185
ある待ち合わせ場所に行くと既に心がいた。
「心さん。待たせちゃったかな?」
「いや、待っておらぬよ。真九郎くんこそ早いではないか。20分前ではないか」
早めに来たのは仕事として行くのは当たり前。遅刻何て許せない。だから速すぎるかもしれない2が0分も前に来たのだ。
最も心は40分も前から来ていたので更に早い。何で早く来すぎたかは彼女の心の問題である。
「でもやっぱり護衛なんだから屋敷まで行けば良いかと思ったんだけど」
「良いのじゃ。待ち合わせをここにした此方自身じゃしな…………それにデートっぽいこともしてみたかったしのう」
「何か言った心さん?」
「いやいや、何でもないのじゃ!!」
「そう?」
何か顔を真っ赤にして顔をぶんぶん横に高速に振る。早すぎで残像が出来そうだ。
だが気にしない。心に今日出会ったことで護衛の仕事は開始される。ぴったりと彼女の横につく真九郎。
周りの人からだと2人をどう思うだろうか。恋人同士か兄妹か。どっちにしろ仲は良好だと思われるだろう。
「では真九郎くんは此方を護衛しつつお客を迎えに行くぞ。まずは九鳳院の紫じゃ」
「紫も参加するのか」
「うむ。だから紫を迎えに行くぞ。彼女も此方の友達だからのう!!」
心と紫は友達。これもまた真九郎と出会った時に紫も一緒にいたので友達になれたのだ。
年は離れているが友達は友達。年齢の差なんて関係ない。心の2人目の友達が紫なのだ。
「初めて出会った去年の時もこう護衛の仕事をしていたのう真九郎くんは」
「ですね。その時は心さんじゃなくて違う方でしたけど」
最初に心に出会ったのもある名家のパーティーだ。その時は不死川家主催のパーティーでは無かったが。
真九郎はある名家の護衛だ。もっとも護衛でも末端の末端。ほとんど雑務をしているようなものであった。
そこに紫も参加していた。心はそこで真九郎と紫に出会ったのだ。
「最初は心さん、少しあたりはきつかったですよね」
「んな、そんなこと無いぞ!!」
あたりがきつかったのは選民主義のせいだ。その時はまだ友人関係ではなかった。心にとって真九郎はそこらの下民と大差なかったのだ。だからまるで接点なんてない。
紫に対しては敬意を払っていたが表御三家とはいえ、こんな幼子に頭を下げるのは屈辱でもあった。日本三大名家の不死川と表御三家の九鳳院。どちらも格式の高い名家だがどちらが上と言われれば九鳳院だろう。
だからこそ心は気に食わないのだろう。不死川家は日本でもトップだと思っている。あの九鬼財閥にさえ負けていないと家族ぐるみえ思っている程だ。選民主義すぎでの影響だろう。
「初めて心さんに出会った時は機嫌でも悪いかと思いましたよ。俺、初っ端から失礼なことしたかと思いました」
「そ、そうじゃったかのう!?」
「はい。第一声覚えていませんか?」
第一声が「おい山猿。早く飲み物を渡せ」だった。まさか初対面で堂々とキツイことを言われるのは久しぶりだった。おそらく初回は紫だったと思い出す。
紫に関しては五月雨荘の真九郎の部屋を貶しただけだが。
「そ、そうじゃったかのう…」
「気にしてませんよ」
「む、むう」
その後だがよくあることがどうか分からないが問題が起きる。簡単に言うと悪漢が現れたのだ。そして心に襲い掛かったところを真九郎が颯爽と助けたのだ。
そこから友達になる縁ができたのである。
「でも心さんと友達になれましたよね」
「う、うむ!!」
友達になれたという言葉は心の顔を笑顔にさせる。
「うむ。此方もその…真九郎くんと友達になれて嬉しい」
頬赤くしながら彼の横顔をチラチラ見る。彼女の手はどこかにつなごうと迷っている。
「さて、そろそろ…お、いたいた」
「む、真九郎。心!!」
