実は覇王ルートか心ルートかって急に迷ったんですが、やっぱ覇王ルートにしました。
そして今回からは星噛絶奈も登場させていきます!!
九鬼家に訪問
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紅真九郎の目の前に広がるのは九鬼財閥の極東支部である。ここには九鬼英雄や九鬼紋白などの九鬼家が住んでいる本部と言ってもいい場所である。
さて、何故に真九郎が九鬼財閥の極東支部に訪れているかと聞かれれば遊びに来たとしか言えない。実は紋白や義経たちから今度遊びに来いと言われていたので期を見て訪れたのだ。
せっかく遊びに来たのはいいのだが、まずは身体検査を2人のメイドにさせられていた。金髪ロックンロールメイドに黒髪美人の面白くも無いギャグメイド。ステイシーに李である。
「すいませんね。これも仕事ですので」
「ほー、なかなか鍛えてんじゃねえか」
親しい中に礼儀有りと言うやつかどうか分からないが、九鬼財閥は世界の九鬼と言われているから狙う者もいるのだろう。だから九鬼家から気に入られている真九郎でも確認をするのだ。
親しい人に化けて近づいてくる輩もいるものだ。裏世界には変装の達人だっているから当たりまえの警戒だろう。
(そういえばルーシーさんが言っていた『千変妖怪』って変装の達人なのかな?)
裏世界の上位十傑に入ると言われている『千変妖怪』。名前からして変装や化ける能力が持っていそうなイメージだ。
「よっしOKだ。通れオーガボーイ」
「オーガボーイって…」
「だって鬼じゃん」
「…鬼か」
そういえばステイシーは古書争奪戦で真九郎の崩月の角の開放を見ていたはずだ。そのイメージから付けられたニックネームかもしれない。
だけど会う度に『オーガボーイ』と呼ばれるのは勘弁してもらいたいし、名前負けしてしまう。
「そんな貴方に私から渾身のギャグを…」
「あ、大丈夫です」
「そ、そうですか…」
李が悲しそうな顔をしたのでやっぱり聞くことにした真九郎。結局聞いたギャグだがあまり面白くは無かった。
(何が面白いんだろう?)
(これは良い手応えだと自負します!!)
(ねーよ)
2人のメイドから審査を通り、九鬼財閥の極東支部に入る。で、いきなり最強と言われている従者部隊序列零位のヒュームが瞬時で現れた。
「こんにちは。お邪魔しますヒュームさん」
「挨拶は良いことだ上等な赤子よ。お前が紋様や義経たちの友人として訪れることは知っている。だが、余計なことはするなよ」
「しません」
ヒュームの威圧的な忠告に即答するしかない。真九郎はヒュームが苦手だ。なんせ彼の威圧的態度は中々慣れないのだ。
彼がこういう性格とは知っているがどうしようもない。最も紅香なら気にもしないで、逆に飄々な態度で接するのだが。
「ふん、最近はお前の評判を聞くぞ。揉め事処理屋として仕事をいくつかこなしているそうだな」
「はい。川神学園の学生から依頼をもらってます」
真九郎の評価が川神学園で少しずつ評価されてから揉め事処理屋の仕事も少しずつ依頼されるようになったのだ。
学生からの依頼なのでどれも簡単なもので楽勝だが、依頼は依頼で正確にこなしているのだ。
「だが、貴様にとっては生ぬるいんじゃないか?」
「生ぬるい?」
「裏世界に浸かった奴が表世界の仕事は生ぬるいと言ったのだ」
「…そんなことありませんよ。裏も表も関係無く仕事は大変です」
仕事で辛いや楽という部類はある。でも真九郎にとって仕事は全て大変で、選り好みはしていられない。
紅香ならきっと仕事が選べるだろうけど真九郎は選べない。仕事が選べる紅香は本当に凄いと何度も尊敬してしまうものだ。
「あいつはある意味特別だ」
ヒュームは紅香の顔を思い出したのか、苦い顔をした。真九郎はヒュームが苦手だが逆にヒュームは紅香が苦手なのだ。真九郎はヒュームが何故、紅香が苦手なのかは知らない。
ここで苦手の理由を伝えるならば、彼女はヒュームよりも自信家であるからという点だろう。ヒュームは自分よりの自信家を帝以外見たことが無い。しかも彼女はやることなすことが全て完璧にしているので文句も言えないのだ。
世の中には何でもこなす人間がおり、まるで選ばれた人間のようにだ。そういう人間が九鬼帝だったり、柔沢紅香だったりするのである。
「あいつとは今度会ったら借りを返さないとな」
(借りって何だろう?)
