紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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混戦

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死屍累々。今の状況はそう表すのが正確だろう。項羽の周囲には九鬼家の戦闘メイドたちに板垣姉妹たち。さらには九鬼揚羽や釈迦堂刑部まで倒れていた。

倒れている彼女たちは全て項羽が潰したのだ。全員が相当な実力者のはずだ。しかし倒した項羽の方が強いということだろう。

そんな様子を見届けるは翔一。今では空気の存在だが気にしないのが彼である。

 

「おいおいマジかよ…」

 

特に百代のライバルであり、百代が数少ない尊敬している揚羽までも倒されるのは想像できなかった。

揚羽は項羽を正確に分析して戦っていたのだが一瞬の隙をつかれ敗れた。そして才能の塊である辰子も覚醒しそうでありながらもやられる。

更に更に、項羽の一瞬の隙を見逃さずに遠くから見ていた燕の平蜘蛛の砲撃でさえ倒し切れてなかった。

 

「あいつはこそこそ隠れていた松永燕だったな。オレが一瞬だけ冷や汗を搔くとは…許さん。潰す!!」

 

今から川神学園に戻って燕を潰そうとしようとしたが、ここで声を掛けられる。その人物を見た翔一は「何でここに?」と呟く。

その人物は夕乃。彼からしてみれば大和撫子が似合う彼女には似合わない場所にいると思っている。

 

「清楚さん。いえ、項羽さん」

「む、お前は崩月夕乃だったな。表のオレが世話になったと言いたいが今は後にしてくれ。これから狙い撃ちをしてきた松永を潰しに行かねばならん」

「項羽さん。申し訳ありませんがここで大人しくしてもらいますよ。嫌なら実力行使です」

「…ほう。今のオレを止められるとでも?」

「ええ、止めてみせますよ」

 

ニコリと笑う夕乃に対し、燕のせいでイラついている項羽は右足で地面を踏み潰した。

 

「この覇王に向かって不敬だぞ!!」

 

怒号と大きな気を夕乃に遠慮なしに向けて放つが夕乃は涼しい顔のままだ。

 

「私が失礼でも不敬と思われても構わないです。項羽さん、私も怒っているんですよ」

「怒っているだと?」

「はい。貴女は真九郎さんを傷つけた。それだけで私が怒るのに十分な理由です」

「…それは」

 

項羽が一瞬だけ申し訳ない顔をしたが今の夕乃には関係ない。そして項羽も今のモヤモヤの気持ちを振り払うように気を爆発させる。

 

「ええい、どけ!!」

「どきません。ここで貴女を懲らしめます」

「ならやってみろ!!」

 

今ここで覇王と戦鬼の戦いが始まろうとした時、新たな乱入者がくる。その存在に夕乃は驚いたがすぐに冷静さを取り戻す。

 

「お、ここか」

 

現れた乱入者は長い赤髪に片手に酒瓶を持った女性。その名は星噛絶奈であった。

まさかの登場だが夕乃には関係ない。もし邪魔をするのなら叩き潰すまでである。

 

「九鬼の放送を聞いて来たんだけど…まさかアンタまで会うとはねえ。まあ、紅くんにも再会したし可能性はあるわね」

「何で貴女までいるんですか星噛絶奈さん?」

「さっき言ったじゃない。九鬼の放送を聞いてクローンを捕獲しに。仕事まで暇だったしね」

「帰ってください。これは私の問題ですから」

「これは九鬼がまわした依頼よ。それに誰でも依頼に参加可能…よ」

「関係ありません。帰ってください」

 

夕乃は絶奈にさっさと帰ってもらおうと冷たく言い放つ。彼女がここにいては混乱するだけである。

 

「帰らないなら先に貴女と話をつけても構わないですよ」

「あら、歪空の時は実行できなかったけど今回は決めてみる?」

 

それは誰が一番強いか。今の場合は崩月と星噛のどちらが強いかをだ。夕乃の実力は真九郎より確実に上であり、絶奈はキリングフロアの時よりも人工臓器や義手、薬莢などを更に強化している。

