ったのだ。

準は思う。彼女もまたロリコニアを建国させることの出来る人材だと。そんな国は夢のまた夢で準の頭の妄想の国なのだが。

 

「素晴らしい・・・俺は天使を見てしまったよ」

 

優しい笑顔になって紫を見つめる。その瞳には慈愛に満ちているのであった。

 

「準がアッチの世界にいってる」

「まあ、この子を見てしまったら仕方ありませんね」

 

準のことを知っている冬馬はこうなることを予想していた。これは仕方ないと思うのであった。

 

「私は葵冬馬。よろしく」

「ボクは榊原小雪だよー」

「俺は井上準って言います。貴女のためなら何でもやりましょう」

 

いきなり忠誠を誓う準もいつも通りである。ちょうど良いと思って紫も自己紹介をして真九郎について聞いてみることにしたのだ。

 

「私は九鳳院紫だ。隣にいるのが切彦だぞ」

「よろしくです」

「よろしくお願いします紫様!!」

 

九鳳院と聞いて冬馬は少しだけ笑みを消した。その名前はとても有名な名前である。表御三家の一角だ。

表御三家とは表世界で絶大な権力を握り頂点に君臨している三つの家系。財力と名声、権力によって古来からこの国を実質的に支配している存在である。その一角が九鳳院だ。

九鬼でさえ九鳳院から見れば新参者でしかない。しかし九鬼も負けていない。なにせ躍進がどの財閥よりも圧倒的に上だからだ。今となっては九鬼も九鳳院と並ぶ財閥だ。

 

(九鳳院に娘がいると公表されたのは去年・・・まさかこの可愛らしい子が?)

「どうかしたか冬馬とやら。私は正真正銘の九鳳院の娘だ」

「・・・・・!?」

 

まさか心でも読まれたかと思ったが違う。紫の超直勘とも言うべき能力だ。それに彼女の前では嘘をつくこともできない。自分自身も嘘つけないという可愛い部分もある。

 

「なんかお主の笑顔は作り物っぽいな。でも少しずつ柔らかくなった笑顔と言うべきだな。今まで何か嫌なことでもあったのか。紫でも良ければ相談に乗るぞ!!」

「トーマ、この子・・・」

「小雪とやらも何か心に不安なことでもあるのか?」

「ムム・・・!?」

 

紫は小雪の心の何かすら感じとる。これには冬馬も小雪も少しだけ警戒してしまう。だが紫は本当に気になったから言ったまでである。悪気は無いのだ。

 

「いえ、僕は大丈夫ですよ。最近良い方に流れが回ってきましたから」

「ボクも大丈夫だよー。トーマと準がいれば全然平気なのだ!!」

「ふむ、そうか。ならば何かあれば紫が相談にのるからな!!」

(・・・この娘はとんだ大物かもしれませんね。いえ、九鳳院なら超大物でしたね)

 

次に視線を移すは紫の隣にいる切彦だ。ダウナーな雰囲気の大人しい少女に見える。そして一瞬気になったのが名前だ。

 

「切彦って男の名前っぽいねー」

「これでもちゃんと女です。証拠もあります。それに処女です」

「そんな情報聞いてないよー」

 

人さまの名前なんて様々である。珍しいと思うかもしれないが悪いとは思っていけない。

 

「よろしくです」

「はい。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

そんな中で小雪がこっそりと冬馬に耳打ちする。

 

(どうしましたユキ?)

(この娘なんか危険な感じがする)

(そうですか?)

(うん。なんて言うか・・・全てを斬り裂くイメージを感じる。あの武神ですら)

(そこまで・・・)

 

小雪は冬馬に嘘は付かない。でも目の前にいるダウナーな雰囲気の少女があの武神を斬り裂くとは思えなかった。

 

「そうだ。聞きたいことがあるのだが良いだろうか?」

「何でも聞いてください紫様!!」

 

準は今日一番の良い返事をした。

 

「実は真九郎を探しているのだ。何か知らぬか?」

「真九郎くんですか」

 

 

020

 

 

川神学園に高級な車が止まる。車の中から出てくるのは騎場大作とリン・チェンシンだ。2人とも九鳳院の近衛隊幹部であり、強者だ。

 

「紫様!!」

 

リンは急いで川神学園に入るが、彼女の前に誰かが立ちふさがる。その人物は九鬼従者部隊の序列零位のヒュームであった。

 

