紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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こんにちは!!
今回から清楚・項羽ルートの目玉である模擬戦編に突入します。
もっともオリジナル要素があるので原作通りではないかもしれません。
そして時系列のツッコミは無しでお願いいます。


模擬戦の始まり

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項羽が覚醒してから数日が経った川神学園にて模擬戦という話題で持ち切りである。

模擬戦とは中規模な集団で、一斉戦闘を行う合戦だ。これは川神学園が武術が盛んであるからこそ行事として成り立つ。

体育祭というわけでなく、自分の武術を競技としてまとめられたものである。まるで総合格闘大会を大規模な団体戦にしたと思えば分かりやすい。更に分かりやすくするならばまんま戦国合戦である。

優勝すれば川神の名産などが贈呈されるらしい。売れば金になるし、自分で楽しみのも良し。

 

血気盛んな川神学生たちはこぞって参加し始める。そのせいかチームは合計で6チームもできた。

まずは九鬼英雄をリーダーとする九鬼軍。次は源義経を大将とする源氏軍。3つ目は武蔵小杉をリーダーとする若手チームである武蔵軍。

4つ目は福本育郎をリーダーとするダークホースになるかもしれない福本軍。5つ目は松永燕が将の先の読めない松永軍。6つ目は覇王項羽がまとめる覇王軍。

どのチームも力があったり、知性があったり、規模が大きかったり、切り札があったりと油断ならない。どのチームが優勝するかは分からないものばかりである。

どの軍も模擬戦のために修業したり、己自身を鍛えている。それと同時に軍のリーダーや軍師役がこぞってしているのは人材探しだ。

自軍を優勝するには数もそうだが将たる存在、いわばエースとなる人材は必要である。特に九鬼軍の紋白や松永軍の燕、覇王軍の大和は躍起である。

他の軍も人材探しには力を入れているが彼ら程ではない。その人材探しで武神である百代が選ばれるのは当然であるが、残念無念で百代は山籠もりの修業があるため今回の模擬戦は不参加なのである。

真っ先に燕が勧誘しに行ったのは徒労に終わるものである。

 

「えー…駄目かなモモちゃん?」

「こんな時ばかり可愛い声を出しちゃってー。でも山籠もりがあるから今回は本当に無理なんだ。不参加の辞表も出してある」

「ありゃりゃ残念…じゃあもう1つの候補を行ってみるかな」

 

燕が言うもう1つの候補。その候補の人間は多くの軍も狙っている。ところ変わって2Fのクラス。

 

「真九郎よ。我が軍に入らぬか!!」

「真九郎くん。義経のチームに入らないだろうか!!」

「紅くん。項羽が入るのは当たり前だよなって言っている。オレも入って欲しいのは賛成しているんだ」

「オレ様の軍に入るのは当然だ!!」

「紅くん。私のチームに入らない?」

「真九郎くん。此方が所属する軍に入らぬかのう!!」

 

声を掛けた順番は紋白から義経に大和、項羽、燕、心である。

 

「あー…えっと」

 

引く手数多の人気者は紅真九郎。

堂々たるメンバーが真九郎のところに集まっているのだ。正直自分がこんなにもスカウトされるとは思わなかったものだ。

そもそも真九郎自身は模擬戦には消極的で見学をしようと思っていたのだが、ここまでスカウトされるのは本当に驚きである。

 

「真九郎よ。我が軍に入って欲しいのだ。兄上も喜ぶ!!」

「ねえ真九郎。源氏軍に入ってよ。主も喜ぶし、私も嬉しいかな~」

「おい真九郎。覇王のオレ様に続け!! 続くよな!?」

「私のチームに入ってくれる? 私のチームは自由だよ」

「此方と一緒に戦ってくれると嬉しいのう」

 

どの軍も真九郎に入って欲しいと勧誘合戦である。ターゲットである真九郎は様々な声を聞こうとしているが何人の声聞き取れるほど耳はよくはない。

なので各自が勝手に行っている軍のプレゼンテーションが理解できない。もし参加するならどの軍も興味深いのはあるのだが。

 

「あの…ちょっといいですか?」

「どうしたのだ真九郎?」

「いや、模擬戦だけど俺は不参加のつもりで…」

「なんと!?」

「おいどういうことだ!?」

 

真九郎に詰め寄るみんな。特に項羽。これには説明を求めたいものである。

 

「実は仕事が入っているんだ。だから参加できない」

「何の仕事だ!?」

「揉め事処理屋の。内容は言えない」

 

真九郎が模擬戦に参加できないのは揉め事処理屋の仕事があるからである。こればかりは仕事優先だ。

 

