悪宇商会の3人の戦闘屋との決闘は最終戦です。
どんな戦闘にしようかと悩みましたが頑張って何とか書きました。
どんなんかは物語をどうぞ!!
078
真九郎VSプリムラ
川神学園のグラウンド場に二人の男女が対立する。男が真九郎で、女がプリムラだ。
二人は初対面では無く、ちょっとした知り合いである。最も、知り合いと言っても出会いは最悪。最初から敵である。
「おひさしぶりですね紅真九朗」
「・・・確か隻さんの部下の人ですね」
「貴様がセキ様の名を口にするな」
いきなり重い殺気を放たれる。だが、真九朗は負けない。殺気なんて今まで何度も味わっている。だが、今回の殺気は怒気が含まれている。
真九朗は確実にプリムラから恨まれているのだ。恨まれている理由なんて『あの時』の事件だろう。しかし、恨まれる筋合いは無い。先に手を出したのはプリムラたちの方なのだから。
「貴方とは休戦中の条約をしていますが今回の場合は適用されません」
「ああ、確認はとってある」
「この決闘で戦うのにあたって、万が一殺しても構わないということです」
「・・・文句は無い」
彼女からの殺気からで分かる。どうせ殺す気だろうというのがヒシヒシ伝わるのだ。この決闘は殺しは不可となっているが『不慮の事故』扱いは含まれない。
彼女とは個人的な因縁なんてものは無い。あるのは隻を倒した事に関しての事かもしれない。
そんなものは逆恨みだ。だが、この業界に入ったときから理不尽な怨みや理解されない怒りを受ける覚悟は出来ている。
以前に魅空の友人から怨みを買ったが、その友人は真相を何も知らないから真九郎を恨んでいる。だが真九郎は彼女の友人のためにも真相を明かすつもりはない。黙って怨みを買うだけ良いことだと判断している。
「仕事を完遂させるために私一人で残りの2人も倒す嵌めになりました。貴方をさっさと仕留めます」
「悪いが殺されるつもりは無い。人を商品のように扱う奴等に義経さんたちを渡すわけにはいかないからな」
さっきから殺気を受けるのは理不尽だ。人を道具のように思うなんて良い気はしない。真九郎は静かに怒る。
ビリビリと周囲に殺気と怒りが響く。
「この業界では当たり前のことです」
「ああ、そうだな。だが知り合いや友人がそんな目に会えば冷静に我慢できるほど人間できていないんだよ俺は」
銀子や夕乃、紫が狙われたら真九郎は冷静になれる自信は無いとすぐに答えるだろう。
「ですが、この決闘で負けたら文句は言わせませんよ」
「・・・分かっている」
負ければ終わりだ。負ければ命は無いかもしれない。義経たちも奪われる。だから今の精神は静かに燃え上がらせる。
「・・・いくぞ」
「こいよ」
お互いに拳を強く握る。お互いに走り出す。お互いに拳を突きだした。
そして、押し負けたのは真九郎であった。
「がっ、ぐぅ!?」
グラウンドをゴロゴロと転がっていく。その威力はそこらの戦闘屋を超えている。星噛絶奈の『要塞砲』よりかは劣るが人間を殴り飛ばす威力は充分過ぎるだろう。
プリムラとは今回が初めて戦う。前回は詳細を聞いたところ、切彦が倒したそうだ。一太刀で倒したため、実力は分からないと切彦は言っていた。彼女が強すぎるのだ。だが今のプリムラの姿を見て強さの理由がすぐに分かった。
「その両腕のは・・・」
「セキ様と同じ力だ」
「星噛製の刃。しかも2つか」
プリムラの両腕の肘から『星噛製の刃』が埋め込められていた。隻の時と違い、両腕とは無茶をしている。
「セキ様に近付くために最高顧問に大金をはたいて埋め込んでもらった。私はセキ様のためなら身体をいくら改造しても構わない」
プリムラは隻のことを尊敬し、妄信し、崇拝している。彼のためなら何でもできる覚悟があるのだ。その覚悟の現れが『星噛製の刃』だろう。
(・・・あの刃の性能が上がっている。星噛の発展力か)