聞いたところで分からないだろうし、案外どうしようもない借りかもしれない。でも自信家同士にとっては大事なことかもしれない。
「いえ、しょーもないことですよ真九郎様」
「クラウディオさんこんにちは」
「こんにちは真九郎様。今日がご訪問の日だと存じております」
従者部隊序列第3位のクラウディオ。優雅に物腰優しい初老執事が現れた。彼こそがまさしく執事といったイメージが似合うだろう。
ヒュームは苦手だが真九郎は逆にクラウディオのことはとても話やすくて好感が持てる。威圧感をヒシヒシと放ってくる執事よりも優しい執事の方が良いに決まっているのだ。
「しょうもないこととは?」
「ただの子供の喧嘩みたいなものです」
「おいクラウディオ、子供の喧嘩って」
「そうでしょうが…単純に仕事で紅香様に良い所を取られただけなんですから」
「ああ…」
全てを察した。紅香ならヒュームから良いとこ取りをするのがイメージできる。普通なら『最強の男』と言われているヒュームから一本取るのは鉄心くらいかと思われるが紅香も一本取れそうなのだから恐ろしい。
真九郎の勝手な想像だが、彼にとって紅香は本当に何でもできるような人物なのだ。
「ま、ここで年寄りの相手をしなくてもいいですから真九郎様は紋様たちのところへ」
「はい。失礼します」
真九郎はそそくさとその場から離れた。
「全く…若者をいじめるのはよしなさい」
「苛めてはいない。ただ同じ学園生として会話をしていただけだ」
「の割には気をヒシヒシと放ってましたよ」
「ふん、あの程度は耐えてもらわねば困る。いつかは従者部隊にはいるやもしれんのだからな」
ヒュームが凶悪なニヤリ顔をしてクラウディオはため息。まだ彼が九鬼財閥に就職するとは決まっていないのに既に鍛える気がマンマンである。
真九郎は知らないだろうが実は案外気に入られているのだ。彼は弱く、精神面では波があるが覚醒した時の豪胆さに目を付けられたと言ってもいい。今時の若者にしては根性があるというところだろう。
「奴ほどの人材はそうそういない」
「高評価ですね真九郎様は」
「あいつは脆い原石だ。磨けば砕けるか、輝きが増すかのどちらかだ。ならば輝きを増したいだろう」
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真九郎は案内されると紋白が突っ込んできた。いきなりの行動だが優しく包むように受け止める。この行動は紫と同じだなっと思って口元がほころぶ。
「よくきた真九郎!!」
「真九郎くん。こっちだ」
義経たちも顔を出してきて、弁慶や与一に清楚だっている。クローン組の全員集合である。そのまま案外されるがまま義経の部屋に入るのであった。
「え、義経の部屋なのか?」
「そうだよ~。主の部屋が一番」
「うう…初めて男の人を部屋にあがらせるなあ」
与一も男性なのだが、彼はカウントされていないらしい。幼い時からずっと一緒にいれば男性という括りではなくて心の許した家族という括りなのだろう。
さて、部屋に入ってチラリと部屋を見ると質素な内装というのが感想だ。だからといってどうこう思わないし、五月雨荘の真九郎の部屋の方がもっと質素である。
「殺風景な部屋だけどゆったりしていってくれ真九郎くん」
「お邪魔します」
既にクラウディオにでも用意されてたのか、クッキーや紅茶がある。見て分かるように高そうなクッキーに紅茶だ。味の違いが分かるかどうか。
弁慶は川神水とツマミが欲しいらしいが酔うと困るので義経が止めている。なので弁慶は真九郎にツマミをご所望していた。作るのは構わないが今回はお客という立場なので清楚から優しく止められていた。
「俺は構いませんけどね」
「駄目だよ真九郎くん。今日はお客様なんだから」
「清楚先輩の言う通りだ。真九郎くんはゆったりな」
