紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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悪だくみ

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川神学園2Sのクラスにて真九郎は心と仕事の打ち合わせをしていた。仕事の話を学園のクラスでするっていうのはどうかと思うが心自体が気にしていないので真九郎も気にしないことにした。

最も仕事の方も心の護衛なのだから特に隠すようなことはない。打ち合わせも心の傍をつかず離れずの位置で護衛だ。

 

「それにしても真九郎くんが西四門家の朱雀神と知り合いとはのう…世界は狭いというかなんというか」

「まあ、京都に旅行に行った時に本当に偶然というか数奇な縁で知り合ったんだよ」

「偶然で朱雀神に出会って、屋敷まで入ったなんて普通は有りえぬわ」

 

確かに普通では有りえない。一般の者が西四門家の朱雀神の屋敷を入るとは無い。

何故入れたかと言うと本当に数奇な運命が重なったのである。紫に碓氷、そして切彦。表御三家に西四門家、裏十三家が一緒になるという普通では有りえない状況であったのだ。

その時はよく分からなかったが銀子から懇切丁寧に説明されて理解した時は冷や汗が滝のように流れたものだ。

 

「もう真九郎くんが誰と知り合いでも驚かんぞ」

「いや、俺はそこまで人脈はありませんよ」

「西四門家の朱雀神と表御三家の九鳳院と知り合いの時点で勝ち組じゃ。むろん不死川家の此方と知り合いというのも大きいぞ!!」

 

真九郎もよくよく思うと確かに凄いのかもしれない。西四門家に表御三家、日本三大名家、そして裏十三家。

はっきり言って人脈だけなら真九郎はもう完全に完成していると思う。

 

「もしかして他の西四門家の青龍神、白虎神、玄武神とも知り合いかえ?」

「いや、流石に知らない。朱雀神だけだよ」

 

全ての西四門家と知り合いの人物なんているのだろうか。流石の不死川家も朱雀神と縁をつなぐので精一杯である。

九鬼財閥でさえ西四門家とは繋がっていない。将来的には協力関係にはなりたいと思っている。

 

「おそらく名家でもない人だと真九郎くんほど人脈が凄いのはそうそうおらんぞ」

「いや…紅香さんならもっと人脈は凄そうだよ」

「ああ…確かにあやつならのう」

 

紅香のことは心も知っている。何でも親と知り合いで前に顔を合わせたことがあるのだ。

その時からも既に紅香無双で日本三大名家の不死川家に図々しい態度というか対等な関係で仕事をこなしたそうだ。これには真九郎もいつも通り「流石は紅香さん」と感想。

心は「褒めんでよい」とツッコミである。だが心は紅香に関しては諦めている。彼女に何を言っても勝てないからだ。尊敬する両親でさえ紅香には口で敵わないのだ。

本当に無敵超人なのが柔沢紅香である。

 

「不敬なやつじゃが仕事は最高だから文句も言えんと母君は言うしのう」

 

ため息を吐く心であった。

 

「おい真九郎よ。なかなか興味深い話をしているじゃないか」

「与一くん?」

「西四門家とは何だ。聞いた限りだと守護する一族だな?」

「…まあ、そうだね」

 

京都を守護する4つの家系ということで正解だ。

 

「よく分かったね与一くん」

「分かるさ。その一族も異能の持ち主か…流石は守護獣の名を関する一族といったところだな」

 

何故、与一はこうもピンポイントで分かるのだろうか。

西四門家は中二病の与一にはピンポイントで心をくすぐったのだ。青龍、白虎、玄武、朱雀。この名は中二病は絶対に反応する。

 

「もしや朱雀神とやらの異能は不死か。朱雀は鳳凰…不死鳥と同一視されるからな!!」

「んー、どうだろうね」

 

残念ながら不死の能力ではない。不死の能力は歪空の家系が持つ。朱雀神はまた別の異能の持ち主なのだ。

その異能はやはり特別であって、その異能さえあれば分野によっては頂点に立つことができる。

 

