紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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こんにちわ。
今回は大勢で洋食屋へ行きます!!
まあ、日常回ですけどマジ恋勢が少しづつ紅の世界へと足を進めていきます感じかな


余計な道へ

089

 

 

真九郎たち一行は昼食を取るために島津寮から出る。そこから先は縁があるのか岳人や卓也たちとも合流する。

 

「崩月先輩の家族が来たと聞いて!!」

「なりゆきだけど同伴させてもらいます」

 

さらに約束を忘れてはいけない。崩月の家族や環たちが来ると伝えて約束した女の子がいるのだ。

 

「真九郎!!」

「紫、こっちだよ」

「紫ちゃんだー!!」

「環よ久しいな!!」

 

紫に護衛のリンまでも加わる。本当にもう大所帯である。観光目的の集団にしかみえないだろう。

最も崩月家と環たちは本当に観光の人たちではあるが。

 

「良いお店って何処?」

「クマちゃんに教えてもらったお店で、洋食が美味しい洒落た食堂だよ」

「クマちゃんのオススメならハズレはないね」

 

クマちゃんこと熊飼満。彼は美味しい物には情報通で食については彼に聞けばハズレは無いと言われている。

そんな彼のオススメのレストランなら友人や崩月家の人たちを案内しても大丈夫である。

 

「美味しいごはん。楽しみねー」

「そうだな犬。クマ殿のオススメなら安心だろう」

 

今からランチが楽しみな一子にクリスである。

 

「いやーそれにしても崩月先輩のお母さまは妖艶でイイな」

「駄目だよガクト。相手は人妻だよ!!」

「それが良いんじゃないか。年上に人妻。サイコーだな」

「全くガクトは…いつものことだけどさ」

 

本当に年上美人だと岳人はある意味ダメとなる。しかもそこに人妻とつけば岳人は更に興奮する。だからと言ってどうと何かが起こるわけでは無く、ただ勝手に岳人が興奮してるだけである。

補足だがついでに百代もテンションが上がっている。エロ親父魂の発揮である。さらに補足だがやはりと言うか、環とすぐに仲良くなる。

 

「うーむ。更に切彦がいれば良いのだが…居ないのか」

「切彦ちゃんはたぶん仕事だよ。だからまた今度誘おう」

「うむ。そうだな!!」

 

紫はいつも通り元気な笑顔だ。そして真九郎の右手を強くぎゅっと握っている。それは左手を握っている散鶴がいるからだろう。

会う度に「真九郎はやらん」と言って先制しているのだ。しかしこれでも夕乃の妹であるので弱気でありながらもしっかりと真九郎にベッタリしているのを見るとしたたかではある。

今は内気であるが夕乃と同じくらいの年になれば強かな女性になるかもしれない。そして真九郎よりも強い崩月流の使い手になるかもしれないだろう。

前に銀子から散鶴は成長したら真九郎より強くなるのでは、と聞かれたことがある。その問に対して否定はできなかった。確かに彼女は真九郎よりも強くなる可能性を持っているのだから。

 

「紅くんってば小さな子からモテモテね」

「そうだなー。やっぱロリコンだな」

 

ニコニコと見る一子とニヤニヤと見る岳人。お願いだからこれ以上ロリコンと言わないでもらいたいと思うのであった。

ただでさえ、もう既に川神学園で真九郎はロリコンのレッテルを張られ始めているのだから。

 

「川神学園では井上に次ぐ第二のロリコンだからな」

「やめてよ本当に…」

 

川神学園であだ名がロリコンになったら目も当てられない。

こんなんだが真九郎はからかわれながらも仲良くやっているつもりである。そんな様子を集団の中から見る大和。

 

(…うん。普通に見ても普通の学生だな)

 

大和は最近まで秘密裡にあることを調べていた。それは『裏十三家』についてだ。

 

(今日は裏十三家の崩月が家族で来ている。何か分かるだろうか?)