清楚と義経から座っているように2人から肩を押されて座らされた。そして横にいる与一から「座ってな」と言われる。
「異能者はあまり目立たないことだ。静かにするのが一番だぜ」
与一がまだ中二病をこじらせている。クローン奪還事件を際に彼とは本当に距離が縮んだと思われる。最も距離を詰めてきたのは与一の方で、真九郎の異能さに興味を持たれたからだろう。
それに死闘を潜り抜けた関係でより仲というか絆は硬い。当然の仲間の距離感だろう。
「ところ真九郎…また悪宇商会と戦ったらしいな」
「…どこで知ってるのさ」
由紀江の妹が川神に訪れていた時に起きた沙也加誘拐事件で真九郎は悪宇商会の『鉄腕』ダニエル・ブランチャードと再会した。しかし戦ってはいない。戦ったのは真九郎ではなく百代たちなのだ。
その事件はごく一部の者しか知らないはずである。なのに与一は知っていたとなると九鬼従者部隊の誰かから密かに聞いたのかもしれない。
「俺は戦っていない。戦ったのは川神先輩だよ」
「川神先輩か。まあ、武神なら悪宇商会の奴らと戦えそうだな」
「実際に戦えてたよ。それに勝った」
百代は『鉄腕』確かに勝った。裏の者が表の者が、武神という肩書があるが学生が戦闘屋に勝ったのだ。彼女の強さはやはり異常なのだろう。
「川神先輩は大丈夫か?」
「大丈夫ってのは?」
「…彼女は戦闘狂だ。表でしか戦ってきていない者が裏の者に勝った味を覚えたら収集がつかなくなるかもしれん」
「まさか」
「戦闘狂は戦いに飢えている。なら強い奴と戦い続けるぞ。その相手は表も裏も関係無く、強さが全てで計られる」
与一の言葉に納得してしまいそうになる。戦闘狂は戦いが全てであるかもしれない。戦闘狂として極まるとただ戦いだけになってしまう存在だ。
もし、百代が戦闘狂として近づいているなら表の者と戦うのがつまらなくなり、裏の世界に手を出すかもしれないのだ。与一はその危険性を危惧していたのである。
はっきり言って与一の危惧は大いに可能性としてあるだろう。真九郎は百代の戦闘欲求に対して考えてみると時折、彼女から決闘を申し込まれているし、夕乃も彼女からアプローチされている。
確かに百代からは戦闘狂の一端は滲み出しているかもしれない。何故、彼女が戦闘狂になっていっているのかは分からないが、そうなっているのは彼女の環境と心の問題だ。
「今の川神先輩は心に付け入る隙がある。彼女が闇に堕ちないか心配だな」
「…そうだね」
「モモちゃんは大丈夫だよ。だって強いからね」
「葉桜先輩?」
百代の危惧を話していたら清楚から「大丈夫」だと言われた。彼女にも大切なものがあるから闇に堕ちたりはしないという論だ。
風間ファミリーのみんなが百代の戦闘欲を抑えていると言っても過言では無い。彼らがいるからこそ彼女は平穏でいられるのである。
「確かにモモちゃんは危なっかしいところはあるけど、友達思いは本物。だから大丈夫だよ」
「…葉桜先輩それは甘いぞ。人間は裏の世界を知ると変わる。それがなまじ強者だと味を占めて手が付けられなくなる」
「大丈夫だと思うけどなあ」
「おい与一。お前も主の手伝いをしろ」
「ちょっ、姉御!?」
弁慶が与一の首根っこを掴んで義経の手伝いを無理矢理させてやっている。彼女たちの力関係も相変わらずのようである。
悪宇商会で百代の危惧の話になんてなったが、清楚の言う通り大丈夫だろう。彼女が闇に堕ちることなんてないはずだ。そう思いたい。
「さあ早速遊ぶぞ真九郎!!」
「うん紋白ちゃん」
何をして遊ぼうかという話になって、何故か脱衣麻雀をやる羽目になった。これはおかしいと思いつつ、義経を仲間にして弁慶に抗議したがいつの間にか卓の席に座っていたのだ。
そして脱衣麻雀が開始されていた。これには「あれ?」と思うが始まったものは仕方がない。脱衣麻雀をやるしかなかった。