「仕事がいつ終わるか分からないから参加は控えているんだ」

「ぐぬぬ…」

「むう、残念だな」

「どうにかならんかのう」

 

全員が残念がる。特に紋白と義経がとても残念そうである。だがこの中で大和だけが考えごとをしている。

 

「なあ紅くん。その仕事がいつ終わるか分からないって言うけど…模擬戦中全てなのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど。不参加なのは本当にいつになるか分からないからで」

「じゃあ、もし、もしも早く仕事が終わったら参加できるってことだよね?」

「まあ、そういうことになるね」

 

大和がニヤリと笑う。

 

「じゃあ、もしもで良いから。早く仕事が片付いたら軍に入ってくれないか?」

「そういうことなら…良いけど」

「言質取ったよ」

 

大和以外が全員「…ハッ」や「しまった」という顔をしていた。

 

「よくやった直江!!」

「うう~弁慶…真九郎くんが取られてしまった」

「真九郎ぉ…」

「ありゃ今回は大和くんの方が上手だったか」

「にょわ…」

 

紋白と義経がまたも特に残念がる。逆に項羽は満面の笑みであった。

 

「そうだとも。真九郎は我が軍のものだ!!」

「まあ、参加するとしたら項羽さんの味方になるって言ったから今回はどっちにしろ項羽さんの軍に入ってたかもしれませんね」

「そ、そうだよな」

 

彼の言葉につい頬が緩む項羽であった。誰かが項羽軍に入るのは嬉しいものだが、真九郎が入ってくれたのは更に嬉しいものがある。この嬉しさの理由はまだ分からない項羽であった。

真九郎、覇王軍に入る。だが引き抜きがあることはまだ彼は知らない。

余談ではあるが燕は更に候補がいた。その人物こそが崩月夕乃である。彼女の実力は項羽捕獲戦で知っていたので勧誘したのだが、普通に断られた。

本人曰く、「争い事はあまり好きではありませんので」ということだ。あの三つ巴の戦いをしたくせにと言いたかったが、どう言っても言い返させられそうなのでお手上げだ。

燕はどうも夕乃との会話では勝てそうもないとイメージしてしまうのであった。

 

 

155

 

 

真九郎が模擬戦に参加したことはすぐに銀子の耳に入った。

 

「揉め事処理屋の仕事があるのに模擬戦に参加するのね」

「ああ。と言っても本当に参加できるか分からないけど。銀子は参加しないのか?」

「私が参加する人間に見える?」

「ううん。見えない」

 

銀子は戦うというよりは補佐する側である。今回の模擬戦は軍略も大いに必要だが銀子にとっても力になれそうにない。

彼女が発揮するのは情報戦である。これが更に大規模になった川神大戦ならば力になれただろう。なので銀子は本当に見学なのだ。

 

「ま、今回は見学してるわ。ところで仕事の方は長期になりそうなの?」

「たぶん…これから仕事内容を聞くことになっているんだ。相手は揚羽さん」

「九鬼の…もしかして川神さんが山籠もりするっているからその付き添いだったりしてね」

「まさか…まさか」

「そしてついでに九鬼に勧誘されるんじゃない」

「まさーー」

「それは絶対勧誘されるわ」

「そうかな…」

 

絶対に勧誘される。

 

「まあ、どんな仕事か分からないけど相手が九鬼だから良い仕事じゃない?」

「だと良いな」

「もしくは…なかなかに機密のある仕事だったりね」

 

何度も言うが真九郎は九鬼家から信頼されている。だから重要な仕事も任される可能性は大いにある。

ここまで九鬼家に信頼されている人材はそうそういない。

 

「…なあ銀子。今度の休みが出来たら遊びにいかないか?」

「良いわよ」

「どこ行きたい?」

「任せる…まずは残りの借金をお願いね」

「はい」

 

この会話もいつも通りである。真九郎が堂々と誘いをするのは銀子だけだ。2人もある意味特別な関係である。

銀子との会話を終えて、時間を確認しながら集合場所に来ると夕乃が居た。

 

「あれ夕乃さん?」

「あら真九郎さんも揚羽さんに呼ばれていたのですか?」

「夕乃さんも?」

「はい。どうしても手伝ってほしいと揚羽さんから頼まれたんです。でもまさか真九郎さんも一緒だなんて!!」

 

揚羽も夕乃に何かを頼むのに真九郎を餌にしたのはある意味正解であるかもしれない。最も夕乃も真九郎がいるからといって何でもかんでも言うことを聞くとは限らないのであるが。

