紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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それぞれ

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ある山にて2人の壁越えクラスの武術家が修業している。その2人とは川神百代と九鬼揚羽である。

美人が2人で山籠もりの修業とはアンバランスだが悪くは無いだろう。今の時代に山籠もり修業なんてどうかと思うが山籠もりを馬鹿にしてはいけない。

修業に山籠もりはある意味最適である。サバイバルのようなもので肉体的にも精神的にも鍛えられて仙人にでもなれるだろう。彼女たちは仙人になるつもりではないが。

彼女たちの目的は己の修業で勘を取り戻すのと慢心を無くすためである。

 

「山で修業って前時代的だけど…打って付けだな」

「そうだろう。山籠もりほど修業に最適なものはないのだ」

 

修業内容が全て己自身から始まる。修業道具は山そのもの。食事は山の恵みで、己だけで手にいれる。精神を高める瞑想は自然の豊かさ。そしてお互いに高め合う者が最高の武術家である。

これほど修業に最適なのはないものだ。

 

「フハハハ。これで川の幸である川魚が7匹目だ」

「こっちはもう10匹です揚羽さん!!」

 

午前中の修業を終えて、昼飯の準備を始める百世と揚羽。山に居れば食事には困らない。山菜だって彼女たちは見分けがつく。

 

「じゃあ私は山菜を取って来ます」

「うむ。こっちは火の準備をしておこう」

「百代行きまーす!!」

 

跳躍して山の奥にへと向かう百代。その中で彼女はある日の金曜集会を思い出す。それは大和から警戒というか注意である。

大和自身は話すつもりは無かったが、沙也加誘拐事件にて悪宇商会と関わってしまったのが運の尽きだろう。

風間ファミリーは裏世界に少しだけ関わってしまった。だがその少しが濃すぎた。裏世界に関わったらすぐに抜け出せるかと言われればNOである。だからこそ関わらないようにしなければならない。

大和は言うのを躊躇ったが、知らないで巻き込まれるのは良しとしない。知った上で関わらないのが一番だ。

 

「悪宇商会に…裏十三家か」

 

大和はまず自分たちがどの裏世界に関わったのかを説明してくれた。悪宇商会という裏世界の人材派遣会社。そして裏世界でも奥にいる一族である。

 

「悪宇商会は殺し屋に護衛屋や運び屋、戦闘屋がいるか」

 

悪宇商会に所属する戦闘屋は悪であり正義でもある。人間を殺す依頼もあれば命を守る時もある。その過程で全力で戦える。その部分に百代はつい反応してしまったのは反省である。裏世界では真っ当な生き方ではない。

 

「裏十三家…夕乃ちゃんの崩月一族。切彦ちゃんの斬島一族。あのエロイねーちゃんの星噛一族」

 

大和は知っている裏十三家を分かりやすく説明した。裏十三家は裏世界で恐れられた一族たち。

崩月は血塗られた一族であるが今は廃業しており、恐れられていた崩月は昔の話なのだ。今は真っ当に生きている。

崩月の異能だけが今も受け継がれているのだ。最も裏世界に浸かった者は簡単には切り離せないので完全に裏から抜け出せたわけではない。この部分は大和は知らない。

 

「異能…あの角だよな」

 

崩月の角を解放した姿を見た時、夕乃と真九郎と戦ってみたいと思えた。

 

「斬島切彦。殺し屋で切彦の名を受け継ぐのは殺し屋の証拠」

 

あんな可愛い子が凄腕の殺し屋とは思えないが大和が嘘を言うはずがない。『剣士の敵』というのもある。

そして酔っ払い事件で出会った星噛の一族。そして悪宇商会と深く関わる存在だ。最も関わってはいけない人物である。

項羽捕獲戦での強さを見た時は本気で戦ってみたいと思ったほどである。だが関わってはいけない存在と言われてはどうしようもない。

仲間を心配する大和はとても素晴らしいが百代はこれでも武神だ。相手が裏世界の戦闘屋でも戦える。『鉄腕』を倒した経歴だってあるのだ。

 

「…戦える」

 

戦ってはいけない。

最後に大和は歪空に関しては言っていない。まだ関わっていないし、テロリストの話は好ましくない。

 