 

父親からは関わることは止めろと言われているが同じクラス、同じ寮にいるのだから関わるなというのは無理な話だ。だが深く踏み込まなければ良いだけだ。

それなのに調べるのは父親に反抗したわけでもないし、自ら危険に飛び込んだつもりもない。ただ仲間に危険が及ばないように自分が準備を固めているだけなのだ。

これは仲間思いの大和が動いたことである。しかし、大和は自分が調べ上げているモノが何なのかを理解していないし、触れていいものでもないことが分かっていなかった。

彼は軍師と仲間から頼られていても、やはり彼は表世界の人間だ。表世界の人間が裏世界のことを調べ上げても碌なことがおこらない。

だけど大和はその危険性に気付かない。真九郎がもし気付いていたら今すぐにでも彼を止めさせていただろう。

大和が本当に気付くのはまだ先の話である。そもそも『裏十三家』という言葉を聞かなかったら彼は、彼らは今後に起こった『アノ事件』に関わらなかっただろう。

 

 

090

 

 

クマちゃんこと熊飼満のオススメの洋食のレストランに到着し、ゾロゾロと入店していく。店の雰囲気も良くて、繁盛している。これは期待しても良いだろう。

席に座ってメニューを開く。何を食べようかと考えながら決めていく。

 

「わたしはこの、チーズハンバーグとやらを食べるぞ。真九郎は何にするのだ?」

「そうだな。俺はこのエビフライ定食で」

 

全員が決まったら店員を呼んで注文を頼む。届くまで彼らは雑談を楽しむのであった。

 

「お酒は…」

「ダメです。十分呑んだでしょ」

「でも吐いちゃったし」

「吐いたらって呑んだことがゼロになりません」

「ぶーぶー」

「鳴いてもダメです」

 

環はまだ酒が飲み足りないようだ。前に「お酒を飲むと楽しくなる」なんて言っていたが吐くまで飲むのは違うと思う。

 

「ところで環さんは何で川神先輩と決闘してたんですか?」

「うーんと、ノリ」

「ノリで決闘したんですか…」

 

もう呆れてしまう。ノリで武神と決闘するのは環くらいかもしれない。

 

「それにしても百代ちゃんだっけ。凄く強いね。おねーさんビックリしちゃった!!」

「それはこちらのセリフですよ。武藤さんも強いですね。また決闘したいなーなんて」

「良いよ。おねーさんいくらでも相手しちゃうよ」

「本当ですか。ヤッター!!」

 

テンションが上がるのはやはり、久しぶりに強者が、百代が強者だと確信できる相手が決闘を応じてくれたからだろう。

何せ最近はお預け、もしくは目の前に強者がいるのに手を出せなかったのだから。

 

「モモ先輩が強者だと認める程なんてそんなに強いの?」

「そうだな。俺様には酔っぱらいの美人にしか見えないぜ」

 

卓也に岳人たちの疑問は確かだが、武神が言うのだから確かなのだろう。

 

「ええ。強いと思うわ」

「そうなのワンコ?」

「うん。だって酔ってたのにあの人はお姉さまの拳を受け止めたのよ」

「マジかよ」

 

彼女たちの基準だと百代の拳を受け止めた人なら強者確定である。いつも一緒で武神の肩書きを持つ者と居ればそんな考えになってもおかしくはないだろう。

しかし、人の強さなんて一概には言えない。

 

「楽しみだなー!!」

「私もー!!」

「環さんまだ酔ってますね」

 

すぐに仲良くなる二人。やはり、気が合う性格だからかもしれない。

 

「実際にどれくらい強いんだ?」

「前に大男を拳一発で沈めたのと、複数の男たちを簡単に倒してた」

「おお、マジか。つーか、どんな場面だよ」

 

どんな場面かと言われて思い出す。それは下着泥棒を捕まえる時と暴力団事務所で暴れた時だろう。

 

「下着泥棒を捕まえる時かな」

「下着泥棒は女の敵ね」

「確かに。そんなのは悪だ!!」

 

一子にクリスが息が合うように下着泥棒は許さないと言う。真面目で頑張り屋からしてみれば下着泥棒などの犯罪は許さないのは当たり前だろう。さらに彼女たちのような正義感の強い者たちにとってもだろう。

 

「確かに敵だよね」

「一応言うけど京もある意味人のこと言えないからな」

「大和ってばキツイよ。でもソコがまた良い。付き合って」

「お友達で」

「この一連の流れは最近何度も見てるな」

 