「強い気が川神学園に近づいていると思ったらお前たちか」

「貴様はヒュームか!!」

「九鳳院近衛隊の序列8位リン・チェンシンに序列2位の騎場大作。久しぶりだな」

「お久しぶりですヒューム殿」

 

大作が紳士的に挨拶する。

 

「九鳳院の近衛隊幹部が川神学園に何か用か?」

「実は・・・」

 

大作が用件を話そうとした時に空から誰かが降ってくる。その誰かとは百代である。

 

「空から美少女登場!!」

 

百代は強い気を感じて飛んできたのだ。バトルマニアはたまらない強さを持つ気なら文字通り飛んでくる。

 

「そこにいる可愛い姉ちゃんと紳士的なおじ様は誰ですかー?」

「また厄介な奴が・・・」

 

リンはそれどころではない。早く紫を見つけないといけないのだ。

 

「私たちは九鳳院の近衛隊です。私は騎場大作。隣にいるのがリン・チェンシンです」

「私は川神百代です」

「百代。彼らは何か用があるから勝負はできんぞ」

 

ヒュームが先に百代の動きに釘を刺す。しかし、それでも戦ってみたいと思うのが百代である。

 

(コイツらがあの有名な九鳳院の近衛隊か。女の方は強い。そして男の方も相当強いな)

 

九鳳院の近衛隊の中でも幹部クラスは「真の強者は飛び道具を使用しない」という思想を持っている。

百代はそんな大作とリンを品定めするように見る。戦ってみたい。本音はそれしかないのだ。

 

(百代殿はバトルマニアと聞いていますが本当のようですね)

 

有名な武神がこうも分かりやすいバトルマニアとはヤレヤレと言う感想だ。ヒュームも同じことを思っているのか小さく息を吐いた。

 

「ええい、退け武神。今は相手をしている暇は無い!!」

「えーつれないなあ」

 

リンは急いで走る。後を追うように百代も走るのであった。

 

「・・・で、何の用だ?」

「実は紫様が川神学園に訪れていまして、迎えに来たのです」

「成る程。紫様がいらっしゃっておられるのか」

 

高圧的な態度のヒュームも一応執事である。九鬼財閥と同等の九鳳院財閥の娘となれば口調も少し変わる。

 

「しかし、油断しすぎでは無いか。主を把握できないなぞ」

「逆にそちらは過保護すぎではないですか。それに私たちは従者ではありません」

「こっちは従者なのでな」

 

お互いに皮肉を言って軽く笑う。

 

「しかし、主を守るため。紫様を1人にするのは確かに此方の負い目でありますな。これからはより注意せねばなりません」

「その通りだ」

「では、私はこれから川神学園に手続きをしに行きます。このままでは侵入者になりますからな」

 

大作は手続きをしに歩く。

 

 

021

 

 

誤字脱字の確認は大切だ。特に資料を人に渡すならば尚更である。気にしない人もいるが、中にはちょっとの誤字脱字でうるさく言う人もいるのだから大変なのだ。

 

「これで大丈夫だと思うよ」

「思うじゃ駄目なのよ。もっと確認して」

「何度も確認したよ」

 

真九郎は今、銀子からある資料を渡されて誤字脱字の確認をさせられている。情報屋として資料を依頼者に渡す過程で誤字脱字などは許さない。そのため、真九郎は銀子を手伝っているのだ。

 

「大丈夫だって」

「じゃあ次」

「まだあるの?」

「今回の依頼は資料が多いのよ」

 

ため息を吐きながら資料を黙々と確認するしかなかった。

 

「ねえねえ、紅くんと村上さんは何をしてるの?」

 

一子が2人に話しかけてくる。何をやっているのか気になったからだ。

 

「・・・今、真九郎にバイトの手伝いをしてもらってるのよ」

「バイト?」

「そう。資料作製のバイトよ川神さん」

 

実は情報屋としての仕事をしているとは言わない。言ったら面倒なことになるからだ。目立つことを好まない銀子は差し当たりの無い答えを言うしかなかった。

 

「へえ、そうなんだ。なんならアタシも手伝いましょーか?」

 

一瞬迷ったが資料の誤字脱字くらいの確認なら大丈夫だと思い、手伝ってもらう。

 

「お願いするわ川神さん」

「任せて!!」

 

資料を確認したら一子の頭からポンッと煙が出るような反応する。資料は図やら文字やらで埋め尽くされており、混乱してしまったのだ。

頭を働かせるより体を動かす一子にとって大変なのだ。

 