どちらもまた化け物なのだ。そんな化け物2人を見るのは先ほど項羽にやられた揚羽である。

 

(まさか裏十三家のうち崩月と星噛が集合するとはな)

 

揚羽は項羽を止めるために自ら赴いたのだが、まさかの返り討ちにあった。覚醒したばかりだというのに暴力的なまでの強さであった。それに揚羽は戦いから身を引いているのでブランクもある。

そのせいもある為、揚羽は項羽に負けたのだ。勝てる可能性はあったが今回は運が項羽に味方したのだろう。

 

(項羽…強さは確かだが相手も化け物だぞ)

 

項羽の攻撃でまともに動けないのが最悪な状況である。動くのならばこの戦いに立ち回りたいのだ。何故なら悪宇商会の絶奈がいるからである。

夕乃に関してはまともだと思いたい。川神学園での評価は大和撫子でみんなの手本であり、優等生。猫の皮でも被っているかもしれないが絶奈よりマシだと思いたい。

 

「こちら揚羽。連絡を取れるか?」

『此方クラウディオです。揚羽様どうしました?』

「項羽の元に誰も近づかせるな。今ここに裏十三家が2人いる」

『2人もですか』

「ああ。1人は崩月夕乃であり、もう1人はあの悪宇商会の星噛だ。彼女たちの戦いに並みの者が介入すればただではすまないぞ」

『分かりました』

 

揚羽の想像通りでこんな戦いに並みの武術家が介入したらただではすまないはずである。この戦いに介入できるのは壁越えクラスでも百代並みが必要である。

最も今の百代でも彼女たちの戦いに介入はできても勝つかは分からない。揚羽ですら勝てるか想像ができないのだから。

 

「項羽さんを止める前に貴女に帰ってもらいます」

「できるかしら?」

 

夕乃と絶奈が会話をしている間は項羽が空気になっていた。覇王としてこの対応はいただけない。

 

「オレを無視するなあああああああああ!!」

 

気を大きく爆発させて2人の視線を集中させる。手には方天画戟を持って雄々しく構える。

 

「何を訳の分からないことを勝手に話している。オレが目的ならさっさとかかってこい。オレは早くあの松永に罰を与えねばならんのだ!!」

 

地面を踏み潰してまずは絶奈の間合いへと入る。そして暴威の如く方天画戟を真横に一閃して絶奈を吹き飛ばした。

吹き飛んだ後の落ち方は最悪で受け身もとっていない。これではもう戦えないだろう。そう結論したのは項羽と揚羽。

 

(おかしい…あれで孤人要塞がやられた?)

 

残念ながら今の一撃では絶奈は沈めることはできない。

 

「痛ーいじゃない」

 

まるで昼寝から覚めたように身体を起こす。普通に起きたのに「馬鹿な」と項羽は呟く。

確かに良い一撃が入ったはずなのだが絶奈は無傷の如くに立ち上がる。だが彼女が多少なりとも痛みを感じているのだから項羽の攻撃は効いていないわけはない。

ただ、今の一撃程度では絶奈にとって軽く叩かれた程度でしかないのだろう。

 

「じゃあ今度はこっちね」

 

ニコリと笑って薬莢を取り出して腕を捲る。現れたのは鋼鉄の腕であり星噛製の義手。

 

「義手に薬莢?」

 

薬莢を義手に装填完了。

 

「どおん」

「こんなも…の!?」

 

絶奈の攻撃の代名詞とも言える『要塞砲』が項羽に直撃。そのまま垂直に殴り飛ばされた。

 

「おー…飛んだなあ」

 

どんな攻撃も耐えた項羽が殴り飛ばされた。それだけで彼女の『要塞砲』の威力を物語っている。しかも手加減をしているのでまだまだ底を見せていない。

項羽は捕獲対象なので殺せない。なので薬莢は火力が弱いもの。弱いものなのにあり得ない威力なのだ。

 