大和と京のこの流れはいつもの流れ。最初はよく堂々と告白できるものだと思うが最近は気にしなくなってきた。

だがその告白は本気の本気の告白ではない。もし本気なら気持ち的に違うはずだ。

本気の告白とは全てを吐き出すくらいの気持ちがなければ告白ではないと真九郎は思っている。本気の告白とは紫が純粋に真っすぐに、心の底から言うくらいじゃないといけない気がする。

最もその考えは真九郎の考えだが、純粋すぎるのも返答が困るけれども。

 

「武藤さんの武術は空手ですね」

「そうだよ。これでも空手道場の師範代で私の可愛いアイドルたちに教えてるんだー」

「おお、師範代!!」

 

目をキラキラさせる一子。彼女の目標が川神院の師範代なのだから他流派とはいえ、自分の目標に達した人は無条件に尊敬してしまう。

 

「どうやって師範代になったんですか!!」

「頑張ったから」

「やっぱり努力なんですね!!」

(ダメ人間が努力を口にするのか…)

 

環の「頑張る」や「努力」と言う言葉はどうも真九郎たちが聞くと違和感しかない。

 

「何よその顔は真九郎くん?」

「何でもありません」

「鏡で自分の顔を見ろと言うことだ」

「えー闇絵さんったら鏡見たら美人が映るだけだよ。ねー百代ちゃん」

「ええ。映るのは美人ですね」

「だよねー!!」

 

確かに美人だと頷く岳人だが環の性格的にに美人をぶちこわしているのをまだ分からない。

 

「武藤さんの空手はどんな流派なんですか?」

「流派?普通の空手だよ。全然普通のね。特別って言ったらやっぱここにいる崩月の崩月流かな」

「へえ。やっぱ崩月流は特別なんだ。どんなんか知りたいな」

 

この情報は大和も知りたい。これにより崩月というのがどんな存在か少しでも分かるかもしれない。『裏十三家』も分かるかもしれない。

 

「駄目ですよ。教えません」

「えー…ってそうだよな。ウチだって門外不出だし」

「川神さんが入門すれば分かるわよ」

「お母さん冗談はそこまで」

「はいはい」

「夕乃ちゃん家に住み込みかあ…何とも魅惑的な誘いだ。んーでも私は川神院があるしなー。悩むぞう」

「そこは悩んだらダメだろモモ先輩」

 

これでも川神院の次期総代である百代が他の流派に誘惑されてどうするのだろうか。

 

「でも崩月流は特に秘密にしてるわけじゃないけどね」

「え、そうなんですか?」

「崩月流はただの喧嘩殺法よ。お父さんもそう言ってるしね」

「喧嘩殺法?」

 

崩月家現当主の崩月法泉が自分の流派を喧嘩殺法と言うくらいなのだから喧嘩なのだろう。それに崩月流は門外不出というわけでは無い。

現当主の法泉が許可すれば誰だって入門できる。何故教えられない、教えなかったというのはやはり崩月流は真っ当な武術ではないからだろう。

川神流も規格外だが崩月流は裏に通じるものだ。子供時代の真九郎のように『生きる為に』門を叩いたのと普通に習いたいとでは訳が違うのだ。

 

「喧嘩殺法って?」

「そのままの通りよ」

(…変にに聞くと怪しまれそうだな)

 

づいづいと崩月に関して聞くと探りを入れてるように思われるからダメだ。大和は慎重に言葉を選ぶ。

差し支えの無い質問や会話で崩月の情報のことを見つけていく。でも確信ともいえるような情報は無い。どれもまるで一般家庭にあるようなものばかりだ。

それはそうだろう。何せ『裏十三家』の一角とはいえ既に廃業しているのだから崩月家としてのマトモな答えが出てくるわけはない。

崩月の闇は法泉の時代で終わっている。あるのは闇の残りカスだけだろう。裏から足を洗っても完全には拭いきれないものだ。それが『裏十三家』ならば尚更である。

 

(裏十三家って何ですかって聞ければ良いんだけど…そんな直球はムリだよな)

 

流石に崩月の家族が揃って個人情報を堂々と洋食店で聞くなんて馬鹿なことはできない。

それに聞きたいのはたくさんあるのだ。大和は考えた結果、今度にでも真九郎と一対一で会話をしようと決めた。

向こうは応じてくれるか分からないが、彼が裏世界で有名なら警戒して聞き出すなんてことは最もな理由になるかもしれない。

 

(今回は少しでも崩月のことが分かれば良いってことにしようか)