「大和はもう関わらないことが良いと言っていた。星噛と斬島には…崩月の夕乃ちゃんとかは例外だけどな」

 

前に言われたが崩月夕乃はもう昔の崩月家と関係無い。同じ一族で血が流れているが過去の出来事と関係は無い。

生まれた子供に罪が無いようなものだ。だから百代や風間ファミリーの面々も知っても忌避しない。

大和の忠告は風間ファミリーの面々に伝わった。その日の金曜集会はいつもと違ったのである。

 

「あらよっと」

 

百代が地面に着地。

 

「おや、やっと1人になってくれましたね」

「…誰だ?」

 

着地した先には黒いコートを着た眼鏡の女性が居た。修業中は気の探知なんてしていなかったから山に誰かが入ってきたのは気付かなかったのだ。

 

「まあ待ってください。警戒しないでくださいよ。私は怪しい者ではありません」

「そんな格好で山に居たら怪しいだろ」

「おやおや…言われてしまいました」

 

メモ張をパララっと捲った後に服のポケットに仕舞う。

百代は目の前の女性に警戒を解かない。そして気を探知してみると彼女が脅威でないことを理解する。

 

(こいつは…素人だな)

「まずは自己紹介をしましょうか。私は悪宇商会の人事副部長、ルーシー・メイです」

「悪宇商会!?」

 

警戒度を増す百代だが逆にルーシーはあっけらかんと余裕である。

 

「悪宇商会が何の用だ?」

 

周囲を警戒する。目の前にいるルーシーは明らかに戦闘者ではない。ならば近くに護衛の者がいるかもしれない。

 

「警戒しなくても良いですよ。誰も貴女を襲おうなんてしません」

「私はそっちの『鉄腕』だかをぶちのめしたんだぞ」

「それは知っています。よく鉄腕を倒したものですよ。ですが、だからと言って復讐なんてしません。仕事なんですから成功があれば失敗もあります」

 

悪宇商会での仕事。戦闘屋として戦えば勝つか負けるかのどちらかだ。より詳しく言うなら生きるか死ぬか。

悪宇商会は仕事の失敗で相手を恨まない。いや、少しはあるかもしれないが、だからと言って私情で復讐なんてさせるわけには会社としてさせないのだ。

 

「私は寧ろ貴女のことを評価しているんです。流石武神と言うべきですかね」

「何か要件があるならさっさと言え。回りくどいの嫌いなんだ」

「そうですね。世間話よりも要件が大事です」

 

ルーシーが一間を置いてから要件を言い始める。

 

「率直に言いますね川神百代さん。悪宇商会に就職してみませんか?」

 

彼女が提示した要件とは百代への悪宇商会に勧誘。

 

「私が悪宇商会に?」

「はい。貴女には才能があります。それはまさしく戦いの才能です」

「戦う才能…ってそんなんで私が簡単に入ると思うのか。私は悪の組織に入るつもりはない」

 

事前に聞いていたおかげで百代の悪宇商会へと対する気持ちは悪い方だ。

 

「おやおや、悪宇商会が悪とは。まあ否定はしません。だけど救うこともあるのですよ」

 

悪宇商会は依頼があれば100人は殺し、100人を救う。悪宇商会を恨む者がいれば、感謝する者も少なくない。

 

「悪いが私は今の生活を捨てる気はない」

「…本当ですか?」

「何?」

「貴女は本当にそれでいいんですか。そうじゃないでしょう。貴女はもっと心から戦いたいでしょう?」

「…それは」

 

ルーシーによる話術が始まる。

 

「貴女が今いる場所では満足できない。貴女がいるべき場所はそこではありません」

「そんなことはない」

「そんなことはあるんですよ。じゃあ聞きますけど…川神百代さんは今、心から満足していますか?」

 

確実に百代の心に突き刺す言葉。

 

「貴女の思い描く戦いをできていますか?」

 

言葉の力が弱くもあり、圧倒的に強い。

 

「お友達も大切ですけど…戦いだって心から楽しみたい」

 

事前に調べ上げたことを確実に見極め、百代の心の隙間に突き刺していく。

 

「お友達と戦いは別ですよ。お友達はお友達。戦いは戦いと区切ればいいんです」

「別だと?」

「今いる場所だと本気で戦えない。戦えない理由が満足に相手をする人がいないから。もしくは貴女の戦闘を止める者もいるからです」

 