「殺してませんよね」

「殺してないわよ」

 

夕乃は冷静に殴り飛ばされた項羽を見る。彼女の言葉が正しいようで生きている。

よろよろと立ち上がる項羽を見て安心である。だが項羽は怒りが頂点に達していそうだ。

 

「貴様ああああああ!!」

「あらまだ元気みたいね。なら次はもう少し火力のある薬莢を装填するわね」

 

またも薬莢を義手に装填して項羽を待ち構える。項羽は怒りの速さで夕乃の横を通り過ぎようとしたができなかった。

自分が進もうとした方向とは真逆の方向に進んでいたのだ。いや、正確には吹き飛んでいた。

 

「手加減は難しいですね」

 

夕乃の両肘から真九郎よりも細く、輝く2本の角が生えていた。歪空の時のように久しぶりの開放に喜んでいるように光輝く。

 

「前にも見たけど紅くんよりは細いわね。簡単に折れそう」

「あら、試してみますか?」

「よくもこの覇王に!!」

 

まだまだ項羽は倒れない。

 

「私はこのまま三つ巴で戦ってもいいわよ」

「私も構いません」

「覇王への不敬を後悔させてやるぞ!!」

「「どうぞご勝手に」」

 

三つ巴の戦いが始まる。

 

 

143

 

 

3人の化け物の戦いが始まってからその場は戦場となった。戦場と現してよいか分からないが戦場だ。

項羽が、夕乃が、絶奈が互いに戦いを始めている。もう1人を攻撃したと思ったら次にもう1人を攻撃する。攻撃されたらすぐに防ぎ、もう1人から攻撃すれば避ける。

夕乃は舞うように鬼のように攻撃する。絶奈は頑丈さと圧倒的な破壊力で全てを潰していく。項羽は暴力的なまでの力を振るう。

 

「…スゲー」

 

翔一はそう言うしかなかった。項羽の実力は覚醒した時から見て慄いた。しかし夕乃の実力に、酔っ払い事件に出会った絶奈の実力は予想外すぎる。

学園では大人しく大和撫子のイメージの夕乃が戦っている姿が違和感しかない。そして絶奈に関しては酔っ払いのイメージしかないのに圧倒的なまでの力を見て驚く。

 

「おいおいあの3人はモモ先輩並みじゃねえか」

 

翔一の思ったことは正解だ。寧ろそれ以上の可能性もある。

 

「おい…確か風間翔一だったな」

「あんたは九鬼揚羽さん」

「ここは危険だ。早く離れた方がいいぞ」

「いやオレは見届けると決めたんでな。戦車でも動かないぞ」

「全くお前と言う奴は…これはただの戦いじゃないぞ」

 

揚羽の言う通り、これはもうただの戦いではなくなっている。今まで翔一たちが体験した戦いではない。これはもう裏の戦いになる。

前に一度、綾小路の屋敷で裏の者である『鉄腕』と戦ったが今の戦いはその時よりも遥かに違う。

 

「これは…戦い?」

「いや、一歩間違えれば殺し合いになる」

 

翔一も揚羽も今は見ることしかできない。

だがその場にまだ向かう者たちがいる。あと、数分で到着するであろう百代。揚羽の連絡によって現場に向かう壁越えの者たち。そして紅真九郎。

早く現場に向かわなければ殺し合いに発展してしまう。

 




読んでくれてありがとうございます。
感想などお待ちしています!!

今回はついに夕乃、絶奈、項羽の混戦が始まりました!!
百代は遅れてます。

夕乃の実力はまだ分からないですが真九郎より確実に上であり、原作では絶奈と魅空を相手にできる描写もあったので項羽や百代と相手にできるでしょう。
戦闘スタイルはよく分からないのでオリジナルかつ違和感がないようにします。

そして真九郎はどうやって戦いを止めるのか!?
次回もゆっくりとお待ちください!!

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