「ここでリーチだ」
「それロン」
「うわああ!?」
負けたのは義経であられもない姿になったそうな。真九郎は紳士なので背を向けていたそうだ。
「ところで真九郎よ、九鬼財閥に就職すると心変わりはしたか?」
「してないよ紋白ちゃん」
「え、真九郎くんは九鬼財閥に就職するのか?」
「しないかな」
「そうなのか。真九郎くんが九鬼財閥に就職したらいつでも会えるのだけどな」
「え?」
「いやいや何でもないよ真九郎くん!?」
「むう、真九郎が九鬼財閥に就職したら私の従者にもなってほしいのだが…」
紋白は最近自分の専用従者に考えていた。それは揚羽や英雄の専用従者である小十郎やあずみの絆を見て羨ましいと思ったからである。
そこで自分と絆を深められる者は誰かと思えば真九郎が思い浮かんだのである。彼が良い、彼じゃないといけない気がする、彼こそが自分と絆が深められる者だと思うのだ。
(真九郎が良いなあ)
「真九郎~つまみを作って」
「良いですよ」
「だから真九郎くんはお客様だからダメだぞ弁慶」
「えーいいじゃん」
川神水でいつの間にか場酔いしているのかコロンと弁慶が真九郎の膝の上に寝転がる。環とは違うので弁慶の絡み酒は可愛いものだ。
酔っ払いの対処は完璧でどうすればいいかは身に染みている。だから素早く弁慶を抱える。
「うえ、し、真九郎?」
急に抱きかかえられてしまって弁慶は酔っているのと照れてしまったので頬が赤くなる。
軽々と抱えられてしまって彼の力強さを直に感じてしまい、ついドキマギ。まさか自分が男性に抱きかかえられるなんて初めてであるからだ。
「すいません。弁慶さんの布団はどこですか?」
「え、真九郎それって…意外に大胆?」
「なに環さんみたいなことを言ってるんですか」
酔っ払いの対処方法その1。布団に入れて寝かせるべし。これで大体は解決できる。
「扱いなれてるな」
「酔っ払いの相手は慣れてるからね与一くん」
「やるなあ真九郎くん。義経はいつも弁慶に負けちゃうのに」
「なら酔っ払いの扱い方を教えようか?」
「頼むよ真九朗くん!!」
「ちょっと真九郎~」
「なら弁慶さんは川神水を控えることだね」
「ちぇー」
「次は人生ゲームで遊ぼう!!」
真九郎は久しぶりに友人たちとの遊びを満喫していく。
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川神百代は心がざわついているの確かに感じていた。このざわめきは誰にも教えていなく、風間ファミリーにも鉄心にも教えていない。
このざわめきは沙也加誘拐事件の時に戦った『鉄腕』から起きたものである。
(確かあいつは裏の者で、悪宇商会ってのに所属してるって言ってたな)
彼女は『鉄腕』ことを思い返す。あの時は仲間を傷つけられて怒りに怒った。だが彼女は『鉄腕』と戦ったあの感覚が忘れられないのだ。
あのピリピリとした感じ、本当に戦っているという実感、敵をぶちのめした達成感。まさにあの感覚こそが強者と戦って勝ったというのがやっと得られた気がしたのだ。
彼女は自分の天才さと実力で充分な戦いができない。自分と十分に戦ってくれる相手の候補がいるがなかなか戦えないのも戦闘欲求が溜まるストレスにもなっていた。そんな時に自分と本気で戦った相手が現れ、倒したのだ。
相手が表の人間ではなくて裏の人間だけど充分に戦えたのが彼女の心を満たしてしまったのである。それがいけなかった。
(裏の人間とならもっと死闘ができるのかもしれない)
もう表の人間では戦える者が限られてくる。しかし裏の人間なら自分の知らない強者がまだまだいるかもしれないのだ。
もっと戦える、もっと死闘をしてみたい、この溢れる戦闘欲求を満たしたい。彼女はどんどんと余計で本能に忠実な考えをしてしまっている。
(くっ、何を考えてるんだ私は!?)