彼女の言葉は嘘ではない。満足に戦えないは本当だし、本気で戦うと周囲に迷惑がかかるから鉄心とかにセーブさせられている。

 

「悪宇商会に入るならばその必要はありません。相手と心の奥底から本気で戦うことが可能です。力をセーブさせることもしません」

 

仕事には全力でしてもらいたいのでセーブさせることなんてさせない。最も最低限のルールは守ってもらうことにはなる。組織とはそういうものだ。

 

「どうですか。私の言うことは貴女にとって間違いですか?」

「そ…それは」

「悪宇商会は貴女の戦いを手伝います。寧ろ推奨いたしますよ。あ、もちろん仕事としてです。あくまで悪宇商会は会社ですから」

「………」

「戦って給金がもらえる。まさしく武神である貴女に天職ではありませんか?」

 

戦ってお金がもらえるなんて武人にとって天職であることは確かである。なんせ自分の力と技術が金になるのだから。

 

「悩むのは分かります。なんせ人生の分かれ道ですからね」

 

ルーシーは百代の連絡先を渡す。

 

「此方はいつでも待っています。川神百代さん、悪宇商会に興味がおありでしたら連絡をお待ちしています」

 

ルーシーは百代の前から去っていく。彼女の心にとてつもないモノを染みつかせて。

 

「……はあ」

 

ため息を吐く百代。

 

「どうした百代?」

「あ、いえ、何でもないですよ揚羽さん。ほら山菜がたくさん取れました!!」

「うむ。どれも新鮮だな。やはり山菜は天ぷらにすべきか」

「良いですね!!」

 

どこかカラ元気な百代。揚羽が気付かないわけがないが原因が分からないのだ。

山菜を取りに行く前は普通だった。だが帰ってきたら違っていた。まるで別人と言うくらいだ。

 

(…何かあったのか?)

「午後からはどうするんですか?」

「組み手だ。それと午後から助っ人が来る」

「え、誰ですか?」

「来てからのお楽しみだ。まあ知り合いだがな」

「お、天ぷらが揚がりました」

 

百代は悪宇商会の連絡先のメモをくしゃっと潰してポケットに仕舞うのであった。

 

 

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真九郎は夕乃と一緒に山登りをしている。登山というわけではなく、揚羽に依頼された修業の手伝いだ。

こんな自分に武術家である2人に何かできるか分からないけど、力になれるのならと思うのであった。

 

「真九郎さんと一緒に登山。まるで夫婦の旅行みたいですね!! ね!!」

「は、はい。そうですね」

 

これだけでも揚羽の手伝いを受けた甲斐があると夕乃は思うのであった。いつの日か本当に2人きりで旅行ができたら良いと思うのであった。

 

「まあ…空気も綺麗で、こういうのも悪くないです」

 

登山は疲れるものだが自然を楽しむというものが前提なら悪くはない。今度は全員でピクニックなんて悪くないと思う真九郎だ。

 

「そういえば夕乃さんは川神さんや揚羽さんに何かアドバイスとか考えてありますか?」

「まあ、大体は」

「流石ですね。俺なんかあまり思いつかないですよ」

「言うのはちょっとした小言だけですよ」

 

夕乃は既にアドバイスはできているのだ。特に百代には言いたいことはある。

真九郎の方は特に思いつかない。だから修業の方を見ながら何かあればアドバイスしようと思っているのだ。

 

「お、直江くんから連絡」

「もしかして模擬戦ですか?」

「はい。えっとなになに…」

 

大和からのメールを読むとどうやら項羽の覇王軍が初戦で負けたとのこと。てっきり一騎当千の如くで勝つと思っていたのだが予想が外れた。

 

「あら、意外ですね。項羽さんなら勝てるかと思っていましたが…やはり個と群では違うようですね」

「そうみたいですね。具体的にだと………ああ、項羽さんが単騎で突撃してしまって当初の策を最初っから壊したのが原因で負けたみたいです」

「項羽さんったら。それじゃあ何のための軍なんですか…」

 

確かに項羽の力なら何とかなるが今回の勝敗には軍の旗を倒されれば負けというのがある。如何に強くても旗を倒されれば終わりなのだ。

だからこそ模擬戦は力だけが全てではない。知略、軍略が大切なのだ。どんなに強くても個が群に勝つのは難しい。

 