 

「おお、2とも来ていたか!!」

 

揚羽が満面の笑みで降臨。

 

「まずは店に入ろう。何か食事をしながら話そうではないか!!」

 

お洒落な喫茶店に入り、紅茶やコーヒー、サンドイッチを頼んで本題に入る。

 

「うむ、実は頼み事とは我と百代の山籠もりの修業に付き合ってほしいのだ」

 

銀子の予想が的中。

 

「なに…修業の全てに付き合ってほしいというわけではない。アドバイスが欲しいのだ」

「アドバイスですか?」

「ああ、お前たちの実力は我らとは違う…強さの『質』が別の意味で我らとは違うのだ。だから違う視点でのアドバイスが欲しいのだ」

「そうでしょうか。俺ではアドバイスはできないと思いますが…」

「何を言う真九郎…お前は強い。個人的な感想だがもし百代とお前が戦えば勝つのは真九郎だと思っているぞ」

「それは言い過ぎですよ。俺じゃあ川神さんに勝てません」

「いや、私が考察すると今の百代では正直にお前には勝てないだろう。夕乃殿に関して言えばはっきり言うと我と百代が手を組んで相手して勝てない…今ではな」

 

揚羽が言うには自分自身の鈍った腕と慢心すぎる百代が真九郎や夕乃と本気で戦った場合、勝てないという結論に至っている。

何せ戦う次元と強さの質が互いに違うのだ。普通に試合で戦う分ならば百代や揚羽は勝てるだろう。しかし、真九郎や夕乃の『本気』だと話が変わってくる。

揚羽は裏を知っているから戦えるが百代は裏の戦い方を知らない。その分で言うところの強さの質があるのだ。

表と裏の強さの質はまさに表裏一体。どちらも強くなるには表も裏も学ぶ部分があるということである。

だからこそ強さの質が違う2人からアドバイスが欲しいのである。

 

「うーん。私としてもアドバイスになるか分かりませんが…百代さんには言うことはいくつかあるかもしれませんね。前まで何度も決闘を迫られますしね。戦いを楽しむのは構いませんが、本質を見逃すのは危ないからですしね」

「俺は…あるかなあ?」

 

真九郎はやはり悩む。

 

「全く…真九郎は己を過小評価しすぎではないか?」

 

揚羽は真九郎の強さを認めている。だからこそ彼にはもっと自身を持ってもらいたい。

だが彼はここぞと言う時に別人かというくらいの変化を魅せるのだから驚きである。

 

「気付いたことがあればで良い。頼まれてはくれるか?」

「…力になれるか分かりませんが、こちらこそお願いします」

「助かるぞ2人とも!!」

 

真九郎と夕乃が短期間だけ揚羽と百代の山籠もりを手伝うことになるのであった。

 

 

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ルーシー・メイは悪宇商会の人事副部長である。だから会社の必要な人材は自ら探すのも仕事である。

 

「それで今回の勧誘を選んだのが武神の川神百代と覇王の項羽なのですよ切彦さん」

「ふーん、勝手にスカウトすればいいじゃねえか」

 

切彦はナイフでステーキを簡単に切り分けて口に運ぶ。

 

「はい。こちらでスカウトします。それは私の仕事ですからね」

「で、俺に手伝ってほしい仕事って何だよ。まさか勧誘の手伝いをしろってか?」

 

切彦の仕事は勧誘でなく殺し屋である。勧誘は専門外だ。

 

「いえ、テストの準備をしようと思います。その手伝いですよ」

「ふーん…あいつらが乗るか? あいつらは強いが素人だぞ。殺しなんてできねえさ」

「いえ、彼女たちには人を壊す才能があります。私はその才能を刺激するだけですよ」

「そういうのは本当にお前の仕事だよルーシー・メイ」

 

ルーシー・メイは今まで様々な人材を相手にしてきて勧誘してきた。その中で人の心を刺激させるのは手慣れたものである。

かく言う真九郎の心にさえ刺激を与えてきたものだ。特に精神的に波がある者はルーシーの手のひらに踊らされる。

だからこそ彼女に対抗できるのはぶれない精神を持った者だけだろう。

 

「まずは武神から勧誘していきますかね」




読んでくれてありがとうございます。
次回もゆっくりとお待ちください。

今回は模擬戦の開始あたりです。
いやあ、それにしても真九郎はモテモテですね!!
しかし参加は遅れてって感じになるかもです。まずは別の仕事がありますから

次回は山籠もりのところオリジナルに書くか、模擬戦の初戦辺りかもです。

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