サイボーグ技術を持つ星噛家は1度破られた物を更に修正するのは当然だ。今回の『星噛の刃』はより、切れ味を増して腕力に握力を向上させる機能を持っている。
「私はセキ様を倒したお前を認めない」
「認めなくていいよ。認めて貰う必要はない」
ただの敵に認めて貰うなんて必要はない。そもそも何を認めてもらうというのだろう。
赤馬隻を倒したことだろうか。だが倒したことは真九郎の中で事実。
彼は銀子を、紫を、夕乃を、崩月の家族を危険な目に合わせた。それは許さない。しかし崩月家は彼の罪を一緒に背負う覚悟をもっているのだ。その後に関してはとやかく言うつもりは無い。
「その星噛製の刃で隻さんに近付いたつもりか?」
「何だと?」
「その刃を埋め込めば強くなれるだろう。でも隻さんに近付けるわけじゃない」
「黙れ!!」
プリムラが間合いを詰めて力の限り殴りかかる。両腕で防ぐが肉を潰し、骨まで衝撃が伝わる。
「はあ!!」
刃で横一閃。腕にスバリと斬れて血がピタピタ流れる。それでも彼女の猛攻撃は止まない。
「私はセキ様が姿を眩ましてたからどんな依頼も達成してきた。功績を建て替え続ければ、必ず私の元に帰ってくる!!」
重い拳に鋭すぎる刃。猛攻は続く。
その勢いはまるで暴走に近い。彼女は赤馬隻を尊敬し、崇拝し、妄信しすぎて彼に関わる事に関しては常識が通じなくなっている。
「はああああああ!!」
力の限り『星噛の刃』を振るうと川神学園のグラウンド場が切断された。もうえげつないほどに傷痕をつけた。
身体をねじって危機一髪で避けた。直撃していたら身体が真っ二つであっただろう。それほどの鋭さと切れ味を持っているのだ。
「上手く避けたな」
「でやあ!!」
跳躍して鋭い蹴りを繰り出す。蹴りが直撃する音が響くが腕で防がれている。これでも破壊する気で蹴ったはずだが頑丈のようだ。
「掴んだぞ」
プリムラは真九郎の首を掴み、ミシミシと締め付ける。
「ぐが…!?」
「このまま絞め殺しても良いが、決闘上では殺しが不可です。…なので上手く誤魔化しますよ」
「こ、この」
真九郎はプリムラの腕を掴む。なんとか首を絞めている腕を引き剥がすために。
「お前を殺せばセキ様が帰ってくる!!」
「…帰ってこないよ。俺を殺したくらいで帰ってくるなんてことはない。誰かを殺せば人が帰ってくるなんて事があってたまるか!!」
「黙れ!!」
プリムラは真九郎の顔を、腹部を、身体中を殴る。その一撃一撃は重く、殺意の籠った拳だ。
「セキ様は必ず私の元に帰ってくる。だから私はどんな任務も達成する。そしてセキ様を苦しめたお前を殺す!!」
殴るのを止めないプリムラ。
「隻さんはあの事件の後、消えた。それは自分を見つめ直すためじゃないのか!?」
こんなのは真九郎の勝手な予想だが、崩月家の家族と再会した後、隻は何か心を改心させられるキッカケをもらったように感じた。
その後、彼がどうなったかは分からない。まだ生きているのか死んでしまったのか分からない。でも夕乃とはまた帰ってくると思っている。
「見つめなおすだと。セキ様はあの冷酷さこそセキ様だ!!」
血が刎ねる。内出血を起こす。肉が潰れ、骨が今でも折れそうだ。もしかしたら骨にヒビが入っているのかもしれない。
ゴガッと鈍い音が響く。
「何故だ。何故こんな弱い男にセキ様は…!!」
「あんたが隻さんを待つのは良い。待つのは誰もが持つ権利だ。でも待つ意味を履き違えるな!!」
「五月蠅い!!」
ゴキャッ。
「ぐう…」
「こんな弱い男に!!」
プリムラが拳を大きく振りかぶって殴ろうとした瞬間に声が聞こえた。
「真九郎は弱くない!!」
079
プリムラの両肘から突起した『星噛の刃』を見て燕はすぐさまアレが何か考える。武器を扱う松永家としてアレは危険すぎると理解した。
あんな物を人間の身体に埋め込むとは何処の人間か知りたいくらいだ。いや、どんな人間が作ったのかの方が知りたいくらいだ。
(アレ何!?あんな武器っていうか兵器は見たことないんだけど!?)