自分でもおかしな事を考えていると理解はしている。百代だって馬鹿じゃないのだ。戦いに飢えているからといって領域外に手を出すのは間違っている。
彼女が裏世界に手を出したらどうなるかと考えてみると風間ファミリー、親愛なる妹、祖父にも取り返しのつかない迷惑をかけてしまうのではないだろうか。
(もう考えるな。裏世界は私には関係ない…関係ないんだ)
本能は欲望に忠実だが、彼女の理性が何とか納めている。何度も自分は馬鹿なことを考えていると思い返すことで理性をできるだけ強めるしかない。
百代は精神面が未熟だと鉄心やヒュームからも前々から思われているが今は更に心に隙が出来てしまっている。だが、彼女がこのざわめきを乗り越えた時は更に強くなるはずだ。
乗り越えるべき壁は複雑で高いが最終的には彼女の問題だ。自分でどうにかするしかない。そう、結局自分でどうにかするしかないのだ。
(もう忘れろ…大和でも弄って気をまぎわらすしかないなー)
今は心のざわめきを消す。その為には大和や清楚、夕乃と遊ぼうかと考えるしかなかった。取りあえず清楚と夕乃を両手に花状態にしてみたい。
(それにしても悪宇商会か…どんな組織なんだろうか?)
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悪宇商会本社のある一室にて2人の女性が会話をしている。1人は静かにコーヒーを飲むルーシー・メイ。もう1人は酒ビンをを片手に良い感じに酔っている星噛絶奈だ。
「出張ですか?」
「そうよ」
「どうしてまた••••••」
「本家から個人的に仕事を頼まれちゃってねー。そっちを優先したいの」
星噛本家からの仕事とは人工臓器の回収。あるオークションに出品するらしいのだ。何処のどいつが出品させたかは知らないが、問題なのはその人工臓器が旧式だと言うこと。
星噛は常に最先端の技術で人工臓器を造り出している。その価値は同等の重さの宝石と取引されるほどだ。
「でも旧式の物を出品されて、悪い噂でも流れたら本家としては嫌みたいなのよ。だから私が回収するわけ」
「そういうことですか」
「そうなのよねー」
グビリとアルコール度数の高い酒を飲む。面倒な仕事だが星噛本家からの依頼なら断ることはできない。絶奈自身も断るつもりは無い。
「どこに出張するんですか?」
「川神市よ」
「川神ですか。たしか武術が盛んなところですよね」
人事部の副部長として川神市は人材の宝庫として目をつけている場所。特に武神と呼ばれる百代には注目しているのだ。
彼女は心が未熟だが、戦闘屋としての才能がある。とても良い人材だ。
「私もあそこは人材の宝庫だと思っているわ。ついでに有能な人材がいないか見てくるわよ。今回は下見だしね」
「お願いします。特に武神である川神百代について見てきてください。彼女はとても良い人材ですから」
「いいわよ」
「武神はとても規格外と聞きますからね。スカウトできれば即戦力ですよ」
噂で聞くと空を飛べたり、ビームを撃てたりと信じられないことばかりだ。しかし、目の前にいる絶奈も規格外なので絶対にありえないなんてことは無い。
そもそも裏十三家が信じられない規格外なのだ。
「私も近々訪れてみましょうかね川神に」
パラパラと白紙の手帳を見るルーシー。