「うむむ、気になる。青龍はドラゴン…嵐、天候を操る。いや、五行説ではたしか木に対応するしな」

「あはは、どうだろう」

「白虎は戦いの神と言われている…」

「与一くんって詳しいね」

「玄武は水…水神だからな」

 

与一はどんどんと偏った知識を口から吐き出す。なまじ正解な部分があるから否定しずらい。

だが残りの西四門家の異能に関しては本当に知らない。だが朱雀神の異能が『アレ』なのならどんな異能でも有りだろう。

与一がいくつか言うように青龍神は天候を操ると考えた。ならば雨乞いなんて儀式が昔からあるのだから似たようなことができるかもしれない。

そんな感じに有りえるような異能を説明し出す与一である。

 

「特別な力を持つと聞いたことはあるが流石は分からんぞ。それを知るとなると覚悟が必要じゃ」

「まあ。異能を持つ者は敵が多い。探りを入れる奴はどんな奴でも粛清される。俺も気をつけないとな」

「はいはい。与一はここまで~」

「うご、姉御!?」

「あまり迷惑かけるな」

「締まってる締まってる。それに迷惑はかけてねえ!?」

「弁慶さん手加減してあげてね」

「あー、これでも手加減してっから」

 

手加減しているようには見えない。

 

「それにしてもまた仕事?」

「そうだよ。心さんの護衛仕事」

「ふ~ん。真九郎は依頼すれば何でもしてくれるの?」

「何でも…まあ出来ることなら何でもするよ。犬のお世話だってしたし」

「ふ~ん。なら遊びに誘うのも仕事に入るの?」

「うーん…まあ入るね。でも弁慶さんの誘いなら断りませんよ」

「そ、そう。じゃあ今度誘っちゃおうかな~」

「遊びに行くなら義経も行くぞ!!」

「こら。俺様の許可無しに真九郎に予定を入れるな!!」

「何で義経さんと項羽さんまで」

 

仕事の話をしているというのにこうも遊びの話になるのは不謹慎だが川神学園でやっているのだから文句は何も言えない。

良いのか悪いか分からないがこういう日常も悪くないのかもしれない。

 

 

184

 

 

ある高級料亭にて和食を舌堤している2人の議員。今ここは2人だけで誰もいないから盗聴なんて野暮なことをする奴はいない。

だから思う存分にどんな話でもできる。機密事項の話でも悪だくみでも何でもだ。

 

「蘇我さん。どんな方法ですか例の件って?」

「まあ落ち着いて聞け。私もこの情報を手に入れるまで大変だったのだからな」

「分かった落ち着く」

 

酒をちびりと口に含む。

 

「ふむ。前にも話したがどんな人物でも隠したいものは1つや2つあるものだ。それを暴くことが出来る」

「どうやって?」

「簡単だよ。心を読むのさ」

「心を読む…それは嘘発見機か何かか?」

「いやいや、本当に人の心を読むのさ」

「馬鹿な。心を読むなんて!?」

「本当に心を読む一族がいるのさ。予測や相手を誘導するといった類ではない。本当に心を読むのだよ」

 

そんな馬鹿なと思うもう1人の若き議員。だが蘇我梅雪と呼ばれる議員は嘘偽りなく言葉を出す。

よく心を読むなんてアニメなど創作物に出てくるが現実に存在するなんて有りえなかった。だが蘇我は嘘は言っていない。

 

「本当に?」

「ああ。本当だ」

「その心を読む者は誰ですか!?」

「京都に住むある一族だよ。その一族の名は朱雀神だ」

「朱雀神?」

「ああ。聞いたことは無いかね。西ではとても有名だ」

「知りませんね」

(…知らないか。彼も才能があると思うがまだまだだな)

 

朱雀神と聞いても若き議員は知らなかった。だが彼はすぐに使える一族と思う。

 

「なるほど朱雀神という一族の者と手を組み総理の悪事を暴くんですね」

「ああ。まあ総理がどんな悪事を持っているか分からないがね。もし悪事を働いていなくとも周りはどうかな?」

「なるほど。総理から弱みは取れなくとも周りから弱みを見つけ出し外堀から崩していくと。ククク…蘇我さんも考えますね」

 