「紫!!」
目の前には紫とリンがいた。
「遅いぞ紅真九郎。紫様をいつまで待たせる」
「大丈夫だぞリン。わたしはそこまで待っていない」
「は、失礼しました」
不死川家主催のパーティーには紫が九鳳院として、リンは護衛として出席するのだ。
「真九郎!!」
「ん、紫」
飛びついてくる紫を優しく抱きとめる。会う度に抱き付いてくる紫だが可愛いものだ。
「よし、このまま行くぞ!!」
さて、ここで彼女たちの状況を見る。小さい女の子を抱く男。隣には着物の女性。何処からどう見ても若すぎる夫婦だ。
だからか、周りからヒソヒソと何か言われている。心は聞き耳を立てると。
「若い夫婦ね」
「デキ婚?」
「でもお似合いっぽいな」
とまあ勝手な想像を言われている。だが心は悪くないと思ってしまう。
「相変わらず女の敵め」
「だから何でリンさん!?」
やはりリンからの評価は厳しい。
「まったく紅真九郎は…こやつは人の着替えを平気で覗く奴だからな」
「な、それはただの事故で!?」
ここで小さな手が真九郎の肩を掴む。
「どういうことだ真九郎?」
「えと、紫?」
さらにしなかやな手が真九郎の手を掴む。
「どういうことか詳しく知りたいのう?」
「心さんまで?」
真九郎の女難はまだまだ続く。
186
川神駅。
「いやー川神に着いたっすね坊ちゃん」
「ですね。川神は京都と違ってどこか賑やかですね湖兎」
「はい」
「…僕はまた湖兎と一緒に外を歩けて嬉しいです」
「…………坊ちゃん」
湖兎という男性は碓氷の護衛だ。この男、去年にてある問題を起こして幽閉されていた。
その問題はあの朱雀神をたった1人で混乱させた程。そんな男が朱雀神の当主後継者と一緒にいるのはおかしい。だが碓氷は良しと思っているのだ。
なぜなら碓氷と湖兎は信頼が厚い仲なのだ。碓氷は湖兎のこと家族のように思っている。湖兎も碓氷を大事な人と思っている。
結局のところ湖兎は碓氷のために問題を起こしたのだ。全ては彼の為に。
「でもあまりやりすぎは駄目ですよ。湖兎はこれでも特例で外に出ているんですから。もし問題を起こしたら…」
「分かってるっすよ坊ちゃん。俺の役目は問題を起こさないで坊ちゃんを護衛することっすよね」
ニカリと笑う。そして彼の背後のある男性が音も無く現れる。
「その通りだ。問題を起こせば我らが動く羽目になる。我らを動かすな」
そして音も無く消える男性。その一瞬に湖兎は冷や汗を掻く。
碓氷の護衛をしているのは彼だけじゃない。彼らの見えないところで西四門家を裏から守る特別な者たちも何名か護衛しているのだ。
その者たちの実力は計り知れぬ。湖兎の実力も相当だが、その者たちは更に上の可能性がある。
「分かってますよ…上の怖いもんさんたち」
湖兎だって問題は起こしたくない。だがそれよりも碓氷を命をかけて守る。それだけは譲れないのだ。
「さて坊ちゃん。時間まで少しありますし少しブラリしますか?」
「ええ、良いですかね?」
「良いんすよ。せっかく川神まで来たんすから観光くらい良いじゃないっすか」
パンフレットを出す。有名どころだと川神院や商店街などだ。
「特に川神院にいる武神。川神百代が有名みたいっすね。行けば会えるかもしれないっすよ」
「武神様ですか?」
「何かご加護が貰えるっすかね。川神院はあっち…」
指を指した方向に川神百代がいた。
「ん、あれは紫ちゃん?」
朱雀と武神が出会う。
読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。
今回でついに西の2人が川神にやってきました。
湖兎にかんしては「特例」外に出ることが出来ました!!
こうでもしないと登場できませんからねえ・・・