武器を扱う松永家だからこそ『星噛の刃』の価値、、殺傷能力、危険性が分かるのだ。
プリムラが刃を振るった瞬間にグラウンド場が切断された。あのサイズでグラウンド場に一直線に切断する威力はありえない。
川神には規格外はあってもおかしくは無いが、武器として、兵器として『星噛の刃』も規格外である。しかもソレを二本も腕に埋め込んでいるのだ。
(本当にアレは何かしら。まるで紅くんの角っぽいけど)
燕は分からない。星噛家を知らなければ当然だ。何せ裏世界の一角なのだから。彼女は今この瞬間に裏世界の一端を目にした。
「ヒューム…紅様は『星噛』と言いましたね。と言うことはもしや」
「ああ、だろうな。裏十三家の『星噛』だろう。こんなところで星噛製の武器を見るとはな」
九鬼家も様々な物を製作している。だが星噛家は九鬼とも対等だ。寧ろ人工臓器の分野に関して言えば星噛家が上だ。
星噛製の人口臓器はとても精密で頑丈だ。その価値は同等の重さの宝石と取引されるくらいと言われる。
「あれは人口臓器ではないが、特別製の武器だな」
「ええ、あんなものを身体に埋め込むとは…あの女性も無茶をするものですね」
「だが分かるだろう。あの女、強いぞ」
「はい。もう既に彼女は人間ではなく兵器ですね」
涼しい顔をしているヒュームとクラウディオ。だが彼女のバックにいるであろう星噛家に警戒してしまう。
そもそも事前の情報で悪宇商会の最高顧問が星噛の人間というのは知っている。あの『孤人要塞』だ。
「むう。最後の最後でとんでもない者が出てきおったな」
鉄心も自慢の髭を撫でながら唸る。
「俺は勝つがな」
「今はお主じゃなくて紅の戦いじゃろう」
「ふん。あいつは大した赤子だ」
目を向けると真九郎が首を掴まれ、殴られている。
「真九郎…」
「あ、ああ真九郎くんが」
義経たちは身体が震えて目も向けられなくなっている。それでも与一は目を背けない。
勝手な思いだが真九郎の勝利を望んでいるのだ。だが、状況を見ると真九郎の不利は見るだけで分かる。
プリムラの攻撃で真九郎は傷だらけ、痣だらけ、内出血を起こしているだろう。首を絞める握力で今にも首の骨を折られそうだ。それでも真九郎の目は死んでいない。
反撃のチャンスを待っているのだ。そしてそのチャンスを彼の天使が伝えに来た。
「この声は…まさか」
078
「真九郎は弱くない!! 真九郎は誰よりも強いのだ!!」
声が聞こえた。その声は今ここで聞くはずがない声。その声は真九郎にいつも勇気をくれた声。その声は彼が守らなくてはいけない女の子の声。
「む、紫!?」
「紫ちゃん!?」
「紫様!!」
九鳳院紫が川神学園に現れた。その現れ方はいつも真九郎のピンチの時に現れる。それはヒーローのようにではなく、彼に幸運を与えてくれる天使のように。
何故、川神学園に来たのか。それは「緊急事態というやつだ」とでも言いそうな顔をしている。前にも似たようなことがあった。
さらに護衛にリンもいる。当たり前だが紫が1人なわけがない。
「おい眼鏡女。お前は何も見えてないな。見てるのは自分のことばかりだ!!」
「何ですって?」
「そうだろう。私は少ししか聞かなかったが、さっきお前はセキという奴の為に、戻ってくるために戦うと言っていたな。それは相手が望んだことなのか?」
「貴様…!?」
「相手が本当に望まなければ意味なんてない!!そんなの誰でも分かることだ!!」
相手が望まなければ意味はない。それは当たり前のことで難しいものだ。
「私は真九郎に助けを望んで助けてもらった。でもセキとかいう奴は望んだのか。望んでもいないのに勝手にやるのは自分のことしか見ていない証拠だ!!」
プリムラが黙る。論破されたから黙ったのではない。静かに殺気を紫に向けているからだ。