 

彼はここで次への扉。裏への扉の入口に近づく。

 

(あの少年…余計な考えをしていそうだな)

 

楽しそうに会話や食事をするこの瞬間。大和だけが別に考えていた。そして彼の些細な雰囲気を気付いた闇絵はコーヒーを静かに口にするのであった。

 

「少年よ」

「何ですか闇絵さん?」

「1つアドバイス。いや、小さな注意をしよう」

「い、いきなりなんですか…」

「前途ある若者が余計な道を通ろうとしているぞ」

「え、それって…?」

「おお。チーズハンバーグとやらが来たぞ!!」

 

謎の注意を受けて楽しい食事が始まる

 

「それにしても川神にも可愛い子が多いねー!!」

「うわわわ!?」

「ちょっ!?」

「だろー武藤さん!!」

「止めんか酔っ払い!!」

 

 

091

 

 

レトロな雰囲気の喫茶店。

コーヒーに角砂糖を二個入れてかき混ぜる切彦。その目の前に黒いコートを着た男にも女にも見える女性のルーシー・メイが優雅にコーヒーを飲む。

 

「いやー切彦くん。またまた仕事が入りましたよ」

「どんな仕事ですか?」

「脱走者の確保、もしくは始末です」

「そうですか」

 

脱走者の確保は分かる。しかし始末も含まれるとはなかなか物騒なものだ。だが裏の仕事なんて『物騒』なんて言葉は可愛いものである。

裏の仕事はいつもが命のやりとりである。そこに感情なんてあったら命がいくつあっても足りない。裏の仕事は機械のようにこなすべきだ。

 

「どんな奴だよ」

 

バターナイフを持って急に切彦の雰囲気が変わる。そしてぺたぺたとホットケーキにバターを塗っていた。

 

「これが資料です」

 

パサリと渡されて中身の確認する。

 

「相手は同じく裏世界の人間で白昼堂々とあの『殺人未遂』を起こした人物です」

「ああ、アイツか。だがアイツは紅の兄さんに鼓膜と股間を潰された後に現行犯逮捕…それで脱走か」

「こんな人を野放しにできないから悪宇商会に依頼が来たんですよ。もっとも我が社の他にも依頼はいってるかもですね」

「例えば揉め事処理屋とか?」

「かもねですね…例えば紅さんとか」

 

この脱走者は大物の令嬢を狙った犯罪者だ。その犯罪者を潰したのが件の真九郎である。もしかしたらこの犯罪者は真九郎の元にあらわれるかもしれない。

なぜなら恨みをもって現れるかもしれないからだ。ならば向かう先はあの川神市になりそうだ。

 

「ならさっさと向かうか」

 

コーヒーを飲んで、バターナイフをポッケに入れて店を出る。

 

「幸運を祈りますよ。…と言っても切彦さんは死神でしたね」

 

ルーシー・メイは白紙のメモ帳を開いてこれからの予定を確認する。悪宇商会は裏世界でも5本の指に数えられるくらいに大きな企業だ。

忙しいくらい依頼が入っている。これからルーシー・メイは次の依頼人の元に向かわなければならない。企業が繁盛しているのは良いかもしれないが忙しすぎて休みがとれないのは困ったものである。

次の依頼人は相当の金持ちで曰く、名のある名家である。護衛と言う名の警備を担当してほしいとのこと。

こんな名家が悪宇商会に依頼するなんてと一瞬思ったが『表御三家』の九鳳院も依頼があったなと思い出す。最も九鳳院ではあるが、その九鳳院の次男個人が依頼したわけだが。

 

「たぶんこの名家も個人的の誰かでしょうねえ。なんせこの名家の仕事がら我々悪宇商会を使うとは考えにくいですし」

 

パラパラと白紙のメモ帳を開いて次の予定も確認する。

 

「そういえば川神で『川神裏オークション』をやる情報がありましたね。これは依頼が入って来そうですね」

 

次の大仕事をどう捌くかを考えるルーシー・メイであった。




読んでくれてありがとうございました。
今回の日常回に少しづつ次なる事件やフラグを混ぜ込んだ形になりました。

極悪人が動き、悪宇商会もとい切彦が動きます!! そして大和は裏十三家を追い始める。
マジ恋と紅が少しずつ混ざっていきます!!


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