「任せてもらっておいてそれは駄目だろワン子」

「だって難しいのよ大和~」

「誤字脱字の確認だけだろ」

 

一子の他にも大和たちも集まってくる。銀子の作製した資料はパッと見、難しそうだが違う。よく見ればとても分かりやすいのだ。さすがは情報屋。相手が分かりやすく作製するのは当たり前である。

 

「資料の内容は難しいけど、分かりやすくまとまってるよコレ」

「そうか? 俺様はさっぱりなんだが」

「それはガクトがちゃんと読まないからだよ」

 

資料の内容は某有名な教授が発表するようなものだ。

 

「村上さんは頭が良いのね」

「そりゃあSクラスに入れるくらいだしね」

 

確かに銀子は天才だ。何せ祖父である村上銀次は裏世界で有名な凄腕の情報屋。その地盤を引き継いで情報屋を営む程なのだから。

そこらの情報屋とは格が違う。

 

「俺も手伝うよ。ワン子が手伝ってたら夜までかかりそうだ」

 

大和も手伝うと言ってくれる。一子の時もそうだったが普段なら銀子は了承しなかっただろう。しかし、今回は違う。

依頼された資料はさほど重要では無い。人に見せても大丈夫である。だから手伝ってくれるならと甘えてみたのだ。

これには真九郎も少し驚く。やはり少しだけ頑張っているのだろうと思うのであった。

 

(銀子もコミュニケーションを取ろうと頑張ってるんだな。・・・それで無理しなきゃいいんだけど)

 

コミュニケーションを取るのは悪いことでは無い。でも無理にコミュニケーションを取るのは自分自身も疲れるだろう。

人には人の適度なコミュニケーションがあるのだ。銀子は人付き合いが苦手なので頑張ってるほうだろう。

 

「それにしても・・・この資料はクローンについて?」

「最近はクローン、義経さんたちで持ち切りだからね」

 

九鬼財閥がクローン技術を確立させてから世界の話題はクローンで持ち切りなのだ。だから教授や科学者ならばクローンについての情報はほしいのだ。

 

「うん。誤字脱字は無いよ」

 

大和は銀子の調べた資料を見て驚く。情報屋としての彼女を知らないので、一般の学生がここまで調べ上げたと思って驚きなのだ。

資料の内容はクローンに関して詳しくまとめてある。これは本当に分かりやすい。

 

「さすがSクラスに選ばれたことはあるな」

 

そんな彼女を見る福本育郎は密かに写真を撮っている。それに夕乃の写真も密かに取ろうとしてるのだ。

最近はクローン組の義経や転入者の燕と華やかさが増している。これは「魍魎の宴」が盛り上がると思うのであった。

岳人は育郎に「良い写真が撮れたら教えてくれ」とヒソヒソと密談する。どうでもよいが野獣共の宴は近いかもしれない。

 

「今回の魍魎の宴は盛り上がるな」

「サルがまた何か呟いてるわね。キッモ」

 

実は「魍魎の宴」にてイロイロ何かが起こるのだが、それはまた先の話である。

 

「これで良し。資料は大丈夫だわ。ありがとう」

「いーわよ別に。こっちも役立てて良かったわ」

「ワン子。お前はあまり役に立ってなかっただろーが」

「何をー!!」

 

一子が岳人にポカポカと叩く。

銀子がノートパソコンの蓋をパタリと閉じた瞬間、逆に2Fの扉がガラリと開いた。

 

「紅真九郎!!」

「え、リンさん!?」

「うお、新たな美人が!!」

「刀持ってるけどね」

「あ、お姉さまもいる」

 

2Fのクラスに入ってきたのはリンと百代であった。

いきなりの介入に頭がついていけない。だがこの状況はデジャブである。前回、星領学園にて紫が勝手に見学しに来たことがあったのだ。

まさか今回もって思ったがリンが先に答えを言い放つ。その答えを聞いて「やっぱり」と言うしかない。

 

「紫様はどこだ!!」

「また!?」

「紫さまって?」

 

前回と同じことが起きているらしい。




読んでくれてありがとうございます。

井上準は覚醒を通り越して、慈愛の心を持つ男になりました(笑)
そして紫の直感はハンパねえ・・・これが表御三家の異能なのか!?

次回は後半に続きます。ではまた次回!!

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