「まあ…次の試合は頑張ってくださいと返信するしかないな」

「次の試合があればいいですけど」

 

真九郎はまだよく分からないが、夕乃は項羽が率いる覇王軍の行く末が少し予想できた。

 

(これは危ないかもしれませんね。真九郎さんが参戦しても…)

 

真九郎たちが山に行っている間に模擬戦はいろいろと、特に覇王軍には一波乱がありそうである。

 

 

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模擬戦の結果だが特に酷いのは項羽の覇王軍である。覇王軍は三戦三敗と連敗である。

誰が項羽率いる覇王軍が連敗すると予想しただろうか、残念ながら誰も予想できなかった。

覇王軍は将も兵も充実しているし、兵の連携も鍛え済み。そして大将の項羽の実力はピカイチである。模擬戦でも優勝候補として予想されていたのにまさかの大暴落。

まず福本軍の勝負では項羽の暴走というよりも軍の連携を無視して単騎で突撃してしまった。最初はまだ何とかなったが、項羽の戦闘は周囲に影響を与えており、敵も味方も混乱してしまったのだ。

そして主要の将たちと多くの兵が敵軍を攻めている間に福本軍の最大戦力である人物が隙を狙って旗を倒して終了したのだ。これは簡単に解説していると旗の下に戦力を残しておかないと危険ということだ。

せっかくいくつも策を練っていたのに台無しになってしまった。最初の作戦と全く違うのはいただけない。戦はどのようにも戦局は変わるが、大将自らが壊してしまっては戦局以前の問題だ。

 

二戦目は対武蔵軍。

今度は初戦を反省し、作戦を変える。項羽にも大和から軍師として作戦通りに動くこととなる。

項羽が単騎として突っ込み、残りは旗の防衛にあたるという作戦だ。まずはこの策で様子見である。ここまでは良いのだが、この試合での決着が一瞬であった。

項羽が旗を倒そうと力を込めて攻撃するが由紀江の気の込めた鋭い迎撃で項羽を弾き飛ばして覇王軍の旗ごと倒したのだ。

これには武蔵軍というよりも黛由紀江に称賛を送るしかないだろう。こればかりは完全な決着で文句は無い。

結果、項羽も自重すると本人から言って自軍をやっと頼ることになったのだ。これでやっとクリスたちも活躍できるというものだ。

 

三戦目はまたも福本軍。

三戦目はやっと覇王軍の実力が発揮できたかと思われたが、そうでもなかった。

最初はクリスを筆頭に進軍して福本軍を追い詰めていた。このまま順調に攻めていたら勝てていたあろう。だが勝負の流れは覇王軍ではなく福本軍であった。

なんでも福本軍が項羽をなじるという挑発をしたのだ。こんな安い挑発にのるはそうそう無いのだが、項羽の精神状態が悪かった。

項羽は二敗し、自分の思い通りにいかない精神でストレスが溜まっていた。結果、福本軍の安い挑発が効果抜擢で項羽がクリスを突き飛ばして攻めに入ったのだ。

その隙を狙われてまたも旗を倒され敗北したのだ。これには真九郎も話を聞いて何も言えない。というか頭を抱えることになりそうだ。

項羽にとってこの敗北は全て自分のせいでなく仲間のせいだと言ってしまったのがいけなかった。覇王軍の仲間たちは項羽から理不尽に言われれば、ついてくるかと言われればそんなわけが無い。

自分のミスを全て部下に押し付ける将についてくるはずがない。その結果、項羽自身が自分の軍を崩してしまったのだ。

これには真九郎が聞いても呆れるしかなかった。もし自分が傍にいれば何か変わっていたかもしれないが現実は非常である。味方と言った身として力になりたいが今、真九郎がいるのは川神学園でなく山である。

 

『あー…もう駄目かな直江くん?』

「そう言わないでよ紅くん…」

 

完全な覇王軍の瓦解。これには真九郎も軍師である大和もため息を吐きながら頭を抱える。

 