人事部の副部長としてやはり自分の目で見てみたいのもある。そしてスカウトしたい。
「とても強いと聞きますが、どう思いますか?」
「まあ、私と普通に戦えるんじゃない? 負ける気はないけど」
絶奈と百代も規格外だが1つだけ決定的に差がある。それは殺しの経験があるかどうか。経験があるか無いかで戦いの流れは変化するものだ。
第3者として考えてみよう。どちらも規格外だが、戦いを楽しむ者と殺しにくる者を比べたらどちらが軍配あるかなんて後者に決まっている。
「貴女は最強ですからね」
「でも去年の一件でもう最強とは言われないわよ」
「ああ、紅さんのことですか」
「そうそう。紅くんのおかげでね」
ルーシーは去年の真九郎対絶奈の死闘を思い出す。お互い血だらけになり、自力で立てなくなるほどの戦いだったのだ。結果は引き分けだったが、未熟な揉め事処理屋が悪宇商会の最高顧問と引き分けにしたのはある意味勝利したようなものである。
当の本人は勝利したとは微塵も思っていない。寧ろよく引き分けまでにしたものだと、後に思ったほどだ。
「歪空魅空との強襲も大変でしたね」
悪宇商会の本社にたった3人で強襲したのは流石テロリスト家系としか言えない。しかも堂々と正面から来たのだから大胆すぎる。
「でも紅くんが歪空を倒したから私としては満足ね」
『星噛』と『歪空』は犬猿の仲。なぜなら人工物により不死に近づく性質ゆえ、生まれながらに不死に近い歪空とは犬猿の仲なのだ。
「歪空に敗北を与えられて良い気分よ」
歪空に黒星を張り付けたことを思い出して良い気分になる。
「そうですか。それにしても裏十三家が絡む事件になると必ず紅さんがいますよね。歪空も最初は紅さんのお見合いから始まりましたし」
「そうねー」
「ふと思ったのですが、裏十三家同士は相性が良いなんて聞きますがどうなんですか?」
「その噂は正解よ。詳しくは知らないけどね。異能者同士だからじゃない?」
酒をグビリと飲みながら適当に答える。
「じゃあ紅さんのように角を組み込まれたような人はどうですか?」
「相性が良いんじゃない。私は紅くんのこと素敵だと思ってるし」
「ほお••••••」
これは珍しい評価だと思うルーシー。去年のキリングフロアでの一件で、本音としては敵かと予想していたからだ。
「では好きだと?」
「ええ、好きよ」
これは更に驚きだ。最高顧問から気に入られているから。
ルーシーも真九郎のことはある意味気に入っている。できれば悪宇商会まだスカウトしたいくらいだからだ。
「とっても好きよ。ぶっ壊したいくらいにね」
「••••••そ、そうですか」
酔った笑顔で恐いことをサラリと言うのを聞いて冷や汗がタラリ。
その言葉は「どっちの意味で?」と聞きたかったが口が動かなかった。
「川神には美味しいお酒あるかなー?」
読んでくれてありがとうございます。
読んでわかるように百代は裏世界(悪宇商会)に興味を持ち始めました。
更に星噛絶奈やルーシーも登場ということは・・・?
展開が分かる人は分かるかもしれませんね。
そして同時に真九郎は清楚の問題を解決していきます。(でも百代の方も解決しないといけないので2つも問題を解決しないとなあ)
真九郎、絶奈、ルーシー、百代、清楚といった者たちが川神で何かを巻き起こす!?