蘇我が考えた作戦は簡単で単純だが本当に実行されればどんな人間も弱みを握られてしまう。そうなれば政権を動かしている組織も総崩れだ。

ならば総崩れした政権に入れば見事に手中に入れることが出来る。それほどまでに『心を読む』とは恐ろしいものなのだ。

 

「ではまず朱雀神の者と連絡をーー」

「それは無理だ」

「何故ですか!?」

「朱雀神はとても格式の高い名家だ。私でさえも取り告げることはできない」

「じゃあどうやって…まさか!?」

「そのまさかだ。だがこればかりは私もお勧めできない。守る国民を誘拐するなんてな」

 

蘇我は野党幹事長の地位にある政治家であり、彼も総理を目指している。ある心の病を持っているが日本に対する愛国心は本物。その愛国心は歪んでいるが。

だからこそとんでもない提案はするが実行はしないようなことを言う。これは自分はしないのであってもう1人の若き議員に選ばせているのだ。

 

「誘拐が駄目なら時間をかけて朱雀神とコネを作るしかない」

「コネを作っている暇はない。早く総理を失脚させたいのだ!!」

「ならばやるしかないぞ。なあに成功したら朱雀神にはいろいろとお詫びをすれば良い。もみ消すのはある人物で慣れている」

「蘇我さん。俺はやりますよ」

 

若き議員はその目を歪まされる。彼も最初は日本を良くするために政界に入ったが揉まれて歪んだ。だからこそ蘇我の提案に乗ってしまった。

彼は総理を失脚させるために裏世界に足をさらに深く突っ込む。もう引き戻せない。

 

「しかしどうやって誘拐を?」

「朱雀神の当主後継者が今度川神に来る。何でも三大名家の不死川家のパーティーに出席するらしい」

「あの三大名家の不死川家か。不死川家は政界ともコネを持っていたな」

「ああ。だから出席することも可能だ」

「なるほど。あとはどうやって誘拐するかですね」

 

近づくことはできるがどうやって誘拐するか。格式の高い名家が集まるパーティーならば多くの腕の立つ護衛がいるはずだ。

そんじゃそこらの者たちでは駄目だろう。こればかりは選りすぐりの者ではないといけない。

 

「なに、良い人材がいる」

「まさか悪宇商会か?」

「ほう、流石に知っていたか。だが今回は違う。悪宇商会も素晴らしい人材はいるが今回は更に良い人材を見つけたのさ。その人物は今まで長期である人物の護衛をしていたがやっと終えたようでフリーになったのだ」

 

机に3枚の連絡先を差し出す。

1枚目はある一族が率いる傭兵軍団。特にその一族の切り札と呼ばれている存在は相当の実力者だ。マスタークラスにも達しており川神百代とも戦える人物。

2枚目は最近活躍してきた特殊チーム。どんな依頼も実行して成功させるので今回の誘拐では活躍できるだろう。

そして3枚目こそが蘇我が言うとっておき人材だ。

 

「この3枚目が?」

「ああ、フリーの戦闘屋でね。実力はもしかしたら武神の上をいくかもしれない」

「なっ、武神を超えるだと!?」

「実際は分からないがな。だが実力は本当だ。なんせ裏世界で十本の指にはいるからね」

「それは素晴らしい。ククク、これで確実じゃないか」

「油断はするなよ。川神ではどんなことが起きるか分からないのだから」

 

蘇我は鯛の刺身を口に含む。

 

「ここまであれば十分ですよ蘇我さん。良い報告を待っていてください」

「ああ。良い報告を待っている」

 

若き議員は早速準備を取り掛かるために部屋から出ていく。1人になった蘇我は黙々と食事を終えた後に電話を取り出す。

 

「渡した人材はとても素晴らしいものだが相手である朱雀神…西四門家も相当なものだよ。私は実行したくはないな」

 

ピっと電話をある先に連絡をかける。

 

「私も準備をするか。もしもの時のためにな」




読んでくれてありがとうございました。
感想などあれば気軽にください。

さて、早速もう悪い計画が出てきてます。
その状況を知らない真九郎たち。どうなるかな?

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