「取りあえず…まだ負けていない。詰んでるけど何かアドバイスある紅くん」

『規定人数は大丈夫?』

「やっぱりそこだよね。正直アウト。今全力で戻ってくるように連絡してるよ」

『そっか。一度崩れた信頼を取り戻すのは難しい。こればかりは項羽さんが改まってくれるしかないかもしれない』

「…紅くん」

『四戦目が終わったら結果を教えて』

「ああ、出来る限りのことはやってみるよ。ところで紅くんはいつ戻ってこれそうかな?」

『…そうだね。仕事の方は何とかなりそうだから五戦目か六戦目あたりには戻れそうだよ』

「…!! 了解した。紅くんが戻ってくるまでには何とか持ち堪えてみせるよ」

 

真九郎は電話を切る。背後には夕乃と百代、揚羽がいる。

 

「どうやら覇王軍は負け越しているようだな」

「あちゃー清楚ちゃんってば」

「はあ…項羽さんったら。まだまだ子供ですね」

 

3人とも真九郎の電話を聞いていたようで感想が3人とも良くはない。確かに覇王軍の結果を聞けば良い感想が出てくるはずはないだろう。

 

「…覇王軍戻る時にはまだ残ってると良いけど」

 

こればかりは項羽たちを信じるしかない。

 

「ふむ。真九郎は覇王軍か」

「補欠ですけどね」

「そんな中でこちらに付き合わせてすまないな」

「いえ、先に頼まれたのは揚羽さんですから」

 

百代たちが修業中の間に来たの真九郎と夕乃である。それは揚羽が依頼をしたからである。

来て早々手伝ったのは食事であった。到着したのはちょうど昼時だったから仕方がないが。しかも料理ができる2人だ。手伝わないわけが無い。

 

「いやあ夕乃ちゃんの料理が食べられて嬉しいなあ。おかわり」

「はい、どうぞ。残さないでくださいね」

「勿論だ!!」

 

パクパク食べる。揚羽は真九郎の料理を食べる。

 

「うむ。なかなかの味だ」

「九鬼家の料理人に比べれば劣りますよ」

「いや、美味い。今度は紋にも作ってあげてくれ」

「紋白ちゃんにですか?」

「ああ。紋はお前を好いているからな。どうだ、九鬼家に就職して紋の専属従者にならないか?」

「それは…考えておきます。今は揉め事処理屋としてやっていきますから」

「そうか。だがいつでも待っているぞ」

 

いつまで待っててくれているのだろうか。待っててくれるのは嬉しいが。

 

「よし。食事も終えたし、休憩したら修業再会だ!!」

「もしかして夕乃ちゃんも組手してくれるのか!?」

「しません」

「そんな!?」

「私がするのはちょっとした助言ですよ」

「助言?」

「はい。それは午後の修業を終えてからにでも」

 

夕乃は百代のことを理解している。それは心の問題だ。

夕乃は昔、幼い真九郎の心の傷を知っている。だからこそ人間の心について敏感なのだ。

 

(川神さんの心の問題は私がどうにかしましょう。項羽さん…清楚さんは真九郎さんに任せますよ)

 

夕乃は百代の心の問題を解決しようと思った。ならば真九郎は項羽のことを解決しなければならない。

味方と言ったのだから。

 

 

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模擬戦四戦目の結果の連絡が来た。

 

「規定人数足らずで敗北なのか」

『うん。ゴメン…駄目だったよ』

「いや、そればっかりはどうしようもないさ」

 

まさかの最悪の結果。いや、予想していた最悪の結果だ。

 

『紅くん次の模擬戦までに戻ってこれそうかな?』

「うん。なんとか間に合いそうだよ」

『本当か!?』

「ああ。直江くんの『もしも』が叶ったみたいだよ」

 

今回の依頼はどうやら夕乃の方が役目があるようだ。真九郎の役目も少しはあったが、本来はこちら側のようだ。

 

『あ、ちょっと待って。覇王様…項羽が電話変わりたいって』

「良いよ」

『……紅か?』

 

酷く弱弱しい声の覇王であった。




読んでくれてありがとうございました。

今回で一気に展開が進んだ気がします。
百代には悪宇商会の誘惑の手が。
項羽は心が軋む。
夕乃は百代に助言を。
真九郎は項羽の味方を。

って感じですね。
なので夕乃は百代。真九郎は項羽と分かれて平行で進みます。

それだと真九郎が山に行った意味ないな・・・(ツッコミ無しで)

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