10年も生きていない子供が大人の世界に、裏の世界に口を出すのはただただイラつかせるだけだ。さらに自分の覚悟を真っ向から否定されれば殺気も出るものだ。
「五月蠅い子供ですね」
プリムラの額にビキリと青筋が浮き出る。人の覚悟を否定された。何も知らない子供に否定された。
大人げないと言われるかもしれない。だが自分が心の底から決めた覚悟を否定されたら誰だって怒るだろう。覚悟を決めた者なら善人でも悪人でも関係無いからだ。
紫が言っていることは確信ではあるが、覚悟を持ったプリムラからしてみればただの子供の戯言にすぎない。
これはどっちもどっちであるようなものだ。結局のところ人の言い分とは相手を如何に自分の主張を通すかによるものだろう。
「…あの子供は目障りだ。殺すか?」
「…な!?」
「それに情報屋も崩月も潰す。セキ様を追い詰めた者は全て!!」
プリムラの目は酷く濁っている。
酷く濁った殺気が紫に向けられた。すぐさまリンが紫の前に出る。だが、そんな状況を真九郎が黙っているはずがない。
「おい」
「なん・・・ぐが!?」
ゴキン。
何かが折れる鈍い音が聞こえた。それは真九郎がプリムラの左腕を破壊したからだ。
「ぐうううう、おのれ紅真九郎!?」
「おい。銀子に、夕乃さんに、紫に手を出すな!!」
真九郎が怒る。冗談でも彼の大切な人に手を出すなんて言葉を言ってはいけない。怒りによって身体が熱くなる。
力が全身に入って、プリムラに殴られていた痛みなんて忘れてしまう。
「すう、かはああ」
息を吸って熱い息を吐く。そして『崩月の角』を開放する。全身の細胞が活性化して力がみなぎる。
「この崩月の鬼が!!」
「崩月流甲一種第二級戦鬼、紅真九郎。名乗れよ。俺はあんたの覚悟なんてどうでもいい。だが大切な人を傷つけるなら俺は何が何でも守る!!」
「…二代目レッドキャップ、プリムラ。セキ様の意志を継ぐ者!!」
プリムラは無事な右拳をこれでもかというくらい握りしめる。真九郎は地面を砕く勢いで踏み、突撃する。
どちらも小細工無しの真っ向勝負。妄信によって固められた覚悟の拳と大切な者を守る為に強者であり続けると決めた拳がぶつかる。
「俺はあんたの覚悟なんて本当にどうでもいい。他人の覚悟なんて分からないからな。だから俺の覚悟もあんたには分からないだろう。それでもいいさ。大切な人が守れるなら」
拳を前にへと突き出す。その瞬間にプリムラは殴り飛ばされ、『星噛の刃』が砕け散った。
「あんたが隻さんを大切に思っているのはなんとなく分かっていたさ。でも負けるわけにはいかないんだ。なにせ負けられない理由があるんだよ」
チラリと真九郎は紫を見る。すると紫は太陽のような笑顔だ。それを見て心からホッとしてしまう。
「セ、セキ様…わ、私は」
「…俺の勝ちだ」
真九郎VSプリムラ。
勝者は紅真九朗。長く、深すぎる一夜が終わった瞬間であった。
読んでくれてありがとうございました。
感想など気軽にください。
今回の戦いは会話が多く、戦いの描写が少ない感じになりました。
これは真九郎の会話から始まる戦いを意識して書いたものです。
原作でも戦闘描写よりも会話のせめぎ合いの方が多いですから。
そしてプリムラは赤馬隻を妄信してしまったが故に歪んでしまった感を出しました。
漫画版でもそのような雰囲気もありましたし。そしてあの事件からこうなるんじゃないかなっと思いました。
確か隻は切彦の粛清で死んだってことになっていたような気がしますが本当のところは分からないので2人とも隻がまだ生きているかもしれないって感じになっています。
これで3人の戦闘屋との決闘編(クローン奪還編)は終了です。
次回で後日談を書いて一区切りですね。
そして新章はやっと環さんや闇絵さん。崩月の家族が登場の物語となります!!